EP.21 異世界転移した理由を聞きました
「というかいつまで俺は流されてるんだ? ダームエルと戦ってる間、結構な時間が流れたのに、どこにも飛ばされないな」
《それはボクが止めていたからさ。ダームエルを此処で倒して欲しかったんだよね⦆
時の精霊の声が頭に響く。
「じゃあ、俺はどこに飛ばされるんだ?」
《八ヶ月後くらいかな。君が最初にいた時間軸より四ヶ月ちょっと前だね⦆
「そうか」
《君にはお礼をしないとね。まあこんなんでお礼になるかわからないけど、君の疑問とか答えてあげるよ。星々から許可を貰ってるからね⦆
「じゃあその星々って何だ?」
《君の元の世界で言うとこの神様に近いかな⦆
なん……だと?
「元の世界って言ったか? お前が異世界転移させたのか?」
《いや、星々だよ⦆
「何故俺を転移させた?」
《それを話す前に順番に説明して行くね。長くなるけど良いかい?⦆
「ああ」
《まずはこの世界の成り立ち。
星々は生きとし生けるものを見守り、終焉が訪れた者を星々は迎え入れる。
そして星々は、それにより力が増す。増した力を使い精霊が生み出される。
精霊は世界を形作る。例えば自然とかね。
だけど君達ニンゲンが精霊王と呼んでる癒しの精霊とラフラカのせいで、この大陸はそれが狂った⦆
「癒しの精霊? どういう事だ?」
《君達ニンゲンが精霊王と言ってるのは、ただの癒しの精霊はだったのさ⦆
「それが滅ぶと何故全ての精霊が滅ぶ?」
《それはラフラカというニンゲンのせいだよ。
アレは異端だ。普通ではあり得ない力を持って生まれた。力を奪うというね。それも強力な。
通常はそんな力を持って生まれる者はいても強力な者まではいないんだ。
その自分の力を研究し取り込むというとこまで昇華させた。それにより、精霊が次々に吸収された。
そして、ラフラカの奪う力と癒しの精霊の力が混ざり支配するという力に変異した⦆
支配する?
「つまり、癒しの精霊を取り込んだせいで全ての精霊を支配する事になったのか? 全ての精霊を統べていたわけじゃないんだな?」
《そういう事さ⦆
「癒しの精霊と言うのは、何なんだ? ラフラカの力と混ざると何故支配の力になる?」
《君は、回復魔法を使えたね? 契約の言霊を覚えているかい?》
「えっと……我、契約を結ばん。癒しと変化を齎す汝の……」
《はい、其処。変化の部分だよ》
「はい?」
何を言ってるんだ? 意味がわからん。
《例えば炎の魔法だと、魔力を炎に変えて対象を燃やす魔法だよね?》
「ああ」
《だけど、これは対象を直接燃やしているわけじゃない。魔力から炎。炎から燃やすと言う工程を得ているわけさ》
「それが?」
《じゃあ回復魔法はと言うと、対象を直接回復させている。つまり変化させているのさ。
自然も同じで、
癒しの精霊の役目は、発芽から本葉。本葉から花芽と、変化を促進させるのが役目なのさ。つまり回復の本質は変化なのさ》
つまり、魔力を回復エネルギーに変換させて、それを対象に当てる事で回復させているなんて面倒な工程はなく、魔力で直接回復させていると言う変化をさせていたわけか?
「それにより、ラフラカの力を変化させた。と言うより変異だな」
《そう言う事さ》
それが俺達が精霊王の力なんて呼んでものになったのか。
「だが、それならラフラカを倒した時点で、全ての精霊が何故消えた? 支配してるなら、その支配が解けるだけだろ?」
《支配してるから、その本体が消えれば、支配されてる方も消えるのさ。
正確には、消さないと支配されていたせいで、本来の役目を全うできなくなってしまってるからね⦆
「消さないと? って、消したのか?」
《そうだよ。正確にはボク達精霊は、星々の指示から逸脱した精霊は、消えてしまうように作られてる》
「なら、支配された時点で消えるだろ?」
《そうなれば苦労しないさ。星々の支配からラフラカの支配に移譲していたのだから、無理だったのさ》
何か呆れたらた? そんな口調だったぞ。
《話を戻すけど君は不思議に思わなかったかい? 一年後の大陸に草木一本なかった事に?
確かにラフラカに大陸を破壊しかけた。だけど、普通は少しずつ回復して行くものだよ⦆
「確かに言われて見れば」
《本来なら、そうなった大陸に星々は、精霊を新たに生み出し、再び自然を蘇らせる。
尤も一年程度じゃ雑草が少し生える程度だけど、何年も掛けて蘇らせるのさ⦆
「それがダームエルのせいで出来なかった?」
《そうさ。支配する力があるせいで、精霊を生み出しても支配される。
だから星々は新たに精霊を生み出す事が出来なかったのさ⦆
「だから、星々はダームエルをどうにかしたかった?」
《そうさ⦆
「それをやるのは、俺じゃないといけなかったのだな?」
《あの場いた誰もが過去に行けなかった。行けない理由があった。二人を除いて⦆
「誰だ?」
《ラゴスとガッシュだよ。だけど、君が考えた通り二人じゃダームエルを阻止できない。
仮に本物のアークスがいても、皆と関わり合いを持とうとはせず、あの場にいなかっただろうね⦆
まあ其処は時の精霊だから、未来を見るのなんて容易いだろうな。
よって、本物のダークが生きてたとしても、皆と関わり合いを持とうとしなかっただろう。
「それで俺だったわけか?」
《そうさ。星々はどうすればダームエルを阻止できるか考えた。そして、出た結論が他の世界で、戦える者を探し出す事。
だから、えっと……VRMなんたらのFFOだったかな?
あれの製作者に気付かれないように、この大陸の事を流した⦆
なるほど。
「そうとは知らず製作者は、あたかも自分が思い付いたと思い込みゲームを制作した」
《そうさ⦆
「なら俺以外にもプレイしてる人がいただろ? 何故俺だ?」
《君が一番ダークを愛していたからさ⦆
「はっ!?」
いきなり胡散臭くなったぞ。
《君がダークでのプレイ時間が最も長く、最も感情移入してるように思えた。
だからダームエルが黒幕だって知った時、
必ず自分がどうにかしようと考えるだろうと星々は判断したのさ⦆
なるほど。お見通しだったと言うわけか。と言うか、最初からそう説明しろ。
《それが君を異世界転移させた理由さ⦆
「勝手な事を……」
《そうだね。君には悪い事をした。だから、君が望むなら元の世界に戻そう。
君が望む時間軸でも構わないよ。そう例えば、君が後悔してる友を裏切った時間軸とかね。
それがせめてもの償いだしお礼だよ⦆
「いや、このままで良い」
元の世界に戻れば嫌な事を思い出す。それにまた腐って行きそうだ。
《本当にそれで良いのかい? 歴史改変が起きて、君の一ヶ月にも満たないけど皆と関わった時間が無かった事になってるんだよ?⦆
「構わない」
《わかったよ。じゃあせめてのお礼を君に贈るよ。ただし、それに気付けるかどうかは君次第だけどね⦆
「あ、待てよ……この時空間の穴はどうなる? 死体とは言え、ダームエルと二人で通ったら、二人通らないと塞がらない穴が空くのだろ?」
《それはボクが塞ぐから問題ないよ》
「塞げるのか?」
《時の精霊だからね。ただ、ダームエルを阻止して欲しくて最初に君が通った穴はそのままにしてたいんだ》
「なるほど」
《それとダームエルの死体だけど、変異した精霊を取り込んでるせいでどんな悪影響があるかわからない。だから、さっさと星々が迎え入れるよ》
時の精霊がそう言うとダームエルの死体が光出し上に――時空間なのでどっちが上か曖昧だけど――吸い込まれるように消えて行った。
そして、時の精霊の声は聞こえなくなる。あとは流されてだけだな。八ヶ月後か……。
俺はその時間軸に飛ばされるんだな。