EP.20 アークとして戦いました
そもそも俺は何でダークに、拘っていたのだろう?
別にダークとしてダームエルを止めないで良いだろ?
俺は俺らしく俺で良い……なあそうだろ? エド。
そして今の俺を肯定してくれたナターシャちゃんとエーコちゃん。
無理にダークの仮面なんて被る事ないんだ。
だって、あの二人が約束したのはアークなんだから――――。
俺は立ち上がる。
「アーク」
「何だ?」
「今の俺の名だ」
「そうかい。で、ダークの体を奪ったアークとやら、俺は絶対にお前さんを殺す。相棒の体を奪ったお前さんをな。お前さんはどうするんだ? 俺の中位火炎魔法を一度防いだくらいで勝てる気でいるのか?」
「こうする」
俺は妖刀蒲露桜と名刀陸奥吉を捨てた。
「諦めたのか?」
「そうだな。ダークの仮面を被るのは諦めた」
そう言ってルティナと出会った日に買って、ずっと愛用していた小刀を抜いた。銘は無い。
だが、こっちのが俺に馴染む。速さ優先で、小太刀より短い小刀をずっと使っていた。
「獲物を短くしてどうする」
「こうする」
俺は間合いを詰める。
「また短絡な攻撃か……何っ!?」
目の前で消えたように見えたんだろうな。
「……残像だ!」
一度言って見たかったんだよね。そして、後ろから斬る。
ギーンっ!!
見えない障壁で防がれる。
妖刀蒲露桜と名刀陸奥吉と違い、店で買った武器だし、わかりきってる。
「さっきの小太刀のが良い獲物だったろ」
「そうだな」
そう言って側面から周り斬る。
ギーンっ!!
「だが俺には、小刀のが性に合ってるんだ。ダークの仮面を被ろうとして身の丈に合わない小太刀なんか使ってたけどな」
ギーンっ!!
「だが、障壁を突破できなければ意味ないだろ? ほら……「<中位火炎魔法>」」
中位火炎魔法か。
「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁっ!!」
ぶった斬ってやった。
「な、何っ!?」
そして、そのままダームエルを斬りかかる。
ピキっ!
障壁にひびが入る。
「どういう事だ? アークとやらの動きがどんどん良くなってる」
俺もそれは感じてる。感覚が鋭敏になっていく。だというのに痛みを感じなくなっていく。
アドレナリン? 違う。そんなんじゃない。
これは闘気だ。今やっとわかった。
闘気とは体内エネルギーとか言われても、良くわからなかった。
これって生命エネルギーだったんだ。命が燃え尽きそうな時に生きようとするエネルギー。
先程、瀕死になったお陰で、それがわかった。
それに普段からこれと似た感覚があった。
小刀を振り魔物を斬る時に、微弱ながら闘気が漏れていた。
ダークがアルと初めて会った時に感じてた事。これが覇気なんだ。普段から漏れ出る闘気。
いや、違うな。たぶんだけど生命エネルギーを燃やす事で、やっと俺は使えただけなんだ。
本来なら体内エネルギーで使えてた筈なんだ。俺は馬鹿だな。瀕死にならないと気付かないなんてさ。
「もっと……」
もっと加速しろ。生命エネルギーだけじゃなく俺の全神経を燃やし尽くせ!
再び小刀を振るう。
ピキっ!
「調子に乗るなーっ!!」
ギーンっ!!
ダームエルが剣を抜き俺の攻撃を防いだ。
そこから斬り結び合いが始まる。
キンキンカーンっ!! と、甲高い音が響き小刀二振りと剣にぶつかり合う。
速さは俺が上なので、確り懐に入れる事もある。
ピキっ!
だが、後一歩およばず。障壁を貫けない。
「なあダームエル、恥ずかしくて言えなかったけど師であり親だったってさ」
「何の話だ?」
キンキンカーンっ!! と、鉄火場の如く音を響かせ、斬り結び合いを続けながら話す。
「俺はずっと傍観者だったんだ。ダークの半生をずっとただ見てきた」
「良くわからないがそれが?」
「だからダークが、何を考え何を感じてた知ってるっ!!」
「それで師であり親か……」
「そうだ、あいつはずっと、お前をそう思ってた」
「あいつらしいな」
ダームエルが笑う。少しだけ塗り潰していたドス黒い感情が薄らいだように思える。
だが、剣も障壁も緩めない。
「<上位稲妻魔法っ!!>」
それどころか上位稲妻魔法まで唱えてくる。
雷系の上位魔法。大陸最強の生物であるドラゴンを模している単体攻撃最強魔法。それがダームエルの掌から解き放たれる。大きさは、高さ2mに全長8mある。
今の俺ならいけるか?
「ぉおおおおりゃぁぁぁあああっ!!」
小刀を振るいぶった斬る。
「ぐぁぁぁー」
クソ! 完全に斬れなかった。そもそも大きすぎる。あれを斬るのは諦めよう。
いくら俺が闘気を扱えるようになったからって、無理なもんは無理だ。
それよりもっと速く、速く、速く。
ちっ! 雷系だったせいで、体が痺れていやがるぜ。だが、闘気を使えば動かせる。
だから、もっと速く動ける筈だ。俺は素早さを中心に意識して来た。VRMMOでもそうだ。アークになってからもそうだ。
これはダークの戦いではない。アークの戦いだ。俺のやり方でやる。
「あいつはお前の死体がないって知った時、十日はメシを食わず呆然としてた。それだけお前を大事に思ってたんだ」
「それで? お前さんは何が言いたい?」
キンキンカーンっ!! と、響かせ斬り結ぶ。
ピキピキっ!! と、そして障壁にヒビを入れる。
あと少し。障壁を破るんだ。
「ダークは、お前を見殺しにした事を悔やんでた。お前に護衛の仕事のが合うって言われたのに結局暗殺者になってしまった事で、お前に謝ってた。そして全ての復讐を終えた時、生きる理由が無くなり死ぬ事を選んだんだっ!!」
「お前さんはアークスの気持ちに寄り添っていたんだな……「<上位稲妻魔法>」」
今度は避ける。こんなもの何度も当たったら、こいつを止める前に死ぬ。俺の速さがあれば避けれる。
ブスっ!!
クソっ! 避けた瞬間、剣で刺された。
「くぅぅがああああああ……っ!! だ、からっ!! あいつのお前を殺せなかった未練は、あいつの体を奪ってしまった俺が果たすっ!!」
間合いを取る。今ならできる筈だ。闘気剣スラッシュ・ファング。
違う! ダークの闘気剣じゃない。俺のだ!!
慣れ親しんだ動き程、闘気が溢れる。なら、VRMMO時代に俺がもっともトドメに使ってた動きをするんだ。
そして体内エネルギーも生命エネルギーも乗せられるモノは何でも乗せる。
「<ギガ・ファ……>」
「させないっ!!」
俺は小刀を投げた。闘気を乗せて。
パッリーンっ!!
「何ぃぃぃぃっ!?」
ダームエルが目を剥く。
よし! 障壁を破壊した。
俺は、直ぐに先程捨てた妖刀蒲露桜と名刀陸奥吉を拾う。
この一撃に全てを賭ける。素早さ優先じゃないから小太刀でも構わない。
大きく妖刀蒲露桜と名刀陸奥吉を振り上げる。
「<クロス・ファングっ!!>」
俺がもっとも慣れ親しんで、トドメに良くやる動き。上段からX字を描くように振り下ろす。
スビューンっ!!
X字の闘気が飛ぶ。良かった。
今度は、成功した……だが油断は禁物だ。防がれるかもしれない。
ズッドーンっ!!
「がはっ!!」
おっし! 直撃した。そして、ダームエルは倒れる。
「なあ……アーク……」
ダームエルが弱々しく呟く。
「何だ?」
「お前さ、んで良か……った。ありがと、うな……相棒の想い、くん……でくれ、て……それ、と……俺を、止め、て……くれ、て……あ、りが………………」
そしてダームエルは動かなくなった。終わった……のか?
俺の体もボロボロだな。俺、死ぬのかな? というか、この時空間はいつまで続くんだ?
来た時は直ぐにダークが始まった森に行ったけど、ダームエルと入った今回は、ずっと中にいるよな。
ああ、精霊王も倒れたし、もしかしたら千年後とか前とか変な時代に飛ばされるのかな?
まあどっちにしろこれで歴史が変わる。ごめんねナターシャちゃん、エーコちゃん。約束やっぱ果たせそうにないわ。