EP.19 ダークとして戦いました
気付くと俺は倒れていた。此処はどこだろうか?
俺は立ち上がり、辺りを見回す。森の中か……。
で、後ろのに屋敷がある。これが二年後には廃墟になってる貴族の屋敷だな。
あれ? これどっかで見たな。あーそう言えばアークスのダークが始まった森だ。
まだ使われている屋敷だから、鍵が掛かっておりダークは、此処で寝泊まりできず、森で怯えながら、寝てたんだよな。
皮肉な話だ。此処から俺のダークが始まるんだな。
暗殺者ロールプレイなんかじゃない。代わりをしないといけないんだ。
そう今から俺は、ダークだ。ダークをプレイするのではなく、ダークの仮面を被ろう。
さて、まずはチェンルの町だ。確かラフラカとの決戦時、此処で最後の補給をしたんだよな。
だから、此処でまず一年身を潜めるんだ。それが一番手っ取り早い。
ゴゴゴゴゴゴゴ…… と、チェンルの町に着いた瞬間、物凄い地響きがしまくった。
「くっ! 何だ?」
町の者達も慌てて騒ぎまくる。
あーそうか。これラフラカが精霊王の力でユピテル大陸を破壊しまくった時だ。
これで自然は死滅、大陸は引き裂かれ、様々な町や村が滅ぶんだよな。一年前って言えば、丁度その時期か。
これと同時に魔導士の村が、襲撃されラゴスとエーコちゃんも反ラフラカ帝国組織に加われるんだよな。
それはともかく大陸を破壊されても、チェンルの町は無事だから、此処にいれば安全だろ。
さて、大陸破壊も終わったし、これからの事を考えないとな。
飛空船に乗り込む。ラフラカが倒されるのを見届ける。そして、ダームエルがそれを吸収した時に捕まえる。だが、ダームエルと戦うかもしれない。
それも精霊王の力を得たダームエルだ。俺一人で……。
「ダメだ! 不安になるな!」
不安に思わないで戦えるように、もっと鍛えないと。特に未だに使えないスラッシュ・ファング。
ダークの切り札である闘気剣。何故か俺は、まだあれが使えない。
と言うか、そもそも闘気って何だ? 右手に集中ってわかんねぇよ!
VRMMOの時は音声入力なので、叫べばできたけど今は違う。現実の俺の体なんだ。
なので、一年鍛えまくった。引きニートだった俺が何で此処まで頑張ってるんだろうな。
首に掛かったチェーンを服から取り出す。
「きっとこれなんだろうな」
あの時はエーコちゃんに送り出して貰う為に約束とかしたけど。本当は目的が欲しかったのかもな。
「果たすべく約束。だが、叶う事のない約束」
はっ! 詩人の詩のようだぜ。でも、確かに引きニートだった俺を突き動かしている。
俺は鍛えるついでに歴史をあまり改変するなと言われたが、ダークが手にする事になる武器を先回りして手に入れる。
まあどうせダークは、投擲用武器にするから大きくは改変されないだろう。
チェンルの町を拠点に色々回った。そして手にする。妖刀蒲露桜と名刀陸奥吉。両方小太刀だ。
俺の好みじゃないが、ダークとして、戦うんだから小太刀が丁度良いだろう。
一年後。来たるべき日が来た。
チェンルの町に飛行船で寄り、最後の補給を行う十一人の英雄。
うわー、ダークがいるよ。自分が二人いるって不思議な感覚だな。
そして、飛空船が飛び立つ。それに、こっそり乗り込む。
十一人の英雄がラフラカを倒すのを待つ。俺の戦いはこの後なのだから。俺は陰でこっそり見続けていた。
やがてラフラカが倒れた。
「私の精霊の力はもう直ぐ消える。でもギリギリまで、私の魔力でこの城を保たせるから、皆逃げて」
ルティナが呼び掛けて半精霊化し、先導する為に飛び立ったな。さて、本当にダームエルが来るのかな?
これで来なかったら笑い話にもならねぇな。
「くくく……遂に倒れてくれたかクソったれが」
あ、現れた。
「お前の研究で精霊を吸収する方法はわかってるんだ。これで復讐が終わる。貰うぜその力」
ダームエルがラフラカの死体に触れるとラフラカがダームエルに吸い込まれて行った。
「くくく……これで俺の復讐が終わったぜ……ん? 何だ?」
何かがダームエルの体を渦巻いてる。
「ぐぁぁぁ……暴れるなクソ! 俺の体だぞ」
何だ? 精霊の力が暴走してるのか? ダームエルの周りで嵐が渦巻いてる。
「クッソー! 抑えきれない」
ダームエルが浮く。まずい! 俺の直感がそう言ってる。このままだと、何処かに行ってしまう。
「ぐぁぁぁ……」
咄嗟に俺はダームエルに飛び付いた。嵐が渦巻いてたせいで、体中が切り刻まれて、いてぇーよ。そして、ダームエルは飛んで行く。
「くぅぅ……」
かなりの風圧が来る。何処に行くんだ。この手を離したら色々終わりだ。離すものかぁぁぁ!!!
やがて、ダークが始まった森に飛ばされ、貴族の屋敷に突っ込む。
クソいてぇよ!!
外壁を突き破り中に入ると、ダームエルの暴走した力が留まる事を知らずで時空間の扉が開く。
あーだから此処で開いたのか。
ダームエルは制御できなくて暴走し、此処まで吹っ飛ばされ、そして時空間の扉まで開いてしまうと。精霊王の力というのは凄まじいな。
そして、俺達はその中に入ってしまう。
「やっと収まった。で、お前さん誰だ? 俺にしがみ付いて来て」
どうやら暴走した精霊王の力は収まったようだ。たぶん力の大半を使ったお陰だろう。時空間の扉なんて開く程だからな。
「<下位回復魔法>」
とりあえず回復しないと、体中痛い。
「よー久しぶりだな相棒」
そして、俺は顔を上げ、陽気に挨拶した。
「お、お前さん、アークスか?」
「ああ」
「十年ぶりか? 老けたな」
正確にはコイツの時間軸で八年ぶりだがうっせーよ!!
気付いたら異世界転移していて十歳近く歳取ってましたって、そこだけは最悪だよ。
「お前もな」
さて、此処からが本番だ。きっと俺はこいつ倒さないといけない。俺にできるだろうか……。まだ不安だ。
時空間の中で対峙する。俺はダークの過去に決着を付ける為にいる。この青白い空間では時節何か映像が流れていた。おそらく過去に起きた出来事だろう。或いは未来かもしれない。
「ダームエル、今まで何をしていたんだ?」
「ラフラカのクソ野郎に、拾われ生体実験さんざんさせられたんだ」
「そうか……俺のせいだな。すまん」
「何で、お前さんが謝るんだ?」
「俺がお前を見殺ししたから……殺せなかったから……」
「そうか……あの時の事を言ってるのか」
暫く逡巡している。
「まぁあれは、酷な事を頼んだ俺が悪かったんだ」
「後から行ったら死体がなくなってたから、てっきり、魔物にでも食われたのかと思ってた」
「くくく……そうか。まぁ俺はラフラカに拾われ魔導の生体実験をさせられたが、お陰であのクソったれの精霊の力を奪う研究を知る事ができたぜ」
「それで復讐か」
「ああ……これで復讐を果たせた。俺を半殺しにした挙句に生体実験をした復讐を、な」
「そうか」
俺は名刀陸奥吉を抜いて構える。先程から話していて全然コイツの感情が感じられない。
昔は、陽気な奴だったのに、それが一切感じられない。言葉ではアークスと再会を喜んでいるのに、感情が感じられない。
丸で、そうドス黒い何かに塗り潰されているような気さえする。だから、迷う事なんてない。斬るっ!!
「おいアークス、何のマネだ?」
「あの時果たせなかった事を果たそう。お前を殺すというな」
「何を言ってる? もうそれは良いよ。酷な事を頼んだ俺が悪かったんだ」
「ならお前は、その精霊王の力をどうするつもりだ?」
「せっかく、こんな強大な力を手に入れたんだ。俺の夢が叶える」
子供を不幸にしないか。
「無理だ」
「何がだ?」
「お前はそれを制御できない」
「何故わかる?」
「俺は一年後から来た」
「何をバカな事を」
「お前には此処がどこか分からないのか?」
「……時空間」
「暴走させても自分のおかれた状況はわかってるのだな」
「ああ、俺の中の精霊が教えてくれる」
「ならわかるだろ? 制御できないって。ならお前はどうする?」
「………」
「動物で実験をする。お前がクソったれと言ったラフラカと同じようにな」
「……どうやら本当に一年後とやらから来たようだな。だが制御すれば子供達を救えるのだぞ」
無理だ! 制御だけじゃない。今のお前に本当に子供を大切したいって感情はあるのか?
「お前はルティナを覚えているか?」
「精霊とのハーフだろ?」
「あいつは精霊の力を失った」
「それで?」
「それと同時に剣も握れなくなった。そのせいで、あいつのとこにガキが魔物の被害に合うとこだったのだぞ」
「その言い方だと無事だったんだろ?」
「ああ、だがそう言った被害があっちこっちで起きてる」
「それでも俺は止まれない。いつか夢を叶える為にこの力を制御する」
「……お前は生体実験とやらをされたせいで狂ってしまったのだな」
「かもな」
「だから今度こそ、あの時言われた事を果たす」
もう問答は終わった。決着を付けよう。感情がドス黒く染まったお前のせめてもの手向けだ。俺がこの手で、終わらせてやる。あの時の願いを叶えてやる。
俺はダームエルの後ろに周り名刀陸奥吉を振るった。
ギーンっ!!
何っ!? 見えない障壁で防がれた。
「いきなり後ろからよ。相変わらずだな……「<中位火炎魔法>」」
振り返り中位火炎魔法を唱えられる。それも、半端な魔力を持つ者の特大の炎ではない。魔力が高い者が出す火の鳥だ。
両腕をクロスしてガードする。クソ! あちぃじゃねぇか。
妖刀蒲露桜も抜き二刀流で斬りかかる。
ギーンっ!!
クソ! 何だ? あの障壁は?
そう言えば、ラフラカにもあったな。皆でどうにかしたんだっけ? 強力な魔法や闘気技で破ったんだったな。
「無理だよ。今の俺は、暴走でほとんど力を使ったとは言え、精霊王の力があるんだからな」
「それでも、お前を止める」
名刀陸奥吉と妖刀蒲露桜を同じ場所を狙い同時に振るう。
ピキっ!!
障壁にヒビが入る。暴走で力を使った後だ。やはり、ラフラカより脆い。
「やるな……「<中位火炎魔法>」」
それをバックステップで躱す。
名刀陸奥吉を逆手に構える。
「スラッシュ・ファングか」
ダームエルが身構える。そりゃバレてるか。相棒だったのだし。
「スラッシュ・ファングっ!!」
………
……………
……………………シーン。
だが、出ない。クソ! やはり俺では、出せない。
「何だ? 不発? どう言う事だ?」
間合いを詰め、再び直接小太刀を振るう。
「おっと何度も攻撃されてたまるか」
ダームエルが後ろに下がる。手詰まりか……。
「お前さん、本当にアークスか?」
「何故そんな事を聞く?」
「スラッシュファングが不発だったし、それがダメならって短絡的に突っ込んでくるし、昔のお前さんなら考えられない」
ちっ! そうだな。今の俺は焦ってるな。一人じゃたぶん勝てないと思ってしまった。
「まあ良い。お前さんがやるってなら、俺もお前さんを殺す。<上位火炎魔法>」
ドコドコドコドコドコドコドコドコ……ッッ!!!
上位火炎魔法により、特大の炎の連打が飛んで来た。
「ぐぁぁぁっ!」
俺は伏してしまう。全身がいてぇ。ダークになったばっかしの頃を思い出すな。
俺は結局ダークの身体能力に頼ってばかりで、こんなギリギリの戦いをしてこなかった。だから、こんな体中痛いと戦えない……。
もう無理だ。体中痛くて動けない。何故俺には闘気剣が使えない?
ダークの設定は小太刀を好んで使う。だから小太刀の妖刀と名刀を手に入れて使ったのに、何でダメなんだ?
異世界転移までして、俺は此処で死ぬのか?
「やっぱりお前さん、アークスに思えないな。あの時、ウエストックスで瀕死なりながらも俺を庇いながら戦っただろ? なのに上位とは言え、火炎魔法を受けただけで、その体たらく」
確かにそうだな。情けない。
「まあ良いさ。殺すとか言ったが相棒だったお前さんを殺したくない。また組まないか?」
だった?
「だった、だと? 俺はお前が今でも相棒だと思ったから止めに来たのに……そうか。とことん俺の知ってるダームエルじゃないのだな」
「それはお互い様だろ。それに、そんな事言うなら立ち上がれよ。今のお前を見てると情けなくて仕方ねぇ。俺の相棒はこんな情けない男だったのか?」
ああ。その通りだな。俺はもっとタチが悪い。簒奪者なんだから。本当に情けない
そう思ってた時、青白い空間で流れていた映像が俺の知ってる場面になっている。俺がナターシャちゃんに拾われ、治療されているとこか。
今も、この映像の俺のように無様なんだろうな。いや、今の俺のが無様か……。
「これはアークスの半生か。今流れているのは、どうやらお前さんが歩んで来た道だ……だが、妙だな」
映像は流れるように次々に場面が変わる。それを見てダームエルと訝しがる。
エドに初めて会った時だ。
報酬2/3よこせとか言ってたな。
ムサシと初めて会う。
国務大臣とかほんと似合わないな。
ガッシュと出会う。
匂いでダークだってバレたんだよな。
次はルティナか。
すれ違っただけでダークだってバレたんだよな。
ロクーム、エリス、ユキ、ラゴス、エーコちゃん、アル、サラ、そしてナターシャちゃんと再会した。
そう言えば一ヶ月もしてないのに楽しかったな。
ごめんな皆。
もう無理かも。
あ、約束を交わしてる画面だ。
何が約束だよ。バカらしい。
「アークス? これは本当にアークスか? これは半生が流れている。なのにお前さんは、何故その姿のままなのだ? 幼少時代は?」
「ハァハァ……俺はダークの体を奪った簒奪者だ。何故俺だったのか、何故ダークの体を奪う事になったか知らないけどな」
伏したまま答える。
「なんだと? クソったれ! 貴様は、貴様はアークスのフリをしてたのかっ!? ふざけやがってっ!!」
あーキレちゃった。
だけど初めてコイツの感情が見えた気がする。
「<中位火炎魔法>」
中位火炎魔法の火の鳥がこっちに向かって来てる。あー俺はあの炎に焼かれ死ぬか……。
終わったな。
シュィィ~ンっ!!
「なん……だとっ!?」
え? 何だ? この鉄板みたいのは何だ? これが防いでくれたのか?
胸元が熱い。
あーこれエーコちゃんの形見の指輪か。
ピンチの条件付き発動する大地系上位の防御魔法が付与されていたのか。
エーコちゃんの魔力凄いな。中位火炎魔法を防ぐなんて。
その時丁度エーコちゃんと約束したあの瞬間の映像が流れた。
このまま負けたら、恰好付かないな。もう少し頑張ってみるか。
「<下位回復魔法>」
回復魔法を掛ける。俺の回復程度じゃなんとか動ける程度にしか回復しないけどな。