EP.39 タイプγでした
「俺が出る」
「大丈夫かい?」
「問題ない。ナターシャは引き続きこの二人の護衛も任せる」
「本当に一人で大丈夫かい?」
「ああ……それにここは弓使いの独壇場だからな」
それを捨てて連れて行くのは惜しい。
ナターシャは何か言いたげだが、言わずに堪えてくれた。
「……分かったさぁ」
「アークっち、気を付けてっす」
「アー兄、頼んだ。……………………小僧じゃないやい」
いや、今回も心の中でも思っていなかったんだけどな。
俺は頷き、窓を蹴って外へ躍り出た。着地と同時に東門へと走り出す。
「<風魔手裏剣>」
龍気を籠めた風魔手裏剣を放ちながら、東門へと駆ける。放たれた刃は夜気を裂き、人形どもの群れを切り崩していった。
にしてもこの人形共は精巧だな。遠くからじゃ人間に見える。尤も気配は生き物じゃないが。
それにしても――町中にまで溢れ返っているこいつらはマジで何なんだ? どうやって侵入したのか見当もつかない。
だが、仕掛け人がアイツなら当然か。群れを潰し続けてもキリがない。やっぱり本丸を叩くしかないか。
人形が両手に握っているチャクラムが四方八方から飛んで来る。それを全て風魔手裏剣で迎撃。
雑念を振り払いつつ、次々と風魔手裏剣を投げ、東門へと辿り着く。
そこには西門・北門に比べて防衛の手が圧倒的に薄い。だが、騎士や冒険者達は外壁門から侵入してきた人形だけを相手してる。決して門から出ていなかった。
「助太刀する」
腰の飛竜の小太刀を抜くと、門内に侵入した人形の首が二つ、風を切る音と共に宙へ舞った。首が石畳を転がる音と共に、一部の騎士や冒険者の視線が集まった。
「君は……?」
一人の騎士が戸惑い混じりに声を漏らす。
「え!? や、【夜刀神】……殿?」
他の者達も目を丸くして俺を見る。
その声に、場の空気が一変する。次の瞬間、周囲の冒険者や騎士達が一斉にこちらを振り返った。
おい、こっちを見るな、戦え。今はそういう時間じゃねぇだろ!
「<風魔手裏剣>」
援護でいくつもの手裏剣を飛ばし、門内へ突っ込んで来た人形の数体をまとめて吹き飛ばす。
その一撃で戦線の一角が一瞬だけ空く。そこでようやく騎士達が我に返ったように、ざわめき始めた。
「ど、どういう事でしょうか!?」
「【夜刀神】がどうして……?」
「何故【夜刀神】殿が!?」
お前ら今戦ってんだろ! 油断すんな!! こっちは援護してる間もチャクラム飛んできてるんだぞ!!
それに応戦しつつ門の外に出る。
「ぐっ!」
物凄い圧力に体が沈む。片膝を付いてしまう。
《称号 大英雄が発動しました》
頭の中で声が響くと負荷がマシになった。俺は人形共を斬り飛ばしながら前へ進む。
やがて視線の先には群がり必死にチャクラムを振るう人形達。それを振るう度にガキンガキンという音が響いてた。
「オラ、邪魔だ」
その人形達をまとめて蹴り飛ばす。
「……アークさん!? どういう事ですか?」
ブランが目を剥き呆然と呟く。
そして俺は人形達が群がって場所に視線を向ける。そこには俺がいた。
その俺が立ち上がる。この俺は邪重力魔法の魔力を更に強くされ無様に這いつくばるしかなかったのだ。
まあそもそもその前に龍気を結構使い体力を消費してたのもあったが。
そこに人形達が群がりチャクラムでボコボコにされていた。まあ正確には気の重点移動でチャクラムが当たる体の部位を龍気で硬質化していたのだけど。
そう索敵気法を習得した俺は、それを可能にしていた。
「おっせーよ、俺」
そのボヤく目の前に俺。
なんかどっかの……、
「きょうぞうちゃんみたいだって思ってないか?」
うっせーよ。流石俺、良く分かってる。
「じゃ、反撃開始だな」
そう言って目の前の俺と同化する。
実は新たに習得した忍術の実体分身を使用していた。分身魔法と違い実体があるのだ。どっちが本物とかはない。両方本物の俺だった訳だ。
まあ分身の片方をクーデリア救出に向かわせる事も考えたが、こちらを優先した。
理由一、分身の俺が死ねば能力が永久に半減してしまう。何せ能力を半分にし実体分身したのだから。
理由二……、
「ククク……そういう事ですか。通りで四年前半と変わらなかった訳ですね」
不気味に笑い直ぐに察してしまうコイツを抑える為だ!
「ふん!」
周りにいる無数の人形達に龍圧。さっきまでの半分の力しかない俺には出来なかったが、倍の力になった俺には圧倒的格下を気絶させる龍圧が人形にも通じる。よって一斉に倒れた。
「ククク……やはりそうなりますか」
「<スラッシュ・ファングっ!>」
言葉なんて不要。闘気技を飛ばす。
「……っ!? 危ないですね」
クソ! 紙一重で躱された。
「仕方ありません。ストックがありませんがこれを投入しますか」
そう言って何かを地面に叩き付けた。ドボンという音共に煙が広がる。
そして、その煙が晴れると人形が六体いた……いや、今までの雑魚より遥かに人間味を感じさせる皮膚感だ。まあそれでも目は人工物って感じだが。
「戦巫傀儡 タイプγです」
知らながな。
これ戦巫傀儡って言うのか。となるとさっきまでのはタイプβとかタイプαか? まあどうでも良いけど。
いずれにしてもこのタイプγってのは龍圧で制圧できる程、格下じゃないな。めんどくせー。
「ぬおっ!」
いきなりチャクラムを飛ばして来たぞ。危なかったー。寸前で避けたけど。
……踏み込んだ地面がわずかに沈むほど、こいつら一体一体が“重い”。ただの古代兵装じゃねぇ、圧が違う。
でもさ、トゲ付きの形状で投げるとは思わないよなー。前の雑魚のチャクラムは、一枚一枚が僅かに外向きに湾曲している。回転を前提としたており、空気抵抗を最小限に抑えるよう設計されたものだ。つまり投げる重視に思える。
だが、このタイプγとらやらのはトゲが均等についてるタイプで殴る方が中心にしたものだろう。
なのにいきなり投げるとか予想外だわ。
ガコンと音を鳴らし戦巫傀儡 の脇腹が開く。そこから新たなチャクラムを取り出す。投げた後はそうやって補充してるのか。
旧型っぽいのは速攻倒してたから気付かんかった。
戦巫傀儡 はチャクラムを掴んでるのを眺めてると別の二体が突っ込んで来た。速い!
俺は両手に小太刀を持ち迎撃の構えを取と、ガキンっと小太刀とチャクラムが合わさった。
「ちぃぃ!」
相手も二刀流だ。しかも六体いるから十二手あるようなもの。こっちは二手……足らない。
即座にバックステップで下がる。それを狙っていたかのように左右から二体迫って来た。連携が抜群だな。
「<下位風魔法>」
刃に風魔法を乗せて振りかぶる。それにより二体が吹き飛んだ。
そして本命は後ろだな。最後の一体が後ろに回っていた。だが、残念だな。後ろに回るのは俺の十八番だ。振り返ると同時に戦巫傀儡 の首を飛ばした。
先程チャクラムを投げて来た奴が左右から来た二体の後ろに隠れながら迫って来る。ジェットストリームアタックか?
「付き合うつもりはないな」
今度は俺が後ろに回り込む……が、邪重力魔法の影響で、そんな俊敏に動けない。ならどうするか……、
「<電光石火>」
久々に実戦で使うこれ。風魔法で風力発電を起こし自らの体に電気を流し全ての反応速度を上げる風忍が覚える特殊な魔法。
これは本来、体が麻痺する諸刃の剣。だが、伝家の宝刀龍気により、それを抑えられる。よって継戦能力が上がった。
チャクラムを初手で投げて来た戦巫傀儡 の後ろに回り首を飛ばす。それと同時に電光石火を解除。
邪重力魔法の影響下で龍気を使い過ぎるの悪手。まあそれでも早く倒さないとそれはそれで体力を消費するのだが。
ともかくこれで四体、八手まで減らせた。最初に吹っ飛ばしたの二体も戦線復帰してるし、立て直しが早いな。
それから10分くらいかけて全ての戦巫傀儡を倒した。
「はぁはぁ……」
ブランを戦う余力を残そうと龍気をあれから、ほとんど使わなかったがそれはそれで体力が削れたな。
俺の目算では5分もあれば四体なんて楽勝と思ったんだけど……俺もまだまだだ。
「ククク……だいぶ苦戦されていたようですね」
「お前こそ邪重力魔法をかけっぱなしで、MPがヤバいんじゃないか?」
「さて……どうでしょうね」
すっ呆けやがって。邪魔法が消費がどんなもんか知らん。仮に低コストだとしても有限の筈だ。コイツのステータスは……、
年齢:✕✕✕✕✕
レベル:✕✕✕✕✕
種族:✕✕✕✕✕
職業:✕✕✕✕✕
と、年齢~職業まで✕✕✕✕✕だった。これは俺の予想だが、この世界に邪心の使徒に合わせたフォーマットのものが存在しないからだ。
何故ならこれ以外は全て表示された。MPも……コイツのMPは7000オーバー。そう簡単にガス欠しない。
「はぁはぁ……次はお前だ」
「ククク……だいぶお疲れのようですけど?」
「うるせーよ」
肺が焼ける。酸素が足りない。視界がチカつく。
小太刀を握る手が細かく痙攣してる――止めようとしても止まらない。でも、握り直す余裕すらない。 それでも、前に出る。
<縮地>
ガキィィンッ!
一瞬で接近して両小太刀を振るうが闇防御魔法に塞がれた。
「<クロス・ファングッ!>」
俺の十八番の闘気技である上段からのクロス斬り
バリーンと闇防御魔法砕けるが、エステ=ブランの姿は、丸でで霧が溶けるように消え、そこにあったはずの気配までも薄く霞んでいく。
「ちっ! またか」
クロス・ファングまで使って、龍気の限界が近い。もう休みたいわ。
「そうです。存在錯視って魔法です。ククク……面白いでしょう?」
ブランの声が後ろから聞こえた。面白くねーよ。脳を騙すってだけで厄介なのに。
「はぁはぁ……」
きちぃ~~。だが、コイツだけは抑えないと。
「ククク……クリースティアラ公女もそろそろ終わりでしょう。前にバリガリスさんと戦っていたお嬢さんが来たようですが、彼女も倒れたようですし」
コイツはどこまで把握してる? クリースティアラとやらを攫った奴に俺と同じ草……つまりは監視カメラのようなものを仕込んで見ている? 俺のように闘気を読んでいた訳じゃないのは確かだ。
「……っ!? これは……」
突如ブランの顔色が変わる。焦りが見えた。
「彼は一体……?」
「どうした? 顔色が悪いぞ。あー青白く顔色が悪いのは元からか?」
ニヒと揶揄うように笑う。今の俺にはこれくらいの虚勢は必要だろう。
「余計なお世話です………………」
途中で黙り込み、目を細めてじーっと俺を見詰める。……その視線が、皮膚の下まで覗かれてるみたいで気味が悪い。人間の勘じゃねぇ、もっと黒い何かだ。
「まさか……貴方の仕業ですか?」
「は? 何の話?」
「彼は何者ですか?」
「だから何の話だよ?」
「どうやらここまでのようです。転移魔……」
<縮地>
「行かせるかよ」
俺の斬撃を寸前に躱す。それでも次々に斬撃を繰り出した。
「邪魔しないで下さい。戦巫傀儡の回収もしておきますので」
「はぁはぁ……知るか」
お前は行かせない。
小太刀を振るう。が、もう力も入らない。
「やれやれ」
呆れたと言わんばりに肩を竦めながら躱すブランの姿がボヤける。やべー目も霞んで来やがった。
やがてブランは、腕を振り上げた。それだけで俺の体が吹き飛ぶ。魔法名破棄で風魔法を使ったのか? 或いは邪魔法で風を誤認させた?
「では、さようなら。アークさん。<転移魔法>」
エステ=ブランの姿が姿が掻き消えた途端、俺の体を押し潰していた重圧が霧散する。邪重力魔法が解け、呼吸が戻った。
それにしても逃げられた。ちくしょーー。だが……、
「時間は稼げた」
ニヤリと笑ってしまった――――。
戦巫傀儡 の設定はタイプζまであり、ゼーラと名付けられて仲間になる。
またその後の活躍の予定などをチラっと、とある場所で語り画像まで貼り付けました。
そしたら、その設定を丸々流用し、自分の考えたAIを作るアプリで使われてしまいました(笑)。
使うなら名前変えるとかできないのですかね?
もしくは『流用します』と一言あっても良いと思います。
所詮無料投稿サイトなので、使われる事事態は怒ったりしませんが、勝手にそれも名前とかをそのまま流用するのはちょっとどうかと思いました。
友人にお前のキャラが使われてるぞって言われそのアプリを紹介された時は『は?』って感じで固まってしまいました。




