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EP.34 ナターシャと再会しました

 ――――月陸歴1521年6月15日



 ヴァレーホ果樹園への道のりは片道三日。

 お貴族様を護衛しながらだから、どうしても時間がかかる。人数は最小限といえど、専属護衛が数人に侍女や文官も加わって、それなりの規模だ。仕方ない。これが俺一人なら片道一日で済むんだがな。

 交渉は無事に終わり、領主館を出た。数日後には食料が辺境都市クラメントへ届けられる予定らしい。

 でだ、外に出たは言いが盗賊っぽいのが暴れてるなー。龍圧で黙らせるか。


「貴方、直ぐに縛りあげて。そっちの貴方は応援を呼んで来て」


 盗賊達がいきなり気絶して、憲兵達が困惑した。

 そんな中で、リズレーティが真っ先に動く。流石だな。判断力もそうだが指示も的確だ。


「アークさん、ありがとうございます」

「リズレーティ様こそ、見事なお手並み」

「恐れ入ります」

「ところで町の中ですよね? 良くあるのですか?」

「この町は我が国の食料の宝庫と呼ばれております。多少の危険を冒してでも食料を得ようとする輩は後を絶たないのです」


 忸怩たる思いで語る。

 そうした一幕を経て、俺たちは無事に馬車へ乗り込み、辺境都市クラメントへ向けて走り出した。


「やはりアークさんに来て頂いて正解でした」

「まだ油断は出来ません。これから三日何があるか分かりませんし」

「そうですね。それにしてもアークさんのあの気絶させる技はどう言ったものなのですか?」

「龍気と呼ばれるものです。ブリテント騎士王国の辰の道場に数年いましたので」

「まぁ。素晴らしいですわ」


 花が咲いたように笑う。

 気付けばまた距離が縮まってる。『様』から『さん』呼び。


「それにしても、冒険者ランクAとは……並大抵の努力では辿り着けませんわよね」


 リズレーティが、窓の外に視線を向けたまま言う。 何気ない口調だが、探る意図が透けて見える。


「まあ運もありました。良い依頼に恵まれて、良い仲間にも」

「仲間……今はお一人で? 前は『アサシンズ』というパーティーを組んでいらっしゃいましたよね?」


 ……どこまで調べてるんだよ。


「ええ……今は一人です。探してる人がいましてね」

「探している方?」

「はい。少し前に消息を絶ちまして。名は、笹山 沙耶」


 その名を出した瞬間、リズレーティの指が膝の上でぴたりと止まった。


「……サヤさんは、去年の12月に保護した方のお名前でしたわ」

「それは本当ですか?」


 驚きに目を見開いてしまう。


「発見した際に深手を負っておりました」

「彼女を保護して頂き感謝します」

「ふふふ……。彼女は聖人でしたから、こちらにも理がありました」


 リズレーティが、扇を口元に当てて微笑む。 その笑みには、貴族としての計算と、個人としての情が混ざっていた。

 ただ気になるのは……、


「深手を負っていたのに転移者……聖人とお気付きになられたのですか? それとも沙耶本人がそう言ったのでしょうか?」

「はい。目覚めて最初は混乱されていました。『5月の筈なのに』と。まぁ、転移の際に月日が変わることなど往々にありますからね」

「は?」

「如何なさいましたか?」

「彼女が転移して来たのは、もっとずっと前ですよ?」

「はい?」


 リズレーティが首を傾げる。どういう事だ?


「整理しましょう。そもそも彼女の服装から、察せられなかったのですか?」


 スイースレン総合学園の制服だった筈だ。


「いえ……発見した際にボロボロで判別がつきませんでした」

「そして、本人が目覚め『5月だった筈』と言ったのですね?」

「はい、その通りです」

「では、服がボロボロだった事については?」

「転移の事故ではないかと推測し、一応は納得しましたが……」

「まさか……記憶を失っている?」

「……アークさんのお話からそう考えられますね」


 リズレーティが悩ましげに答える。その表情からも、簡単には結論を出せない迷いが伝わってきた。


「リズレーティ様のお屋敷で保護されてるのですよね? 良ければ会わせて頂けませんか?」


 淡い期待を込めて尋ねると、彼女は小さく首を横に振っる


「残念ながら聖人と分かった以上、より良い環境で療養をと思い帝都にお連れしました」

「そう……ですか。では帝都に行ってみます」


 落胆を隠せない俺に、彼女は扇を軽く畳んで言葉を添える。


「今抱えている案件が片付き次第、帝都の城までご一緒しましょう。入城手続きとか面倒でしょうから」

「それは助かります」

「では、それまで我が領でごゆるりとお過ごしください」


 馬車はユラユラと揺れリズレーティ様の領地である辺境都市クラメントを目指す。


 三日後、無事に辺境都市クラメントへ到着し、宿に戻った。

 道中ではさりげない勧誘もあり、いちいち躱すのが面倒だったが、どうにか切り抜けてきた。


「あ、お帰りっす。アークっち」

「アー兄、お帰り」

「ああ、ただいま」


 出迎えてくれたのは彩音と小僧。


「……小僧じゃないやい」

「何も言ってないぞ」

「そう思ってそうだと思って」


 ……まあ、思ったけど。


「それより沙耶の居場所が分かったぞ」

「本当っすか?」

「今は帝都の城で保護されてるらしい。暫くしたらリズレーティ様が案内してくれると約束してくれた」

「じゃあうちも行きたいっす」


 彩音が目を輝かせる。だが手放しに喜ばせる訳にはいかない。


「ただ問題がある」

「どうしたっすか?」


 真剣な声に、場の空気が引き締まる。


「……記憶を失ってるっぽい」

「え!?」


 彩音が目を丸くした。


「だから、会って仮に本当に記憶を失っていても思い出すように刺激しないでくれ」

「どうしてっすか?」

「思い出したくないトラウマが原因なら、最悪発狂する」

「……そうっすね」


 彩音が唇をかみしめて頷いた。


「ただ安心しろ。どうやら日本にいた頃の事は覚えているようだ。『5月だった筈』と言っていたからな。その月って沙耶が消えた月だろ?」

「そうっす」

「なら、それまでの事を覚えているから月詠さんは、普通に昔の話ならしても問題ない」

「それならうっかり変な事を言う事もなく安心っすね。うちのせいで笹山先輩のトラウマを刺激したくないっす」

「……もう一つ問題がある」


 トーンを落とす。


「なんっすか?」


 彩音は固唾をのむ。


「城に入るって事は、月詠さんの立ち回りで取り込まれる可能性がある。そのリスクも考えるように。まあこの世界で生きて行くのにそれも一つの手ではあるがな」

「了解っす」

「小僧も考えておけ」

「分かったぜ、アー兄。…………って、小僧じゃないやい」


 話が一区切りついたとこで懐で、伝心魔道具(スマートシーバー)が鳴った。俺は取り出し耳に当てると、懐かしい声が響く。


『久しぶりさぁ』

「ナターシャ……マジで久しぶりだな」

『4年くらいになるさぁ』

「伝心出来たって事は、地上に出て来たんだな」

『あたいが教えられる事は教えたさぁ。今はあの双子が幻魔法を地底世界で教えてるさぁ』


 そうか。もう魔王の子に闘気……いや魔王の血が流れていうから魔王闘気か。それを扱えるように仕込んだのか。

 それにしても、たった4年でもう仕込むとはな。

 名前はスクルド=スルーズだったな。【付与月姫(カノープス)】に頼まれナターシャとキアラ、ラキアの双子が育てる事になった魔王の子供だ。


「というか幻魔法?」

『人の世界で生きてくには必要じゃないかい?』


 確かにそうだな。角や翼、尻尾を隠せなければ迫害される。獣王国ならともかく、人の国では生き辛いだろう。


「そんで今どこにいるの?」

『未開の地に出入口があったさぁ』


 まああそこなら何があってもおかしくないな。


『北に向かったらダンダレス帝国に出たさぁ』

「それはまた奇遇だな。俺は今は、辺境都市クラメントにる」

『なら転移魔法(テレポート)で、直ぐに行くかい?』

「そうだな。じゃあ入口まで向かいに行く」



 ――再び町の外へ出る。

 ナターシャがいない間はやけに寂しかった。特に下半身が。……いや、勿論それだけじゃない。

 あの姿も、笑い方も、四年もの間ずっと胸の奥で燻っていた。


挿絵(By みてみん)


 そして、やって来た彼女は――眩い光を放つ鎧を纏い、以前よりも凛として、美しくなっていた。

 昔から綺麗だったが、久々に目にした姿は、記憶の中の彼女よりもさらに鮮烈で、思わず息を呑むほどだ。

 随分と鎧が輝いている。あれが【付与月姫(カノープス)】直々に付与され、性能が上がった鎧か。どれ、鑑定してみるか。



 名前:【遠矢射る者(アルテミス)】ナターシャ=プリズン

 年齢:二十三歳 (三十四歳)

 レベル:137

 種族:人族

 職業:薬神の射手(ヘーリオス)

 HP:10200

 MP:4700

 力:2100

 魔力:3300

 体力:1400

 俊敏:2100

 スキル:ナイフ術LvMAX、剣術Lv4、短剣術Lv4、槍術Lv4、弓術LvMAX、闘気Lv7、神薬調合Lv4、灼熱魔法LvMAX、突風魔法LvMAX、大地魔法LvMAX、氷結魔法LvMAX、稲妻魔法LvMAX、治癒魔法LvMAX、時空魔法LvMAX、空間把握(中)

 称号:ドラゴンキラー、エクセレントコンパウンド、魔弓、英雄、転移者

 装備:エレメントアロー (攻撃力3000、魔力1500) 魔力攻撃

 ヴァルキリーメイル (防御力2500) 護邪結界、自動修復

 フレスベルグのワンピ (防御力1000、魔力500、俊敏500) 自動修復

 ウルドスヴェイル (防御力2000) 自動防御、形状変化、自動修復

 エインヘリヤルウィーヴ (防御力500、魔力1500) 魔矢補助、自動修復

 ウーツのハイヒール (防御力300、俊敏200)

 ユグドラシルブローチ (攻撃力200、防御力100、魔力300) 天日活性、自動修復



 プラチナメイルがヴァルキリーメイルに変わってるな。護邪結界とかまた仰々しい名前。だが邪魔法を退けられるとかおいし過ぎる。

 エインヘリヤルウィーブって元は5年くらい前に誕生日で贈った魔真鍮のリングだろ? なんかパワーアップしてるな。

 ウルドヴェイルは武のくれた短マントだったけどまた名前変わってるし。というかどんどん北欧系の名前ばかりになっていくな。

 ステータスの方は……………………レベル高っ! 俺より高いじゃん。

 魔法系は隙魔法以外は中位止まりが限界だったのだな。まあでも隙魔法は上位の時空まで行ってるだけすげーけど。

 というかそれらがどうでも良くなるほどツッコミたくなる事があった。


「処女神かよ!?」


 そう叫んでしま瞬間、目を吊り上げたナターシャに頬をはたかれた。この感覚懐かしいな。


「再会早々何を言ってるんだい?」

「いや、二つ名がな」

「通り名がどうしたんだい?」

「アルテミスとか処女神じゃねーか」


 尤もそれは地球での話だが、この世界ではそんな事実はない。それでもツッコミたくなる。なにせ……、


「いきなり男に跨る奴に合わねーよな」


 ペッシーンッ!


 眉を吊り上げた彼女に、またはたかれた。


「いきなり変なことを言うんじゃないかい」

「まあそれより、お帰り」

「ただいまさぁ」


 そう言ってナターシャは胸に飛び込んできた。俺は抱きしめ返す。

 懐かしい匂い。柔らかな体温。そして……、


「………………なんだい? これは」

「……生理現象だ」

「そんなに寂しかったのかい? 下半身が」


 ビッグマグナムは正直だった。


「しょうがないから、今晩たっぷり相手してあげるさぁ」

「そう言いながら、自分がヤりたいナターシャでした」


 ペッシーンッ!


 またビンタ。顔を真っ赤にしている。図星を突かれた反応だ。


「勝手なことを言うんじゃないかい」

「じゃあナターシャは、全くこれっぽっちもシたいと思わないのだね?」

「うっ!」


 真っ赤な顔を逸らすナターシャ。だがそんな彼女に俺は容赦なく俺は釘を刺す。


「まあ、保護してる奴がいるから今は無理だけどな」


 ペッシーンッ! ペッシーンッ! ペッシーンッ! ペッシーンッ!


 四連ビンタ。


「ふん!」


 そっぽを向いて町へ入って行った。ほんと素直じゃない。

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