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EP.33 またスイースレン公国の連中でした

 ――――月陸歴1521年6月10日



 あれから数日が過ぎた。転移者達を異世界の生活に馴染ませながら、沙耶の情報を探していたんだが……結局、何も掴めていない。

 沙耶が行方不明になったあの崖下は未開の地だ。そして少し東に行けばこの国がこの国……ダンダレス帝国がある。

 その現場から近く一番大きな町は此処だから情報が集まると思ったんだが……空振りだったか?

 そんな事を考えながら市場の前を通る。市場は活気で溢れていた。だが、ある一角で声が荒れ始める。


「なに言ってんだ! 値段は俺の言い値だ!」

「そんな理不尽通るわけないでしょ!」


 怒鳴り合っているのは……スイースレン公国の連中か? エーコ、沙耶、ゲンイの(ファミリア)を通じて見ていたときに知った顔――学生達……いや元学生か?

 平民を家畜のように見下す態度で、商人を威圧している。またあの国かよ。マジで腐ってるな。

 少し離れた場所から様子を伺ってるいると……、


「ん? あれは……」


 確かクーデリアか? 俺が鍛える事になったローゼインの幼馴染で、超えたい相手だった者。確か彼女はエーコやローゼインの一つ上だし卒業したのだろう。


挿絵(By みてみん)


 そんな彼女は怒鳴り散らす同郷の者に、呆れたように氷を思わせる冷たい視線を向けていた。だが威圧的な元学生達は、その視線にも気づかない。

 さて、いつまでも見てないでどうにかするか。

 龍圧……殺気に龍気を乗せた格下の意識を刈り取る技法。怒鳴っていた連中は次々に気絶し、地面に倒れ込んだ。市場には一瞬の静寂が訪れる。これで少し静かになるな。


 まあ誰も俺がやったとは思わないだろ。距離があったしな。俺の方に意識が向いてなかった筈だ。

 そう思ったんだけどな~。


「……只者ではない」


 気付かれていたよ。青い髪に青い瞳の令嬢。貴族らしいドレスを纏う女が、じっとこちらを見ている。

 だが、だからと言って簡単に俺に接触しないだろう。お嬢様っぽいし危険な事はしないと思う。

 そう思ってたんだけどな~。



 翌日、俺達が泊まってる宿に来たよ、この人。ノックの音。扉を開けた瞬間、俺は顔が引き攣りそうになってしまった。


「……これはお貴族様ですか? 一体このような汚い場所に如何さないました」

「【夜刀神】様ですよね?」


 何故かバレてる? そもそも俺が【夜刀神】の二つ名を貰ったのはついこないだだぞ。


「……もしそうだとしたら?」

「少しお話があります。貴方達は外で待ってなさい」


 貴族令嬢に付き従っていた護衛らしき者に命を下す。


「し、しかし此処は平民がおられる場所。そのような汚らわしい場所にお嬢様お一人でなど……」

「こちらはお願いする立場です。それ相応の誠意を見せるべきかと思います」


 お願い、ね。


 ロクな事じゃない気がする。何せ此処にスイースレン公国の連中がいたから。いや、それだけで決めつけるのは陰謀論も良いとこか。


「俺は構いませんよ。こんな場所ですし、護衛の方々が言うのも最もです」

「そういう訳には参りません」


 問答の末、護衛たちは宿の外へ放り出された。その様子に再び顔が引き攣りそうになる。


「えっと……こんな場所ですが中で宜しいですか?」

「えぇ、構いません」


 中に入れる事にした。


「あ、アークっちその人は?」

「わー……アー兄、その人凄い美人だな」


 彩音が軽い挨拶をするかのように訪ねてくる。瑠二(小僧)は相変わらず顔を赤くしていた。


「……小僧じゃないやい」

「何も言ってないぞ」

「思ってそうだと思って」


 まあ思ったけど。


「貴族のお嬢様だ。粗相があると拙いから奥に行っててくれ」

「はーい」

「ちぇ~」


 彩音は素直に従ったが小僧は渋々だな。

 その後、椅子を引いて貴族令嬢に座って貰う。


「生憎……平民のお茶しかございませんが」

「お構いなく」


 俺はお茶を入れテーブルに置き、向かいに腰を下ろす。

 令嬢は粗末なお茶を口に含み、唇を湿らせてから口を開いた。


アーク様(・・・・)、改めましてお時間を作って頂きありがとうございます。わたくしはこの辺りを任されております辺境伯領主の娘、リズレーティと申します。以後お見知りおきを」


 気品を感じさせる笑みを称え名乗った。

 ただね、『アーク様』っていきなり距離を詰めて来たな。親しくない相手は普通【夜刀神】と呼ぶだろうに。

 例えるなら総理大臣の大泉を『総理』とは呼ばず、いきなり『大泉さん』なんて普通呼ばないだろ? ってニュアンスだな。


 え? 大泉っていつの時代だよって? 細っけ―事は良いんだよ!


「まずお伺いしたいです。何故俺が【夜刀神】だと?」

「わたくしは辺境伯の娘ですよ? この辺境都市クラメントの入場記録を確認すればアーク様が、この町に来られたのは直ぐに調べられます。そうなれば宿屋を特定するのも容易」

「しかし、俺が【夜刀神】を名乗るようになったのは一週間くらい前で最近です」

「それこそ愚問です。目ぼしい情報を常に耳に入れておくのが貴族の嗜みです。……とは言え、アーク様はAランクになられたばかり。貴族の事に疎くても仕方ないかもしれませんね」


 スイースレン公国の馬鹿連中に聞かせてやりたいね。


「お答え頂きありがとうございます」

「いえ……。まずは騒ぎを起こしてた者達を止めてくださり、領主に代わりお礼申し上げます」

「えぇ……余りにも見苦しかったので勝手をしました」

「……驚かないのですね? やはりわたくしが見ていた事にも気付かれていたのですね?」

「はい」


 まあ普通に視線を感じたしねー。でも、次の日にいきなり訪ねて来たのは驚いたけど。


「あの方々はどちらの方はご存知ですか?」

「スイースレン公国の方々ですね。元学生……いえ今年、卒業した者達ですかね」

「飛び級された方もいらっしゃいますが」

「なるほど」

「ちなみにアーク様はスイースレン公国の方々が、何故この町にいるかはご存知ですか?」

「いえ……それはわかりかねます」


 そう言えば何であの連中がいたんだろ。


「亡命です」

「亡命?」


 思わず声が出た。


「ウルールカ女王国の女王陛下を怒らせ国内権力闘争に敗れる事になりました。その結果、この国に亡命しようという事になったようです」

「ちょ! それ国家機密ですよね? 話されて良かったんですか?」


 慌てて言ってしまう。どう考えても軽々しく話していい内容じゃない。

 だが、これで繋がった。あの国の馬鹿共はゲンイを冤罪にするだけでなく、沙耶を逃亡者にしやがった。そうやってウルールカ女王を謀ったという事で、女王の逆鱗に触れた。

 まあここまでは俺も知ってる。だが、それで政争に実質敗れ亡命した事までは知らなかった。恐らくだが、派閥争いだったのだろう。冤罪を着せた派閥がこの国に来たのだろうな。


「構いません。此方はお願いしに来ている立場です。出来る限りの情報共有はさせて頂きます」

「そうですか」

「それにしても……国家機密に触れるような事を話した事に対し驚かれていましたが、内容自体には驚かれていないのですね?」


 探るように青い双眸で俺を捕らえる。

 やば! そこを突かれたか。流石貴族だな。確り見てるとこは見てる。あの馬鹿連中とは大違い。


「……もしかしてご存知だったのですか?」

「はい……ウルールカ女王国とは懇意にしておりまして。逆にそれをご存知なリズレーティ様に驚きました」

「リズで構いませんよ?」


 おどけたように微笑む。どんどん距離を詰めて来るな。貴族相手だから気が抜けない。何を腹に抱えてるやら。


「そういう訳には……」

「それは残念です」


 少しイジけたような顔をする。演技ですね、分かります。


「先程の回答ですが、ウルールカ女王陛下に直接皇帝陛下がお伺いしたのです。大まかな成り行きと国交を断絶した事。またそれによる予想される内容を」

「なるほど。そうでしたか」


 それは知らなかった。


「では本題に入りますね。アーク様に護衛として同行して頂きたい所がございます」

「護衛……ですか?」

「いずれ亡命の方々は調整が終わり次第、帝都へお連れしますが今は我が領で滞在して貰っております。今年卒業した元学生の方々を含め100名いらっしゃいます。そうなると食料の問題ございます」

「なるほど」


 そりゃ100人もいきなり増えればなそうなるわ。備蓄はあるだろうが、それはあくまで緊急用だろうし。


「そこでヴァレーホ果樹園に伺い食料の交渉をしようと思います。その道中の護衛をお願いしたのです」

「さっきの方々もそうですが、リズレーティ様には護衛がいらっしゃいますよね?」

「アーク様もご存じの通り、町は少し荒れております。スイースレン公国の方々が丈高々に構えていらっしゃいますので、護衛を多く割くことはできません。とはいえ、わたくしの立場では一定の人数は必要です。ですが……」


 リズレーティが、俺の顔を確り見据え微笑む。


「アーク様にはAランク冒険者としてのネームバリューがございます。そのお陰で、護衛の人数を抑えても問題はございません」


 なるほど。まあAランク冒険者が護衛ってだけで、他の護衛や……リズレーティの立場なら父親かな? 父親も納得するだろう。


「護衛の件、承知しました。ただ一つだけお願いしたい事がございます」

「わたくしに出来る事でしたら」

「さっきの二人に護衛を付けて欲しいのです」

「護衛……ですか?」


 リズレーティが首を傾げる。

 ってさっきの俺の焼き回しじゃねぇか。


「勿論、町の中なので安全でしょう。なので、そのままの意味で守る為に付けて欲しい訳ではないのです」

「では、何故でしょうか?」

「彼女らは、この国の者ではありませんので、常識の違いでトラブルを起こすかもしれません。またこの町にも慣れていなく迷子になる可能性もございます。護衛というより案内人の方が正しいかもしれませんが」

「なるほど、承りました。アーク様がわたくしの護衛をしてくださる間、誰か付けましょう」

「ありがとうございます」


 まあ、あの二人と一緒にいながらにリズレーティの護衛をする事も可能なのだが、色々面倒になっても困るし、それなら護衛を付けて貰おう。

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