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EP.17 エーコの想い -side Eco-

 わたしは、お爺ちゃんに育てられた。お母さんは、わたしが一歳の頃に亡くなったらしい。

 お爺ちゃんがグランティーヌお母さんの話をよくしてくれた。凄く優しく村一番の美人だったと。

 人も動物も困っていたら、放っておけないお母さんだと話してくれた。

 だけど、お父さんの話は一切してくれない。お父さんの事を聞いても何一つ答えてくれない。

 何故なの? それがずっと気になっていた。


 精霊大戦の末期に反帝国組織に入り、ラフラカと戦う事になった。其処で、お父さんかもしれない人で出会った。

 ダークさん……。

 顔を隠し口数も少なく、あまり会話もした事がない。確信があるわけじゃない。そうだったら嬉しいって願望に過ぎないのかもしれない。

 お母さんが亡くなったなら、お父さんくらいは生きてて欲しいって言う願望。


 根拠があるわけじゃなかった。ただ、お爺ちゃんが一度だけポロっと言った言葉。

 ハンターが懐くのはアローラ家だけ。ハンターはダークさんの相棒のワンちゃん。そのワンちゃんが何故か、わたしに懐いた。

 それにダークさんは時折、わたしを見守るような視線を送ってくる。わたしがピンチの時は助けてくれる。

 たまたまかもしれない。結局これもわたしの願望なんだ。そう自分に言い聞かせた。


 だけどアークさんとして再会した時に確信した。

 アークさんの魔力がダークさんと同じ。直ぐに同じ人だとわかった。

 そして、左手の薬指に嵌められた指輪。わたしが持っているお母さんの形見の指輪と同じ模様の指輪。

 お父さんとの結婚指輪だと思う。あーやっぱりお父さんだったんだね。わたしは嬉しく思った。

 でも、ずっと言い出せなかった。何か事情があって、わたしを捨てたんだと思う。

 その理由を知らない限り、踏み込んだらいけない気がした。いや、怖かった。


 だから、ダークさんと再会した時に声を掛けられなかった。ずっと話したかったけど話せなかった。

 それに本当にお父さんなのか不安もある。でも今、声を掛けないと一生声を掛けられない。

 だって、過去に行くって事は、歴史を変えるって事だもん。きっと今のお父さんとは会えなくなるし。

 せっかく再会できたのに新しい歴史では、また会えるかわからない。


「待ってーっ!! ……待ってー、お父さんっ!」


 遂に声を掛けてしまった。お父さんの目がギョッとする。


「……何を言ってる?」


 そして、そう問う。


「お父さんでしょう?」

「……違う」


 わたしは大きさが合わない、お母さんの指輪をチャーンに入れて首から掛けており、服の中に忍ばせ、肌身離さず持っていた。それを取り出す。


「お母さんの形見の指輪だよー。その薬指の指輪と同じー」


 左手の薬指を指差す。お父さんが右手で指輪を隠す。もう遅いよ。


「エーコ、気付いていたのじゃな」


 ああ、やっぱりー。お爺ちゃんがそう言ってくれたお陰で違うかもって不安が消えたよー。


「違うっ!」


 お父さんが強く言ってきた。うん、そうだね。少し違うね。


「お父さんだけどー、お父さんじゃないようなー……」

「何を言っている?」

「奥底の魔力が違うよねー」

「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」


 皆が驚き目を剥く。

 何故かわからないけど、わたしは生まれながらに魔力が高かった。それは瞳にも表れ魔眼持ちとして生まれた。

 わたしの魔眼は、相手の魔力量や質、それに動き等がわかった。だからわかる。奥底にあるのが違うって。


「確かにダークから感じる奥底の魔力の気配が前と違う」


 ルティナお姉ちゃん場合は気配としてだけど、気付いたみたいだね。


「魔力は、そこまで詳しくわからない……けど、昔のダークと違うよな? ずっと不思議に思ってた。お前は本当にダークか?」


 エリスお姉ちゃんも違和感を感じてたみたい。


「ねぇアーク、本当の事を話しても良いんじゃないかい?」


 ナターシャお姉ちゃんがそんな事を言う。本当の事……。

 何かわからないけど聞きたい。知りたい。わたしはお父さんの事を沢山知りたい。


「は~……俺は、ダークでもアークス=アローラでもない。ダークの体を奪った簒奪者だ」


 溜息を付きそう言う。簒奪者? どういう事なの?

 皆も不思議に思い首を傾げている。


「アーク、そんな言い方ないんじゃないかい?」


 ナターシャお姉ちゃんは、詳しく知ってるのかな?


「事実だ。理由は知らないが、気付いたらダークの体を奪っていた。だから俺は、エーコちゃんの父ではない」

「「「「「「「「「「ちゃんっ!?」」」」」」」」」」


 驚くとこそこかなー?

 まぁ少しむず痒い感じはあるけどさー。


「それでも、その体は、お父さんなんだよね?」

「……そうなるな」

「なら、やっぱり行かないでー」

「言っただろ? これは俺が決着を付けないといけない事なんだ」

「中身が違うのにー?」

「これは俺の推測だけど、ダークはラフラカとの決戦後、目的を失って死を選らんだ。だけど、過去に決着を付けないといけないから、俺がダークの体を奪う事になったんだ。代わりに決着を付ける為にな」


 そうだとしても行かないで欲しい。


「じゃあアークさんと呼ぶけどー。アークさんは気付いてるよねー? 戻れない事をー」

「………」

「どういう事でガンス?」


 ロクーム叔父ちゃんが言う。

 何で気付かないのかなー?


「……歴史が変わる」


 やっぱりお父さん……いや、アークさんはわかっていたんだ。


「そうね……」


 ルティナお姉ちゃんもやっぱりわかっていたんだ。


「もう会えないかも知れないー。やっと誰がお父さんかわかったのにー」

「だから……」

「わかってるっ!!」


 わかってるよ。もうわかったよ。お父さんの体を奪ったアークさんだよね?

 わかってるけど、やっぱりそれはお父さんの体なんだ。だけど……、


「アークさん……だとしてもー……」


 気付くと、わたしは座り込み大泣きしていた。涙がとめどなく溢れる。

 アークさんを呼び止めた時は、少し涙を流した程度だったのに。今は収まらない。


「……それ、でも……この歴史を、無かった事に……したくないよー」

「エーコちゃん、えっと……俺は、中身が違う父だけど、えっと、抱っこして良いかな?」


挿絵(By みてみん)


 たどたどしくアークさんが、そう言い両手を広げて来た。

 わたしは、泣いたままコクリと首を縦に振り、アークさんの胸に飛び込んだ。


「うわぁぁぁん」


 更に大泣きしてしまう。

 例えお父さんじゃないとしても、やっぱりその体はお父さんなんだ。そのお父さんにもう会えない。

 アークさんは、最初から決意していたから。

 アークさんが、少し恐る恐るだけど優しく頭を撫でてくれた。


「ダークがエーコちゃんのお父さんだったとはね」

「不思議な巡り合わせでござる」

「中身が違うってのは、まだよくわからないルマー」

「アークスが本名だったのか」


 皆、口々に色々言い、生暖かく見守っている。

 少し恥ずかしく顔が熱くなる。でも、アークさんから離れたくない。この手を離したら、もう二度と会えないかもしれない。

 会えたとしても、今の記憶は失われダークさんが、お父さんだと確信できなくなってしまう。

 例え今、わたしを抱いてくれているのは、偽りのお父さんであったとしても、放したくない。


「俺は、とある事情があってダークを……いや、アークスをずっと見ていた」


 アークさんが、わたしを撫でつつ、語り始めた。


「歴史を無かった事にするってどういう事でガンス?」


 空気が読んでよー、ロクーム叔父ちゃん。


「少し黙っていなさい!」


 バシっと音が響いたから、エリスお姉ちゃんが小突いたのかな?


「事情ってのが長くなるし面倒だから、言うつもりはないけどな。

 で、アークスの半生を俺は、ずっと見て来た傍観者だった。

 なのにアークスが死んだと思ったら、何故か俺がアークスになっていた。

 それに一年も療養するような大怪我してて、最初は何が何だか、わからなかった」


 アークさんの息遣いや鼓動を感じる。少し心拍数が上がったかな? 

 呼吸や心拍数を落ち着けるかのように、アークさんは深呼吸を繰り返し、やがて……、


「エーコちゃん、アークスはずっと君を気に掛けていたよ。でも、自分には父親の資格は無いって言って、ダークの仮面を被っていた」


 そうだったんだねー。

 なんか少し嬉しいなー。


「なあエーコちゃんは、自分の名前の由来はわかる?」


 そう問われ、わたしは顔を上げた。

 もうとっくに涙は止まっている。

 アークさんの胸の中で安心していた。アークさんに抱き締められ頭を撫でて貰えるのが、凄く嬉しかったので、暫くアークさんの胸に顔を埋めていた。


「ううん。お爺ちゃんにー、それは教えて貰っていないー。でもねー、この名前を聞くと温かみを感じるんだー。お父さんとお母さんに抱かれているような温かみがしてたー」


 素直な気持ちだ。

 エーコと言う名前には、温かみを感じていた。きっと一歳までは、お父さんとお母さんに、そう呼ばれて愛されてたんだと思う。そうだったら良いなーと時々思う


「そっか。ならアークスも良い名前を付けたのかもな。アークスは、自分の手は血で汚れている。娘は、そうならず真っ直ぐ良い子に育って欲しいから、エーコって名前にしたんだ」

「そっかー。安直だけど真剣に考えてくれてんだねー」

「ああ、そうだな」


 そして、アークさんは立ち上がる。

 ダメー! 放したくない。このままお別れなんて嫌だよー。でも、わたしが何かを言う前に……、


「エーコちゃんが、もし中身の違う俺を少しでも父親と思ってくれているなら一つ約束をしてくれないか?」

「約束?」


 アークさんの言葉にわたしは小首を傾げた。

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