EP.31 ルリシアはいませんでした
何故か小僧が、絶望したような顔で風呂かた出てきた。
「どうした? 小僧」
「……小僧じゃないやい」
その言葉に覇気がない。
「………………やられたと思って」
「やられた?」
その答えは直ぐにやって来る。
「良い風呂だったねー♪」
濡れた髪を垂らしながら現れる、ニコやかな顔をしたシルヴェストル。
「つうかちゃんと拭けや」
水も滴る良い女ってか? 限度があるだろ。
「気にするなしー♪」
「するわ!」
にしてもスポブラにハーフパンツ姿――これが精霊としての『裸』……本来の恰好なのか。
ん? まさか……、
「小僧、裸に期待してたのか?」
「………」
顔を真っ赤にさせる小僧。どうやら図星のようだ。
「うわー最低っすねー」
乗っかるなよ、彩音さんよ。というかあんたさっき一緒に入るとか言ってたやろ。
「裸なら妾のを見せてやるぞ」
「いや、鳥だろ!?」
「まぁまぁ」
ゲンイが苦笑しながらお茶を並べる。
「一息付こうか」
ゲンイがそう言うと全員席に着き、全員が腰を落ち着けたところで、俺は茶をすすりながら口を開いた。
「丁度良かった。せっかくだから、全員今度の事を決めよう」
ダンダレス帝国の地図をテーブルに広げる。
「明日西にあるトゥペロ村に買い物。みんな転移して来たばかりだから、日常品を買いに行こう」
「……それで良いよ」
小僧はなんか不貞腐れてる。まだシルヴェストルの裸で引きずってるのか?
「フウは服も欲しいしー♪」
「……まぁいいけど、もう少し出費を抑えてくれよ」
ゲンイが苦笑しながら肩を竦めた。
「明後日は少し大きな街、辺境都市クラメントに向かう。その後の流れは現地で決める」
俺は続けて告げる。
「でもさ、お金ないっすよ?」
「月詠さんは、気にしなくて良いよ。出すから」
「でも……」
「今までみたいに軽いノリで『よろ~』とか言っていれば良いよ」
「うちを何だと思ってるっすか~?」
「軽い女?」
シルヴェストルがなんか言ってるよ。シルヴェストルのが軽いし。
「今日のお前が言うなスレはここですか?」
「ネッドスラングとかまだ言う人いるっすね~」
うっさいわ!
「それと、シルっち酷いよ」
「おまえー!!」
「キャ!」
まずいと思った時には遅かった。シルヴェストルが生み出す風が爆ぜ彩音が吹っ飛び壁に激突。
まあギリ龍気を飛ばせたので緩衝材になってはくれただろうが。俺は咄嗟に龍気を飛ばし、背中と壁の間に緩衝材を作った。
ドンと音を立てて彩音はなんとか受け身を取る。
「おまえに私をシルって呼ばせる資格与えていないしー!」
「っう――たたた……めんごめんご。でも、手加減して欲しいっす~」
「次言ったらカマイタチね」
「シル、相手を考えて」
「だって~~」
「だってじゃない」
「ぶ~」
ゲンイに注意を受けてぶー垂れてるし。
「月詠さん、大丈夫か?」
「モーマンタイ」
そう言って彩音は、再び自分の席に座る。
「それで、そのままその日はトゥペロ村を泊まろうと思うんだ。何か反対とかある?」
まあ転移して来た彩音と小僧は、従うしかないやろ、ファーレも俺に従う。
問題はゲンイとシルヴェストルだが……うん、頷いてるから良いみたいだ。
「そんで、その後どうするかだけど……そう言えばゲンイって本来これから何をする予定だった?」
「ルリシア先生に会いに行こうかと思ってた。お世話になったし。ただ……」
ゲンイが彩音と小僧を見る。うん、そうだよね。保護した手前、好き勝手はできない。
ただそれより問題があるんだよね。それは……、
「ルリシア教員はいないぞ」
「えっ!?」
ゲンイが目を丸くする。
「……それはどうして?」
「いや、だって……」
待てよ。
俺はあの時、確かにエーコに会って少し話した。その時にルリシアがいないって知った。でも、それが白昼夢みたいになかった事になったんだ。そして光の柱が上がり彩音を保護した。
それで……そうあの時変な称号を得たんだ。光の柱やその直前の地震で忘れていた。
『称号 時間逆行』時間が遡った時に記憶を維持出来る。
え? なんやこれ? つまり俺は未来を見て来た? そもそも何で俺はこんな称号を得たんだ?
あ! そっか星々の世界で、経験してるからだ。でも、これを言って信じて貰えるか……?
「……した。アーク? どうした?」
「主上!?」
「アークっち?」
「アクアク?」
「アク兄?」
誰だ? アクアクとか妙なあだ名を付けたの? まあシルヴェストルしかいないけど
「悪い。考え事してた。それより、小僧。悪人とは何だ?」
「小僧じゃないやい。悪人なんて言ってない。アク兄って言ったんやい」
「せめて、アー兄にしろ」
「……分かったよ」
「で、さっきの俺の気のせいかもしれない。一応行ってこいよ」
「だが……」
再び彩音と小僧を見る。
「二人は俺が見てる。そん代わりちゃんとエーコにも会え。心配してたぞ」
「分かった」
「ファーレも行ってくれ。エーコと一緒にいるように」
そうすればエーコとも正式な従魔契約が出来るし。
「承知しました、主上」
「それと明日はトゥペロ村。明後日は辺境都市クラメントに行こう」
全員頷いたので、風呂まだの面々は順番に風呂に入り、湯気が立ちのぼる中、静かに夜が更けていった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
俺達は次の日にトゥペロ村に買い物にやって来た。尚、神獣であるファーレがいると騒ぎになるので、此処にはいない。
「じゃあ、うちは下着見て来るっす」
彩音は鼻歌まじりに下着屋へと足を向ける。
「だったら、俺はその辺で待ってるわ」
「え~? 一緒に来れば良いっすよー」
「ガン見されたいのか?」
「……キモいっす!」
ひどっ!? なんでそこまで軽蔑の目ぇ!?
「ねーねー、ルジはなんで顔真っ赤っかになってるの~?」
シルヴェストルが小僧を突っついてニヤニヤ。
「赤くなってねーし!」
「小僧は『下着』の単語に反応したんだろ」
俺が煽りを重ねる。
「してねーし! それに小僧じゃないって!」
「昨日、私の裸見てたしー♪ 人間の見え方で言えば、下着みたいなもんだったしー♪」
「だから、皆してキモいっすよ~!!」
「フウは関係ないしー♪」
彩音まで参戦し、ルジは完全にいじられの餌食。
「はいはい。シルがお風呂一緒に入るからだよ」
ゲンイが最後に落ち着かせに入るが……、
「そうそう、『混浴イベント』ってやつだしー!」
「やめろシル! 余計ややこしくなる!!」
「ねぇ、この柄どう思うっす?」
「俺に訊くな!」
「じゃあシルヴェストルに……」
「フウに? よっしゃ、派手なのにしよー♪」
「……俺の財布が泣く未来しか見えん」
ゲンイの苦笑いは更に深まる。
こうして買い物も俺達はわちゃわちゃしていた。
が…………その後、俺は辺境都市で厄介な政治闘争に巻き込まれる――――。