EP.27 保護しました
-00:00:30――――月陸歴1521年6月3日
「あれ?」
此処は何処だ? 今、エーコと再会していただろ?
「何で岩の家が?」
それに野宿用の半円球の土魔法で作った岩の家が置いてあった。
って事は、此処はダンダレス帝国? 見覚えがある景色だし。
じゃあエーコと再会したのは、夢だったのか? そんな馬鹿な。それならベッドで目覚めないと説明付かない。立ったまま寝るなんて芸当は、俺には出来ないし。
じゃあ白昼夢を見ていた? そんな絶賛混乱中の時だ。
《称号 時間遡行を獲得しました》
えっ!? 何か称号を獲得したぞ。それを詳しく確認しようとすると……、
ゴォォォォォォオオオ……ッッ!!!!!
大地震が起きた。
「何だ、この揺れは? 日本でも経験した事ないぞ。震度7あるんじゃないか?」
次の瞬間、あっちこっちに光の柱が立った。
「今度は何だよ!?」
あの光の柱は何だ? 東西南北あらゆる場所で光の柱が立ってるぞ。
ともかくだ。一番近くの場所を確認しよう。
《ファーレ、何が起きてるか分かるか?》
《分かりませぬ》
《ファーレは、いつものように先行してるよな?》
《はい》
《スイースレン公国の方にも光の柱が立ってるか?》
《いえ、そこまでは確認出来ませぬ》
《なら、一番近くの光の柱を確認してくれるか?》
《承知しました、主上》
ファーレとの思念伝達を終える。
「<収納魔法>」
岩の家をしまうと、一番近くの光の柱の場所へ到着した。そこには黒髪黒目の少女が呆然と立ち尽くしていた。
顔立ちは整っており美人だな。健康的に見える日焼けがあり褐色美人と言うべきかな。
髪も艶がきめ細かくストレートで、背中まであった。服装はワイシャツにブレザーにスカート。何処かの学生服かな? ただなんか見覚えがある制服だ。手荷物は学生鞄一つのみ。
とりあえず鑑定………………やはり転移者か。
となるとあっちこっちで、見えた光の柱は転移者がやって来たのか?
「おい、大丈夫か?」
「え? はい……あの此処は何処でしょうか?」
警戒を滲ませ問い掛けて来る。そりゃ見知らぬ場所で、見知らぬ奴に声を掛けられたらそうなるわな。
「私は誰ですか? ってか?」
「いえ、記憶喪失ではありません!」
強めに返された。まあ緊張をほぐすギャグだったんだけど。
「少なくても日本どころか、地球ですらない」
「はい!?」
「周りの景色を見な? 見覚えがあるか?」
「……ないですね。じゃあ此処は一体……?」
「異世界」
「………」
胡乱な眼差しで見られた。そうなるわな。こういう時って、どうすれば良いのかな……?
あ、貨幣を見せるか。
「この金に見覚えは?」
「無いです」
「なら、自分が知ってる国ではないと分かったと思うけど」
「あの……貨幣の偽造は、重罪です」
そう来たか。
なら、ファーレに合わすか。喋る鳥を見れば少なくても地球ではないと分かる筈。
「信用出来ないならそれで良いけど、少しでも信用したいなら着いてきな。安全は保証するよ」
「……分かりました」
ファーレがいる場所に向かって歩き始める。
《主上、転移者がいました》
《こっちもだ。とりあえず監視だけして、定期的に報告して》
《承知しました》
「何処へ向かってるのでしょうか?」
「此処が地球じゃないと証明出来るとこへかな」
「……そうですか」
まだ疑っているな。まあ良いけど。
「そう言えば名前は? 俺はアーク」
「月泳 彩音です」
「じゃあ彩音……は、時期尚早か。月泳さん、此処に来る直前何があった?」
「目を開けていられないくらい強い光に覆われました」
「それなら、転移したって分かるよね? そして、地球には転移の技術はない」
「……いえ、幻覚作用のあるものを使われたとか、眠らされたとか、夢とか。転移なんてあり得ません」
「そう」
異世界転移全否定だな。
《転移者は奴隷商に捕まりました》
《惨い仕打ちをされない限り放置で。後で助ける》
《承知しました……いえ、助ける者がいるようです》
《じゃあ監視続行で》
《承知しました》
「キャっ! 何ですか、アレ? 人? 鬼?」
「オーガだね」
オーガ五体に遭遇した。
「オーガ? いや、そんな空想上のものですよね?」
「目の前のものが現実」
「に、逃げましょう」
「必要無い。言ったでしょう? 安全は保障するって」
「へ? いきなり倒れました」
「気絶される技法を使った。血を見るのは嫌でしょう?」
龍圧で瞬時に制圧。素材が手に入らないのは残念だが、今更オーガ五体分なんてたかが知れているしな。
「この世界は魔獣がいるんだよ」
「ま、じゅう?」
「替わりにというかなんというか、動物はいない」
「動物がいない?」
なんか復唱するだけの人形になっていないか?
「あの……何処まで行くのですか?」
「1kmくらい先かな?」
「そうですか」
「あ、そうだ。魔法を見れば少しは信じるかな?」
俺は炎を出し、水を出したりした。
「手品得意なんですね」
パチパチと拍手された。
「頑なに信じないね、月泳さん」
「当たり前です。異世界とかあり得ません」
「あっそ」
「絶対にあり得ません」
「別に信じなくても良いけど、覚悟しておいた方が良いよ」
「……何の?」
ゴクリと唾を呑む音が聞こえる。声音に緊張が伝わる。
「自活する覚悟。俺は安全な町まで送って、多少の面倒は見ても良いけど、それからは一人だよ?」
「え? あの帰りたいのですが……」
「帰れるならどうぞ。酷な事言うけど、難しいと思うよ。他にも転移者の知り合いがいるけど、みんな帰れていないから」
「そんな……」
「沙耶も落ち込んでいたな。………………まあともかくこれが現実だし向き合うしかないよ。俺には、ちょっとした手助けしか出来ないしな」
「今、何て言いました!?」
え? いきなりどうした? 食い気味だな。
「俺にはちょっとした手助けしか出来ないしな」
「その前」
「これが現実だ……」
「『沙耶』と言いませんでしたか?」
ボソっと呟いた部分を拾っていたか。
「ああ、知り合いに沙耶がいるんだ。彼女も転移者だな」
「もしかして笹山先輩?」
「え? 先輩?」
「笹山って苗字ですか?」
「そうだね。笹山 沙耶だ」
え? 沙耶の知り合い? しかも沙耶の後輩なの?