EP.25 西に向かいました
-17:37――――月陸歴1521年6月2日
減り込んだ壁の欠片がポロポロ落ち、やがてパワレベルも落ちて来た。
「あ、アークさん、殺したのじゃないのですか?」
受付嬢が狼狽える。
「大丈夫だ」
「クソが!」
「ほら」
「本当ですね」
パワレベルが立ち上がる。
まあ当然だろ。俺の龍気に守られていたのだから。剣閃は当然龍気を斬撃と共に飛ばしたのだが、パワレベルに当たった瞬間、龍気がパワレベルを覆ったのだ。
その龍気は特に背面に回り、言わば緩衝材のようになり壁の激突から、パワレベルを守ってくれた。つまり、そうなるように俺が放ったのだけど。龍気って便利だね。
「てめぇ、きたねぇぞ!」
「あ?」
何言ってるんだ?
「レベル125とか騙しやがって」
「いや、本当なんだけど?」
「だとしても試合直前でほざくとか、油断を誘っただろ?」
「仮に油断したのだとしたら、その程度の奴がBランクになるとかおこがましい」
それ以前に自分の状況分かってるのか? 壁に減り込んだに無傷とかそれこそ普通はあり得ないぞ。この時点で、俺との差が分かるだろ。
「くっ!」
やっとパワレベルが大人しくなった。苦々しい顔してるけど。
「じゃあサラサね」
「……お願い、します」
オドオドしながら、訓練所の中央にやって来た。
「では、始めっ!!」
受付嬢の合図で、縦一文字に小太刀を振るう。
「くっ!」
両手を突き出しサラサが防ぐ。今、魔法名破棄で光防御魔法使ったな。ただ、それだけじゃ俺の一撃は防げない。光防御魔法を貫きサラサに直撃。そのまま吹っ飛んだ。
「くぅ~~」
だが、続けて背面にも光防御魔法を使う。それも弾力性のあるものだろう。サラサの衝撃を受け止めていた。こうして壁に激突するまでもなくサラサは耐えた。
「はい、これで試験終わりね。サラサは合格」
「待てや!」
また騒ぎ始めたぞ。
「今、てめぇ手加減しただろ!?」
「何言ってるの?」
「じゃなきゃ途中で勢いが止まるかよ!」
「光防御魔法使ってただろ? お前の目は節穴か?」
はい、先程節穴扱いされたので、意趣返しです。
「黙れ! おい、こんないい加減な試験を許容するのか? 冒険者ギルドは」
今度は受付嬢に絡み出したぞ。
「アークさんに一任されていますので」
「そのアークとやらが、贔屓してるって言ってるんだ?」
「そうは見えませんけど?」
「あ~~もう煩いな」
騒がしいの止め、サラサに水を向ける。
「サラサは、俺と戦って勝てそうか?」
「絶対に無理です!」
「じゃあアレと戦って勝てそうか?」
パワレベルを指差す。
「……たぶん、無理です」
目線を逸らしてるぞ。
「これが答えだ。サラサは、ちゃんと相手との実力差が分かってるぞ。どっかのレベル168と違って。『たぶん』とか言ってるしな」
「んだとぉ!! 82に何が分かる!?」
顔真っ赤にしちゃって。マジで気付いてないのかね?
「そのガキと戦わせろや!」
「えっ!?」
マジで言ってるのか? サラサも意味不明な事を言われ目を丸くしてるし。溜息しか出ないな。
「は~。マジでサラサと戦うのか?」
「上等だ!」
「え~」
サラサが嫌そうな顔をする。なので、パワレベルに聞こえないように声を潜めて話し掛ける。
「お前、実力差を分かってるだろ? アレはレベルが高いだけの雑魚だって」
「それは……」
「良いか? 高ランク冒険者になれば、それなりの責任が付き纏う。お前がもしここではっきりと、アレは弱いと言ってやらないと、調子に乗ったアレがいつか死ぬかもしれないぞ?」
「………」
「そんな事になって目覚め良いか?」
「……悪いです」
「高ランクになるなら、下位冒険者を導いてやるくらいの気概を見せるべきだと思うが?」
「……そうですね。分かりました」
はい、サラサの説得完了。渋々だが理解してくれたようだ。
「制限時間は10分。それまでにサラサに指一本でも触れれば合格にしてやる」
「ハン! てめぇは俺を舐め過ぎだ。10分もあれば指一本どころかぶっ飛ばす事も……」
「デカい事は出来てから言え。レベルだけ野郎」
「だとぉ!?」
「ちなみにこれに負けたら、お前Eランクに降格な。レベルだけ野郎」
「ふざけんな!!!」
顔を真っ赤にし怒鳴りちらす。
「当たり前だろ!! 三回もチャンスやってるんだからリスクも背負えよ。口だけか?」
「クソが!!」
「受付嬢さん、良いですか?」
「アークさんには、Dランクまでしか下げる権限ありませんが、今回の事をギルマスに報告し善処しようと思います。正直態度が悪過ぎます。最初の鑑定での合否で納得するべきだったと思います。高ランクになれば、それなりの品位も求められます。正直パワレベルさんにそれがありません」
あらあら受付嬢にも言われてやんの。
そんな訳で、パワレベルとサラサの試合が始まった。まあ結果は分かり切ってるけど。
「何だこれは!?」
パワレベルの正面に光防御魔法が置かれる。
「クソが!」
右から回ろうとするが、そっちにも光防御魔法を置き妨害。
「邪魔だ!」
腰のメイスを掴み光防御魔法を殴り付ける。光防御魔法が砕け散るが、その前方にも次の光防御魔法を設置。
「またかよ!? クソが!」
罵詈雑言を吐き散らすがサラサに近寄れない。
「はい、終了」
10分経過した。
「レベルだけ野郎の負けで良いな? まだ文句があるか?」
「クソが! 一体どうなってるんだ? レベル125とレベル82如きに俺が負けるとか……」
「お前馬鹿なの? レベルなんてほぼ飾りだろ?」
「何?」
ギロリと睨まれる。いや、事実だし。
「レベルを上げなくてもステータスを伸ばす方法がある。常識だろ?」
「だが、俺様は168もあるんだぞ」
「パワーレベリングしてただろ、お前。それじゃあ実にならねぇよ」
こいつステータスがこれだ。
名前:パワレベル
年齢:三十六歳
レベル:168
種族:人族
職業:スマッシャー
HP:7000
MP:250
力:1400
魔力:150
体力:1300
俊敏:400
これは酷い。唯一珍しいものがあるとするなら『称号 経験値増加』だろう。これにより通常より多くの経験値が入って来る。
なのできっと、誰か強い奴とパーティーを組み、レベリングしていたのだろう。
だが、ステータスの上げ方は何もレベルを上げる事だけではない。反復による鍛錬でもステータスは上がる。極論を言えばレベル1でも力が2000超えたりも十分あり得る。
「下手するとレベル1で、そのステータス以上の奴はいるぞ」
俺がそうだったし。まあ俺は例外だろうけど。
「なん……だと!?」
「それとアレを見ろ」
パワレベルがぶち当たった壁を指差す。
「あんな破壊がされているのにお前無傷だろ? その時点で俺との実力差あると知るべきだった」
「………」
「最後にお前、アタッカーだろ?」
「……それが?」
「それぞれタイプがあるんだよ。ヒーラーとかタンクとか」
「そんなの分かってるっつーの!!」
いや、分かっていない。
「分かっているなら、何故サラサに勝負を挑んだ? サラサはサポーターだぞ。仮に勝っても自慢にもならないし、それで実力がある証明にならない。本来なら勝ったところで、Aランクになれないぞ」
「何故だ?」
「同じ土俵で戦っていないからだよ。サポーターに正面から挑むって事は、アタッカーなら勝って当然だぞ」
「……クソが」
やっと理解したか。まあそれでも過ちを認める気はないようだけど。
「って訳で、Eランクから出直せ」
ちなみにだが、サラサはステータスがパワレベルより高いってだけではなく面白い称号があった。『称号 聖女』だ。
聖女
光と聖属性の魔法において回復、防御、補助の消費MPが低い上に魔法名破棄で使用しても負担がない
また早期に習得可能で、威力の底上げや、イメージ次第で多少の変化が可能である
となっている。
これのお陰で柔軟性のある光防御魔法を出せた訳だな。ただ残念なのが光と聖属性となっているが聖属性は持っていなかった。光属性だけではその真価を発揮出来ないだろうな。
まぁそもそも聖属性ってなんだろう? 聞いた事がないんだけど。言葉のイメージ的にサポート特化魔法だろうか。
「サラサ、これ出来るか?」
「何でしょう?」
俺は空間に龍気を張り、それを踏み台に飛ぶ。
「こんな感じだ。光防御魔法で出来るんじゃないか?」
「出来ますが……空を飛ぶなら光翼魔法がありますよ?」
「それだと羽根が生えてるから、飛ぶのが丸分かりだろ?」
「そうですね」
「それに空中のあらゆるところに光防御魔法を張れば縦横無尽に飛び回り予測不能な軌道になるんじゃないか?」
「あ! 凄い! そうなりますね」
いきなり目を輝かせたな。でも、出来ると思ったんだよな。イメージ次第では多少の変化が可能って、トランポリンのようにすればガッシュのような立体軌道が可能になると思ったんだよな。
ともかく依頼完了だな。なので、俺はこのまま西へ旅経つ。目指すはスイースレン公国。まずはエーコと再会したいな。その後は、沙耶の捜索だな。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「大分暗くなって来たな」
日はとっく沈み闇が支配していた。
「今日は休むか……<収納魔法>」
アレ? またか。また空間の亀裂が直ぐに閉じた。この魔法って元々MP50くらいの消費で、維持するのに徐々MP減るくらいだったのだけどな。気付けばMP200消費するようになっていた。
それでも今日はそれじゃ足らないようだ。
「<収納魔法>」
今度は、もっと魔力を籠め収納魔法を唱えた。にしても消費MP250とかかなり重くなったな。でも、空間に亀裂が出来たので、そこから野宿用の岩の家を取り出す。
次の日。
「ふぁ~~~。良く寝た。<収納魔法>」
岩の家を収納魔法にしまう。さて、再び西を目指しますか。