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EP.23 横領が発覚しました

 俺がセイラに差し出したのは、この『食事処 アサシンズ』の経営と土地を含めた利権。

 そして一枚の契約書。その契約を要約するとこう書かれている。



 1. アークはセイラに『食事処 アサシンズ』に関係する全ての利権を譲渡する

 2. アークとアークが連れて来た者には、食事を無償提供する(その時々で応相談可)

 3. 『食事処 アサシンズ』の三階にある居住区の一室をアーク個人のものとし在住地とする

 4. アークの在住地となった場所を定期的に管理する

 5. 4の管理の対価としてアークは、セイラに毎月中銀貨2枚を支払う

 6. セイラは、アークの在住地となった場所に文が届いた場合、速やかに王宮にそれを届ける事

 7. 2~6は、お互いの契約が続く限りものとする


 こんな所だろう。補足すると2にある応相談可とは、例えば俺が十人も二十人も連れて来た場合だ。これを全て無償提供となるとセイラの負担も大きいだろう。

 他にも毎日のように来られても負担になる。約五年前にそう言った事があり、セイラの機嫌が悪くなった事があったしな。


「お前は十分、俺の初期投資分を払ってくれた。だから、この店をやる」

「……良いの~?」


 手に持つ契約書で顔を隠しつつ、丸でご機嫌伺いをするかのようにチラ~っと俺を見て来るセイラ。


「ああ」

「でも~……」

「俺への報酬である売上の一割だって、それなりに負担だろ?」

「そうだけど~……」

「その金で、護衛でも雇え。不届き者が多くなってるだろ?」

「そうだね~」

「そう言う訳で、この店はお前のものだ」

「ありがとう~。でも、管理って?」


 契約書をどけニッコリ笑った顔を見せ、続けて首を傾げる。


「お前、俺が長い間来てなかったのに、確り掃除してくれただろ? 布団も干していたんじゃないか?」


 そうこの部屋は四年半は、使っていなかったのに、塵一つ落ちていないまでは行かないが、綺麗なのだ。それに布団が黴臭くない。定期的に干していた証拠だろう。


「た、たまたまだよ~」


 照れたように笑いそっぽ向く。


「そんなに気を使う事か? この店だって初期投資したとは言え、実質お前の店だったろ?」

「これでも感謝してるんだよ~? 働き口のなかった私を拾ってくれて、こんな良い店を用意してくれて~。だから、一生掛けて恩を返そうと思ってたんだ~」


 そこまで大袈裟に考えていたのか。


「まぁそれは管理の方で返して貰おう」

「私に報酬があるよ~?」

「もうこの店はお前の物になるんだ。対価を払うのは当然だろ?」

「そっか~。でも、契約が続く限りって~? こんな一文がなくても良いんじゃない~?」


 確かに不自然だ。契約不履行になれば、管理をしなくて、もしくは対価を払わなくて良くて当然だ。


「……俺が転移者だと知ってるよな?」

「うん」


 ソウソウ達に聞かれてると面倒なので、小声で話し掛ける。


「目的が終われば、突然いなくなるかもしれない。だから、突然連絡が途絶えたら、そうなのだと思って、この部屋も好き使って良いという意味で記した」

「……なるほど~」


 しみじみ呟く。


「まあその目途が立っていないんだけどな」


 そんなセイラを見ていられなくて、オーバーに肩を竦める。


「そうなんだ~」


 あからさまにホっとした態度に、俺も嬉しく思う。寂しく思ってくれているようだ。


「それから王宮にって~? 王宮の何処に届けるの~?」


 ノアと再会した時に、何かあれば此処に手紙を出すように言った際に気付いたのだ。俺と連絡を付ける手段が今までなかった事に。

 王族とかは、俺の伝心魔道具(スマートシーバー)に伝心すれば良いし、情報通なら俺が辰の道場にいたのを知っていただろう。だが、普通の者には分からない筈だ。

 そこで、ケンに本来なら俺に渡される筈だった。伝心魔道具(スマートシーバー)を預けていた事を思い出した。なら、王宮に知らせればケンを通じて俺に連絡が付くと考えたのだ。

 それをサフィーネに相談したら、ケンじゃなくても王宮に連絡が来れば、俺に連絡が付くように手配すると言ってくれた。よって……、


「近々王宮から通達がある筈だ。どの部署に俺への手紙がを届ければ良いか」

「分かった~」

「問題無ければサインしてくれ。この契約書を商人ギルドに見せる」


 そうすれば、在住地として登録されるし、俺が預けている金が自動的にセイラに毎月振り込まれるようになる。尤も手間賃が取られるけど。


「それから部屋余ってないか? 女子二人を他の部屋で休ませてやりたいんだけど」

「田植えしたばかりだから~、稲の種を育ててた部屋が空いてるよ~」


 それはグッドタイミングだな。田植えは四月の初めに行うものだし。


 翌日、『槍の愛好家』と『食事処 アサシンズ』で朝食を済ませ、予定を尋ねた。ソウソウとリンシャンが行きたいとこがあると言う。カンウーとチュンリーは、決めかねていた。


「アークは、どうすんのぉ?」


 そう訊ねて来たのはリンシャンだ。


「孤児院に顔出して、商業ギルドに行く予定だ」

「なら、アタシも着いて行って良いかな?」


 チュンリーに問われる。


「良いけど、何でまた?」

「子供好きなのよ」

「そうか。じゃあチュンリーは、俺と孤児院だな。では、昼過ぎに集まろう」


 そう話を締める。昼過ぎには集まり、王都メルーシに戻らないといけないしな。

 そんな訳で、孤児院に向かう。


「これはアークさん、お久しぶりです」


 出迎えてくれたのは院長だ。俺を覚えていたようだ。


「ささ、どうぞこちらへ」


 そう言って恐らくだが、院長室に案内される。その道中に話を振る。


「経営は順調?」

「えぇ。アークさんのお陰で、食べるに困らなくなりました」


 それは本当だろう。五年前と違い瘦せこけてるなんて事はないしな。


「!?」


 ん? 一瞬チュンリーの視線が険しくなったな。その視線の先を追う。一人の孤児院で働く女がいた。あぁ、なんとなく分かった。

 院長室に到着するとソファーに座るよう促される。俺とチュンリーは並んで座った。


「『食事処 アサシンズ』に、そのまま就職する人がいるみたいですね」

「此処最近の孤児院を出た後に向かう一番の場所ですね。二番目は冒険者です」

「は? そんな危険な所にですか?」


 冒険者は危険が付き纏う。良く就職先に選ぶな。


「アークさんの影響ですよ。五年前に貴方に救われて貴方に憧れて冒険者を目指しています」

「それは……死傷者が出てそうですね」

「残念ながら、少なからずいますが、本人が望んだ事です。強く止める事も出来ませんし」


 少し話題が暗くなってしまったな。それなら変えないと……、


「経営が順調のようですけど、最近物価が上がって来たとかで、前より厳しくなったとこはありませんか?」


 そう思っていたのだが、チュンリーがニコやかに話題を変えた。


「多少は上がって来ていますね。ですが五年前に比べたら順調ですよ」

「良ければ帳簿を見せてくれませんか?」

「……えぇ。構いませんよ」


 チュンリーの言葉に訝しげにしながら、帳簿を見せてくれる。それをチュンリーが目を通す。俺も横から目をやる。


「……やっぱり」


 ボソっと呟く。確かにおかしいな。


「良く気付いたな」

「アタシ、実家が商家だったからだよ。アークこそ」

「良くあるパターンの改竄(・・)だったからな」

「何の話でしょう?」


 院長は気付いていないようだ。


「この帳簿を付けて奴を連れて来てくれますか?」

「え? えぇ」


 そう言って先程、チュンリーが視線を向けていた人がやって来た。


「連れて来ました。オリョウです」

「オリョウですが、私に何か用?」


 また名前がまんまの奴だな。


「お前、横領してるだろう? 名前をオ()リョウに改変したら?」

「な、何の話? 勝手な言い掛かりつけないで」

「ま、まさか……」


 院長の視線が険しくなる。


「この帳簿、改竄されてるよ。だが、調子乗り過ぎだ。段々露骨になっていれば素人でも分かる」


 帳簿には、玩具いくら、シーツいくら、人参いくら、塩いくら、服いくらと、事細かに記載されていた。その金額が、とある月を見ると10ギル~20ギルくらい上がっていた。

 それだけなら、多少物価が上がったのだろうと片付けられるのだが、段々露骨になり100ギル~200ギルと上がり、気付けば高いので500ギルは上がっていた。勿論物によるが。

 毎月何百種類のものを購入し、例えば一つの物を100ギル実際の金額より高く記入するとする。それで三百種類の物を購入すれば、30000ギルもの空白のお金の出来上がりだ。それをこの女の懐に入れているのだろう。


「勝手な事を言わないで!」

「じゃあ何でお前、孤児を相手にするのに関係無い派手な装飾品を付けているんだ?」


 ネックレスやイヤリング等。それも宝石が使われている。こんなものを付けていれば、チュンリーが疑いの眼差しを向けたくもなるだろう。


「こ、これはただのイミテーションよ」

「<鑑定>……サファイアにトパーズと鑑定されたけど?」

「適当な事を!」


 何でそんなバレバレの嘘を付くかな。


「まあ良いや。この帳簿を王宮に持って行って良いか? 王宮の者が調べ上げ、女王陛下が沙汰を下すだろう」

「はん! 一介の平民にそんな事が出来る訳ないじゃないのよ」

「……出来ますよ」


 院長がポツリ。このオリョウの態度で、もう庇いきれないと思ったのだろう。諦めが滲み出ていた。


「え?」

「アークさんは、前の代官を失脚させました。その際に女王陛下が直接沙汰を下したのです」


 そんな事もあったな~。店の権利書をよこせとか図々しくほざいていた代官。孤児院への寄付金を横領するし、『食事処 アサシンズ』を夜な夜な襲って来るしで、舐めたマネをしてくれた奴が。


「そんな……」


 オリョウが顔面蒼白にし出す。だが、直ぐに顔を真っ赤にし怒鳴り出す。


「ふん! 孤児の分際で、良い暮らしをしてるからよ!! 孤児でこれなんだから、私がお零れに預かっても良いじゃない!? そんな事を文句言われる筋合いはないわ! むしろそんな孤児達の面倒を見てやったのだから感謝して欲しいわね!!」


 逆ギレかよ。


「お前、その孤児にも負けない努力をしたのか?」


 軽く龍圧飛ばしながら睨み付ける。


「くっ! な、なにを……」


 立っていられない程の龍圧ではないが、それなりの圧力が掛かっているだろう。苦し気に言葉を返して来た。


「孤児達は、親がいない逆境に負けないように努力したんだよ。『食事処 アサシンズ』で、お辞儀の仕方、言葉使いなどを叩き込んだ。あの店が成功したのは、孤児達のお陰でもある。お前は、それに負けない努力や、もしくは実績を残したのか?」

「し、知らないわよ。そんなの!」

「お前は、文句だけ言う孤児以下の存在だ。才能とかで、確かに限界はある。それは変えようのない事実だ。だが、それでも努力すれば、それなりの成果が得られるのもまた事実だ」

「う、煩いわよ! あんたなんかに何が分かるのよ!?」


 俺は立ち上がり、オリョウの首根っこを掴み持ち上げる。


「黙れ! 怠惰の奴の言い分なんて分かりたくもない。文句を垂れていないで、努力すれば良かったのにな」

「アークは、商業ギルドに行くんだよね? アタシがこの犯罪者を憲兵に引き渡すよ」


 そうチュンリーが申し出てくれる。


「そうか? 悪いな」

「良いよ。……せっかく子供達と遊びたかったのに、お前のせいで遊べなくなっただろ!!」


 チュンリーが底冷えする声を出しオリョウを睨み付ける。コイツ本当にヒーラーか? ただのヒーラーとは思えない凄みがあったぞ。

 まあそんな訳で、商業ギルドに寄り用事を済ませた。その後、『食事処 アサシンズ』で昼食を摂っているうちに次々に『槍の愛好家』の面々が集まり王都メルーシに帰った。

 ちなみにカンウーは、結局どこにも行かず『食事処 アサシンズ』に残っていた。また不埒者が来たので、追い払ってくれていたのだ。

 タンクだけに店員達の防波堤になってくれていた……なんちって。

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