EP.22 ダレスの町に向かいました
「やぁ、アーク君。王太女殿下との旧交は温まったかね」
離宮で出迎えてくれたのは、サールナートだ。
「えぇ。それでサールナートさん、一つ相談があるのですが……」
「どぅした?」
いや、お前がどぅしたよ? そのポーズは何? 右手の人差し指を立て天井を指し、左手の人差し指を左下を指す。何故そんな無意味なポーズばかり取るんだよ?
「その前に、ここには何日留まる予定ですか?」
「三日くらいだろうか。これから数日の船旅が始まる。ホサカン殿の体調の様子見てになるだろう」
生粋の貴族であるホサカンには、旅はきついのだろう。バリストン様の屋敷で英気を養ったとは言え、祖国ではないので、気疲れもあるだろう。それに王都メルーシに来るのにもそれなりに疲弊した。万全の状態で船旅をしたと思ってるのかもしれない。
「今日直ぐに発つのではないのなら、少し暇を貰えませんか? 夜には帰って来ます」
「どぅこに行くのだぁぁね?」
「ダレスの町に。俺が経営している店があるので、少し様子を見たいと思ったのですが」
「ふむ」
サールナートが暫し考えている。
「では、『槍の愛好家』を連れて行きたまえ」
「は? いえ、正直移動スピードを考えますと夜には戻れません」
「それなら問題ない。明日の夜まで戻りたまえ」
「それなら構いませんが、どうして?」
「実はね、君はダンダレス帝国で別れるが、アルファ君とベータ君は、ブリテント騎士王国で、帰還祝いのパァァティィイイに参加する事になる。盛大に持て成されるだろう。だぁがね『槍の愛好家』は、そうではない」
なるほど。そんな話になってるのか。きっと豪勢な食事とか出るのだろう。
「だから、せめて明日の夜までは、『槍の愛好家』にも羽を伸ばしてもらいたのだぁぁよ」
アホなポーズをずっと続けてるが、流石はSランクというべきか、気遣いが出来る。ホサカンに対してもそうだな。
「分かりました」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ここがアークの店か」
「良いとこだな!」
「マジすごぉ」
「アタシも素敵だと思うよ」
『食事処 アサシンズ』に訪れたソウソウ、カンウー、リンシャン、チュンリーがそう漏らす。
俺達は丸テーブルを囲むように座る。内装は昔と変わらないようだな。丸テーブルが一定の距離置いてある。これにより店の中が広々と感じた。あまり敷き詰めば、沢山のお客さんが座れるが、落ち着いて食事も摂れないからな。
尚、今は夜を迎えていた。俺一人なら夕飯時に間に合ったのだけど、『槍の愛好家』がいたので仕方ない。全員此処で食べる為に夕飯食べずにやって来たので、腹を空かしていた。
「いらっしゃいませ」
和服を着た女性店員がやって来た。昔と違い成人してそうな店員だ。勿論孤児院の孤児達らしき人いるが、成人してそうな人も増えた。
「俺は唐揚げ定食」
「ジパーング聖王国でも見た事がないメニューがあるな……俺は、これにするか。それとこれ」
「む! 確かに。では俺はこれだ。あとはこれとこれ」
「私はこれよろぉ~」
「アタシは……色々目移りするよ。これかな」
それぞれ注文を終える。尚、ソウソウとカンウーは、複数頼んだ。何せ俺がいれば無料だし。
「ご注文を承りました」
確り教育されているのか、綺麗お辞儀をしてした。
「それにしてもアーク、久しぶり……いえ、お久しぶりです」
先程まで店員らしくキリっとしていたのに、打って変わって親しく話しかけて来る。
「え?」
「孤児院の元孤児です。今は正式に此処で雇って貰っています」
「ああ~」
正直顔を覚えていない。
ちなみに元々この店は孤児院からお手伝いとして雇っていた。法では成人するまでは正式に働けなく、後見人の許可があれば年齢関係なくお手伝いとして雇える。だが、その賃金は安い。ピンハネし放題なのだ。
「アークには、昔孤児院を救って頂きありがとうございます。私も此処で、住み込みで働かして貰える事になりました」
救ったと言ってもお手伝いとして大量に雇い、その賃金を孤児院に回していただけだ。労働に見合った……ピンハネしてるので、微妙だが、それに見合ったものを払っていたに過ぎない。
「こっちとしても助かったから気にする事ないよ。あ、昔のようにこの後、上に行くからセイラに閉店したら来るように言っておいて」
「分かりました。では、これで失礼します」
再び綺麗なお辞儀をする。確り教育されてると思ったが、孤児の時から働いていたのなら、慣れだったのだろう。
そんな訳で、久々のセイラの飯だ。やっぱり上手いな。何より白飯が食えるのが良い。辰の道場にいた時はパンが主流だったしな。
「良いじゃねか! 尺くらいしろや」
「そういうサービスはやっておりません」
「うるせぇ。金払ってやるって言ってるんだ。なんなら夜の相手だって」
「痛い! 離してください」
和やかに食事をしているのに無粋な奴がいるな。『槍の愛好家』の面々も顔を顰めてるじゃねぇか。
「おい! そういうサービスは、やってないって言ってるんだよ。金置いて去れ」
「あぁ!?」
俺が止めに入るとめっちゃ睨んで来た。顔赤いな。酔っ払いか。
「てめぇには、関係ねぇだろ?」
「俺、此処のオーナーだけど?」
「はぁ? それは短い髪の女だろ?」
「それ店長だろ?」
「うるせぇ」
殴り掛かって来たので足払いして転ばした。
「去れ」
「クソ! 覚えてろよ!?」
そのまま去ろうとしたので、出入口に瞬時に先回りして蹴り飛ばした。
「くっ! いてぇぇぇ」
「金、置いていけ」
「ちっ!」
金を置いて今度こそ去っていた。
「大丈夫? アタシが治癒するよ。<回復魔法>」
チュンリーが手を掴まれた店員に回復魔法を使った。腕を余程強く掴まれたのか、赤くなってるし。
「……ありがとうございます」
「なぁ、ああいう客は、良くいるのか?」
俺はその店員に声を掛けた。
「最近増えましたね。元孤児ばかりだから侮られているのですよ」
「でも、代官の庇護下に入ってなかったか?」
「対応しきれなくて」
「そうなのか。でも、何でまた最近? 昔は元孤児どころか孤児だけだっただろ?」
「あたしにも分かりません」
「そうか」
まあ人ってのは慣れるものだからな。最初こそ代官の庇護下にあるって事でビビってただろうが、それも慣れると平気だろ、と馬鹿な事をする人もいるのだろう。
食事を終え三階に向かう。三階は居住区で昔は良く俺達も寝泊りしていた。俺達専用の四人部屋もある。
その部屋でテーブルを囲むように椅子が並んでいた。ただ四人部屋なので、椅子が五つしかない――一つはセイラの分。
「<収納魔法>」
ん? まただ。また直ぐに空間の亀裂が閉じた。
「<収納魔法>」
更に多く魔力を籠め収納魔法を唱えた。日に日に必要魔力が増えてる気がするな。
まあともかく椅子を二つ取り出し、全員で座る。
「今日は此処に泊まるけど、セイラに空き部屋がないか聞いてみるよ。女性陣はそっちに。でも、正式な従業員が増えたせいで、空き部屋がないかもしれないけど」
そうこの『食事処 アサシンズ』は、店員が寮暮らしも出来るように三階は居住区にした。そして、昔と違い正式な店員が増えたようだ。昔は孤児だけだったので、寝泊りは孤児院に帰れば良かったし。
「まぁしょうがないよね~」
「アタシも最初に聞いていたから気にしないよ」
リンシャンもチュンリーも気にしないと言う。
「まあ気にするようなら、俺だけが出て行くって事も出来たんだけどね」
「それはダメだってば~」
「そうよ」
まあ此処に来る道中その可能性もあると伝えていた。この『槍の愛好家』の四人は昔からパーティーなので、男女一緒でも余り気にしないかもしれないが、俺は違うからと思って気を使ったのだけど。
「オーナーが締め出されるとかおかしいだろ」
「だな」
ソウソウとカンウーが苦笑いを浮かべる。
そんな話をしているとセイラがやって来た。この店の店長を任せてある。
黄緑の瞳に緑色の髪を昔と変わらずショートカットで切り揃え、7:3分けにしている。ただ年齢が二十歳になっただけあり、大人の色香を感じる。特に……、
「特盛り」
「どこ見てるの~?」
「サイテー」
「それはないよ」
セイラにジトーっと見られ、リンシャンとチュンリーの非難の目で見られた。いや、だってEくらいまで大きくなったんだよ。見たくなるよ。
「なぁ、ソウソウ?」
「俺に振るな」
「なぁ、カンウー?」
「俺も簡便だ」
「あ、そっか。二人はリンシャンとチュンリーがいれば満足か」
「「誤解を招く事を言うなっ!」」
「二人がそんな目で私を見てたんだねぇ」
「アタシ、軽蔑するよ」
「……アーク、相変わらず最低ね~」
セイラにボソっと言われてしまう。セイラはそのまま残り一つの椅子に座る。
「久しぶり」
「久しぶりだね~」
「店は順調?」
「まぁまぁだね~」
「実は、今日はセイラに大事な話があるんだ」
「えっ!? 何?」
緊張した面持ちで俺を見る。
「これ」
俺は書類の束をテーブルに置く。
「アレ? 指輪の類しゃなくてガッカリした?」
揶揄うように笑う。
「なわけないでしょ~~~!! アークにそんなもの渡されたら、気色悪いだけだよ~」
「あっそ」
セイラは書類に目を通して行く。
「……これマジ?」
セイラが信じられないと言わんばかりに呟いた。