EP.21 開戦について話し合いました
『第十六章 魔王の子』ですが月陸歴1517年なのですが、間違えて月陸歴1516年と描いておりました。
申し訳ございません。
「やっぱりね~」
女王様に俺の表情からバレてしまったようだ。
「何故分かったのでしょうか?」
「だって貴方、冒険者ギルドで、選べる職の中に暗殺者があったでしょう?」
「あぁ~そこから察してしまったのですね」
「他にも殺人鬼、断罪者、処刑人、襲撃者、強襲者などといったものも持ってるのでは?」
「……いくつかあります」
バレてるし。確かに殺人鬼と襲撃者は持っている。
「それらの相乗効果で、人族に対して強力な力になるわ」
俺が持っているヒューマンスレイヤー、殺人鬼は、人族を殺す際に補正が掛かるものだ。襲撃者は、人族に限らず襲撃の際に補正が掛かる。一つ一つは微々たるものだが、相乗効果でそれなりのステータスが上がる。
「それで敵に回したくない、と?」
「それもあるわ。それだけじゃなく暗殺者があるって事は、闇討ちを得意としてるのよね?」
「……そうなりますね」
気まずい。どれもこれもあまり良いイメージが持たれるものじゃないからな。
「ああ、安心して。だからと言って、関わり方を変えるつもりはないわ」
「そうなんですか?」
俺の表情から、考えてる事を察してか、女王様はふわりと柔らかく笑う。
「だって、今の貴方は無暗に人を殺す気ないでしょう?」
「まあ」
「不思議なのよね? 暗殺者の職が出たって事は、裏の仕事を散々やって来たのでしょう。だけど、ある日突然人が変わったように、人を無暗に殺さなくなった。少なくともサフィと行動してる時、誰も殺していないでしょう? それが賊でも」
「えぇ」
流石は女王様。観察眼に優れている。確かにある日突然人が変わった。
「だから気にする事ないわ」
「それはありがとうございます」
そう言って貰えるなら有難い。
「だからこそ怖いってのもあるけどね。貴方を怒らせたらどうなるか」
「まあ、今の俺は余程の事がなければ人は殺しませんけどね」
「そして、アークだけはあの時、夫の鑑定が弾かれた。サフィから聞いたけど闘気の類ね。実際龍気の武術を使う辰の道場の門下生になったようだし」
「そうですね」
「普通闇討ちばかりしてる人が、闘気の類を手にする事は早々ないのよ」
それはなんとなく分かる。闇討ちするって事は標的がいてそれだけを殺せば良い。だけど、正面から戦いを挑む場合、その標的を含め護衛とかもいるかもしれない。
そうなると倒す人数が違う。闘気とか慣れ親しんだ動きから始まり習得する。つまりは、倒せば倒す程に慣れ親しんだ動きをする。まあ場数が違うって事だ。
「そんな人を相手にすれば国が陥ちるわ。エーコやナターシャは、傾く程度だけど、完全に陥落する程だもの。絶対に敵に回したくないわ」
「少なくてもレオン獣王国は陥せる気しませんね」
「あそこは特殊だからね。普通は王が一番強いなんて事はないわ」
「その通りかもしれませんね」
獣王レオンライトはマジで強かった。四年半修行したが、未だに勝てる気がしない。
「それで、そんなアークと互角以上なの? その同郷の者は」
先程から穏やかに話していた女王様が神妙な面持ち訪ねて来た。
「正面から戦えばまず勝てないと思います。それに俺は一対多数戦とか苦手ですが、彼女はそれも得意としていますね。大軍戦力というのですかね? こういうの」
「待ってください。先程、一万を秒で倒したと言いませんでした?」
サフィーネが、慌てたように言う。
「格下相手で視界に収めた者を気絶させる術を辰の道場で身に付けたからな。だけど、一人一人をトドメ刺すのは時間掛かる」
「なるほど。そういう事ですか」
「じゃあ誰も殺していないの?」
再び女王様が口を開く。
「えぇ。面倒ですから。せっかく格下を一気に気絶させる事が出来るようになったのに、態々一人一人相手をしたくありませんから」
「ふふふ……面白いわね」
「え?」
何か笑える要素があったか?
「今まで凄惨なそれこそ修羅の世界で、生きていたのに面倒だからって、一切殺生をしなくなったとか面白いわよ」
「殺生をしないって事はないですがね。その時によって殺しますよ?」
「普通は、そんな世界で生きて来た人は、人殺しをなんとも思わず、足を洗っても平気で殺すものよ」
「そうですかね?」
まあ俺はダークしゃないから知らん。
「それで彼女って事は女性なのよね? その者は、一人で大軍戦力を保有してるの?」
「当時はそうなので、今はもっと強くなってると思って良いと思います」
「それで、もう一人は?」
「アレは雑魚ですね。ちょっと速いだけです。鍛錬をサボっていなければ俺と良い勝負が出来たかもしれないですが、怠けていたので」
まあ鍛錬したところで、このダークの肉体の下位互換だったけど。
「その二人の名前は?」
「ロクームとエリスです」
「まぁ」
「え?」
二人揃って目を丸くする。知ってるのか?
「その名前は聞いてるわ。対クルワーゾ騎馬王国の英雄と言われているわ」
「そんなに名前が売れてるのですね」
「ここ数年聞くようになったわ」
「つまり、あの二人は、まだあの国にいるのですね。これは魔族より余程面倒です」
「そのようね」
「……あいつら本来の目的を忘れてるのじゃないだろうな」
ボソっと呟いてしまう。それを確り女王様が拾っていた。
「貴方達の本来の目的って、この世界に転移して来た目的よね?」
「はい」
「やはり、言えない?」
「すみません。余計な不安を仰ぎたくないのです。俺達も詳しい事は分かっておりませんし、最悪の場合魔王より厄介かもしれませんので」
世界崩壊の危機なんておいそれと言えないよな。
「魔王より厄介なの?」
「えぇ。ですから、詳しい事が分かり対策が分かるまでは、なるべく伏せるようにしています」
「……そう。なら、聞かないわ」
「ありがとうございます」
「まぁそれよりもメハラハクラ王国ね。当面……というより五年前からずっとあそこは厄介だわ」
たぶんあそこは一度潰さないといけない。人類側は、魔王を相手にしないといけないからだ。それに人類側が集中してくれないと、俺に魔王討伐の依頼が回って来るかもしれない。
他の転移者達を差し置いて俺が出張るのは違う気がするし、他の者達が魔王討伐に動いてくれれば、俺は世界崩壊の原因を調べたり対処したりし易くなるだろう。
「そこで、本格的な開戦は、少なくても一年延ばして頂けませんか?」
「それは何故?」
「エーコです。来年卒業なので」
「そうね。彼女も力を貸してくれると有難いわ。というよりアークは力を貸してくれるの?」
「勿論です。何かあれば馳せ参じると、お約束したでしょう?」
「そうね。助かるわ」
「アーク、ありがとうございます」
それに馬鹿二人を本来の目的に引き戻さないとな。
「ただあの二人があっちにいるなら、確実にエーコがいてくれないと戦力不足です」
「エーコなら、今すぐ引き戻せば良いのでは?」
「未成年よ」
サフィーネがそう言うが、女王様が止める。そう未成年だ。その未成年を戦争に駆り出すとか外聞が悪い。
「女王様の仰る通り未成年です。それにエーコは爵位を持ってるとは言え、名誉爵位です。そこまでの義務はない筈です。女王様も内政し易いと思います」
「そうね。エーコの力は一部の者が知っているわ。そのエーコを戦争に運用しろと、声が上がるでしょうね。それが未成年でも関係ないわ。だけど、爵位を持ってると言え名誉爵位だもの。黙らせる事が出来るわ。ふふふ……」
何故か女王様が不敵に微笑む。
「お母様?」
「あら、ごめんなさい。アークは何故エーコとサヤに爵位を与えたとは言え、名誉爵位にしたか知ってるかしら?」
「バリストン様にお伺いしました。他の貴族を大人しくさせる為とか。それには一代限りの爵位が丁度良かったそうですね」
「えぇ、そうよ。それなのに名誉爵位のせいで無理矢理戦争に参加させる義務がないんだもの。こんな皮肉はないわ。他の貴族達の苦笑いが思い浮かぶわ」
確かに皮肉が利いてる。『平民に爵位を与えるのは何事だ』って声高々に言っていたので、名誉爵位にしたら納得した。なのに、そのせいで国の為に働くという義務が発生しなくて、戦争に駆り出せない。
そして、女王様としては外聞が悪くなるので、未成年を戦争に運用したくないって感じかな。
「そう言えばナターシャは、どうしてるの? 可能なら彼女の力を借りたいわ」
「残念ながらお約束は出来ません。彼女は今、【付与月姫】からの依頼を受けております。それが一年以内に終わるとは、限りませんから」
「【付与月姫】からの依頼? 何か余程のものかしらね? それこそ何年も掛かるような」
「少なくても三年半掛かってますが、終わっていませんね」
「それは残念ね。それとサヤの事なのだけど……」
女王様が、言い淀んでいる。
「お気になさらず。あれは俺の責任ですから」
そうあれは元を言えば俺の責任だ。ナターシャと別れるべきではなかった。常に近くにいるようにして貰えば転移魔法で、即座に救援に行けた。
そうなれば魔王の子とご対面はなかっただろうけど。ほんと、上手く行かない時は行かないものだな。あっちが立てば、こっちが立たず。こっちが立てば、あっちが立たず。
「ねぇ、アーク。何故そんなに平気なの? もっと悲壮感とかあると思うのだけど?」
「平気じゃありませんよ。自分の責任だと思っていますので、免許皆伝したら真っ先に探しに行こうと思っていました。今回の依頼もダンダレス帝国で完了だったので丁度良かったってだけですし。そのまま西に行き探し出します」
「言いにくいけど、まだ生きてるとは限らないわ」
「死体は見つかっていませんし、彼女は精霊に愛されています。だから、そう簡単に死ぬとは思えないのですよね」
「そうね。確かに人族にしては、珍しく精霊に好かれてるわ」
そう精霊に好かれている以上、死んではいないだろう。死ぬような事があれば、星々の世界の精霊達が黙っていない。下手すれば時の精霊が介入して来るかもしれない。
「話を戻しますが、エーコには学園生活を最後まで謳歌して欲しいってのもあります。なので、どうにか一年引っ張って頂けませんか?」
「分かったわ」
気付いたら始まっていた非公式の会談がこうして終わった。ほとんどメハラハクラ王国についてだな。マジであの国は最悪だ。この世界に来た時から気に入らないな。