EP.19 久々にブチ切れました
「<鑑定>……やっぱり媚薬か」
サフィーネの様子がおかしいと思ったんだよな。顔赤いし、目が潤んでるし、艶めかしいしで。それだけなら、ただ熱が出てるだけと思えるのだけど、足取りが普通だったし。無理して普通に振舞ってるように思えなかった。
そもそもただの体調不良なら、俺の気配完知で分かるしな。
まあそんな訳で、婚約者のポケットから媚薬が出たので、護衛達の表情が険しくなる。
「お、俺じゃない! き、貴様だな!?」
「は?」
「俺にこんなものを仕込みやがって」
いや、いつお前に触れた?
「護衛と侍女は?」
「二人もどうせ仕込みだろ!?」
無理があるだろ。
「じゃなきゃ俺がどの位置に瓶を持ってるか分かる筈がない!」
「俺、ブリテント騎士王国の辰の道場の免許皆伝だけど?」
つまり、周囲の空間を把握する索敵気法を使っただけだ。
遂にやっと俺も使えるようになったよ。思えば長かったな~。いくら使おうとしても使えないし。自分なりに頑張ったのにさ。
だが、使えないのは簡単な理由だった。気配察知に頼ってたからだ。更に魔力察知やら危険察知やら覚えてしまったから尚更。
スキルOFFって裏技を師範に教わってやっとまともな修行が出来たって感じだ。だが、魔力察知や危険察知をOFFにするならまだ良いが、気配察知を長年使っていた俺が気配完知をOFFにした瞬間、丸で目隠しされたような感覚だった。
いや、むしろ目なんて使わず戦って来たのだから当然だ。最初は、相手が何をするのか全く分からず恐怖に震えたのは、今思うと恥ずかしい話だ。その恐怖に打ち勝ち遂に習得した。
閑話休題
「は!? 免許皆伝? そんな誉れ高き者が、下賤な冒険者になるか!」
「お前の尺度で考えるな! それより……」
俺は首根っこ捕まえて持ち上げた。
「くっ! 何を……する?」
「お前、ふざけるなよ!!」
自分でも分かる程に声がめっちゃ低くドスの効いた声だと思った。気絶しないギリギリの加減で龍圧を飛ばす。失禁してるのも構わず睨み付ける。
「…………アーク?」
俺がブチ切れてるのを感じて護衛も侍女も戸惑う中、サフィーネが困惑した声音を出す。
「婚約者なんだから、五年前にサフィに何があったか知らないとは言わせなぞ?」
「…………犯さ、れ……そう、になった……アレか」
虚勢を張ってるのか何とか絞り出して来た。
「知ってるじゃねぇか。そんなサフィに何してるんだ? 婚約者なら、もっと大事に扱え! ゴミが!!」
そう言って放り投げる。あのロリコン野郎に犯されそうになり片腕斬り落とされた辛い過去があるってのに媚薬を飲ませるとか、マジでイラ付く事をしやがって。媚薬を飲ませるって事は、やる事は一つだからな。
「…………捕らえなさい」
サフィーネが我に返り護衛達に命じる。その護衛達がブルブル震え腰を抜かした婚約者を連れて行く。
「…………アーク」
よろよろ歩み寄り俺の服を掴み俯くサフィーネ。
「悪い。ついキレちまった。裁くのは俺じゃないのにな」
「ううん。…………ありがとう」
ポツリ呟き瞳から涙が流れる。あまり王女の泣き姿を見るべきじゃないな。そう思いそっと視線を逸らす。
リセアはすかさずハンカチを取り出しサフィーネの涙を拭う。良い主従関係を構築してるんだな~と思った。
「貴方も行きなさい」
「王太女殿下お一人にする訳には参りません」
涙を拭われたサフィーネは、一人残った護衛に命じる。
「アークがいますわ。アーク、護衛が戻って来るまでいてくれます?」
「ああ」
「ですが……」
「問題ありません。アークが望めば爵位をポンと渡たせるくらいお母様が信頼してる方です」
「かしこまりました」
名誉爵位だけど。ともかく最後に残った護衛が渋々去って行く。
その後、サフィーネに連れられて応接室に向かう。侍女も四人着いて来る。一人はリセアで、もう一人、見覚えがあるが名前は忘れた。残りの二人は知らぬ顔だ。その知らぬ一人がお茶をそっと置いてくれる。
「ありがとうございます」
「いえ……先程はサフィーネ王太女殿下の為に怒って下さりありがとうございます」
侍女に礼を言うと、一言そう言って隅に控える。
「先程はありがとうございました」
「いえいえ……たまたま気付いただけです、サフィーネ王太女殿下」
「ですから、また呼び方」
「流石に王太女になったしな~って、改めて思ったらさ」
「さっきはサフィって呼んでくれたのに」
そう言ってむくれる。
「それにしても随分綺麗になったな」
「お上手ですね…………って、誤魔化されませんからね!?」
「誤魔化してないよ。ほんと見違えたと思ってるよ、サフィ」
「アークには容姿を褒められるより、そう呼ばれた方が嬉しいですわ」
そう言って華やかに笑う。
ちなみに俺が気安い感じで話してるのを見て、知らない侍女二人が顔を顰めていた。まあリセアと見覚えがある侍女が執り成していたけど。
「そうか」
「媚薬を使われたと気付いて、後からジワジワと、昔の事が頭に過り実は震えていたんですよね」
「そりゃそうだ」
「だから、アークが怒って下さって、本当に嬉しかったです」
そう言ってまたホロリと涙を流す。それをリセアがすかさず拭う。
「にしても、何アレ? 婚約者って事は次期王配だろ? 色々おかしいだろ?」
「正確には候補でした」
「候補?」
「えぇ。実は五年前のあの事件は、醜聞の的になりまして」
「いや、被害者だろ?」
「それでも………………純潔を失ったと邪推する者がいまして」
サフィーネが苦い顔をする。
「そういう感じではなかったけどな、あの時」
「お、思い出せないください!」
顔を真っ赤にさせアワアワする。まあ大事な所が全部丸見えだったしな。
「それで、主に当時の私の婚約者に被害が及びました」
「あ、当時からいたんだ」
「えぇ。ただあの事件の後、直ぐに解消する事になりましたけど」
「で、今更候補探し?」
「他国に嫁ぐ事も視野に入れて吟味していたのですが、最近ローズマリーが臣籍降嫁する事に決定しましたので、やはり私が女王になる方向になりました」
「それで立太子したのか」
「はい」
ここまで聞いといて何だけど……、
「それ国家機密じゃね? 俺に話して良いのかよ?」
「アークなら、問題ないでしょう。あの事件の現場にいたのですから」
「そうなるのか」
「えぇ」
「あ! もしかして候補だから、あのゴミは焦っていたのか? 王配の地位を確固とする為に」
「……そうだと思われます」
また苦い顔をするサフィーネ。これは話題を変えた方が良いな。
「話は変わるんだけど、『食事処 アサシンズ』の事で、少し相談があるんだけど良いかな?」
「何でしょうか?」
とある相談を持ち掛けた。
「なるほど。構いませんよ」
「助かる。というか今更だよな。せっかくケンに伝心魔道具を預けているんだから、有効利用するべきだったな」
「そうですよ」
クスクスと扇子を口元に当て上品に笑う。
「ほんと見違えたよな。気品が増した」
「さっきから何ですか? 褒めても何も出ませんよ?」
なんだかんだ褒められて悪い気はしないのか顔を赤らめている。
「お茶出てるよ?」
そう言ってお茶を飲む。
「もう……それ出したの侍女ですよ?」
「そう言えばケン達は、元気にしてる?」
「えぇ、元気ですよ。今は、鍛錬を兼ねて魔獣討伐の為に城を空けておりますが」
「そっか。元気なら良い」
俺はニヤリと笑ってしまう。此処の預かりにした俺の判断は間違いではないと知り安心したからだ。
ケン……御剣 剣は、メハラハクラ王国で召喚された転移者。他にも目夜 眼也と夢々井 静という二人も一緒だ。五年前にメハラハクラ王国から、逃げてるとこを助けてこの国まで一緒にやって来た。
和やかにお茶をしていると女王様が応接室に入って来た。俺は慌てて立ち上がる。
「良い」
それを女王様が手で制す。
「出るのじゃ」
しかも人払いをした。俺とサフィーネと女王様だけになる。そんな簡単に良いの? 前の時、結構モメてた気がするけど。