EP.17 ざまぁ -side 伯爵令嬢-
「確かにお義姉様は、美人ですが高嶺の花って程ではありません。そもそも伯爵令嬢として相応しくない振る舞いで、色んな男性と関係を持っている」
「それはお前だろ? 結婚前に羽を伸ばしたくて外で遊んでるそうではないか」
「わたくしのどこにそんな時間がありますか? 今まで学業があったのですよ。それに領地経営は?」
「そんなの家令のジャックがやっていたのだろう。ベレッタは慣れない伯爵の中で頑張ってきた」
どうして同じ娘なのに扱いが違うのでしょう?
わたくしに与えるのは、二の次三の次でした。お義姉様には、ドレスや貴金属を好き放題与えておりました。しかもわたくしの持ち物もお義姉様が、気に入れば無理矢理取り上げる始末。盗賊も良いとこです。
「どうしてお父様はそんなにお義姉様に肩入れするのですか?」
「当然だろう。今まで一緒にいられず構ってやれなかったのだ。生まれた時から全てを持っているお前と違うんだよ」
「でしたら、甘やかさず伯爵家に相応しい立ち振る舞いを教育するべきでした。社交界で笑われてるのご存知ないのですか? 伯爵家の名を出して派手に遊んでいましたし」
「姉をそんな風に言うんじゃない!」
言いますとも。確かにわたくしは、生まれた時に全てを持っていたかもしれない。だけど、そんな立場に甘えず確固とする為に努力して来た。お義姉様も努力すれば、それに見合った婚姻も出来たでしょうに。
「話になりませんね。お父様には当主代理を降りて頂きます。いえ、辞任手続きは終えていますので、当主代理ではありません。お母様と離婚し再婚した時点で、我が家とは関係無い人間です。早々に出て行っていってください」
「父親を追い出すのか?」
「えぇ。残念ですが。それに我が家の財産を私的な事に使って来ましたね?」
わたくしは家令のジャックがまとめてくれた資料を突き出します。
「私的な事って大半がベレッタと妻ではないか」
「それが私的な事でしょう? 貴方の私財を投げ打って援助するのは構いません。それが伯爵家の財産となれば別です。我が家が認めていない愛人とその娘なのですから」
「母親と姉をそんな風に言うんじゃない!」
お父様がテーブルをバーンと叩きます。
「わたくしにとって母親とは、アンリエッタお母様ただ一人です。そのお母様とわたくしに取って、愛人とその娘でしかありません」
「お前には思いやりがないのだ?」
「思いやり? 思いやりがあれば、教育を確り施し伯爵令嬢らしくするべきでした。そうすればお義姉様は、笑われずに済みました。愛人の子なら尚更です。思いやりがないのは貴方です」
「父親に向かってなんて事を!」
何なんでしょう。こんなに理路整然と話しているのに全然伝わりません。話が通じない魔獣のようです。
愛人の子ってだけで中傷の的なのですから、黙らせるだけの振る舞いを身に付けさせるべきでした。
「話になりませんね。ともかく貴方が代理になってから、伯爵家の財産が大分減りました。そんな方に代理をして頂く訳には参りません。それにただの代理が、次期当主を指名する等、あってはならぬ事です」
「私は当主を降りたら、この家はどうなるのだ?」
ですから当主ではないというのに。
「どうもなりません。今までわたくしとジャックが、散財の穴埋めをしておりました。むしろ貴方がいなければ穴が空く事もありません。はっきり言って穀潰しです」
「穀潰しとは何だ? それに次の当主は第一子のベレッタだ」
「そうよ。ベレッタが長女なのだから。本当に昔から忌々しい」
どうしてこう話が通じないのでしょう? お継母様まで何か言っています。
「伯爵夫人になった気でいる穀潰し②のが忌々しいと思いますが?」
「ご、穀潰し? 私まで何故そんな言われようが……」
わたくしは書類をお義姉様に渡します。
「これまで我が家で散財して来た分です。半分で良いので、働いて返してください。当然この邸からお義姉様と出て行ってください」
「どうしてそうなるの?」
「そ、そうよ、そうよ。アンネルジュのくせに生意気ね」
手枷があるというのに両親といると強気ですね。
「今までの振る舞いの結果でしょう?」
「生まれた時から、何でも持っていた貴女が、本当に忌々しい」
「確かに持っていました。しかし、それに胡坐をかいて維持出来る程、この立場は安くはありません。貴女は伯爵夫人らしく努力をしましたか? お義姉様も伯爵令嬢らしくなれるように努力しましたか? 元々愛人とその子だと嘲笑を受けてるのに情けない」
「「なっ!?」」
二人揃って顔を赤くしております。自覚してたのでしょうね。
「お前は家族を何だと思ってるんだ?」
「だから穀潰しと言いましたが?」
穀潰し①がまた喚いてます。
「あ、貴方にはこれを」
「これは?」
書類を渡します。
「A伯爵、B子爵、C子爵、D男爵に我が伯爵家の金を返せない程に貸していましたね。そうやって自分の取り巻きしておりました。調べはついています」
「それが?」
「彼らには、支払いは1/10で結構と通達しました。代わりにわたくしに従うようにと」
「なっ!」
そう、叔父様の邸から出る際に早馬で、それぞれ支払いは1/10で良いという事を認め邸に向かって貰った。そして、その場で返事の文を貰って、このカーマイン伯爵領で、わたくしに届けて貰った。
「残りは貴方が支払ってください。鉱山で稼ぐ事になります」
「何故そうなる?」
「当然でしょう? 伯爵家の財産をそんな事に消費していたのですから。横領もありましたしね。それとも返せる他のアテがあるのですか?」
「だからって鉱山って、それでは丸で犯罪者ではないか!」
「実際それだけの事をしたのです。貴方は犯罪者そのものです」
そう鉱山とは、大半の犯罪者奴隷が送られる場所です。
「先程から何だ? その態度は! 我々を父、母と呼ばずに穀潰しとか貴方としか呼ばず」
あら、気付いていらっしゃったのですね。
「もう伯爵家とは関係ないものです。両親ではありません。そもそも穀潰し②が母だった事は一度もありません」
「貴様が、アンネルジュを当主として立てて代理をしていれば良かったのだ。そうすればアンネルジュも、こんな無慈悲な事はしなかった」
叔父様がそう言ってくださいます。その通りです。お義姉様ばかりを構って、わたくしを蔑ろにしなければ、わたくしもこんな真似をしませんでした。
「さっきから代理とは何だ!?」
「そうよ、そうよ」
「意味が分からないわ」
「「はぁ!?」」
わたくしと叔父様が呆れた声を漏らしてしまいます。
「お母様が亡くなった時点で、伯爵家の全てをわたくしが相続しました。何を勘違いしてるのか知りませんが、わたくしが伯爵家当主です。貴方は、わたくしが成人するまでの代理です」
「わ、私は、そんな事知らんぞ」
「不勉強だからでしょう? 叔父様、書類を」
「ああ」
叔父様が、わたくしが正当な当主だと証明する書類を出してくれました。
「姉上のアンリエッタが亡くなる前に私にこれを託した。貴様に伯爵家を任せておけないとな。私も自分の家があったので、代理になってやれなかったから、仕方なくお前を代理にしてやってただけだ」
穀潰し①と②が書類を見て顔を真っ青にします。
「さぁこれで分かったでしょう? 自分がどれだけ無知で愚鈍で恥知らずで穀潰しだという事が」
「なぁ、家族だろ? そんな事を言わず……」
「黙りなさい!」
わたくしが一喝します。
「家族なら、何故わたくしを蔑ろにしたのですか? 自分の立場を考え、分を弁えていれば穀潰し②と再婚なんてしなかったでしょう」
「……それでも家族だろ?」
「もう良いでしょう? そろそろ出て行ってください。此処はわたくしの邸です」
「そんな……」
「先程言った通り散財した半分で良いので、働いて返してくださいね。それと服以外は置いて行ってください」
「荷物の準備なら出来ております」
ジャックが穀潰し②とお義姉様の荷物をまとめ二人に差し出します。
「貴金属は置いて行ってくださいね。もうお二人には不要の物」
「な、何を言ってるの!? 本当に忌々しい……」
「止めて! 私を誰だと思ってるの!?」
「もう平民です」
「良いわ! こうなれば実家を頼りましょう」
穀潰し②が名案だと言わんばかりに言います。だが、残念。
「アツカマシイ男爵家なら頼っても無駄ですよ。貴女達を助けたら家がなくなる事を重々承知でしょうから」
「なっ! 貴女は悪魔ですか」
「わたくしからすれば貴女のが悪魔でした。では、さようなら」
叔父様の護衛が穀潰し②とお義姉様を追い出します。
「さて、穀潰し①は護送させて頂きます」
「ふざけるな! わ、私は鉱山なんか行かんぞ」
「アーク様」
「了解致しました」
人睨みで気絶させます。その穀潰し①を叔父様の護衛が連れだし鉱山に連れて行ってくれます。
これで我が家の掃除が終わりました。
ざまぁ!!
それから二週間が過ぎました。今まで好き勝手されたせいで、それの後始末で大変です。
「アンネ、この種類は終わったよ」
「ありがとうございます、レオお兄様。少し休憩に致しましょう」
その間、叔父様の第一子であるレオナルド……レオお兄様が手伝ってくれました。本当に助かります。
「レオお兄様のお陰で後始末が終わりました。もうお帰りになっても問題ありませんよ」
「ねぇ、アンネ。僕達、婚約しない?」
「はぁ~~! 何を言ってるのでしょうか? このクソ兄貴は! 婚約破棄したばかりで、そんな事、考えられる訳ないでしょう? 頭、腐ってるのですか?」
お気持ちは嬉しいのですが、婚約破棄したばかりなので、まだ次の事は考えられません。
「………………ねぇ、アンネ。口にしてる言葉と心の声が逆になってるよ」
レオお兄様が、苦笑いを浮かべます。
「あら、ごめんなさい。つい、レオお兄様の前だと気が緩んでしまいます」
「それは嬉しいね。それでアンネ、今は難しいかもしれないけど、考えてみて欲しいんだ。うちは次男が侯爵家を継ぐ事になるしね」
「え~~~めんどくさいんですけど~~。というか今まで兄妹として付き合って来たのに、いきなり婚約者とか考えられる訳ないでしょう。ほんとにこれだから、機微に疎いダメ兄貴は……」
お気持ちは、大変嬉しいです。レオお兄様となら、この先も考えて良いかもしれませんね。
「だから、口にしてる言葉と心の声が逆になってるよ」
「あら、やだ。ごめんなさいね」
裏話
バリストンの初登場は、賊に取られた家紋の入った短剣を買い戻しでした。
女王陛下より際に賜った短剣です。
それの相場の金額は、一千万ギルでしたが、アークはふざけて一億と言いました。
それを払うとバリストンが答えるエピソードでした。
実は陞爵した際に賜ったものなので、一億でも取り返す必要があったのです。
それを手放すという事は、侯爵から伯爵に降爵してしまうという事です。
それを語るだけの予定でした。
ですが、今まで早回しで進めていたフラストレーションから、ついつい筆が乗ってしまい、長引いてしまいました。
本来なら、スイースレン公国編で出す予定だったエピソードをリメイクしたのものです