EP.16 頭、お花畑なんですね -side 伯爵令嬢-
「気色悪っ!」
「え?」
腹の中の黒い感情がフツフツ湧き上がって来ました。
「本当に見た目も中身も気色悪い。自分がどんなブ男だと分かっているのでしょうか? いや、分かっていないのでしょうね。尻軽で簡単に股を開くお義姉様に騙されるなんて」
「な、なんですって!?」
「愚鈍で頭空っぽで、細胞が下半身に集中してるのでしょうね。だから頭に細胞が行かず空っぽなのでしょう。どうせサルみたいに体しか興味がないのでしょうね。わたくしは、そんな人と一緒にいるなんて御免ですわ。むしろ同じ空間にいるだけで、空気が汚染され瘴気が出そうで嫌です。今だって寒気がして仕方ないです」
「止めないか!」
叔父様が何か言ってますが聞こえません。
「貴方なんて要りません。マイナスでしかないのご理解しています? 領地経営も貴方に任させると赤字になるでしょうね。そうならないようにわたくしが確認する事なり、サポートどころかむしろ邪魔。害悪でしかなく、わたくしの心労が溜まるのが分かり切っています。それならサルはサルらしく、わたくしの目の届かない所で、お義姉様のような直ぐ股を開く女性を相手に、爛れた生活一生過ごしてください。わたくしも気色悪い顔を見なくて済みますし、貴方もサルなのだから喜ばしいでしょう? あ、サルって分かります? 転移者がいらっしゃる世界にいる生物で、下半身に細胞が集中した貴方みないなものです。こんなブサイクに抱かれたいと思う女性は、愚かで哀れですが、わたくしには関係ありませんし」
「………………アーク君」
「そもそも……うっ!」
何か体に物凄い圧力が掛かり、汗がダラダラ流れます。肌が栗立ち少し恐怖みないのを感じます。ソファーに座っていたので、お義姉様のように床に座り込むなんて醜態を晒していませんが、ソファーに埋まるように身動きが取れなくなりました。
「落ち着いて深呼吸してください。アンネルジュ様は、そこの怒りによる火事場の馬鹿力的なもので立ち上がった馬鹿女と違い……」
「何ですって!? 平民風情が……」
「黙れ!」
「くっ!」
「その馬鹿女と違い、素晴らしい胆力を持ってるのではないかと思っております。落ち着いて腹に力を入れてみてください」
アーク様が『深呼吸して』と言われた時点で目を瞑り深呼吸しました。その時点で圧力が和らいだ気がします。次にお腹に力を入れて活力を漲らせるように起き上がります。それによりソファーに埋まっておりましたが、普通に姿勢を正して座り直しました。
「えっ!?」
目を開けると何故かアーク様が二人いらっしゃいました。一人わたくしを見詰め、もう一人はお義姉様を睨んでいました。そのお義姉様は、先程と同じように床に座り込んでいます。
そして、わたくしを見詰めいているアーク様が、口元を緩めフッと笑います。
「やはり、貴女にはそれだけの胆力がありましたね」
「……あ、ありがとうございます」
いえ、それより……、
「何故アーク様が二人いらっしゃるのですか?」
「これは忍術ですよ」
そう言うと一人に戻ります。
忍術って分身ですよね? ですが、その分身って実体がなく幻のようなもの。攻撃といった行動は出来ない筈で、わたくしとお義姉様を同時に圧力を掛けるなんて出来ると思えませんが……。
まぁアーク様のやる事です。今更ですね。
「それより落ち着かれましたか?」
「お陰様で。とんだ醜態を見せました」
わたくしは、ノットリオ様の方へ向き直します。
「ノットリオ様、婚姻前に浮気する方はお断りです。慰謝料をきっちり請求します」
「………………………………え? 慰謝料?」
先程のわたくしの罵倒のせいで呆けていましたが、慌てたように反応します。
「当然でしょう? それもそちらの有責による婚約破棄。少なくない額でしょうね」
「か、考え直してくれ。俺は……」
もう聞く気はありません。言いたい事だけを言ってしまいましょう。
「それから、婚約による契約で支払われた我が家からの援助は打ち切り。それどころか今までの分を返して頂きます」
「だから、待ってくれ……」
「これからの事は、ノットリオ様のお父様と話し合ってください。まぁ十中八九アーク様が仰る通り、廃嫡され平民落ちするでしょうけど。わたくしは、そこまで関知しません」
「待ってくれと言ってるだろう」
「追い出してくれださい。此処はわたくしの別邸です」
「かしこまりました」
叔父様が連れて来てくださった護衛が、ノットリオ様を追い出します。
一人片付きました。
「では、お義姉様。残りは明日両親を交えて話し合いましょう。貴女も平民落ちは確定していますけど、それもわたくしには、もう関係ありません」
「どういう事よ!? 何故私が税を納めるだけの愚民にならないといけないの!?」
あら、お義姉様は領民をそのように考えているのですか? なら、尚更当主なんて不可能でしょう。
「アーク様、眠らせてください」
「承知しました」
アーク様は、人睨みで気絶させます。
「両親に会い余計な事を画策されると面倒なので、今晩は見張って下さいますか? それで明日本邸に連れて来てくださらない?」
「かしこまりました」
叔父様が連れて来た別の護衛に頼みます。
「別邸の使用人達は全員、謹慎を言い渡します。処分が決まるまで大人しくしててください」
まぁ皆さん首は確実でしょうけど。
「それでは叔父様、アーク様、参りましょう。この別邸では気分が悪いので、今晩は宿を取りましょう」
そうしてわたくし達は、宿で一晩過ごします。残るはあの穀潰しの夫婦です。それを追い出して漸く一息付けます。
次の日、本邸に足を踏み込みます。お義姉様も一緒です。ただ、罪人のように両手に手枷がされています。それをみたお父様とお継母様は、ギョっとします。
「どういう事だ?」
「逃げられないようにしただけですが?」
「何を言っている!? 姉に対して」
「そうよ!」
「昨日、お義姉様はノットリオ様を不貞を働いていました。ノットリオ様にが有責の婚約破棄を言い渡し慰謝料を請求しました」
「やっとベレッタに結婚が決まったのだぞ!? それを喜ばずその相手に慰謝料を請求するなんて、妹として恥ずかしくないのか!?」
唾を飛ばすように声を荒げる穀潰し①。
「当主でもないのに、当主面して恥ずかしくないのですか? お父様」
「は?」
「ところで何で今まで、お義姉様に結婚は決まらなかったのか、ご存知ですか?」
「そんなの綺麗だからに決まってるのだろ。誰もなかなか手が出せない高嶺の花だからだ」
頭、お花畑なんですね。