EP.15 何処まで空っぽなのかしらね? -side 伯爵令嬢-
「というより、誰なの!? キャー!! 不審者よー!! 誰かー!!!」
大袈裟に叫んで上げます。
「ふ、不審者ではないわ! わ、私よ」
「あら? お義姉様でしたか。……あらあら、それとノットリオ様ではないですか?」
また大袈裟に騒いでやる。
「お、俺が何だ!? 勝手に寝室に入って来るなんて、どんな教育を受けて来たんだ?」
「貴方が言います? 此処はわたくしの寝室ですよ? 何勝手にわたくしの部屋で、ふしだらな事をしてらっしゃるのかしら?」
「は?」
「ですから、この寝室はカーマイン伯爵家当主の寝室です」
「だから、次期当主のベレッタと使ってるのじゃないか」
本気で言ってます? 本気なのでしょうね? 本気と書いてマジなんでしょうね。
「それより、お義姉様は何故ノットリオ様と絡み合ってのですか?」
「……貴女は、ノットリオ様と婚約解消して、今は私の婚約者よ。それなら一緒にいても問題ないじゃない。それより出て行きなさいよ!」
キッと睨み付けて来ます。
「お義姉様と婚約状態だとしても婚前では問題あると思いますけど? まぁそれ以前にわたくしとノットリオ様は、まだ婚約解消しておりませんけど」
「何ですって!? 貴女私達の事を認めたじゃない?」
「だから何です? 婚約解消の手続きをご存知ないのかしら? 何を学園で学んで来たのかしら?」
家通しの繋がりで婚約しましたので、解消するには家通しでサインをしないといけません。そんな常識も知らないとか何処まで空っぽなのかしらね?
「おいおい。俺と婚約解消したくないからって、みっともないぜ」
「は?」
この男は何を言ってるのでしょう?
「まだ俺が好きだからって……」
「キショ!」
あら、やだ。本音が。
「今なら許してやるから、態度を改めな」
そう言って立ち上がり、わたくしに迫って来ます。寝具で隠れていたのに……。わたくしを視線を逸らします。
「汚らわしいのを見せないでくださらない?」
「良いから、今なら許してやる。俺にまだ気があるからって……」
わたくしに触れようとして来たその腕をアーク様が掴みます。いつの間に? アーク様ってたまに何処にいるのか分からない時があるのですよね? そして、いつの間にか移動していたり。今もわたくしの後ろに控えていたのに気付けば前にで出て、わたくしを庇ってくれました。
「誰だ? 貴様! 今、大事な話をしてるんだ」
「アンネルジュ様の護衛ですが? 見て分からない? あ~アホだから、そんな事も分からんのか?」
アーク様が煽ってますね。わたくしや叔父様には、丁寧な対応していたのに、嘘みたいに嘲笑っています。
「だと!? 護衛風情が」
「今回、お前の有責で婚約破棄になる。婚約解消ではなくな。そうなればお前は廃嫡だな」
「き、貴様! 平民が! 俺を誰だと思ってる?」
「だからアホ」
「あぁ!?」
ほんとにアホですね。アーク様に敵うと思ってるのでしょうか? 今も腕を掴まれ振りほどけないでいるというのに。
「貴族の令息や令嬢は、親が貴族なだけで、平民と大差ない。そんな事も分からんからアホなんだよ」
その通り。
「家通しの繋がりでの婚約なのだから、例え破棄になっても私がいる限り問題ない筈よ!! ノットリオ様を放しなさい」
「あ、話に着いて来れていたのですか。着いて来れていても根本が理解していない時点で論外ですわ。お義姉様」
わたくしが当主だという事を何故理解出来ないのでしょうか?
「お前、拗ねてるんだろ? 俺が好きだからって」
まだ言ってるのかしら? この人を慕った事なんて一度もありませんわ。婚約者だから、そのように振る舞っただけ。貴族なのだから当然でしょう? 何故ここまでアホな人なのでしょう?
しかも更にわたくしに詰め寄ろうとしていますし。
「き、貴様! 放せ!」
「黙れ!」
パチン………………ドッオーンっ!!!
え? 今、デコピンしただけで壁まで吹っ飛びましたわ。しかもかなりの勢いがあったのに壁に凹みがございません。どんなからくりでしょう?
「いずれにしろ、いい加減服を着なさい! みっともない!」
今まで黙っていた叔父様が怒鳴ります。
その後、応接室に移動します。暫く待つと不貞腐れたノットリオ様と開き直ったお義姉様がやって来ます。三人掛けのソファーに叔父様と座り、対面にアホ二人が座ります……おっと、アーク様のお言葉が移りましたわ。
「先程、婚約解消したのだから、問題ないと仰っていましたけど、その考えは変わらないのですか?」
「えぇ。そう思っていたのだもの。仕方ないでしょう」
態度から分かっていましたが、開き直っていますね。
「問題あると思いますが? 婚前に。それに先程、使用人から聞きましたが、婚約解消の話が出る前から、お二人は密会してたようですね」
「伯爵家に入るノットリオ様が、別邸来るのはおかしな事じゃないわ」
「婚約者のわたくしがいないのに、ご一緒に此処に来るのが問題だと思うのですがね」
呆れて溜息が出てしまいますわ。
「さっきから黙ってるが、ノットリオ殿はどう考えてるのだ?」
叔父様が口を開きます。
「……先に浮気したのは君じゃないか!」
「は?」
「ベレッタから、聞いたぞ。社交界で浮名を流してるそうじゃないか」
あの噂の事でしょうね。
「わたくしな訳ないでしょう?」
「なら、あの噂は何だ!?」
「ノットリオ殿の隣にいる売女の事だろう」
「は?」
叔父様も歯に衣着せぬ言い方をしましたね。
「そ、そんな事ないわ」
「黙りなさい!!」
お義姉様が慌てたように言いますが、叔父様が一喝します。
「売女とか失礼な事を言わないで!!」
お義姉様がソファーから立ち上がります。叔父様も止められたのに止めるつもりはないようです。
「アーク君」
「はい」
「くっ!」
どういう訳から、お義姉様が座り込みます。それもソファーではなく、その場だったので床にです。それも顔を青白くさせ、脂汗を流し始めます。
「き、貴様、何をしたんだ!?」
「………」
ノットリオ様がお義姉様の肩を抱きながらアーク様を睨みます。先程デコピンで吹っ飛ばされたのを忘れたのかしら?
アーク様も答える気はないようです。このままだと話が進みませんわ。
「アーク様、何をされたのですか?」
「殺気をぶつけて気絶させるアレの手加減です。余程胆力がない者は立つ事すら出来ません。あぁ、命に別状ありませんし、後遺症とかもありませんよ。俺が視線を逸らせば元通りになります」
お義姉様に視線を向けたまま答えます。
「アーク君がこう言ってるのだし座りなさい。ノットリオ殿」
「………」
叔父様に言われアーク様を睨みつつ渋々座ります。
「その売女は、汚名を擦り付ける為に妹の名を語り遊び歩いてるのだ。有名になっているぞ。そもそも立ち振る舞いとかでアンネルジュではない事等、みんな分かっているぞ」
「え? 分かっていながら?」
「遊べれば名なんて関係ないだろ」
身も蓋もない言い方ですね。
「そもそも、そんな暇があると思ってるのですか?」
「え?」
「学園に通いながら、領地経営をしていたのですよ?」
「だが……」
「それに本格的な社交界デビューは、学園を卒業した後に行われた一回だけです」
何故考えれば分かる事が理解出来ないのでしょう? 本当に領地経営を学んでいたのでしょうか? 学園を通いながらでも、手軽に出来ると本気で思ってるのですかね?
「そんな……」
「ちなみにわたくしは、お二人が結婚されたいなら反対しませんわ」
「反対しないのか?」
「お義姉様のが美人ですしね」
しかも簡単に股を開きますしね。
「そ、そうか」
「ただ手順に従って頂きたいのです。婚約破棄なのですから慰謝料も発生します。ノットリオ様は、家を継げないのですから、お義姉様を迎える準備をしませんと」
「ん? 俺は婿になるんだぞ。ベレッタが家を継げるじゃないか」
「あれ? 国に認められる功績を打ち立てたのですか? 新しい家を興すのですか? 存じ上げませんでしたわ。それならお義姉様おめでとうございます」
「は? 伯爵家があるだろ」
まだ気付かないのですかね?
「その売女には、伯爵家の血が流れていない。継承権すらある訳ないだろ!」
「そんな筈はないわ! お父様もお母様も次の当主は私だって言ってもの!!」
あ! 叔父様の言葉に反応して立ち上がった。アーク様も目を丸くして『……あ、抗った』と呟いています。先程胆力がないと立ち上がれないと仰っておりましたが、お義姉様にはよっぽど今の言葉が腹に据えたのでしょうね。
「そうだ! 次の当主はベレッタだろ? 俺はそれを支える」
「確りしているアンネルジュではなく、この愚かなベレッタなら御し易く簡単に乗っ取れると思ったのだろ? どこまでも愚かだな」
叔父様が盛大に溜息を吐きました。
「わたくしに何かあれば、継承権は叔父様の子になります」
「……本当にベレッタは当主になれないのか?」
「まぁ、やはり伯爵家の乗っ取りを考えておりましたの? 確かに領地経営の出来ないお義姉様なら、実権も握れたでしょう。こんな方にサポートして貰う予定でしたけど……。破談になって良かったですわ」
ニッコリ笑って差し上げます。
「な、なら俺はアンネルジュと結婚してやる。今から次の相手を探すの大変だろ? ベレッタも家にいる事だし俺としても問題ない。姉妹仲良くいられるんだから、これが一番良いだろ!」
は?