EP.15 エリスが激怒しました
「皆、無事で何より。お疲れでガンス」
開口一番ロクームが何か言ってる。二股クソ野郎の労いなんていらん。
「とりあえず、ルティナ、兄貴を回復してくれ」
「わかったわ」
アルがルティナに回復魔法を頼んでいた。
「<上位回復魔法>」
そして、エド復活。
「さて、ねぇロクーム?」
「何でガンス? エリス」
ドッゴーーンっ!!
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
誰もが目を剥く。
えーーーーーーっ! 何かいきなり殴られたぞ。しかも顔面に思いっきり。ド派手な音がしたし。
あ~あ、二股クソ野郎が鼻血をダラダラ流してるよ。
「いったーっ! エリス、何するでガンスっ!?」
鼻を抑えながら言うロクーム。
「何って殴ったんだけど?」
何かめっちゃ怒ってるな。目が怖いな。どうしたんだ?
「どうして殴るんだよ?」
「どうして? ふ~んわからないんだっ!! ふふふ……」
どんどん怒りボルテージが上がってないか? めっちゃにこやかなのに目が笑っていない。
「サラ、わかるよな?」
「あ、ああ。私に抱きついて来た事か?」
「げ! 見てたのでガンスか?」
戦闘中のどさくさに紛れてこいつは何してるんだ?
「だから、エリスがいるだろって言ったであろう? ずっと上で見てたぞ」
サラも忠告してたのか。
「マジか……」
「それだけじゃない。サラそうだろ?」
エリスが再び問う。うわ、マジ怖い。
「うむ。私の胸を散々揉んでたな」
なにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
そんな裏山けしからん事を? だからこの二股クソ野郎は嫌いなんだ。
「サイテー!」
あ、エーコちゃん冷めた目で見て呟いた。
マジ天使のエーコちゃんにそんな事言われたら、俺死んじゃうな。
「女なら誰でも良いのね。私も昔、口説かれたし」
ルティナが暴露しちゃった。
「なんですってっ!?」
更にエリスが怒る。
「いや、それは昔の事だからでガンス」
良くねーよ。主に俺が気に入らない。
「そうだな。だが、サラは?」
「あれは状況的に仕方無くでガンス。後ろか抱くしかなくてでガンスでな」
「抱くのも許せないけど、それは百歩譲ったとしても胸を揉むのはどうなんだ?」
「まぁまぁ……そんな怒ると美しい顔が台無しだよ」
「エドは黙ってなさいっ!!」
「……はい」
藪蛇だよナンパ野郎。
「ねぇ……アーク?」
小声でナターシャちゃんが話し掛けてきた。
「ん?」
「今あんた羨ましいとか考えていないかい?」
顔に出ていたかな?
「え? 思ってないけど」
「だったらソレ何だい?」
こっちも怒ってる。そして、俺の半覚醒したビッグマグナムを指差す。ついサラの胸を揉むとこを想像しましたが何か?
「……戦闘できっとテンションが上がったんだよ」
「は~」
呆れたように溜息つかれた。それもそうだよね。もっと良い言い訳しろよ俺も。
「それでロクーム。相当揉んでたよな?」
うわ、まだこっちも怒ってる。
「……いやそんな事は……」
「サラ、どうだった?」
「うむ。小さいだの文句つけてた割に揉みまくってたな」
「ふふふ……<下位稲妻魔法>」
「ぎゃーっ!」
うわ! 揉んでおいて小さいとか文句付けたのかよ。
あーそりゃ更に怒るよな。下位稲妻魔法喰らってるし。だが、めっちゃ良い笑顔してるなエリス。目は怖いままだけど。
「ついでに揉んでやってるとか偉そうにして上に、硬くなったものを尻に擦り付けて来て、正直鬱陶しいかった」
「「「「「「「「「「うわーっ!」」」」」」」」」」
今度は全員から非難の目で見られる。揉んでやってるって何様だよ? あ~俺様キャラだったな。
「「<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、<下位稲妻魔法>、」……ハァハァ……」
うわっ! 凄い連発だな。ロクームがピクピクしてる。
ざまー! 裏山けしからん事してるからだ。俺だってしたいっつーの。
「俺もしたい……って考えてないかい?」
げっ! ナターシャちゃんはエスパー?
「したいですが何か?」
もう藪蛇になるので、正直に言おう。
「これ終わったいくらでもさせてあげるから、なるべくあたいの前で他の人の事を考えないで欲しいねぇ」
マジですかっ!?
「あら、一気に元気になったねぇ」
「ナターシャちゃんは別格だから」
「嬉しいねぇ」
って、言っておかないと後が怖いからね。でも、たぶん終わったらお別れだよ。だから怒らせても問題ないかな?
「じゃあアレどうしようか?」
エリスが澄まし顔で言い出す。
屋敷の入口は分厚い氷で塞がれていた。
「これ良いのー?」
流石にエーコちゃんも哀れに思ったようだ。
「ほっといて良い。暫く反省して貰う。まったく妊婦に負担を掛けるなっ!」
なら下位稲妻魔法の連打しない方が良かったのでは? というか、嫁が妊婦中に何してんだよ、この二股クソ野郎。
「……あ、そっか! 妊婦で手を出せなくて溜まっていたからか?」
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
あ、やば! 口に出してしまった。
「そうなのか?」
「………」
ピクピクして答えない二股クソ野郎。
「そうなんだな?」
「………………」
ただの屍のようだ。って、下位稲妻魔法で、意識を失ってるだけだろうけど。
「わかった。<中位氷結魔法>」
あ、凍らせちゃった。って言うか、沈黙は肯定と判断したようだ。
「……じゃあ、とりあえずルティナお願いして良いかい?」
エドは無視する事に決めたらしい。そのまま話を続行する。と言うか皆もう敢えて、そっちに目を向けない。
「わかったわ」
シュィィ~ンっ! と、中空に浮き半精霊化した。
「<中位火炎魔法>」
火の鳥が飛び、シュ~~~っ! と、溶ける。が、元に戻る。
「この氷は永久凍土じゃな?」
ラゴスが呟く。
「永久凍土か……私にも無理だわ」
ルティナも無理ならどうしような。
中位火炎魔法の上に上位火炎魔法があるけど、あれは特大の炎を連続打ち出す魔法で、単体攻撃なら大魔王様のメラゾ……もとい中位火炎魔法のが強いんだよな。
「なら、私がやろう。ルティナに仕上げをして貰いたいから半精霊のままで頼む」
「え? うん、わかったわ」
サラが申し出る。
「<ファイ、レイス>」
ファイ? レイス? 何だ? それ? 右手に火、左手に氷が出現した。
下位火炎魔法と下位氷結魔法か。
サラがいた大陸ではファイとレイスって名前なのか。っていうか炎と氷を出してどうするんだ?
あ、混ぜたよ。反属性だから消えるだろ。
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
消えない……だと?
サラの掌の上で青い球体が浮いてる。何だあれ?
「<無属性凍解魔法っ!!>」
随分大仰の名前だな。
ふわふわ……。
しかも遅いし。名前の割に何かしょぼくないか? ゆっくり、ゆっくり進み永久凍土にぶつかる。
やがて、ゆっくりゆっくり溶け始める。
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
マジで、あれ何なんだ?
「ルティナ、さっきの炎頼む」
「えっ!? あ、うん……「<中位火炎魔法っ!!>」」
火の鳥が飛ぶ。ジュ~~~~っ!! と、今度は、完全に溶けた。
「い、今の何?」
未だ信じられないと言った顔で聞くルティナ。
「私が作った凍解魔法」
何だそれ?
「す、すっごーい。でも、あんまり魔力を使ってなかったよねー?」
エーコちゃんもびっくり。
「まぁこっちの大陸で言う下位火炎魔法と下位氷結魔法だからな。ただ制御が大変ってだけだ」
下位魔法だから魔力は、そんな必要ないと。でも、あれは制御は大変そうだな。たぶん。良くわからないけど。
普通に考えたら反属性だから無くなる筈だし、それを形にしてるというのだから、制御が大変なんだろう。
と言うか、ポッ〇君の極大消滅呪文じゃねぇか。炎と氷を混ぜてとか。ポッ〇君も炎が最初強過ぎて苦労してたな。
まあ凍解と消滅で字が違うし、意味も違うんだろうけど。
「では、行くか」
こうして俺達は廃墟となった貴族の屋敷に入って行った。二股クソ野郎を放置して。
と言うか、今のサラの魔法で、全員忘れてるだろうな。ざまァァー。