EP.12 ほんと身勝手な下半身親父ですね -side 伯爵令嬢-
サイールの町から西に半日のところにあるバルデル子爵領に向かいました。
ハバルア=バルデル子爵は、お父様のお兄様に辺り、わたくしのもう一人の叔父様になります。
アーク様は、お父様の実家に直接赴き圧力を掛けると言いましたが、お父様のお父様……つまり祖父は隠居しており、何の権限もありません。よって現当主のハバルア叔父様に会いに来ました。
確り先触れを出したので、応接室にすんなり通してくれましたわ。三人掛けソファーにバリストン叔父様と二人で座り、叔父様の護衛とアーク様が後ろに立ちます。
「アンネルジュ、良く来てくれた。あぁ大きくなったね」
「ご無沙汰しております、ハバルア叔父様」
「デリダルク侯爵もお久しぶりです」
「ああ、久しいな」
「それで、今日はどういった要件かな、アンネルジュ? 先触れではカーマイン伯爵家の当主についてとあったが」
少しハバルア叔父様が警戒を滲ませます。お父様がハバルア叔父様を敬遠されており、滅多に顔を合わせないからだ。
お父様をあまり良く思っていないでしょうから、こちらの要求も直ぐに呑んでくれるでしょう。だから、先触れを出しました。もしお父様に味方をするような方でしたら、いきなり押し掛けてバリストン叔父様が圧力を掛けたでしょう。
「実は、お父様はお義姉様を次期当主にすると仰ったのです」
「は?」
「しかも、わたくしの婚約者がお義姉様と不貞を働いておりまして、それを『良い話だろう、目出度いだろう』とか言い出したのですよ」
軽く目を伏せ話します。お義姉様なら、お得意の目をウルウルさせ同情を誘うのですが、わたくしにはそんな事は出来ませんわ。
ハバルア叔父様の顔が見る見る赤くなって行きます。
「あの愚か者は、何を考えているのだ!!」
「全くその通りです」
バリストン叔父様が同意します。
「当主は既にアンネルジュであろう?」
「はい。お父様は、当主代理に過ぎません」
「全く浮気して孕ますだけでは飽き足らず……」
「えっ!? お義姉様は妊娠しているのですか?」
いや、それ以前にノットリオ様とお義姉様が不貞を働いていた事を知っていたのですか?
「いや、私の弟の事だ」
「お父様ですか?」
「あぁ。あいつは、婚約者のアンリエッタがいながら、浮気し揚げ句に孕ましたのだ。その時点で婚約を解消しろと散々言ったのだがね」
うわ! 我が父ながらクズですね。厚顔無恥も甚だしい。
「何故、お母様はそれなのに婚姻したのですかね?」
「それは姉が負けず嫌いだったからだ」
バリストン叔父様が説明してくれます。
「負けず嫌い……ですか?」
「浮気され婚約解消すれば、浮気相手に負けたと感じて反対を押し切り結婚してしまったのだよ」
なんと、お母様がそんな……。それにそれは負けず嫌いというより頑固って感じがしますね。
「しかも、アンリエッタが亡くなって、直ぐにその愛人と再婚した。子供も家に招いた。全くみっともない!!」
ハバルア叔父様が、続けて教えてくれます。つまりお母様と婚約している時期に不貞を働いてお義姉様が生まれたのですね。そしてお母様が亡くなった後に再婚。
確かにみっともない。最低最悪の下半身野郎でしたのね。もうアレが立派なのは下半身だけじゃないですか。
「私とアイツは仲が悪いだろ?」
「はい」
「私が小言ばかり言うから、嫌気が差したのだろう」
「そうだったのですね」
それで、お父様はハバルア叔父様を敬遠してるのですね。
「お父様は、お義姉様のが大事らしく溺愛しております。家ではわたくしは、かなり蔑ろにされており、今回も婚約者がお義姉様と想い合っているのを喜んでいました」
「どこまでバカだのだ。それではアンネルジュが傷物になってしまうではないか。いや、それすら奴は、気にしてないのか。どこまで愚かなのだ?」
ハバルア叔父様にショックを受けてる様子ですわ。そんな叔父様に畳み掛けるようにバリストン叔父様が口を開きます。
「今言った通り、アンネルジュから婚約者を取り上げ、当主から降ろし、ベレッタを次期当主にしようしています。私達は、それを見過ごせません。アンネルジュには何の落ち度もないのですから。今日はそれをお伝えしに来ました」
「見過ごせなくて当然です。隠し子が発覚した時点で離縁するべきだったのです。それどころかアンリエッタが亡くなって、愛人を家に呼ぶなど!」
「えぇ、本当に。貴方が理解ある方で良かった。私もバルデル子爵と対立したい訳ではないので。私はアレに当主代理を降りて貰うつもりです。そして、そうなるとアンネルジュに何をするか分かりませんので、追い出すつもりです。下手に置いておくとアンネルジュが危険です」
もう既に後見人の辞任手続きを出してるので、二日後辺りに王都に届き受理されるでしょう。よって当主代理を降りて貰ったも同然ですわ。
「それはそうでしょう」
「親不孝な娘と思うかもしれませんが、お許しください」
「アンネルジュは、私に遠慮する事ない。アレを追い出しなさい。当主代理でなくなるなら、別の女性と結婚しているアレは、伯爵家の人間ではない。勿論、私の家の名も名乗らせない」
「わたくしは、お父様に不幸になって欲しい訳ではありません。ハバルア叔父様が救済の手を差し伸べるなら、わたくしはそれで構いません」
なーんて。不幸のどん底に落ちやがれ! 人でなし下半身野郎が!
「アンネルジュ」
「失礼致しました」
バリストン叔父様にまた黒い心を読まれました。
「いや、父もアレを許さないだろう。勿論私だ。何度もカーマイン伯爵家に迷惑を掛けて申し訳ない。婚約中に浮気が発覚したのに、別れさせなかったこちらが悪い」
ハバルア叔父様が頭を下げます。
「叔父様、頭を上げてください。悪いのはお父様です。わたくしは、なるべく穏便に話を進めたいと思っております。出来れば叔父様には、事が終わるまで温かく見守って頂けないでしょうか?」
「アンネルジュ……なんて慈悲深い」
「わたくしは、慈悲深くなどありません。お父様を心底軽蔑しております」
「我が弟ながら情けないからな。そう思うのは当然だ。その証拠にアレは親戚付き合いをほとんどしていないだろ?」
「確かにそうですね。特に此方に来る時は、嫌な顔をします」
「私や他の親戚に小言を言われるのが、気に入らないんだよ」
ほんと身勝手な下半身親父ですね。
「それに他家がカーマイン伯爵家と付き合いを続けているのは、アンネルジュと家令が確りしているからだ。アンネルジュに期待してるし、正式に当主になるのを待ち望んでいる」
わたくしの想像以上にハバルア叔父様は、味方になってくれた。お父様を追い出す事に少し後ろめたい気持ちだったが、此処に来たお陰で気が楽になったわ。
その後、夕方ですが直ぐに出発します。馬車の中で寝れば良いだけですし、アーク様は寝なくても護衛は可能だと仰ってくれました。
そうして次の日の早朝にお継母様の実家があるバルデル子爵領より南東に位置するアツカマシイ男爵領に訪れました。疲れが出ておりますが、とことん此処を追い詰める為に先触れも無し早朝に押し掛けますわ。