EP.11 愚か者達を追い出しましょう -side 伯爵令嬢-
「すまない。アーク君には、説明してなかったね。カーマイン伯爵家の先代の頃の時期当主は、姉のアンリエッタと私だったのだよ。本来なら男である私が継ぐ。しかし私はデリダルク家に入る事が決まっていたのでね。それで姉が引き継いだのだよ。そして、その姉の唯一の子がアンネルジュだ」
「なるほど。アンネルジュ様だけが直系だったのですね。そして、傍系にあたるのはバリストン様の子となるのですね?」
「そうだ」
驚きましたわ。アーク様は聡明なお方なのですね。『お貴族様の事なので、理解出来るか分かりかねますが、お話をお伺い致します』と、仰ってたのに今の叔父様とのやり取りだけで理解されたようです。
「話しぶりにから予想するにアンネルジュ様が成人する前にお母上がお亡くなりになったのですね? そうなるとお父上は、当主代行となるのですかね?」
「正確には当主代理だね。姉上は、アンネルジュが三歳の頃に亡くなってしまったので、その時からアンネルジュは当主だ。あの男は、もう十年以上代理をしていたので、それを忘れたのだろう。全く愚かな男だ!」
再び叔父様がフツフツ怒り出しました。
「理解しました。ご説明頂きありがとうございます」
そう本来の当主はわたくしです。ですが未成年だったので、お父様が当主代理をやって来られたのです。ですが、それを良い事にお金を好き勝手に使い過ぎです。
それもお義姉様にばかりお金を注ぎ込んで。ふざけ過ぎですわね。あの愚か者は、その帳尻合わせしてるのは誰だと思ってるのかしらね? わたくしと家令ですわよ。
お母様ではなく、あのゴミが死ねば良かったのに!
「また腹黒い事を考えていないかね?」
「……失礼致しました」
「それでアーク君なら、どうするかい?」
「え?」
叔父様は、楽しそうに微笑み問い掛けます。対するアーク様は、目を瞬かせます。当然でしょう。何故アーク様に聞くのでしょう。
「あの……俺にはお貴族様の事は、分かりかねています。そんな俺の浅知恵など役に立たないでしょう」
「勿論、分かっている。だが、私達に見落としがあるかもしれない。なので、別の視点からの意見が欲しいのだよ」
いや、叔父様は楽しんでいませんか? さっきからそういう笑みを見せています。
「分かりました。では、最初にいくつか確認しても宜しいでしょうか?」
「勿論」
「では、最初にアンネルジュ様が当主であり、お父上が当主代理であるという明確な証拠は手元にあるのでしょうか?」
「それなら私が保管している。姉上に託されたからな。アンネルジュが当主を引き継ぐ際に渡して欲しいと。こんな形で使うとは思わなかったが」
ほんとそれですよね~。あのアホ親父のせいで。本来なら確りわたくしが受け継いだというのを受理する為の書類でしたのに。全くあのハゲ親父は!
「なら、それを突き付けて終わりでは?」
「それは出来ない。アンネルジュがまだ当主に相応しくないと判断された場合、当主代理を続投されてしまう。また法では成人から五年の猶予があり、二十歳になる頃に当主が相応しくないと判断された場合、当主代理が正式に当主になってしまう」
「……直系ではないのに?」
「滅多にない限られた例外だ。当主が無能になってしまったら大変だからな」
その無能があの愚鈍なクソ親父なんですけどね。
「その当主に相応しくないと判断するのは誰でしょう? もしお父上となれば客観性がないかと」
「それは二つ以上の他家がそう言えば、そのように話が進んでしまう」
「なるほど。では、次にこの件にバリストン様の侯爵の権力をフルに振りかざしますか?」
「勿論だとも」
「最後にアンネルジュ様のお父上は、当主代理という事は後見人ですかね? それになっているのですよね? それを勝手に外す事は出来ないのですか?」
「確かに後見人という扱いだ。その後見人の辞任手続きをアンネルジュが成人した段階で出来る事は出来る。だが、先程と同じように二つ以上の他家が、異議を申し立てればそれまでだ」
「そうですか」
アーク様は目を瞑り、黙考を始めます。
正直わたくしは、アーク様を侮っていましたわ。的確な質問だけをしていたように思えます。本当に聡明な方だと考えを改めました。
やがてアーク様を目と口を開きます。
「では、まずバリストン様の名で、アンネルジュ様のお父上の懇意があるお貴族様達に圧力を掛けた書状を出すのはどうでしょうか?」
「ふむ。悪くはないが、それで大人しくならない者もいるのでは?」
丸でアーク様を試すような口ぶりですね。叔父様は完全に楽しんでいるようですわ。
「恐らく強く反発するのは、二家ではないでしょうか? 勿論交友関係を理解していない短慮な考えですが」
「ほー。ではその二家は?」
「アンネルジュ様のお父上の実家とお継母上の実家です」
「素晴らしい。正しくそうだな。君は本当に聡明だ」
「恐れ入ります」
丸で出来の良い生徒を褒めるかのように手放し褒めます。
「で、その二家はどうする?」
「バリストン様自ら直接出向き、おどし……いえ、お話合いを。一番良いのは、もしバリストン様が手掛けている事業に関わっているなら、そこから外すと仄めかす事ですかね」
「なるほど。では、その二家に君も同行してくれないか? 万全を期す為に優秀な護衛が欲しい」
「最初からそのつもりですよね? 俺が言う前から、今言った事を全て実行する予定であり、俺を一週間前後雇いたいと言ったのも護衛として使う為に」
「やはり君には気付かれるか。そうだ。その通りだ」
わたくしもアーク様の考えた事を全て実行するつもりでした。護衛の方は叔父様とどんな話をしていたのか知らなかったので、視野に入れていませんでしたが。しかし、少し話しを聞いただけで、ここまでの結論を導き出せたのには驚きましたわ。
にしても、もしかして叔父様は、アーク様をおだてて護衛を進んで受けるように仕向けた? いえ、その割にはあっさり薄情しましたし、他に何か考えがあるのでしょうか?
「まあ俺は構いませんけどね。サールナートさんが許可出した以上、全力を尽くすだけです」
「ありがとう。では、早速その二家に赴こう」
「待ってください。一番大事な事が二つ残っています」
「「えっ!?」」
これだけで十分なのですが、他に何か重要な事でも? それも二つも?
「両方言っても詮無き事かもしれませんが、一度考えても良いと思います」
「それは何だね?」
「まず、アンネルジュ様にお尋ねします。婚約者のノットリオ様というのは、前々からお義姉上と関係があったと思いますか?」
「あの二人の雰囲気から恐らくありました」
「それはその……」
アーク様が言い淀みます。
「気を使っているのですか? もう何の未練もないのでお気になさらず」
「いえ、そうでなく。申し訳ございません。良い言葉が思いつかなかったのですが、お二人は既に肉体関係にあると思いますか?」
なるほど。そういう事ですか。
「お義姉様は、殿方にだらしなく、夜遊び歩いています。恐らく完全に不貞があったでしょう」
「もし可能なら、その現場を抑えられないでしょうか?」
「何故でしょうか?」
「婚約解消より婚約破棄のが、慰謝料をたっぷり取れるのでは?」
アーク様が悪い顔をします。
わたくしもハっとします。確かに婚約解消では慰謝料も満足に取れません。しかし破棄となれば、多く取れるし、わたくしの外聞も多少マシになります。まぁ外聞が悪くなるには変わりませんが。
「確かにそうだ。それでアーク君、もう一つは?」
「これこそ、今言っても仕方ないかもしれませんが、アンネルジュ様の経歴に傷が付きます。なので、今のうち次の婚約者を見付けた方が良いと思いました」
「それなら、問題無い。候補が一人いる」
「えっ!?」
わたくしは、目を丸くしてしまいます。いつの間に?
というか、男を取れられ直ぐに次とか考えられるか! 流石に節介が過ぎるぞ。
でしゃばり叔父がーーーっっ!!!
「また黒い事を考えてないかね?」
「失礼致しました」
「アンネルジュには、私の長男であるレオナルドを勧めておこう」
「レオ兄様……ですか?」
妹のように可愛がってくださった三つ上のレオ兄様。でもレオ兄様は、わたくしを妹としてか見てないように思えますわ。
「あの……ローズマリー王女殿下が臣籍降嫁してくださるのでは?」
「内々に決定しそうってだけだ。まだ決定ではない。それなら次男が年齢的にも釣り合うと私は思う」
「それに長男なら、後継者教育をしていたのではないですか?」
「長男に何かあった時の為に、次男にも同じ教育を施しているから問題無い」
「あぁ~スペア……おっと、失礼しました」
アーク君は慌てて口を抑えます。もう遅いですわ。言ってしまってますから。
「ははは……言葉は悪いが確かに次男はスペアだ」
叔父様は、それを朗らかに笑って流します。
「では、アンネルジュはレオナルドの事を少し考えてくれ」
「……はい」
気が乗りませんわ。
「それで義姉の不貞の現場を抑える。それが可能ならアンネルジュが手を回してくれ」
「分かりましたわ」
「では、アーク君。他にないかね?」
「俺の考えは以上です」
最後の二つは完全に想定外ですわ。貴族に詳しくないと仰ったアーク様から、このような意見を頂くとは……。
それは叔父様も同じように感じているのか、先程から目を見張っておられるように思えますわ。
「うむ。では、我々も動くとしよう」
「えぇ……愚か者達を追い出しましょう」