EP.10 伯爵家の当主はわたくしですけど? -side 伯爵令嬢-
わたくしの名はアンネルジュ。カーマイン伯爵家の第一子。去年十五歳になり、今年目出度く学園を卒業しました。寮生活から、やっと実家の生活に慣れたある日、父にから大事な話があると言われた。
「次期当主は、ベレッタにしようと思う」
家令も含め家族全員が集められ、何の話かと思えば次期当主変更の話だった。ベレッタは、腹違いの姉。そのお義姉様と継母がニコニコと、その話を聞いている。ただね……、
遂にボケたかクソ親父がーーーーっっ!!!!
「お父様、本気で仰ってるのですか?」
「本気に決まってるだろう? ベレッタは長女で何の問題もあるまい?」
その頭の腐った回答に、頭がクラっと来た。
問題しかないのが分かんのか? ハゲ親父が!
わたくしが家を継ぐ為に、幼い頃より必死に学んで来た。それなのに次期当主を変更するなんて。
「今までの当主の勉強は、大変だっただろう? これからは自由だぞ」
何上から目線で言ってるんだ? アホ親父のミスばかりの決算をフォローする方が大変だったわ!
「お義姉様は、当主教育を受けておりません。それなのにどうして次期当主になるのですか?」
「ノットリオ殿が支えてくださる。元々当家にノットリオ殿が結婚しに来てくださり、家を存続する予定だったであろう? その為にノットリオ殿も学んで来ている。ベレッタとノットリオ殿は、想い合っている。ならば結婚させてやりたい。ベレッタも適齢期間近で丁度良い」
適齢期は二十歳とされている。お義姉様は、十八歳なので確かに適齢期が近い。しかしそれは問題しかないのですよ? 気付けよボケ親父が!!
「急な婚約者変更で、アンネルジュも不安だろう。だが、お前はまだまだ適齢期まで時間がある。ゆっくりお前に相応しい者を探せば良いさ。まぁ姉の結婚が決まったのだ。良い話であろう? 良かっただろう? 目出度いであろう?」
貴様の頭が目出度いわ!
「アンネルジュには悪いと思ってるのよ? 幼い頃からの婚約者だもんね。でも、どうしても私はノットリオ様と一緒になりたい」
「………………お義姉様」
昔からこうですね。上目遣いで目をウルウルと。気色悪いわ! こんなあからさまな演技に誰もが騙されてアホみたいだと思わないのかしら?
これは当主以前に礼儀作法の教育がなっていませんね。六年の寮生活から帰って来てもそれは変わらず。お父様達が溺愛するからですわ。
「そうですか。お義姉様がノットリオ様と結婚したいのであれば仕方ありませんわ。わたくしは、今後の事を叔父様と相談して来ますわ。きっと親身になってくれるでしょう」
不貞を働いた人となんて結婚したくありませんわ。
わたくしのこの言葉で通じるでしょう。そう思いお父様にニッコリ微笑み掛ける。
「それが良いだろう。アンネルジュに相応しい相手を探してくださるだろう。お前から義弟に宜しく伝えておいてくれ」
あ、これ伝わってないわ。バカじゃないの?
は~~。婚約は解消され、次期当主の座は降ろされ世間では、完全に傷物令嬢だわ。
そんな事も分からない無能親父が!! まぁ分かったところで、第一優先はお義姉様なんでしょうけど。
こんなところにもういたくないので、急いで支度をして実母の弟である叔父様のいるサイールの町に二日掛けて向かいました。
「ご機嫌よう」
「あ、これはアンネルジュ様。如何なさいました?」
叔父様の屋敷の出入口にいる衛兵に声を掛けます。
「突然ごめんなさい。叔父様の時間を作れるかしら? 時間が作れないようでしたら、客室を用意して頂きたいのです。両方難しいようでしたら、本日は宿を取りますので、後程使者を送ってくださる?」
貴族のマナーとして事前に伺うと先触れを出すもの。急に押し掛けても門前払いは普通です。それは親族と言えでも変わりません。
「少々お待ちください」
衛兵が屋敷に入り、暫くお待ちします。
「今からお会いになるそうです」
「ありがとう」
屋敷に通されます。そこにデリダルク侯爵の叔父様と、デリダルク侯爵夫人の叔母様がいらっしゃいました。
「アンネルジュ、突然どうしたのだ?」
「アンネルジュ、少し疲れているのかしら?」
「突然の訪問申し訳ございません。実は………………」
わたくしは頭を下げ、事情を説明します。
「何だって!? あのバカは何を考えているのだ!?」
「全くアンネルジュのお母様であるアンリエッタ様を蔑ろにし過ぎですわ」
二人は、わたくしの為に怒ってくださいます。嬉しい限りです。
あの愚鈍なお父様と大違いですわ!!
「アンネルジュよ、また腹黒い事を考えていないか?」
「おっと、失礼致しました」
何故か叔父様には、黒い感情を読まれる時がありますわ。
尚、我がカーマイン伯爵家は第一子だったお母様が引き継ぎました。第二子の叔父様は当然ながら引き継げません。しかし、叔父様は前デリダルク伯爵に気に入られ養子に迎えられます。
当家は、デリダルク伯爵とは親戚であり、叔父様は傍系の血が流れていました。そう言った理由もあり養子に迎えられ、爵位を引き継いだのです。
その後、優秀な叔父様は自ら功績を立て陞爵され侯爵になりました。
叔父様達といる部屋にノックが響く。
「入れ!」
「お話中、失礼します」
執事が入って来ました。
「どうした?」
「冒険者のアーク様が来られました。面会のお約束をしたいそうです」
「アーク君か。懐かしいな。だが今は、忙しいからな……。何時にするか?」
「貴方、少し時間を空け落ち着いてから、考えた方が宜しくないですか?」
「そうだな。一度クールタイムしよう。アーク君に直ぐに会うと伝え応接室に通してくれ」
「かしこまりました」
執事が出て行く。
「アンネルジュ、すまない。少し時間を置こう」
「分かりましたわ」
「では一度、客間に案内する」
そう言って叔父様自ら案内してくれます。
にしてもアーク様ですか? 何処か聞いたような……。わたくしは記憶の底を探ります。
確か五年前に叔父様が陞爵された際に賜った家紋が入った短剣を賊に取られ、その賊を討伐したのがアーク様と仰ってたような気がします。
その短剣の買い取りの際に大変気に入ったと仰ってましたね。そのアーク様は、サフィーネ王女殿下を救出、保護したとか。更には転移者を連れて来てくださったとか。大変優秀な冒険者なんだな、と感想を抱いた記憶がございます。
客間でのんびりお茶を頂いていると呼ばれ、応接室でアーク様に引き合わせて貰いました。
灰色の髪に灰色の瞳。スラリとした体躯でありながら力強さを感じるそんな印象です。
叔父様はアーク様にも手伝って貰おうという話になりました。何故? と思いましたが叔父様には何か考えがあるのでしょう。
言われるがままにアーク様に事情を説明しました。
「失礼ながら、そもそもの話、アンネルジュ様のお父上は何故次期当主を決める権限がないのでしょうか?」
「伯爵家の当主はわたくしですけど?」
「えっ!?」
アーク様が目を瞬かせます。あれ? 説明を端折ってしまったかしら?