EP.05 必要ありませんでした
-36――――月陸歴1521年4月27日
メハラハクラ王国の王都ザックスには六日で到着した。が、そこからが長かった。まさか謁見に十五日も待たされるとはな。他の国の大使を蔑ろにし過ぎだろ。マジでこの国はクソだな。
そんな訳で、俺は王都ザックスに十五日間潜伏し、ブリテント騎士王国の宰相補佐ホサカンが謁見が終わり次第合流して、ウルールカ女王国を目指す事になった。
久しぶりのホームだ。四年半ぶりになるな。セイラは元気にしてるだろうか。まあ確り『食事処 アサシンズ』の売上の一部が振り込まれているので、店は問題ないだろう。
「大分時間を食ってしまいましたね。ではでは、アークさんウルールカ女王国を目指しましょう」
「ああ」
ホサカンに促され王都ザックスを出る。馬車三台の移動だ。俺の乗る馬車にはホサカンとサールナートがいた。メハラハクラ王国では、形としてサボったようなものだからな。ホサカンの厳重警護はアルファとベータではなく俺が担当する事になって同乗している。
そうして暫く南西に向けて馬車を走らせていると……、
《主上、2km先で待ち伏せがあります》
ファーレから思念伝達が届いた。
ファーレは、大きくなり過ぎたので基本的には俺と別行動になった。十分強くなったので、餌も自分で狩れるしな。そして、今回は先行偵察を頼んでいる。
《妾が蹴散らしますか?》
《数とどんな集団だ?》
《数は一万。賊に見せかけておりますが、全員統一の装備をしているので不自然な集団です》
《ふむ》
一万もいるのか。それも賊ね。もうこの時点であり得ないだろ。そんな数の賊がいてたまるか。ここまでで既に杜撰過ぎる。それでいて統一の武器とか。ハイハイ、マッチポンプですね、分かります。
《一万もいるのに蹴散らせるんだよな?》
《はい、主上。練度が低いです。この程度なら十万いても造作も有りませぬ》
《なら、放置で。こちらを襲って来たからという大義名分の下に捕らえる》
《承知しました》
「ホサカンさん、親書の内容ってご存知ですか?」
「えぇ」
「もしかしてメハラハクラ王国を主軸として連携を取りましょうって内容です?」
「端的に言えばそうなりますね」
そりゃ転移者を沢山抱えているもんな。メハラハクラ王国が主軸となるわな。で、メハラハクラ王国は、それが気に食わないってとこだろ。まあそんな内容というのを予想してたんだろうな。更に言えば十五日という長い時間を待たせたのは、その間に人を集めたってとこだな。
「この先、待ち伏せがありますよ。たぶん賊に見せかけたメハラハクラ王国の者ですね。装備が統一されていますので」
「何故分かるのでしょう?」
「俺の従魔に偵察をさせています」
「なるほど。サールナートさん、どうしましょうか?」
一応ホサカンがこの集団のトップだが、護衛される身なので危険がある場合はサールナートの指示で優先される。
「ワッハハハ……うむうむ。アーク君、すっばらしいね!」
いちいちポーズ取るの止めてくれない? なんか右手の親指を顎に当てて、人差し指をおでこに添えてるし。ついでに芝居がかった喋り方だし。
「……どうも」
「数はどんなもんだい?」
「一万です」
「ワッハハハ……なかなかの数ではないかぁぁあ!! 我を恐れての事であろうが」
大袈裟に言ってるが余裕綽々だ。流石はSランク冒険者。
「ちなみにアーク君が、処刑出来るかい?」
「俺の従魔でも倒そうなので余裕ですね」
「なのに従魔にやらせない。何故かぁぁね?」
「襲って来たって大義名分で捕らえる為です」
「ワッハハハ……君は優秀だね。とぉぉぜん我には及ばぬがな」
「あーそッスね」
「わぁぁれこそはぁぁあ~~全知全能故に……」
「で、どうするのですか?」
ウザイので遮ってやる。芝居がかり過ぎ。
「うむうむ。では、処刑で行こう」
ちなみにずっと同じポーズ。何の意味があるの?
賊(?)との激突100m手前で止まる。全員馬車から降りた。
「ワッハハハ……我は試験官故、傍観させて貰おう。危なくなったら手を貸そうではなぁぁぁいか」
毎回こう言ってサールナートは参加しない。これまで何度か賊(普通の)や魔獣と遭遇した際に傍観していた。
ただ今回違うのは……、
「<闇翼魔法>」
魔法を使い背中から黒い羽根を生やし空を飛び出した。今回はアレかな? もし手を出さないといけないってなった時に空中いた方がイニチアチブを取れると思ったのかね?
というかマジで堕天してるな。黒い翼だしな。
「者共! 獲物が掛かったぞ! かかれーーー!!!」
野太い声が響く。
「「「「「おぉぉおおおおお……ッッ!!」」」」」
それを合図に一万人が突撃して来た。賊(?)にしては動きが整い過ぎている。隠す気ゼロだろ?
まあでも、これで捕らえる大義名分が出来た。
「では、俺が前に出よう」
タンクのカンウーが大盾を構えた。
それに続き後方で、アルファとベータが弓を構える。この二人は姉妹なのかね? 獲物も同じとはね。
ソウソウは槍を構えカンウー並ぶ。リンシャンは、状況を見極めてから動こうとしてる様子だ。チュンリーは、ヒーラーなので現在は何もする気がない。それぞれそんな感じだ。ただね……、
「必要無い」
これに尽きる。俺は、そうカンウーに声を掛け前に出る。
「おい、アーク!」
ソウソウが慌てて俺を追って来るがお構い無しに前へ歩を進める。
「一人でどうするんだ?」
「こうする」
バタバタバタバタバタバタバタバタ……バッターンっっ!!!!!!
一万人全員が倒れた。
「「「「「えええーーーーーっっ!!」」」」」
全員なんか目を剥いてるんだけど。
「アレ? 俺なんかやっちゃった?」
とか無自覚主人公みたいな事を言ってのける。いやね、だって一万人とか相手にするの面倒じゃん。こんなのはチョチョイっと倒すの限るよね。
「………………アーク、何をしたんだ?」
ソウソウが乾いた笑みを浮かべる。
「ちょろ~~~~~~っと威圧しただけだよ?」
龍気を乗せてだけどね。
「これがちょろっと?」
殺気に闘気を乗せるのが威圧。威圧は、胆力があるものか闘気の扱いに慣れていないと立つのが困難な程に圧力が掛かる。が、意識を奪う事は出来ない。
しかし、俺が新たに手にした龍気を乗せた殺気……即ち龍圧は、意識まで刈り取る事が出来る。遂に俺は覇王〇を手に入れたのだ! 俺は……、
暗殺王になるっ!!
なんちって。まあ今からなるのは【夜刀神】だけどね。
「ワッハハハ……アーク君、素っ晴らしい!! 素晴らしいゾぉぉ~~~!!」
「どうもッス、先輩」
「ただね……これは君だけの試験ではないだぁぁぁぁよ。だから他の者の出番を作らないとだぁぁぁぁよ」
「ハイ、スンマセン」
というかね、サールナートは、いちいちポーズ取るの止めてくれない? なんか今も左手の甲をおでこに当てて体を右側に反らしてるし。なんか意味あるのかね? それも空中で、芝居掛かり過ぎ。
「ソウソウ君、悪いけど町に戻って状況を伝え憲兵を頼む」
「了解です」
ホサカンに言われソウソウは馬に跨り町に戻って行く。流石は馬の道場の門下生。馬の操り方を心得ているね。
てわけで、気を取り直してソウソウを除いた全員は馬車に乗りで南西下する。そうして暫くするとまたファーレから思念伝達があった。ほんと前も思ったけどメハラハクラ王国ってイベントばかり起こるね。
《主上、2km先で集団暴走が起きています》
《了解》
《それから、それを対処している………………え~~珍妙な恰好の者がおります》
なんか言い淀んでいるな。珍妙ってなんやねん!?
《そいつは危なそう?》
《いえ……かなりの手練れなので問題ないかと》
《了解。じゃ放置で良いね。どうせもう直ぐ到着するし。その時に手を貸すかどうか決めれば良い》
《承知しました》
「ホサカンさん、集団暴走が起きてるようです」
「また……足止めか」
げんなりとした様子で呟く。
「一人で対処してる者がいるようです」
「なんだって!? なら助けるべきだろう」
ホサカンが目を剥く。
「いえ……かなりの手練れなので、その心配はないかと。それより問題は……」
「ワッハハハ……獲物の横取り問題が発生するって事だねぇぇね」
俺の言葉にサールナートが引き継ぐ。俺はコクリと頷く。
「なら、このペースで行こうではなぁぁぁいかい」
………………今度は右手で口元を隠すポーズをしてるし。