EP.04 Aランク昇格試験を行う事になりました
-57――――月陸歴1521年4月6日
王都キャットの冒険者ギルドに到着した。
「ひゅー! 良い女じゃねぇか」
ギルドに入って早々口笛を吹いてシスリーヴァを舐め回すように見るアホ冒険が一人。シスリーヴァは、汚物を見るような蔑みの目を向けていた。
「俺と遊ぼうぜ。そんな弱そうな兄ちゃんなんかより、余程俺っちの方がお前を満足させてやるぜ」
なんか、ナデェーイを見下すようにチラリと見ているな。というか俺もいるんだけどな。
「…………」
シスリーヴァの青い瞳が冷ややかになる。見てるこっちが身震いする程だ。それに気付かないこのアホは三流以下。
「すかしてんじゃねぇぞ」
そう言ってシスリーヴァの腕を掴む。ナデェーイとウララが『あ~あ』って言いたげな哀れみの視線を向けていた。良くある事なのかね?
「………………気色悪い目で見ないでくださらない?」
パッシーンと手を弾く。なんか周りの温度が下がっていないか? そんな錯覚がする。
「あぁん!? 舐めてんのか? このアマ!」
シスリーヴァは、バックステップで距離を取り足に巻き付いた鞭を取るとアホの首に巻き付けるように振る。
客観的に見るとそこそこ速いよな。俺も同じ事されたけど。いや『称号 断罪者』が発動していそうな分、今のが速いかな?
「二度言わせるんじゃないかしら」
その瞳は絶対零度。物凄い殺気と冷たさに見てるこっちですらブルリと震える。
「ヒィィィィっ!!」
ショボショボ……。失禁までしちゃったよ。直接あの殺気を浴びた方は、キツイんだろうな。顔が真っ青だ。
「行きましょうか。ナデェーイさん、ウララさん」
「ああ」
「だね~」
鞭を緩めると何事もなかったように歩き始める。
「じゃあアークとはここまでだな。俺達はクエストボードを見て来るよ」
「ここまで楽しかったよ。また会えると良いね」
「最初に失礼な事をしてしまい申し訳ございませんでした」
三者三葉に俺に別れを告げた。路銀の問題もあるので適当にクエストを受けてから隙魔法を調べるとか言っていたので、真っ直ぐクエストボードの方へ行くのだろう。
「ああ。またどこかで」
そんな訳で、俺は受付嬢のとこへ向かう。
「あ、アークさん。待ってました」
「ああ」
ニコやかに挨拶された。
まあ修行の一環として冒険者活動してたし、道場の門下生って事で覚えられている。
「指名依頼がありますので……どうぞ、応接室に」
そう言って奥に通さる。その部屋のソファーに腰掛けるとお茶を置かれ『暫くお待ちください』と言われ一人にされる。
指名依頼ね。なんの依頼だろう。恐らく護衛系かな。師範も知っていて、此処に行かせたしな。師範は俺が道場を止めた後、南に行くと伝えてあったしな。
ちなみに何で南かと言われればエーコがいるからだ。それに行方不明になった沙耶を本格的に探したしな。ナターシャ達と連絡が取れないし、まずはそっちを優先で良いだろうと思ったので。
その師範がギルド側に伝えていれば十中八九南に行く依頼になるだろう。
「待たせたね、アーク君」
やって来たのは、王都キャットの冒険者ギルド、ギルドマスターのアースガルベン。
「いえ」
「アーク君、おめでとう。A級昇格試験だ」
「A級?」
「そう。この国の王族が推薦し、レオン獣王国、ジパーング聖王国、アルーク教国が同意した」
「あれ? ウルールカ女王国は?」
「伝えていない」
は? 何故そこだけ? ナターシャの時は伝えたよな?
「依頼の中にウルールカ女王国を訪ねるものがある。あちらがそれを知っていれば試験にならないだろう?」
なるほど。結託されたら贔屓みたいになるからな。
「それで何をするのですか? アースガルベンさん」
「メハラハクラ王国、ウルールカ女王国、ダンダレス帝国に親書を直接渡す者の護衛だ。ただ王族に直接渡すので粗相があっては失格だな」
そこまで難しい事ではないようだけど……、
「すみません。お断りします」
出来ないなそれは。俺は頭を下げた。
「ん? 何故だね? アーク君」
訝し気に訊ねて来る。
「昔にメハラハクラ王国で、ちょっとモメ事を起こしておりまして、王族と顔を合わすのは拙いですね」
「詳しく聞かせてくれないか?」
俺はメハラハクラ王国での事を話した。メンサボの町の領主が魔族と通じていて、結果的に逃げて町を出た事。転移者のケン達を救出する為にメハラハクラ王国の騎士達を薙ぎ倒した事。そして、ウルールカ女王国の王女がメハラハクラ王国所属の転移者に襲われ撃退した事。
「メンサボの町での事は裏が取れないので、なんとも言えないが、転移者の問題はメハラハクラ王国に非がありそうだな。あそこは転移者問題で周辺諸国に叩かれているからな」
アースガルベンは、暫し黙考して口を開く。
「アーク君は隠れるのが得意だったね?」
「ああ」
暗殺者だし気配を消すのは元々得意だ。
「ならメハラハクラ王国の王族の前には出なくて良い。ただ町には潜伏していてくれ。道中は護衛して欲しいからな」
「それなら分かった。ところで何の親書だ?」
「魔族に対しこれから連携して行こうというものだ。キアーラ海王国がやっと正式に協力体制に入ってくれた事だし」
ナターシャが依頼達成したからな。
「では、通り名を決めよう」
出たよ、二つ名。中二病じゃないんだから簡便だな。アースガルベンは、リストを取り出し俺に見せる。
「どれにする?」
「………………祟り神があるし。俺、そんな不吉な感じで思われているのか?」
「祟り神? どれだね?」
「これ」
「夜刀神……祟り神ではないよ」
「えっ!? 転移者の元の世界だと祟り神だぞ」
しかも蛇だし。
「そうなのかね? この世界では昔にいた伝説の暗殺者の名だよ」
「ほ~。伝説の暗殺者ね」
これで良いかな。他に【影豹】とか【速き外套】とかふざけた名だしな。一番ふざけたてるのは【闇】だ。まんま過ぎて絶対に選びたくない。というか俺の体の元の持ち主の偽名だし。
「なら【夜刀神】で」
「では、依頼達成時にそのように処理しよう。では、明日また来て貰いたい。親書を持った宰相補佐と試験管になるSランク冒険者が来る予定だからね」
「分かった」
てわけで翌日。
「あぁ来たか、アーク君。まず紹介しよう。宰相補佐のホサカン」
「ホサカンと申します」
「アークです。この度は宜しくお願いします」
まんまの名前ですなぁ。永久に宰相補佐で、出世せずに終わりそう。
「次に現Sランク冒険者の【雨裏慧流】サールナート君」
何だよ、ヤンキー夜露死苦みたいな二つ名は? というか暴走族のチームにありそうな名だな。
「ワッハハハ……我こそはフォォォオオルゥゥゥゥウンエンジェェェエルの【雨裏慧流】サールナートだ」
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何この芝居掛かった名乗りは。しかもポーズ決めるなよ。なんか左手を左に突き出し右手で顔をの左側を隠し少し俯いた感じでキメてるし。中二病乙。というかフォールンエンジェルとかウリエルを堕天させるなよ。
バッチリ左腕は包帯グルグル巻きだね。あと頭も……って、それただのターバンに思えるんですがね。
「ア、ハイ…………アークです。先輩、お世話になります」
「ワッハハハ……緊張してるのかね? まぁ当然だぁろうねぇ~~。わぁぁぁれこそは、クルワーゾ騎馬王国の英雄なのだから。ワッハハハ……」
「いや、サールナート君はジャアーク王国出身だろ?」
なんかアースガルベンに突っ込まれているし。
「ワッハハハ……我があのような邪悪王国の出身とは事実無根だぁぁぞ」
「はいはい。黒歴史なのね」
「だぁぁぁ!!! それは言わない約束」
「いや、そんな約束していない」
なんかコントが始まったぞ。
「それから今回アーク君と同じAランク試験兼指名依頼に参加する。アルファとベータ」
「よろしくぅ」
「よろしねぇ」
「宜しく」
もう名前、いい加減じゃないかい? 一応補足すると両方女だ。陰の有力者ですかね? これでスライムスーツなら一発アウトだった。
「それから直接王族の前には出ないただの護衛のソウソウのパーティー『槍の愛好家』だ」
「久しぶりだな、アーク」
「四年半ぶり」
「もうAランクとはスゲーじゃねぇか」
「えっ!? そっちもだろ?」
「いや、俺達は今回ただの依頼。そもそも干支の道場の者は、Bランクで止めてしまう。なにせ将来はこの王国に仕える事になってるからな」
そうだったのか。まあ俺みたいなのは特殊なようだな。
「こいつらはAランクに上がっても良いと思うんだが、俺に合わせれくれている」
そう言ってパーティーメンバーに目を向ける。
「確か……カンウーだったな? 久しぶり」
「ああ。久しいな」
「リンシャンだったな? 久しぶり」
「今回もよろぉ」
タンクのカンウーと魔導士のリンシャンだ。
前にガラハット町で、暇潰しに依頼をこなそうとした際に臨時でパーティーに誘われた。その時の欠員が……、
「アタシは初めましてかな? ヒーラーのチュンリーだよ」
「前回いなかったメンバーか。初めまして」
この女がヒーラーか。にしてもチュンリーとかまた中国とかそっち系の名前だな。
「では、自己紹介も済んだとこで、早速出発してくれ。まずはメハラハクラ王国だな」
そんな訳でAランク昇格試験兼指名依頼が始まった。