EP.16 魔王の子でーした
全てを語り終えたノルンは、お茶を飲み干しおかわりを貰う。ナターシャもついでに注がれ、キアラとラキアは冷たいお茶を用意して貰っていた。
「時を止める魔導ねぇ。そんなものがあるのかい?」
真っ先にナターシャはそれを確認した。やっぱりそこ気になるよね。俺も気になった。
「有ーる。……いや、有ーったさ。古代魔道具さーあ」
「現代では無いのだねぇ」
「無いさーあ」
「それで何故眠らせていたんだい? 育てて欲しいってのと関係あるのかい?」
それが依頼だったもんな。
「子供には『称号 魔王の子』あったのさーあ」
『称号 魔王の子』は、『称号 魔王』の下位互換らしい。
ノルンは『称号 魔王の子』を説明してくれる。主に四つの要素があるらしい。
一つ 一定領域内の魔族への絶対命令権。但し『称号 魔王』が優先
二つ 魔王闘気
三つ 『称号 転移者』を持たぬ者からのダメージ軽減
四つ 魔王屋敷建設
「問題になるのが魔王闘気だーね。覇気って分かるかーい?」
「漏れ出る闘気だねぇ」
「そうだーね。ただ魔王闘気による漏れ出る闘気は、魔王のものって分かってしまうのが問題なんだーね」
「どういう事だい?」
「通常覇気を感じ取るには、気配察知が必要だーね。もしくは闘気系の達人だーね」
「そうだねぇ」
一般人には覇気を感じ取れない。覇気は言い換えれば気配でもある。気配察知のスキルがあるとその覇気を察知出来るもの。俺の気配完治もそうだな。ただ俺のは、気配察知の上位互換ではあるが。
「気配察知のスキルがなくても感じ取れるのさーあ。それも直ぐに魔王のだって分かるねーえ」
「つまり時を止める魔道具から出すと、魔王がそこに存在するとバレてしまうって事かい? まぁ正確には魔王の子なんだろうけど」
「そうだーね。だから、魔王闘気を完全にコントロール出来るまで育てて欲しいのだーね」
「こんとろぉる?」
「制御なのだ」
すかさずラキアが意味を教える。
「時を止める魔道具から出したらバレる。でも、制御出来るまで育てないといけない。無理じゃないのかい?」
ナターシャが困惑する。
そりゃそうだ。矛盾してる。出さないとコントロール出来ないし、出してしまうと魔王がいるとバレてしまう。
しかもバレると人類の敵とされているから、人類側の敵意を一身に浴びてしまうな。
「だから、出した瞬間に地底世界に行って欲しいのさーあ」
「地底世界?」
は? また変な単語が出て来たぞ。この世界って地底があるのか? ラ・ギ……、
「ラ・〇アスか?」
だから、何でお前がそのネタを知ってるんだ?
「なんとなくなのだ」
というか、また遠方にいる俺の心を読んでるし。
「世界にはいくつか地底への入口があるのさーあ。そこでは争いに辟易した世捨て人がいるのさーあ。中には魔族もだーね」
「魔族も? 人類側を憎んでるのに、かい?」
「全てじゃないさーあ。極一部は争いに辟易してるのさーあ」
「世界にいくつもって、此処からだとどこが近いのだい?」
「此処さ」
「えっ!?」
ノルンが真下を差し、ナターシャ達が目を丸くする。
「地底世界への入口が此処にあるかーら、ワタシの屋敷を此処に建てたのさーあ」
「なるほどねぇ。つまり時を止める魔道具から出して、即座に地底世界に行って育てて欲しい訳だねぇ」
「そうだーね。そして、此処の入口を塞ぐのさーあ」
「なぬっ!? 出られぬではないか」
ラキアが即座に反論する。塞がれたら出れないはな。ただしこの入口からは、だけど。
「世界にはいくつも地底世界への入口があると言ったさーあ」
「つまり、出口は他を使え、という事ですね?」
キアラが問い掛ける。
「そうだーね。だけどその前に魔王闘気をコントロール出来るようにして欲しいのさーあ」
「それノルンさんじゃダメなのかい?」
確かに。最初の方でも思ったが、お前が育てろよ。
「まずワタシャ、行方を暗ます訳には行かないのさーあ」
「国王より、立場が上だしねぇ」
それは身勝手過ぎるだろ。
「次に地底世界にも危険があるのさーあ。ワタシには攻撃能力がないのさーあ」
サポーターだしな。
「そして、何よりワタシは闘気が使えないのさーあ」
「それであたいなんだねぇ」
ナターシャなら闘気を教える事が出来ると踏んだのか。
魔王闘気とただの闘気が似たものなら、教えられる者が育てた方が良いという事だな。
「他にもあるさーあ。他種族と仲良くしてるのもそうだーね」
キアラとラキアを見る。
「転移者なのに魔王討伐が目的じゃないってーのもそうだーね。仮にワタシの子が暴れた際に抑えられるのは転移者じゃないとダメなのさーあ」
それ折檻しろって事か?
まぁ魔王の子が、駄々を捏ねて暴れて他に被害を出すなら、転移者が止めないとな。それも討伐する気のない転移者。
まぁ赤子なら、たぶんダメージ軽減されても他の者でも止められそうだけどな。
「なるほどねぇ。二人はどうするかい? あたいは育てても良いと思うかい?」
「ウチは、ナターシャが決めたのなら良いと思います」
「我は、主様が良いと言うのであれば是非も無し」
ダメとは言わないけどな。
「ただ最大の問題が一つあるさーあ」
いや、一つじゃないだろ、と思うけどな。
「なんだい?」
「地底は、地上と隔絶されていーる。その草は、役に立たなくなるさーあ」
「「「えっ!?」」」
三人が目を剥く。
「お! 姉上も主様に見守って貰いたいのか?」
ラキアが揶揄うように笑う。それは言わぬが花だと思うけどな。
「な、なななな……な訳ないでしょう? ば、馬鹿な事を言わないでください。ウチがアークなんかに……ブツブツ……」
「……動揺しまくりさぁ」
耳まで真っ赤にされてもな……。
にしてもどうしようか。草で見れない。出口の場所も分からない。いつ魔王闘気を操れるようになるかも分からない。