EP.13 四魔将との戦い -side Norn-
「よし! 魔王城が目と鼻の先だ」
アラタが剣を抜きながら言う。
残り100mまでの距離まで迫った。人類一丸となり、魔族を引き付けてくれているお陰かここまで、魔獣はともかく魔族は相手にせずに済んだ。
だが、魔王城には魔族が何人もいる事が予想される。それと魔王も……。
「アルベリア、頼む」
「応さ! 腕がな……いや、魔法を唸らせるぞ」
ワタシが言った事を間に受けていないで、さっさとぶっ放すさーあ。いや、気持ちが逸ってしまう。緊張から喉の渇きを感じるし、どうでも良いツッコミを、心の中でしてしまった。集中しないとねーえ。
「<雷鳴魔法>」
ズドンスドンズドンズドンズドンズドーーン…………ッッ!!
けたたましい音を鳴らし雷が何十発と魔王城に落ち城を半壊させる。アルベリアの唱えた雷魔法の上位になる雷撃魔法のレベル後半で、覚えられる雷鳴魔法だ。
次の瞬間、魔王城が弾けた。中から吹っ飛ばしたようだ。そこから五十人程の魔族が飛び出す。青魔族、紫魔族、茶魔族、黒魔族と様々な魔族がいる。他にも稀有な個体も。
「<多重身体強化>」
次はワタシの番だーね。全員に多重付与を施す。筋力、素早さ、防御力を強化する。あとは魔力を切らさないように集中するだけで良い。その為には、皆には悪いが安全な後方にいないとだーね。
それにワタシの仕事は、回復もある。ワタシの役割はサポーター兼ヒーラーなのだから。
「<飛剣乱舞>」
転移して来た時に獲得したアラタ特有のスキル飛剣を発動。この何年かで、使いこなすようになって来た。
アラタから舞う剣が百本飛び出す。その剣は、真っ直ぐ一直線に魔族達のとこへ向かい斬り咲く。前に飛び出ていた青魔族を中心に即座に絶命した。
「<邪重力魔法>」
魔王が邪魔法を唱える。グっ! と、体に圧力が掛かる。
《称号 英雄が発動しました》
どうやら、魔王は『世界の敵』認定されたようだーね。分かっていたけど、英雄が発動されるかされないかは、大きな差があるしねーえ。
「おらっ!」
アラタが精霊の集落で手に入れた聖剣を振るう。
バッリーンっ!!
ガラスが割れる音が響くと同時に体に掛かった圧力が消える。
しかし、その一瞬でも圧力が掛かっていた隙に、飛剣乱舞の動きがのろくになってしまう。その隙に稀有な個体が前に出る。
あれはラミアだーね。下半身が蛇で、上半身が人型の女魔族。下半身が特徴的だが、更に特徴があるのが背中。丸で亀の甲羅を背負ってるかのように広がっている。コブラを思わせるものだ。
ガキンガキンガキン……っ!!
その背面で、飛剣を受け止める。恐らく相当な防御力があるのだろう。
「我は、四魔将が一人……むっ!?」
「はぁぁぁ!!」
口上の途中だというのにお構い無しに飛びかかるライラ。
「形式美が分からぬ者よ」
それをラミアに両手にそれぞれ持った太刀で応戦。
「ボクは誰にも止めらない!」
「何を……っ!?」
「ボクには……エクスカリバーが待ってるんだぁぁああああっ!!」
ライラの周囲が弾け飛ぶ。闘気解放を使ったようだーね。というかエクスカリバー云々は今はどうでも良いと思うがーね。
「ぬぅぅ!!」
流石は四魔将が一人。周囲が弾けたのにライラと渡り合ってる。近くにいた魔族は吹っ飛ばされたというのに。
「<炎槍魔法>」
アルベリアは、炎の槍を飛ばし他の取り巻き魔族を倒して行く。
「俺様が相手だっ!」
そんなアルベリアに突貫する稀有な個体……アラクネ。下半身が蜘蛛で上半身が人型の男魔族。
「させませんわ。<二重・霊人一体>」
間に入る、エルセリア。その際に契約している二体の精霊とポゼッションした。盾の精霊アトランティスと鎧の精霊メガラニカ。
アトランティスは、エルセリアが手に持ってる盾と同化して一回り大きな盾になった。メガラニカは纏える鎧になりエルセリアの体を守る。両方銀色で絢爛に輝く。
「四魔将が一人、アラクネのガバルドンがお相手しよう」
「……汚らわしい人型魔獣に名乗る名など持ち合わせておりませんわ」
魔族に対し人型魔獣は最大の侮辱だ。人語を介せる知能もない魔の者と言ってるのだから。人族をサルと言うのと同じだーね。尤もサルは、この世界にいない――猿獣人ならいる――ので、アラタに聞いただけなのだけど。
「貴様……良いだろう。せいぜい嬲り殺してやるわ」
「流石は人型魔獣ですわ。口だけは達者ですわね」
嘲笑混じりに返すどこまでも傲慢な物言いのエルセリア。
「エルセリア、守りは任したぞ」
「任されましたわ」
「<飛剣天駆>」
アラタから、一回り大きな剣が飛び出し、それに乗ると空を飛びながら魔王の方へ一直線に向かった。
しかし、魔王に寄り添う二人の黒魔族に阻まれる。ピッタリ魔王に張り付いていた二人は、恐らく魔王の直属護衛と言ったところだろう。
アラタは、その二人の相手をする。ワタシはワタシでライラの回復で忙しい。ライラは元々防御を捨てて攻撃をするタイプなので、生傷が絶えない。代わりにこのパーティーで絶大な火力を誇る。
だと言うのに四魔将のラミア相手に攻め切れないでいた。闘気解放までしたライラを阻める者など今までいただろうか……。否、いない。それだけ四魔将というのは相当な実力者なのだろう。
そうして戦いが暫く拮抗していたが、それが突然崩れてしまう。いや、少し違うねーえ。数を減らしているこちらが有利だった。
魔王は邪重力魔法を使って以降何もしていない。直属護衛二人はアラタが抑えている。ラミアはライラと激闘を続けている。エルセリアは、アラクネの攻撃を耐え忍んでいた。
そして、アルベリアは次々に魔法を唱えて、魔族の数は減らして行った。……そうワタシ達が有利だったのだーね。
「がはっ!」
しかし、アラクネの蜘蛛足をアルベリアの腹を突き刺す。アルベリアの吐血した姿を見て、ワタシはギョっとしてしまう。何故こうなった? よく見ればエルセリアが蜘蛛の糸でグルグル巻きにされていたのだ。
これは完全にワタシの失策だーね。思わず歯噛みをしてしまう。ワタシは、生傷が絶えないライラに気を取られ、他の仲間達に気が回っていなかった。
もし、エルセリアにも気を回していたのなら、また違ったのかもしれない。そんな事が頭の中をグルグル駆け回る。そんな事より、次に行う事を考えなければいけないのに……。
アルベリアは即死だ。蘇生魔法を使えば戦線復帰も出来ただろう。後になって考えるとそれが正しかったと思えた。
だけど、その時は固まってしまい、そんな事をする暇がなくなってしまう。
「アルベリアぁぁぁあああっっ!!」
次に起きたのはアルベリアの死にアラタが動揺してしまった事だ。元々この度は二人から始まった。だからこそこの二人は絆は、誰よりも大きい。
異変に即座に気付き動揺したアラタに直属護衛の黒魔族が、容赦なく襲い掛かる。続けて蜘蛛糸で拘束されたエルセリアが、アラクネにトドメを刺されてしまう。これもワタシが冷静だったなら対処出来たのに。
悔やんでも悔み切れない結果になってしまう。これも全て安全圏にいるというのに冷静に対処しなかったワタシの責任だーね。
そして、ワタシ達のパーティーは崩壊した。残ったのは後方支援しか出来ないワタシと、特攻しか出来ないライラだけだった……。
盾の精霊アトランティスの名前は、某勇者の成り上がりから頂きました
まぁそのままなのはまずいので名前を変えましたけど
メガラニカは、それに合わせたものです