EP.12 決戦前夜 -side Norn-
――――月肆歴1525年9月12日
「ついに明日、決戦だ。長かった俺達の旅も終わる」
「応ッ! 腕が鳴るぜ」
「いーや、アルベリアは腕を慣らさないで良いさーあ。魔法を唸らせて欲しいさーあ」
「これは、ノルン殿に一本取られた」
「景気付けにボクに白いの頂戴。アラタ~~」
「猫撫で声を出すな。キモいぞ、ライラ」
「あ、酷いよ~」
「……相変わらず下品ですわね」
顔を顰めながら呟くのは、最近仲間になったエルフのエルセリア。エルフだけあり、溜息が出る程に美しく、肌は白く染み一つない。ほんと羨ましいったらありゃしなさーあ。
透き通っているエメラルドのようなの瞳で切れ長の目が、ツンとした感じで彼女を引き立てる。金髪で長く腰まであり、アタシが教えた三つ編みでツインテールにしている。
服装はエルフらしく緑が中心だ。緑を基調としたミニスカートのワンピースに緑のズボン。
ただ見た目は良いのだけど潔癖なのよねーえ。エルフは肌に触れられるのを嫌う。エルセリアは、特にそれが顕著ね。
いつもライラのアラタへの発言に不快そうにしているし、何かと挨拶替わりに肩を叩いて来るアルベリアを睨んでいた。
「そもそも、何でアラタはボクを見てくれないの~? 何かとエルセリアを見ているよね?」
「当たり前だ! 女性らしいし、胸も誰かさんとは大違いだ」
「……止めてくださらない? 厭らしい視線を向けて来ないでくださいまし」
女性らしい? たまに聞くけどアタシは、それには疑問だーね。いつも澄ました態度で、クールな言動しかしないし。いや、それが悪い訳ではないが、女性らしいかと問われると疑問しか浮かばない。
まぁ胸に言及され不快感を出すのは、分かるけどねーえ。確かにエルセリアは、そこそこ大きい。アンダーが65位に対しトップが80位はあるんじゃないのかしら?
そんな彼女だが、タンクで前衛でなくてはならい存在。彼女がいるからアルベリアは、魔法に集中出来るし、ワタシは回復に専念出来るだーよね。
「はっはははは……三人共仲が良いなぁ」
「……どこがよ?」
不快感を隠さずにアルベリアに返す。
ちなみにアルベリアは、唯一鎧らしい鎧を纏っている。後衛の魔導士だというのにねーえ。
アラタは胸を守る最低限の軽鎧。ライラは、鎧を嫌い……というより、どうせ格闘戦をしていると直ぐに壊れるので、一番軽装だ。
まぁそれを言ったらワタシもだーね。ジパーング聖王国の和装を好む。帯が邪魔になるので帯がないタイプだーね。ただワタシは二重に着ているので、ライラよりは厚手ではあるが、戦闘となると大差ないねーえ。
「それにアラタよ、毎回思うがノルン殿も女性なのだぞ」
「それは分かってるのだが……」
そこでワタシを出さんでも良い。ワタシに興味ないのは分かる。何せ……、
「ワタシは、コビー族で人族の美意識の範疇に入らないさーあ」
「某は、美しいと思うがな」
「世事は良いさーあ」
「そうだよ~。アラタの中じゃエルセリア、ノルン、ボクって順番なんだよ~」
いや、その三人だけで比べられてもな……。
「だよね? アラタ」
「ああ。もしノルンに誘われたら絶対に襲う」
顔が赤くなるじゃかーい。まぁワタシが誘う事なんて天地がひっくり返ってもないさーあ。何せワタシには『不老』がある。
生命は、子を残し次代に継がないといけない。だから性欲というものが、あるのだろう。だけどワタシは、永遠に生きられる為なのか、その感情が顕著だーね。
かれこれ五十年は生きて来たけど、誰かに惹かれるという感情は持った事がない。いや、アラタに惹かれ一緒に旅に出る決意はしたけど、それは異性としてではない。アラタなら、きっと魔王を倒し平和な世界にしてくれるだろうという期待からだ。
「酷いよ~~。もう何年も一緒にいるんだから、そのエクスカリバーで貫いてよ~」
ライラがぶーたれる。にしてもエクスカリバーが最初何か分からなかったな。アラタは、聖剣なんて持ってなかったから。精霊族の里に訪れた際に秘宝として授けられて、一応持っているけど。
「お前には、そんな感情沸かない。エルセリア、ノルン、一般女子、ライラって順番だしな」
「ボク、一般女子のカテゴリーにも入ってないの?」
ライラが半泣きだーね。確かにそれは酷い。
「……アラタよ、一般女子に入れないのはどうかと思うぞ」
「……ドン引きですわ」
アルベリアとエルセリアも引いていた。
「明日、死ぬかもしれないのに? 最後なんだよ。ボクにカルピス頂戴よ~」
「……今日は、いつにも増して駄々っ子ね」
エルセリアが呆れる。
それに縁起が悪い事を言わないで欲しいねーえ。明日、決戦だというのにさーあ。
そう、今はワタシ達はバイアーラ魔王国に突入し、そこで野営をしている。人族達が結集し囮になってくれているのだ。今も戦っているだろう。
だから、バイアーラ魔王国内で、野営が出来ている。そして、明日は手薄になった魔王城へ攻め込める。
「ライラ殿、決戦前夜に不穏に感じる発言ではないか?」
「決戦前夜だから、景気付けして欲しいんだよ、アルベリア。もし、アラタがエクスカリバーで、ボクを満たしてくれれば、産まないといけないし、絶対に帰らないといけないじゃん」
「……決戦前に貴女のはしたない声を聞きながら、寝たくありませんわ」
「うっ!」
エルセリアの冷たい視線が射刺す。
「分かった分かった。この戦いが終わったら、一回だけ相手してやる」
アラタが遂に折れた! 数年一緒に旅をして来たが、絶対にライラに屈さなかったのに。それだけに新たな仲間であるエルセリアを含め全員が、目を丸くする。
「ほんと!?」
ライラは、喜色を露にする。
「ああ」
「絶対の絶対?」
「絶対の絶対だ」
「あとで『嘘だよ~』とか言わない?」
「言わない言わない」
「ちゃんと中におたまじゃくしを炸裂してくれる?」
「炸裂させるさせる」
「……しつこいし、下品な会話ばかりしないでくださらない?」
あまりにもしつこいしので、エルセリアが顔を顰める。
「ムヒヒヒヒ……」
「ライラ殿、嬉しいのは分かるが……気色の悪い笑いをしないでくれ」
「だってだって、アラタが……。ブヒヒヒヒ……」
「……貴方、これのどこが良いのですの?」
「良くねーよ。俺としてはエルセリアの百倍良いわ」
「……わたくしは、お断りですわ。何が哀しくてニンゲンとそんな事を……」
「それとアラタ。ちゃんと貫く時は『ライラ、愛してるぜ』って言ってくれる?」
「調子に乗るな! 全くこれっぽちも、気なんてねぇーよ。おこぼれで相手してやるだけだ」
「ちぇ……」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
フラグじゃねーか!!
「……主様よ、昔話に対して無粋なのだ」
分かってるよ。最初から結果が見えてるようにしか思えない。何せ魔王の子が出来てるのだから。無理矢理孕まされたなら、育てて欲しいとか言わないだろう。
というかよ、遠方にいる俺の心を読んで突っ込んで来るお前が無粋だっつーの。
「姉上よ、主様がブスだって言っておるぞ」
「ウチがブスなら、同じ顔の貴女もでしょう?」
言ってねぇーよ。ほんとうぜぇーブス妹だぜ。
「はふ~~。言っておるではないか」
「恍惚させながら、クネクネしないでください。気持ち悪いです」
「……続きを話して良いかーね?」
二人のやり取りにドン引きしつつノルンが口を開く。
「すまないねぇ。頼むさぁ」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「明日、朝一で北上し魔王城を襲撃する」
アラタは、顔を引き締め直し北を見詰める。それには合わせて全員北に目を向けた。
「それにしても殺風景ですこと」
そう漏らしたのは、エルセリアだ。
彼女の言う通りバイアーラ魔王国は、殺風景……というより荒野が続く。北に目を向けたが、城等見えずただただ荒野が続く荒廃した大地だ。
だから、魔族達は人類側の領域に足を踏み入れる。魔族からすれば人類側が豊かな土地を享受してるのが許せないらしい。
何せ荒廃した土地では、作物が育たないからねーえ。勿論例外はある。まず海に行けば海の幸がある。
それに東のキアーラ海王国との間には、ヴェネツィア山脈があり、そこでは作物が育つ。だが、そんな土地にも限りがあるし、キアーラ海王国に近付けば国を敵に回す事になる。
数年前にキアーラ海王国で、暗躍? ……暗躍って言えるのか疑問になるけど、あの時のようにそうそう大規模で他の国に行けないかーらね。
「ああ、気が滅入であるな」
アルベリアが同意し頷く。
「だから、明日はサクっと魔王を倒し……」
「帰らないとだーね」
「アラタから種を貰わないと」
「「「…………」」」
ライラの言葉を引き継ぎ引き締めようとしたらこれだ。いい加減にして欲しいねーえ。
「オッホン! この馬鹿は置いておいて」
「あ、酷いよ~。アラタ~」
「黙れ! ともかく明日の朝一で魔王城へ突貫。って訳で、今日は早く休むぞ」
「応ッ!」
「分かりましたわ」
「分かったーよ」
「ブ~」
一人、不貞腐れてるのがいるが、全員早めに休む事にした。