EP.11 不老でーした
「六代前って3000年前の魔王って事かい?」
この世界は500年周期で魔王が誕生する。六代前となればそうなるだろう。
「そうだーよ」
「いやいやいやいや……ノルンさんいくつだい? それ以前にコビー族の寿命はそんなに無いんじゃないのかい?」
コビー族の寿命は、人族の倍の130年前後と言われている。大きさは半分なのに寿命は倍ってのもおかしな話ではあるが。
「……アンタ達、ワタシが魔女と呼ばれている所以を知っているかーら、魔女呼ばわりしたのじゃないかーい?」
ノルンは首を傾げ三つ編みにした長い銀髪が揺れる。
「国王が、魔女と言っていたから」
「……アイツ、国王から降ろそうかーしら?」
ボソっと毒を吐く。一瞬黒い靄が出たような気がした。なんとなくだけど、このノルンって、それだけの凄みがあるんだよな。
まあともかくノルンは、魔女と呼ばれるのを快く思っていないようだ。でも【付与月姫】より、マシの気がするけーどね。おっと口癖が。
「ワタシの称号から、そう呼ばれるようになったのさーあ」
「称号?」
「『称号 不老』だーよ。二十五歳の辺りから老化しなくなったのさーあ」
マジか。じゃあ見た目以上の年齢? 最低でも3000歳以上?
「……………………それはまた……凄い称号だねぇ」
たっぷり間を開けて、絞り出す。途方もない話だからな。最低3000年も生きてるとか。
「お陰で若い頃は、見聞を広げる為と言われてーえ、あっちこっち回らせれたものだーね。いずれこの国を背負って立つ者としてーえ、古代文明の生き証人になるようにってーね」
「だから、この国でのノルンさんの権限は高いのだねぇ」
「そうなるねーえ」
「それで何でノルンさんは魔王の子を産む事になったのだい? というより六代前の魔王の子も存命なのかい? そうなると魔王の子も『称号 不老』を持ってるんだねぇ」
確かにそうなるな。
「順番に話すさーあ。見聞を広める為に、ワタシャ、各国を周り一旦故郷に帰る為に、アムステルの町に訪れていたのさーあ。そこで魔族の大軍に襲われ、死を覚悟したものだーね。ワタシャ、不老ではあるが不死じゃないしねーえ。それに今でこそ魔族を撃退するノウハウがあるさーあ。これもワタシが色々国に提案したのだけーどね」
ない胸を張る。とは言え、人族の半分の大きさなので、単純に倍の大きさと考えればDくらいありそうなので、それなりにはあるのかな?
「のうはう?」
ナターシャは、首を傾げる。まあ英語とか横文字は星々の世界の者には通じないからな。
「知識や技術の事なのだ」
「なるほどねぇ」
すかさずラキアが補足してくれて、ナターシャは得心が行ったかのように頷く。
そんなやりとりを見ながら、ノルンはお茶を飲み干す。
「お茶を頼むさーあ」
「かしこまりました」
部屋の隅に控えていた侍女が頭を下げ、新たなにお茶を注ぐ。
「彼女らも冷えてるだろーう。注いであげてーえ」
「かしこまりました」
「ウチは冷えてる方が、好みなのでこのままで良いです」
「我もだ」
そう言われ、侍女はナターシャのだけを注ぐ。
「悪いねぇ」
「この二人は、冷えてる方が良いみたいだーね。次回は、冷えてるのを頼むねーえ」
「かしこまりました」
侍女は頭を下げて、再び部屋の隅に下がる。
「気を使わせたねぇ」
「客人として持て成すって、言ったしねーえ」
そう言ってお茶を啜る。ナターシャ達もお茶を口にし唇を湿らした。
「話が逸れたねーえ。ワタシャ、魔族に襲われ、死を覚悟したのさーあ。その時に当時は、ただの英雄候補だった転移者に助けられたのさーあ」
「それで一緒に魔王と戦う事になったのかい?」
「その前に色々あったけどーね」
ノルンは、昔を懐かしむように語り出す。
「英雄候補……アラタは、ヒーラーを探していたのさーあ。そして、魔獣も従えさせられれば戦力にもなると思い、キアーラ海王国にやって来たのさーあ」
「その条件にノルンさんが当てはまっただねぇ」
「残念ながらワタシャ、魔獣使役の才はなかったさーあ。それでも付与能力に特化してたお陰で、サポートは得意だったさーあ」
やはりそこから二つ名が来ていたか。
そして不老により、誰よりも気高い存在と認識され月姫と付けられたのだろう。ルビのカノープスの方は良く分からんが。
「ワタシャ、アラタ達と冒険するようになり、色んな国に周り、暗躍していた魔族を撃退したものだーね。他にも魔王対策の秘宝をくれるという精霊族の里に行き、エルフも仲間にしたものだーね」
「当時はニンゲンとも交流がありましたからね」
またキアラが、悪意ある言い方をしてるな。
「1800年前辺りから、断絶したようだーね」
「そうなのだ」
「それなのに二人は、人族と共にいーる。ワタシャ、昔が懐かしくなったよーお。何でいるんだーい?」
「鬼畜変態外道貧魔アークのお陰ですね」
俺が草を通じて見てる可能性があるって知ってるだろ。良くもまぁそんな暴言を吐けるな。ノルンも意味が分からず首を傾げてるじゃんか。
「姉上よ、それじゃ分からぬのだ」
「事実ですから」
「はぁ~。主様……アークは、命懸けで我を助けてくれたのだ。それに精霊族の為に戦ってくれたのだ。そのような者だったので、我は主と仰ぎたくなったのだ」
「それは貴女が勝手に言ってる事です。アークは、主になんてなりたくないと言っていますよ」
「呼び方は自由なのだ」
「全く、貴女は昔からおかしな事ばかり言いますね。大体アークなんかを主にしたがる貴女の気が知れません。あんな鬼畜で外道な男、どこが良いのですか?」
「『アークなら良いですよ』だったか?」
「な、な、な、何を言ってるのですか!?」
キアラが顔を真っ赤にし出す。まあキアラが俺に言った言葉だしな。
「ほらほら、止めるさぁ」
それを止めるナターシャ。もう定番化してるよな。
「なるほどねーえ。そのアークって人族が、よーーっぽどの大物だったのだーね。じゃが、そのアークとやら本人は、どうしたんだーい?」
「前に手痛い思いをしたからねぇ。ブリテント騎士王国の道場の門下生になって力を付けてるさぁ」
「魔王討伐より、大きな使命があると言っていたかーらね」
先程、ナターシャが転移して来た理由は掻い摘んで話したからな。あまり話すべき事ではないが、俺はナターシャの判断を信じてる。
「もしかして、その草で覗いてるのは、アークかーい?」
ノルンは、そう言ってナターシャの肩に付けた花飾りに視線を向けた。
「そうさぁ。良く分かったねぇ」
「伊達に長生きじゃないさーあ」
ただの草なら、分かるかもしれない。忍術のレベルを上げ『花』にした草を作り出せるようになった。それを見抜けるとは、年の功ってやつなのかね。
「そうしてワタシ達は、英雄の称号を得て魔王討伐に乗り出す事になったのさーあ」
再びお茶で唇を湿らしノルンは語り出す。
どうでも良い事ですがカノープスは、『南極老人星』や『寿星』と呼ばれている星の名前です