EP.12 廃墟となった屋敷に向かいました
二日掛けて俺がダークの話を語り終えると、ナターシャちゃんは暫く黙り込んでいた。
やがりおずおずと口を開く。
「……壮絶な人生だったのねぇ」
ナターシャの表情は暗く、それしか言えなかったのだろう。実際その一言に尽きる。
「そうだな」
「ところで、オサムはどうやってダークの半生を見ていたのだい? さっき薬嬢物語を例にしていたけど本かい?」
「いいや、機械技術って言えば良いかな? それがこの世界より発展していて、姿絵より更にリアルにはっきり見えるんだよ」
フルダイブ型MMORPGファースト・ファンタジー・オンラインって言われてもわからんだろうな。
「良くわからないけど、それで見ていたら、気付くとダークになっていたと?」
「そうだ」
「それなんだけど、正直オサムがダークの体を使ってる事はなんとなく信用できたけど、此処とは異なる世界があるって言われても信用できなしねぇ」
「まあ俺もだよ。俺は色々の世界の物語を見た。もしかしたら、此処のように本当にある世界かもしれないし、ただの創作物かもしれないし、それはわからない。まあこの世界は、十一人の英雄の物語がそれぞれあった」
「じゃあオサムは全員の事も見たの?」
「いいや……ダークしか見てないな」
他のキャラをプレイするには、お金が追加でかかる。全員分をプレイとかいくらする事になるやら。
「そうなんだねぇ。ねぇオサム?」
「ん?」
「……戻りたいかい?」
何故か恐る恐る聞いて来る。
「何処に?」
「元の世界」
ああ~。戻れるのかな?
「戻りたくないかな。俺は引き籠って、そうやって色んな物語を見てるだけで、日々腐って行くだけだったからな」
俺は肩竦めてしまう。
「ほんと?」
何故かナターシャちゃんがパーっと明るくなる。いや、わかるけどさ。そこまで俺を想ってくれてるのは嬉しいな。
今まで俺の人生は女っけなかったし。
「ああ、ナターシャちゃんといちゃいちゃできるし」
やばっ! これはまずい。俺には気持ちは無いって散々言ってたしな。
「あたいと?」
「いや、言い方は悪かったな。ナターシャちゃんと話せるから。あそこでの暮らし本当は楽しかったよ。ずっと一人で腐ってた俺に勿体無いと思う程」
「それってあたいが好きだって言ってるから都合の良い女にしてない?」
ええ~。そうくる?
いや、この悪戯な笑みは、態とやってるな。これ何て言えば正解なんだ?
何て言っても矯正、ペッシーンが待ってるだろ?
「そんな事はないよ」
「じゃあもうあたいとはしなくても平気?」
そう言って抱き着いてきた。しかも胸を押し付けるように。絶対態とだ。あざと過ぎ。
「……ナターシャちゃんが拒むなら……っていうか態とだよね? これどう言っても矯正って展開に持って行こうとしてるよね?」
「バレたか」
やっぱり。
しかも覚醒したビッグマグナムを握ってくる。
「こんなにしちゃってさぁ。本当に拒めば我慢するのかね」
「じゃあくっつかないで」
「それは嫌さぁ」
「さっきからズルいよ。と言うかあざといのは嫌いなんだけど」
「でも、いちゃいちゃできるからこっち世界のが良いんじゃないかい?」
もう勘弁してください。
「ただあれだ。一気に歳が老け込んだのが難点だけどな」
無理に話題を変えた。
「あーオサム逃げたさぁ」
それは逃げますとも。
「まぁ良いさぁ。オサムは若かったのかい?」
そう言いつつやっと離れてくれた。いや、ほんとはくっついていたかったけど。だから俺が抱き寄せる。
「まだ十代だった」
「へえ十代ねぁ……それでこれは何のつもりだい? 言ってる事が滅茶苦茶じゃないかい?」
「ナターシャちゃんが可愛いのが悪い」
「あたいだってね意識したりするんだよ?」
あ、理性が飛んだ。
「……また、やってしまった」
罪悪感に包まれる。
たぶん俺はナターシャちゃんの気持ちに答えなれないから。
「こんなんで拒んだら我慢できるのかねぇ」
「もう矯正でも何でもしてください」
顔を突き出す。
「……ちゅ!」
キスされた。
「ねぇオサム。こらからの事が片付いたら、また一緒に暮らさないかい?」
避けてたのに……。
その話をするの?
「………」
「嫌なのかい?」
「……いやそういうわけでは……」
どう答えたものか。
コンコンっ! と、その時ノックが響いた。
「……はい」
「ストラトス殿が到着されましたとダーク殿に伝えるように仰せつかりました」
フィックス兵が扉の向こうでそう言う。
「……わかった」
「やっぱり危険なの?」
ナターシャちゃんは先程の続きを話してるのだろう。
「たぶん。俺は帰って来れるかわからない。だから、はっきり約束できない」
「じゃあ、あたいも行ってオサムを守るさぁ」
はいっ!?
「聞いてないよ?」
「うん、言ってないからねぇ」
あっけらかんと。
「言ったら賛成したかい?」
そう続ける。
「しない」
「でしょう? だからギリギリまで言わなかったさぁ。他の人には、もう行くって伝えてあるさぁ」
外堀埋めやがったのか。
「は~来るなって行っても来るんだろ?」
溜息が漏れる。
「ええ! だから、終わったら一緒に暮らそうねぇ」
「いや、それ死亡フラグ」
「死亡ふらぐ? 何だいそれ?」
「いや良い。こっちの世界には馴染みのない言葉だから。ともかく約束は出来ない」
「まさか死ぬ気なのかい?」
「そんな事は、更々無いよ。でも、ナターシャちゃんさっきの話で気付いてるでしょう? 今回の黒幕」
「ダークの相棒だねぇ」
そうダームエルだ。
「これは本来ならダークが決着を付けないといけない事。だから代わりに俺がやらないと」
「それで何で約束できないの?」
「その結果がどうなるかわからないからだ」
いや俺の中では、もうわかってる。
予感がする。でも、杞憂に終わって欲しいのでフラグは立てたくない。
「じゃあ終わった時に、あんたが目の前にいたら引きずってでも、あたいの家に連れ帰るからね」
「それより早く行くよ。さっきイッたばかりだけど」
「下品過ぎる……矯正」
ペッシーンっ!
結局ひっぱ叩かれた。
まあ有耶無耶にする為に態とだったんだけど。
ルティナが南から強い気配を感じるという事で、俺達は南の小島にある廃墟となった貴族の屋敷に飛空船ファルコンに乗り込みやって来た。ちなみにだが、俺達が客間に引き籠っている間に、ユキも合流していた。
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「やはり魔物が沢山いるな」
エリスが下を見て呟く。
まあ予想は付いていたがな。此処が要の場所なら守りは厳重だろう。
サンダーバード、オークキング、オーガキング、ビッグゴーレム、下位悪魔等々、種類を数えるのも馬鹿らしい。
「エリス、わかってると思うでガンスが……」
「もう何度話した? わかってる、ロクーム。私は此処で待機してる」
「じゃあ編成でガンス。まず俺様、ユキ、サラは北側でガンス」
「わかったユキ」
「承知した」
って何で、お前が仕切ってるの? しかも編成って何?
「エーコ、ラゴスのじーさん、ムサシは西側でガンス」
「わかったよー」
「わかったのじゃ」
「承知したでござる」
「ルティナ、ガッシュは東側でガンス」
「わかったわ」
「わかったわかった」
ってこっちは二人だけかよ。まあ二人とも強キャラだからなんだろうけど
「ダーク、ナターシャ、アル、エドは一番多い南側でガンス」
「わかったわ」
「おお」
「わかった」
一番多いとこかよ。
まあそれで四人なんだろうけど。
って、それより暗殺者ロールプレイを……、
「……ああ」
「じゃあ各自検討を祈るでガンスよ」
何で、こいつが仕切ってるのか釈然としないが、俺達は各自の持ち場に降り立った……。