EP.07 魔女が問題でした
-1301――――月陸歴1517年10月15日
「吾輩は、キアーラ海王国の国王フォートローダデール=イネ=キアーラであーる」
謁見の間で跪くナターシャ達三人。
「……ハルラスですか?」
「姉上、黙っておくのだ」
キアラが、ボソっと呟く。ハルラスとは、同じ妖精族で珍しい事に武技に秀でた槍使いの中二病だ。一人称が同じだったのだけなのだが、ツッコミたかったのだろう。
というか今更だが、キアラの名前ってこの国の名前と被ってるような。マジで今更だが。
「此度、こちら申し出を受けてくださり、お目通りしてくださった事、感謝します」
代表で、ナターシャが俯いたまま口を開く。
「うむ。面を上げよ」
ナターシャ達三人は、面を上げる。
「して、何用により謁見の申し込みであるか?」
「まずこちらを……是非読んで頂きご検討を」
ナターシャは親書を兵に渡す。兵は何か罠とかないか親書を一通り確認。それが終わると国王に渡す。国王は、それに素早く目を通す。
「ふむ……魔王討伐の要請であるか。残念ながら、お受け出来ぬな」
かぶりを振り断る。ただその表情に憂いが満ちていた。
「せめて理由を聞かせて貰えませんか?」
まあそれさえ聞ければ依頼は、半分成功だしな。
「実はな……吾輩にそれを決定する権限はないのであーる」
「国王……ですよね?」
「内政なら吾輩の裁量で大抵好きに出来る。だが……外交となると吾輩にそんな権限はないのだ。言わば雇われ店長のような立場であーる」
おどけたように言う。雇われ店長って……言い換えればオーナーがいるって事? 国の行く末をその者が決めているという事?
「其方らは、魔女を説得しに行くか? 魔女さえ説得出来れば、吾輩としても有難い。いつまでも魔王討伐に消極的なのも限界を感じると思っておった。ましてや今回は、メハラハクラ王国がやってくれたのであーる」
後半憤慨するように言う。
「魔女……ですか?」
「現Sランク冒険者である【付与月姫】のノルン殿であーる」
その言葉にナターシャ達は目を丸くする。現存するSランク冒険者は、十人にも満たないと言われている。勿論そんな人物の名が出たのも驚きだが、何より一国の王より、Sランクとは言え冒険者のが、地位が高いと言ってるようなものなのだから。
「Sランクとは言え、冒険者ですよね?」
ナターシャが首を傾げる。
「我が国では絶対的な支持を集めておる。現人神のような扱いであーる。そのノルン殿の意向を無視すれば、反発は必至。この国は荒れるのであーる」
現人神? それはまた大言壮語じゃねぇのか? 何を言ってるのだ?
そもそも二つ名が意味不明。付与はなんとなく察せれるけど、月姫ってなんだ? アル〇ェイドさんですか?
まあ姫は、美しいとか気高いとかの比喩で使われるが、月はこの世界を象徴してか? つまり、この世界で一番美しく気高い? それこそ大言壮語だろ。そもそもルビのカノープスって何だよ?
「お友達にカレー大好きシ〇ル先輩がいるのだろうか?」
ラキアがボソっと呟く。
だから、何でお前がそのネタを知っているんだよ。
「なんとなくなのだ」
もう良い。
「そのノルンさんを説得すれば宜しいのですね?」
「うむ。吾輩としても、魔女が魔王討伐参戦に賛成してくれる方が助かるのであーる」
「分かりました。では、何処へ行けばシエル……失礼、会えるでしょうか?」
ラキアがアホな事を言うから、ナターシャが意味不明な事を口走ってるじゃねぇか。
「北であーる。今から地図を用意する。それから文をしたためよう。それを渡せばスムーズに会えるであろう」
「ご配慮ありがとうございます」
それから暫く待たされ地図と手紙を渡された。ただね、このノルンって人のとこに最短で行こうとすると、途中で町とかなくて、野宿になりそうだ。まあ遠回りすれば町や村があるのだけど。
魔獣が跋扈しているので、安全を考慮して、のんびり北を目指し三日目で到着した。
まあ魔獣だけではなく、賊もいたのだけど。とは言え、キアラとラキアを子供と侮り、あっさり撃退されていたけど。というかキアラは、そう言った手合いに容赦がない。
「なんですかアレ?」
「戦ってるようだねぇ」
「魔獣通しを戦わせてるようなのだ」
真っ先にキアラが異変に気付く。
ラキアの言う通り魔獣通しが戦ってるようだ。魔獣使いがノルンの家に攻め込んで来た?
「ほら、そんなカス共を叩き潰せ!」
「ヘイ! ハッタリックさん」
ん?
「あれはハッタリックじゃないかい?」
「そうのようですね」
「そのようだ」
ハッタリックが、ノルンの家を襲撃している連中のリーダーってとこか?
アイツ何してるんだ? ビオサーラを狙うなら、うちの道場か目障りな骨根を襲うだろ。
なのにこんなとこで、油を売って……しかも配下も従わせているし。アルノワールは、いないようだけど。
「とりあえず、去年のりぺんじ? とやらをするさぁ」
「それを言うならリベンジなのだ」
ナターシャが、慣れない英語を使いラキアに突っ込まれる。
「そのりべんじ? をするさぁ。エレメント・ランス」
ナターシャが魔力で精製した矢を放つ。が、ハッタリックは、背中に目が有ったかのような如くあっさり矢を掴み、握り潰し振り返る。そして、醜悪な笑みを浮かべる。
「貴様らが来てるのは、分かってるんだよ!」
まあ龍気による索敵気法を使えば可能だろうな。
「貴様らを潰し、あの雑魚アークの見せしめにしてやるよ。ひゃーはっはははは……」
更に顔を歪ませ嗤う。というか、こんな醜悪な笑いをする奴だったか?
変な薬でもやってるんじゃないのか? それとも邪の力を借りた副作用か?
「なら、もっと飛ばすさぁ」
ナターシャは、弓を連打。次々に魔矢が装填され放つ。それも色んな方向へ。
なのにその矢達は、途中で方向転換。ハッタリックを狙う。エレメントアローの性能を前以上に引き出して来たのだろう。今までのナターシャは、真っ直ぐ狙いを定めていたのに。
「ひゃーはっはははは……効かね、効かね!」
飛んで来た全ての矢を拳で弾いて行く。
「ほら、こっちからも行くぞ」
拳を真っ直ぐ突き出すと龍気技が飛ぶ。それも右、左、右、左と連続で拳を突き出し龍気技を数発飛ばす。
「やらせませんよ。<光防御魔法>」
「こちらもだ。<闇防御魔法>」
キアラが銀色を帯びた透明なシールドを張り、ラキアが黒色を帯びた透明なシールドを張り、ナターシャを守る。ナターシャはシールドの内側にいながら、魔矢を放ち続ける。まあ正面は、キアラ達がいるので、上方向が中心だけど。
「ちっ! めんどうくせーな」
魔矢を拳で弾きつつ前に進む。まずいな。ハッタリックの本領は接近戦だ。距離がゼロになれば、あんな防御魔法を簡単に壊せるだろう。
地図は大体の目安です