EP.06 巨大亀でした
-1314――――月陸歴1517年10月2日
ナターシャ達は、トリスタン海洋町の宿屋でのんびりしていた。転移魔法で、一瞬で移動したは良いが、魔獣が停泊するのは五日後と聞いたからだ。
しかも朝から停泊し、夕方まで客を待つのだとか。随分ゆっくりしているのだな。そんな訳でナターシャ達は昼頃に停泊場所に向かう。
「これはまた大きいさぁ」
「そうですね」
「これはまた凄いのだ」
三人して感嘆の声を漏らす。
そこにいたのは全長1㎞はありそうな巨大な亀だ。霊獣アスピロケドン。
そして、そんな巨大亀を停泊している陸地では、逆に小さい女の子がいた。いや、女の子と言うのは失礼か。働いてるという事は成人しているのだろう。なんにしてもギャップが凄い。
身長は80cm程度。キアラ達ですら125cmくらいあるのだが、その妖精族より小さいのが、コビー族だ。
「いらっしゃいませ! 夕方には出航します」
コビー族が、ナターシャ達に気付くと微笑み頭を下げた。
ナターシャは、王宮で貰った手形を見せる。
「王家からのお客様ですね。お会計は頂いておりますので、どうぞお乗りください。それからこちらが、お部屋の鍵になります」
そうして鍵を受け取り巨大亀アスピロケドンに乗り込む。
すると中心の辺りにポツンと家……いや、屋敷があった。もうなんか不自然な光景だ。例えるなら東京ドームの中心にポツンとテントがあるような不自然……いや、不釣り合いって感じだ。
そこまで歩いて行くのがまたダルそうだな。まあ全長1kmだとして単純計算で500m程度なのだけど。
ナターシャ達は中心まで歩き、屋敷に入る。これは宿泊施設だな。何せキアーラ海王国まで三日は掛かるらしいから。寝泊りする場所や暇を潰す娯楽施設等が必要だろう。
ただ気になるのが、この亀は海底に潜れなくない? 亀も深海でのんびりしたい時もあるだろう。これどうしてるんだ?
「ユーも来たんやな。もしかしてワイに……」
「有り得ないさぁ」
相変わらずの塩対応。というか何処にでも現れるな巳の道場の金髪フサ~。
「おぉ~イエェ~! おぉ~イエェ~! そう言いながらワーイに貫かれ……」
「間に合ってるさぁ」
腰を振りながら何か言ってるが、とりあえずキショいな。
「だから、待たんかい。ユーもエクスタシィィ~を感じたいんやろ?」
「だから、間に合ってるさぁ」
「なぁ姉上よ、こやつ頭おかしいだろ?」
「知りません。アーク並みに気持ち悪いので見たくもありません」
キアラが目を反らしながらまくし立てように言う。という俺並ってふざけんなよ。こいつよりマシだろ。
「まーたワレ達か? ワレ達がいるから、この女が塩対応なんやろ! いくら自分が貫かれたいかって言って邪魔するなや」
「気色悪い事を言わないでください。貴方なんかの相手をされるくらいなら、ホームレスに相手をされた方がマシです」
キアラよ……流石にそれはないだろ。病気になるぞ。
「姉上よ、せめて『風呂に入れた』を付けたホームレスが良いと思うぞ」
「そういう問題じゃないと思うさぁ」
ラキアがドン引きしつつ突っ込み、それに呆れるナターシャ。
「ワレ……ワイを誰だと思ってるんや?」
「相手する価値がない者さぁ」
「気色悪い金髪ですが、何か?」
「巳の道場がどうとか言ってなかったか? どうでも良いけど」
ラキアだけ、なんかまともな返しをしているな。ナターシャとキアラは、丸でゴミを見るような蔑みの目をしている。
金髪フサ~は、眉をピクピクさせつつ固まってしまう。まあ散々言われようだしな。それを良い事にナターシャ達が、さっさと通り過ぎる。
次の日、朝食を摂る為にラウンジに向かうナターシャ達。
「おぉ~イエェ~! おぉ~イエェ~!」
なんか金髪フサ~が、ラウンジで働く女コビー族を目で追い鞭を擦ってるな。巳の道場は、鞭を教えてる道場なので、鞭を持ち歩いてのは良いとして、何故擦ってるんだ?
シコシコ……シコシコ……シコシコ……!
「何してるんだ? アレは」
「見るんじゃないさぁ」
「見たくありません」
ラキアが問うと、ナターシャが視線から外すようにラキアの顔を背けさせる。キアラは、必死に見ないように目を瞑り、視線を逸らす。
やがて金髪フサ~は、ナターシャを視界に収めると、目をクワっ! と開けて舌なめずりを始める。丸で獲物を見付けたかのように。
シコシコシコシコシコシコ……!
鞭を擦る手が異常に早くなる。
「おぉ~イエェ~! おぉ~イエェ~! ……ビクンビクン」
キモイなぁ。鞭を擦って何で果てるんだよ? 意味不明。
「<炎刃魔法>」
キアラは、炎刃魔法を十個展開。低位とは言え十個も展開したのは流石と言えよう。炎の刃は、金髪フサ~の鞭をズタズタに切り裂く。
「のぉぉぉぉ~~~~~ッッ!!! ワイの……ワイの……半身である鞭がぁぁぁ~~~!!」
「部屋に戻るさぁ」
「食欲が無くなりましたね」
「全くなのだ」
げんなりとしたナターシャ達が、部屋にいそいそと戻り始める。まああんなの見たら食欲も失せるわな。
「酷い……酷過ぎる。これが人間のする事かよぉぉぉぉッッ!!!!」
いや、妖精がした事です。
「雨〇龍〇介か?」
だから、何でお前がそのネタを知ってるんだよ?
「なんとなくなのだ」
また遠くにいる俺の心を読みやがって。この変態ドクズ妖精が!!
「はふ~」
「貴女も気持ち悪いですね。恍惚しながらクネクネさせないでください」
その後は、問題無く三日が過ぎてキアーラ海王国の港町レシーフェに到着した。あの金髪フサ~とも出くわさなかった……というより、出くわさないように立ち回っていた。
が、流石に降りる時までそうは行かない。降りたとこで待ち伏せされていれば尚更。
「ヘイ! ワーイが案内して……」
「結構さぁ」
安定の塩対応。
「ワイの太くて長い棒が欲しいくせに」
腰振りをし出す。マジでこいつなんなんだろ?
「間に合ってるさぁ」
「気持ち悪いので、消えてください。むしろ何で生まれて来たのですか?」
「ナターシャにちょっかいかけるなら、アークを倒してからにするのだ」
キアラが汚物を見るような視線を向ける。ラキアは、なんか俺を引き合いにしてるし。
「あーう! その視線、ゾクゾクするんや! おぉ~イエェ~! ビクンビクン!」
「ッッ!!!!????」
キアラの汚物を見る視線で、恍惚させブルブル震える。キアラは、ドン引きして飛んで逃げてしまう。それを追い掛けるナターシャとラキア。
そうして三人は、急いで町を移動する。本来は、港町レシーフェで一泊する予定だったが、またあの金髪フサ~に出くわしたくないのだろう。なので急いで次の町に向かう。
やがて、日が暮れた頃にアムステルの町に到着し、やっと一息付けて宿屋で一泊出来た。
そのまた次の日、王都ストックホルムに到着。どうでも良いが、ヴェネツィア、レシーフェ、アムステル、ストックホルムと全て水の都の名前だな。流石キアーラ海王国だ。
ただ王都ストックホルムに到着したは良いが、国王との面会の予約を取り、許可が下りるまでに十日掛かり、三人共げんなりしていた……。