EP.03 通り名を決めました
話が逸れてしまったが、トリスタン海洋町で惨劇があり、暫くキアーラ海王国に渡るのに制限が入った。更に元々あちらの力で、渡るのでこちらから渡る際にはお金が掛かる。
しかも、ナターシャは倹約家なので、わざわざ大金を出してまで行こうとは思わなかった訳だ。
まあ俺が行けと言えば転移魔法先を増やす為に行っただろうが、俺は好きにしろと言ったしな。それにもし行くならぶっちゃけクルワーゾ騎馬王国に行って貰いたい。
何故なら、メハラハクラ王国でアルノワールが暗躍していたからだ。もしあいつの企みが成功していたら、小競り合いをしているクルワーゾ騎馬王国との均衡が崩れただろう。
と、なるとクルワーゾ騎馬王国に何かあるのかもしれない。尤も危険な事はさせたくないので、行けとは言わないけど。
エーコのように破邪顕聖が付いた武具を持っているなら、考えただろう。
「あの……依頼のご説明の続きを宜しいでしょうか?」
仲間内でコントをやってると、困惑気味にギルド受付嬢が声を掛けて来る。
「あ、すまないねぇ」
「いえ……それでキアーラ海王国に渡り親書を届けて欲しいのです」
「それだけ?」
「そして、親書の内容に同意して頂くように説得して欲しいという依頼です」
なんじゃそれ。親書の内容次第では、納得出来ないってなるだろ。それで依頼失敗とか難し過ぎだ。
「王家からの依頼って事は、あっちの王家に届けるのよねぇ? あたい達に王家の説得をしろと?」
それは無茶ぶりだろと、言外に含める。確かにな~。
「ですが、王家では難しいものでして……。何より世界に危機なので、藁にも縋るような思いなのです」
「どういう事だい?」
「魔王討伐についてです。協力体制で事に当たりたいという親書なんですが……」
「何か問題があるのかい?」
「キアーラ海王国は、ここ数千年人類で一丸となろうとされないのですよ」
数千年? 桁が凄いな。
「しかも、あの国は魔王誕生毎周期の度に一番被害が少ないので、軍事力とか高い筈なんですよ」
誕生周期って五百年だよな。それで毎回被害が少ないとか、凄いな。ウルールカ女王国で見た記録によれば、滅んだ国もあるってのに。
もしかしたら、数千年ずっと『キアーラ海王国』って名前なのかもな。
「何故一丸とならないんだい?」
「それは分かりかねます。ですが、これまではそれでも良かったのです。いえ、あまり良くはないのですが、マシだったと言うべきですかね」
「今回は、それじゃダメなのかい?」
「はい……ナターシャさんは、メハラハクラ王国が大量に勇者召喚を行った事はご存じですか?」
「知ってるさぁ」
またあの国絡みか? 月光世界に転移直後から、あの国では面倒事ばかりあったな。
「そのせいで、各国で勇者召喚を行えずに保有する軍事力のみで対応しないといけなくなりました。つまり各国との連携が、より重要になって来たのです」
ウザい話だな。確かアレだ。勇者召喚をする場合は、数人が暗黙の了解になっている。それをメハラハクラ王国が破り一気に呼んでしまって、各国が迷惑してるって話だろ。
勇者召喚には、大量にMPや魔力が必要で、下手すると死者まで出る過酷なものらしい。そして、数人呼ぶだけで次回何処かの国が、再び呼ぼうとすると消費MPと魔力が増えるとか。
なのにメハラハクラ王国が大量に呼んでしまったので、他の国が呼べなくなってしまったのだとか。
「それで何で、あたい達なんだい?」
「正確には冒険者ですね。国同士で協議しても、魔王討伐には参加しないという一点張りで、話も聞かないらしいです。なので、手段を変える事にしました。そこで冒険者なら理由等も聞き出せるかもしれないって事で、ナターシャさん達に白羽の矢が立ちました。よって理由が知れるだけでも成功扱いにし、Aランクに昇格出来ます」
態々同意を得られなくても良いのか。
「但し、その場合は成功報酬が半額になります」
ケチくせ~。
「あたい等で平気かねぇ」
「少なくても神獣を従えているので、心象は良いと思います」
そう言って、ナターシャの腕に捕まるファーレに目を向けた。
まあ従魔契約が盛んな国だしな。
「残念ながら、妾は同行出来ぬ」
「「「「えっ!?」」」」
受付嬢を含め全員が目を剥く。何故に?
「妾は、そろそろ成長期に入る。故に長期睡眠に入らないといけない」
寝るの? 冬眠? まだ秋にも入っていないのに?
「それはどれくらいだい?」
「数年は眠りに付く」
ナターシャの問いに答える。
そんなにもか。どんだけ寝るんだよ!? 寝〇郎かよ。
「……いずれにしろ従魔に対し理解があるので、心象は良いでしょう」
受付嬢が目を反らしながら、フォローしてるし。
「そんなに切迫してるのかい?」
「このままでは、我が国と戦争になるかもしれません。魔王が誕生してるので、そんな余裕はないのですが……」
「それは困るねぇ。分かったさぁ。受けるさぁ」
ほんとそれなぁ。もし戦争になったら、俺が駆り出される。修行する為に門下生になったので、一国家の為に戦うつもりはない。
だが、道場に入った以上は国の要請に従うのが、この国の法だ。
「では、Aランクに昇格した際の通り名を決めます」
「通り名?」
ナターシャが首を傾げる。
え? つまり二つ名って奴だよな? そんな痛いのを決めるの?
「Aランク冒険者は、言わば国に認められた冒険者です。特権もそれなりにあります。なので一般の人へ浸透出来るように通り名を作っているのです」
「ちなみにメハラハクラ王国のメンサボの町のギルドマスターは、なんて通り名だい?」
「少々お待ちください」
受付嬢が少しの間、奥に引っ込む。
懐かしいな。確かにあの時、鑑定して元Sランク冒険者だったとナターシャに伝えたしな。
「お待たせしました。ガリラウス様の通り名は、【聖魔鍛冶】です」
「なるほど。それで、それをあたい等が勝手に決めるのかい?」
「いいえ。ナターシャさん達をご存じの冒険者ギルドや、王家の方々が候補をいくつか作っております。その中から選んで頂く事になります」
そう言って、受付嬢が一枚の紙を取り出す。それを興味深そうににキアラとラキアが覗く。
その瞬間、キアラの眉がピクっと動く。
「……ふざけてるのですか?」
「いいえ、そんなつもりはございません。皆さん真面目に考えられたようです。私はそのリストを出しているに過ぎません」
キアラの声音に怒りが滲む。受付嬢は、自分は関係ないですよってスタンスを取ってないか?
「爆裂姫、地雷幼女、破壊の乙女、憤怒の女王……何故姉上のばかりなのだ?」
「恐らくキアラさんの冒険者登録が鮮烈だっからでしょう」
ラキアが疑問を投げ掛けると、にこやかに答える受付嬢。
鮮烈だったとか、またオブラートの表現をしているな。実際は『過激だった』とか『強烈だった』だったとかなんだろうが。
何せキアラは、登録の際に優秀な冒険者に喧嘩を売る発言をし、訓練所で戦う事になったからな。しかも訓練所を滅茶苦茶に破壊した。デストロイヤーとか言われてもおかしくはないな。
「こんなのを通り名とやらにされるなら、ウチはAランク昇格試験を受けません!」
自業自得だが、めっちゃ憤慨しているな。
「なら姉上、これにすれば良いではないか」
ラキアが、リストの一点を指差す。
「紅玉……ですか?」
「姉上がソレにするなら、我はこれにするのだ。我らは似たようなものにするなら、これ以外にないのだ」
「ラキアは、藍玉ですか。貴女には似合わないものですが、確かにウチらが対になるのは、それしかないですね」
「では、お二人はそちらで宜しいですね?」
「そうするのだ」
「分かりました。それならまだマシでしょう」
どうやら、キアラは紅玉にし、ラキアは藍玉にするようだ。
「じゃあ、あたいはこれにするかねぇ」
ナターシャも一点を指差す。
「分かりました。それでは依頼の成功時に、そのように受理させて頂きます。それでは、まずは王宮に行き親書を受け取ってください」
「分かったさぁ」
「四人パーティーではないので、正式なパーティーではありませんが、『アサシンズ』への指名依頼兼Aランク昇格試験になります。どうぞ、宜しくお願いします」
こうして三人は、ブリテント騎士王国の王宮に向かう事になった……。
前にラキアが暴れる回を作りましたが、その時のサブタイは『藍玉の激怒』でした
はい、どうでも良い伏線回収ですね(笑)