EP.02 Aランク昇格試験を受けようとしていました
-1319――――月陸歴1517年9月22日
「では、ウチから行きます。<百炎槍魔法>」
短い赤き髪が魔法の風圧でなびく。頭に付けた白木蓮の花飾りがトレードマークの幼女。
赤いラインが入ったセーラー服の制服をはためかせ、ちょいちょい水色のものが見えるが、これはロンパースで下着ではない。
背中には途中から上下に二股に分かれた羽根が二枚生えており、それを媒体に空に浮かぶ妖精族。
毒舌だし、沸点が低く直ぐにキレる地雷妖精と呼ぶべきだろうが、職業は紅蓮妖精のキアラだ。
キアラは百炎槍魔法を地上に向かって照射。が、標的達に当たらず地面に突き刺さる。
標的達は、逃げるように方向転換。
「では妾だな。<炎の羽>」
方向転換した先で、複数の燃え盛る羽を飛ばす紅蓮の翼をした鳥。一年でかなり成長し羽根を広げた時の全長は1m半にもなっていた。
鳥は鳥でも神獣と言われる最上位の魔獣。俺とエーコの従魔であるディスファーレ……通称ファーレだ。
ファーレが飛ばした燃えてる羽は、地面に突き刺さる。またしても標的達に当たらず。
再度標的達は方向転換した。
「あたいの出番さぁ。<岩壁魔法>」
続けて白身の強い金色の髪をなびかせるナターシャ。
青を基調としたドレスに身を包み白銀の軽鎧を付けた姿は戦乙女のようだ。
髪は長く腰の辺りまであり、下の方で大きなリボンを付けている。その為に髪全体がふわりふわりと舞う。
標的達は岩の壁により、逃げ道を塞がれまたしても方向転換。
「最後に我が決めてやるぞ。<凍結魔法>」
偉そうな物言い。不遜な態度。それでいて…………………………
変態。
魔法で出した氷に反射した日の光で輝く青い髪。頭に付けた百合の花飾りがトレードマークの幼女。
キアラと同じく背中に途中から上下に二股に分かれた羽根が二枚生えている妖精族。こちらはキアラと違い水を得意としており、職業が激流妖精だ……とは言え、今は氷属性の魔法を使ったが。
青いラインが入ったセーラー服を着ている。ただ地上にいたので、そこまでスカートがはためかずに中が見えなかったが、下には桃色のロンパースを着ている。
その変態妖精……もとい激流妖精はキアラの双子の妹であるラキアだ。
ラキアは標的……アルミラージを全員もれなく凍結させた。
アルミラージとは角の生えた兎の魔獣で、普通の兎の二倍の大きさがある。
で、彼女らが何をやっていたのかと言えば追い込み漁業だな。複数いたアルミラージを一ヶ所に追い込んで捕まえるものだ。その為、アルミラージ達には傷一つない。
「終わったようだねぇ。じゃあ収納するさぁ。<次元収納魔法>」
ナターシャが、次元収納魔法で氷漬けにしたアルミラージ達を収納した。
「これで依頼が達成しましたね」
「我のお陰なのだ」
「貴女は、調子に乗り過ぎです。そもそもウチが追い込まなくても、さっさと凍結させてください」
「ならば姉上が、すれば良いではないか? あぁ~全て消し炭になってしまうな」
「なら、貴女を消し炭にしましょうか?」
「はいはい。止めるさぁ」
いつものように双子妖精がやいやい言い合いを始める。そしてこの一年で、それをナターシャが止めるというのが定番化していた。
「ナターシャよ、ギルドに戻るのか?」
「そうだねぇ。またあたいの腕に捕まっているかい?」
大きくなり過ぎたので、頭には乗せられない。かと言って自由に飛ばして町中に入ると神獣とは言え、ただの魔獣と勘違いされ、攻撃されてしまう。まあされなくても住民を脅かしてしまうからな。
「いつもすまない」
「良いさぁ」
そうして依頼を受けた冒険者ギルドに戻る。彼女らは現在ブリテント騎士王国の王都キャットを拠点としていた。なので王都キャットのギルドだ。一応この一年でブリテント騎士王国中を周ってはいた。
「ヘイ! 彼女、ワイと……」
「結構さぁ」
冒険者ギルドに入ると金髪で前髪を立てたおかしな奴が話し掛けて来た。しかも『ふさ~』と言った感じで自然な感じで立っている。固めている感じはない。
その者の会話をまともに聞かず、バッサリ切り捨て奥に向かう。
「待つさぁ~。ワイをだれ……」
「興味無いさぁ」
「ワイは……」
「<小黒穴魔法>」
ラキアが、小黒穴魔法を唱えそいつのケツの直ぐ傍に、黒い穴が空く。
「のぉぉぉぉ~~~。ワイの……ワイの……おしりが~~。おしりが~~~」
アレ一体何だったんだ?
ともかくナターシャ達は、受付嬢のとこへ行く。
「ナターシャさん、お帰りなさいませ」
ギルド受付嬢が頭を垂れ、そのままギルドの奥へ通される。
「依頼は完了したようですね…………………………二十、二十一、二十二。二十二頭ものアルミラージを捕獲ありがとうございます。こちら報酬の大銀貨と中銀貨六枚ずつになります」
日本円換算で、一回の依頼で66万も稼いだのか。尤も大体の計算なので、文化も違うし正確ではないが。
まあ無傷で、しかもこんな大量に捕まえられる者なんて早々いないだろうけど。
そのアルミラージの解凍をキアラが行いながら、一頭ずつ檻へ入れて行く。
「ありがとうさぁ」
「それから、ナターシャさん達に指名依頼が来ました」
「指名? 何処からだい?」
「その前に、ソファーの方へどうぞ」
そう言って近くにあったソファーを勧める。ナターシャとラキアは大人しくそこに腰を下ろす。
それを確認すると受付嬢は、テーブルを挟んだ正面に座る。
「それで指名依頼ですが、ブリテント騎士王国の王家からです」
「はい!?」
ナターシャが目を丸くする。そりゃいきなり王家から指名依頼とかビックリするだろうな。とういうか、今まで接点なかっただろ。俺と違って。
俺は辰の道場の門下生になったで、師範と王宮に行く事もあった。
「しかもAランク昇格試験も兼ねます。流石ですね」
「いやいやいやいや……こないだBランクになったっばりじゃないかい?」
「そうですね」
「実績とかあるんじゃないのかい?」
「ありません」
「はい!?」
再び驚く。いや、ないの? え!? Bランク以上は実績がないとなれないって規定だった筈。だから飛び級しても俺達はCランク止まりだった。
まあナターシャ達はこの一年で、その実績を積みBランクになったのだけど…………………………先を越されてしまったぜ。
そんな話をしていると、解凍処理を終えキアラもナターシャと同じソファーに座る。
「いや、Bランク以上は実績が必要だって?」
「正確にはBランクはですね」
「そうなのかい?」
「はい。ただ別の実績がないとAランク昇格試験は受けられません」
「別の?」
あ~……Bランクまでは冒険者ギルドの規定による冒険者の実績って意味だったのかな? そしてそれ以上に昇格する為の実績とは? 果たして……、
「国が推薦し、三国が同意する事が条件です。つまり国に名を売った実績が必要なのです」
「そうだったのかい」
「本来この達成が難しいのですが、ナターシャさん達は、Bランクになる前から達成していましたね」
「そうなるねぇ」
「流石です」
「ありがとうさぁ」
「さて、今回ブリテント騎士王国が推薦し、アルーク教国、ジパーング聖王国、レオン獣王国が、ナターシャさん、キアラさん、ラキアさんの昇格試験に同意しました。あ、ナターシャさんの場合はウルールカ女王国もですね」
確かにキアラとラキアも三国と関わってるな。でも、ブリテント騎士王国と接点なかったのに推薦?
「何故ウチらが推薦されたのですか? ウチらはこの国の王家とは関わっていませんよ?」
「そうなのだ。同意とやらをしてくれておる三国はそれなり関わったのだ」
キアラとラキアも疑問に思ったのか小首を傾げた。
「正確には、アークさんですね」
「アークが?」
「もっと言えば辰の道場師範の推薦です。アークさんが真面目に辰の道場で指導を受けているので、辰の道場師範が王家に口添えをしてくださいました」
そう言う事か。でもさ、うちの道場って去年やらかしてるのに良いのか? トリスタン海洋町の大虐殺とかハッタリックがやってしまってるんだけどな。
「勿論、トリスタン海洋町の惨劇がありましたが、それを解決なさったのも貴女方『アサシンズ』の功績ですからね」
ナターシャの表情から、俺と同じ事を考えているのを読み取ったのか受付嬢が教えてくれる。
確かにアサシンズの功績なのかね?
「理由は分かったさぁ。それで試験とやらは何をするんだい」
「正確には依頼を兼ねた試験です。Bランク昇格試験と違い、ちゃんと報酬が出ます。しかも王家から指名依頼なので、いつも以上の金額になります」
「いくらだい?」
やっぱそこ気になるよね?
「一人につき中金貨一枚です」
三千万かよ!?
「そんなに貰えるのかい」
ナターシャがホクホク顔してるな。なにせナターシャは倹約家だからな。
「受けて頂けますか?」
「その前に内容を聞かないと」
「そうですね」
あからさまにガッカリしてるな。内容を聞かずに受ける言質を取りたかったのだろう。
「キアーラ海王国に渡り……」
「乗った!」
おい!
「ナターシャ、早いです」
「最後まで聞くのだ」
「いや、でも簡単に行けなかった場所なんだよ」
「そうですが」
「確かにそうなのだが……」
交易をしていたトリスタン海洋町で惨劇が起きたしな。それにあそこに渡るのって普通の船じゃダメなんだよな。
だって、お隣がバイアーラ魔王国だし。北の海域は全体的に危険なので、船は渡っていない。
では、どうやって渡ってるかと言えば、コビー族の種族特性である魔獣を使役し易いというのを利用してだ。あの種族は、優秀な者は魔獣どころか神獣とも従魔契約出来るので、その契約した従魔で渡る。
海域も強力な従魔により、魔族も手出し出来ない。ちなみにだが、お隣がバイアーラ魔王国で、地続きにあるが、間には険しいヴェネチア山脈があるので、越えるのも難しい。
そしてその山脈にも優秀な者が、従魔を使い封鎖しているので、バイアーラ魔王国も早々に手出し出来ないのだ。
というか山脈の名前が酷い。山なのに水の町から名前取ってないか? 観光案内する者がいて、ウィンディーネとか呼ばないよな? もしそうならア〇ア社長もビックリだよ。
とまぁ話が逸れた。逸らしたお前が言うなよってか? 細っけー事は良いんだよ!!
って久々に言ってみました。はい、言いたかっただけです。すみません。
コンコンコン。
ん? ラキアが世界樹に模倣して作った草を三回ノックしたぞ。この三回というのは、俺に用事がある時の合図だ。どうした?
「主様よ、くだらぬ事を考えておらぬか? そもそも『ネオ』は付いておらんぞ」
うっせーよ! 何で分かったんだよ!?
「なんとなくなのだ」
しかも、何でそのネタを知ってるんだ?
「それもなんとなくなのだ」
って、何でさっきから遠くにいる俺の心を読んでだよ。マジでふざけんなよ!! 変態妖精が!!!
「はふ~」
「いきなり気持ち悪いですね。体をクネクネさせないでください。キモアークを思い出します」
……………………………………………………………………………………………………………………………………。
「なんだい、アーク?」
『キアラに伝えて……』
気付けば伝心魔道具で伝心していた。そして一方的に言って切った。
「キアラ、アークが次に会ったら羽イジり連続二十四時間の刑だってさぁ」
ヒクっ! と顔を引き攣らせるキアラ。さて、何回逝くかな。
「姉上が余計な事を言うからだぞ」
「ラキアには引っこ抜き三十回だってさぁ」
「いや、二回しか抜けぬぞ。二枚しかないのだ」
「あ、大丈夫、大丈夫。あたいが部位欠損薬を作るさぁ」
というかね………………………………
それは言ってないぞッッ!!!!!!!