EP.01 プロローグ
ブックマークや評価ありがとうございます
――――月肆歴1521年1月20日
「あ~俺の剣、もうダメだな。次の町で新しいの買わないと」
ボヤいたのは、飛燕 新。転移者だ。とある国で呼び出され魔王を倒す目的で旅をしていた。日本人なので黒髪黒目で刈り上げにしている。
現在、仲間達と焚火を囲み、武器の手入れや談笑をしている。もう晩飯も摂り、野営の準備も終わっていた。
「でも、あっちの剣なら大丈夫だよね? ボクの鞘に収めない?」
と返す年若い娘。名をライラ。
黄色い髪に透き通るような空色の瞳をしている。元々はただの村娘で、その村に新が立ち寄った時に着いて来たのだ。
武道の才能があり、戦力になるし新も助かっているのだが、度々飛び出す下ネタや、何かと新を襲おうとし来るのが玉に瑕だ。
新も男。誘惑を振り払うのにたまに苦労している。せめてもの救いが胸がない事だろう。これで豊満な胸で押し付けて来ようものなら、とっくに手を出していたと新は思っている。
「まずは『ボク』って、言うのを止めてから出直してこい」
「わたくしって言えばOKなの?」
「何て言おうがどうせ直ぐ『ボク』に戻るんだろ?」
「ちぇ……お見通しか~」
「それよりお前は良いよな。武器が無くて」
そうライラは武器がない。職は格闘家なので素手なのだ。彼女生まれつき闘気の扱いの才があり、新が知る限り右に出る者はいない程の闘気の使い手。
しかも闘気の扱いが完璧で、普通は闘気というのは微量ながら漏れ出る。闘気量が多い奴程、それが大きくなり、それを覇気と呼ばれ強者はそれを読み取れる。
それが強い奴程、見ただけでヒリヒリ感じるものなのだが、ライラはそれを完全に絶つ事ができる。つまり気配を消せるのだ。
こう言ってしまうと暗殺とかに向いてるのだが、本人の気性から特攻して殴るので意味が無い。ただ初見でコイツ大した事無い、と油断させる事が出来るのは強みだ。
「でも接近戦ばかりするから、ボクの服、直ぐ破れるんだよね」
職柄か、ライラは鎧を身に纏わない。いつも軽装だった。
「良く言うぜ。胸がはだけようが羞恥心がないから気にしないだろ」
「え~あるよ。アラタ以外には見せたくないだけ」
あざとく下から見上げる。しかも服に言及してから、襟元を引っ張るので丸見えだ。ついでに下着を嫌いノーブラだから、余計にタチが悪い。
「嘘こえ! なぁアルベリア?」
新は意識的にライラを見ないようにして、もう一人の仲間のアルベリアに話を振る。
彼は召喚された城に仕えていた者で、新と馬が合い意気投合。一緒に旅をする事になった。
職は大魔導士。それもかなりの高位だ。炎、氷、雷、風、土と様々な属性を習得している。それも上位魔法を五、六発放ってもケロっとしてるMP所有者だ。
「はっはははは……いつも仲が良いな。確かにライラ殿は胸が剥き出しになろうが気にしないな。少しは女性らしい慎ましさが欲しいとこであるな」
「え~アルベリアもそんな事言うの~」
ライラが頬を膨らます。
実に子供っぽい。これでも元服しており十五歳だ。ちなみに新は十七歳でアルベリアは二十一歳。
新達は現在この三人のパーティで旅をしている。ただヒーラーがいない事を残念に感じていた。事実、新とライラの生傷が絶えない。
「胸はつつましんだがな。性格もつつましくなりやがれ」
「アラタ、言って良い事と悪い事をあるんだよ~。ボク、気にしてるんだからね~」
「じゃあ見せ付けるな」
「ぶ~」
再び頬を膨らませるライラ。
「それより明日はアムステルの町に行くぞ」
「応!」
アルベリアは魔導士とは思えない粋の良い返事をする。
「アムステルの町か、最悪でも王都では新しい仲間が欲しいとこだな」
「だね~。じゃないとこんなとこまで来た意味がないもんね~。まぁボクは、アラタとだったらどこでも嬉しいけどね~。例えベッドの中でも」
「確かに最低でもヒーラー。贅沢を言えば良き魔獣を従えた魔獣使いを仲間にしたい」
「で、あるな」
「ベッドを無視するな~。そもそもヒーラーがいなくても、ボクがいつでもアラタを癒して上げるよ。か・ら・だ・で♡」
そう言って新に抱き着いて来た。
「気色悪いわっ!」
それを投げ飛ばす新。
「さて、もう寝るぞ」
「応!」
「じゃあ一緒に寝ようか、アラタ」
「やっぱ羞恥心が無いな」
ライラは、投げ飛ばされたのにケロっとして、何事もなかったように色目を使ってくる。しかも服をずらして左肩を出しながら。それに新は嘆息した。
「アラタだけだよ~」
「アルベリアもいるだろ」
「はっはははは……」
そうして新達は眠りに付いた。当然の如くライラが新が寝てる毛布の中に入り込んで来たが蹴り出されていた。
女に暴力を振る趣味がある訳ではないがライラだけは別だったりもする。
闘気の使い手だけあり、新がいくら殴ろうが蹴ろうが傷一つ付かない。尤もだからと言って本気でやる事はない。
次の日、昼頃に予定通りアムステルの町村に到着した。
「何か様子がおかしいね」
真っ先に異変に気付いたのはライラだ。
ライラは気配を読まれないのと逆に気配を読むのが得意。正確には闘気による空間把握……索敵気法を行える。
「ライラ、どんな状況だ?」
「たぶん……魔族が暴れている」
普段と打って変わって真剣な表情で答える。
「何だってっ!?」
アルベリアが驚く。
数年前からバイアーラ魔王国かたやって来た魔族が人類の勢力圏で暴れるよになった。
「二人共、生存者の救出を……俺は魔族共の足止めをして来る」
「OK」
「応っ!」
そして二人に指示を出した新が、魔族共を探した。程無くして見つかったが…、
「これは想定外だぞ」
げんなりしたように呟く。
ライラにもっと詳しく聞いておけば良かったと後悔していた。そうなるのも無理からぬ事。数が多過ぎる。ぱっと見ただけ五十はいた。
姿は青い肌……青魔族だ。魔族は数多くいる個体は、角や羽根等の異形のものが付いていようが人族と同じような姿をしている。ただ肌の色が違う。
肌の色が濃くなって行く程に強力になって行く。一番下が青色。そして、一番強力な個体は黒色の魔族だ。
とは言え、青色でも弱い訳ではない。人族より長く生きられる分、強くなれる。普通の一般人より遥かに強いのは確かだ。ただ……、
「ニンゲンダ。コロス」
青魔族はカタコトな喋り方しか出来ない。
「はぁぁぁっ!!」
とりあえず手前にいる奴にアラタが斬り掛かる。
カーンっ!
青魔族の左手に持つ盾に防がれる。剣と盾を扱う個体ようだ。同じ青魔族でも、人族と同じように得意不得意が存在する。新から見て手前にいる青魔族は、どれも剣と盾を装備していた。
続けて右手の剣を振って来た。俺をそれをバックステップで躱し、即座に前に進んで突き込む。
「グェ」
人間の心臓と同じ位置に核があり、そこを斬り込んだ。
とりありず一人。ただ数が多過ぎる。よって、とりあえず逃げる事にした。そして、追って来る青魔族達にも個体差がありバラける。先頭になった青魔族を斬る。また一人減らす。
周囲を見ると死体が転がっていた。それも兵士のような恰好だ。恐らくキアーラ海王国の騎士なんだろう。どれも人族より背が小さい。コビーと呼ばれる種族だからだ。
新は、再び逃げようとする。アルベリアが来たら、魔法で一掃して貰おうという腹積もりだ。自分の役目は足止めと割り切って。ただ……、
「…………様…………りするんだっ!!」
五十はいる青魔族の向こうで、声が聞こえた。
それが聞こえたからには、足止めとか悠長な事を言ってられなくなった。新は、逃げるのを止めて斬り掛かる。そうして何人か倒した後……、
バキっ!!
「クソっ! もう剣が限界だった」
が、剣が折れてしまった。剣はいい加減ガタが来ていて、今日此処で買う予定だった。なのに魔族のせいで、それどころじゃなくなり、突発的な戦闘に入ってしまったのだから。
新は、バックステップで一旦下がり……、
「まだ不安定な技だが……仕方ねぇ。<飛剣>」
新の背後から剣が飛び出て宙を舞う。その数五本。
「はぁぁぁっ!!」
シュパシュパシュパシュパシュッパーンっ!!
新がそれを操り、撃退して行く。
青魔族から魔法が飛んで来た際も、その五本の剣を手元に引き寄せ盾替わりに防ぐ。
「アラタ~」
「避難は?」
「それどころじゃないでしょ~」
剣を自在に操りながら、駆け付けて来たライラと話す。
「いきなり、アラタが正面から戦い出すんだもん。慌てて来ちゃったよ~」
「あの向こうに……」
「分かってる。人がいるんだよね~」
何故正面から戦い始めたかも、確り察していた。そうして、駆け付けたライラと二人掛かりで片付けた。
「感謝する。助けられた」
魔族達の向こうにいた騎士のような姿をした者が頭を下げる。背が低いのでコビー族だろう。
「我々は、何としてもこのお方を、お守りせねばならなかった」
そう言って視線を後ろに向けられる。そこには一人のコビー族の女がいた。
「助けてくださりありがとうございまーす。ワタシの名は、ノルン=スルーズだーよ」
この出会いが全ての始まりだった――――。
という訳で、お待たせしました
第十六章開幕です