EP.31 Collaboration
「おい! ガキ、失せろや」
バリガリスが粗暴な言葉を放つ。
「因縁があるって言ったの聞いてなかったのかしら? それとも頭が悪いのかしら?」
冷ややかな青い瞳……いつかの氷の思わせる双眸で、バリガリスを嘲笑う。
「だと!? 良いだろう。ぶっ殺してやるぜ! あァ!!」
バリガリスは剣を一振り。クーデリアとの距離が離れているのに。それに危険を感じた。
「静止世界」
咄嗟に称号 加速者により、スピードを上げた。こうなるとクーデリアは誰よりも速い。
まぁ五年前のアークには及ばないが。アークは五年前の自分より速いと評したが、自分で自分自身のスピードがどんなものか正確には分からない。ましてや草越しでは、クーデリアのスピードは正確に量れない。
よってまだアークのスピードに達していないのだ。
クーデリアは、そのまま斬り掛かる。
「おっと。面白ぇ事をするじゃねぇか」
あっさり躱す。それでも追撃を掛ける。
クーデリアも成長している。今まで静止世界の中で反応出来た者はいなかった。それを全学園交流試合でローゼインが反応した。
その次の年は沙耶、その次の年はライオス、その次の年はエーコが……と、四人も反応したのだ。流石のクーデリアも自分の技に対抗出来る者が何人もいると理解した。
よってバリガリスが反応するのは織り込み済み。ローゼインの時程、驚きもしない。
ただバリガリスは、全てを避けている事が腹ただしかった。加速者の称号により分子をプラスに働きかけ、自分の剣に膨大な熱を持たせる事も可能。
そうすれば相手の剣を焼き斬る事も出来るのだが、バリガリスは、どういう訳か剣を合わせようとしない。
仕切り直すようにクーデリアは、離れたとこで止まる。
「クハハハハ……面白ぇ面白ぇ面白ぇ。なァ……随分楽しませてくれるじゃねぇか。オイ!」
醜悪な笑みを浮かべるバリガリス。
「はぁはぁ……」
対してクーデリアは、苦しそうに険しい顔をした。汗も滝にように流れている。
なにせ加速者の称号による技は、HPを削るものだから。
ニーケルにバフをかけて貰い、バリガリスは、デバフをかけられたが、気休めに近いだろう。
いや、バリガリスを追い掛けて来るのに停止世界を使ったので、この戦いでは、ほとんど使えなかっただろう。そう考えるとニーケルの旋律は十分に効果があったかもしれない。
「オイオイオイ! こっからが楽しいんだろ? 何へばってんだ。オラァ」
また遠くから剣を振るう。
クーデリアは、咄嗟に右に飛んだ。するとどういう訳か、クーデリアの後ろにあった木が倒れた。
「……空間を支配する魔道具武装ですか」
「ご名答」
「嬲る事でしか自分を表現出来ない空っぽな貴方にはお似合いですね」
「誉め言葉として受け取っておこう」
皮肉も通じずクーデリアは歯噛みする。
「にしても、さっきはビビってた小娘が随分粋がるじゃねぇか。オイ! 俺様に余程恨みがあるのか? 心当たりがあり過ぎるがなァ」
「……お父様とお母様の仇」
「は! くだらねェ」
「何ですって!?」
「所詮この世は弱肉強食。弱ぇ奴が全て悪い」
「そうですか。ならさっさと死んでください」
「は! ガキが粋がるなよ」
「っ!?」
そう言ってバリガリスが突如目の前現れる。バリガリスが持つ魔道具武装は空間を支配するもの。短距離転移魔法のような事も可能なのだ。
バリガリスがそのまま剣を振り下ろす。クーデリアは、チャンスと思い受け止めようとした。これで剣を交えれば焼き斬れる、と。
「え!?」
そうは行かない。クーデリアの中で警報が鳴る。クーデリアは、全学園交流試合で負け続け危険察知を習得していた。お陰で今まで斬撃だけを空間の隔たりなく飛ばすのを躱せた。
が、今回は剣を受け止めようとした後に警報が鳴ったので反応が遅れる。
バリガリスの剣はクーデリアの剣をすり抜ける。空間を支配しているので、剣だけをクーデリアの剣の内側へと転移させた。
「っぅぅ!!」
咄嗟に左に飛び右肩を斬られてしまう。
「ほ~。今のを良く避けたなァ」
クーデリアは剣を持つ右手に力が入らなくなる。なにせ斬られたのは右肩なのだから。悔しさのあまり涙を溜める。
「おいおい泣くなよ。ガキが」
仇を目の前にして何も出来ない自分が腹ただしくて悔して仕方ないクーデリア。
「ほら、もっと遊ぼうぜ」
斬撃を空間を飛ばして放つ。それを躱す余裕もなくブレザーの真ん中を縦に斬られる。ボタンが全て弾けブレザーが開く。
それによりボーンと胸が飛び出す。結構豊満でバスト80後半はあるのだが、あまり見られるのが好きではないクーデリアは、きつめのブレザーで抑え込んでいた。が、そのブレザーが役目を果たさなくなる。
「おっと、ミスっちまったぜ。ほら次行くぞ」
次の斬撃は横一文字。肌を傷付けずワイシャツの胸の下あたりがパッカリ開く。
「……下劣な」
羞恥のあまり睨み付ける。
「おー怖い怖い。ミスっちまったんだからしょうがねぇだろ」
悪びれた様子もなく笑う。
「次はワイシャツのボタンを飛ばすかもなァ?」
醜悪な笑みを称え剣を振り下ろす。嬲りに嬲る気なのが見え見えだ。
が、なびく赤い髪が視界に入る。次の瞬間、気付くとクーデリアの姿がなかった。
「なんだァ?」
「そんな事をさせる訳ないでしょうっ!!」
また新たな声が響く。その者は、赤い双眸でバリガリスを睨み付ける。クーデリアが先程立っていた場所より、少し離れたとこに二人でいた。
新たに現れたポニーテールの赤い髪をした者は目尻を下げクーデリアを見る。
「ごめん。デリア、遅れた」
「てめぇも、空間を操るのか?」
「さぁね。教えると思ってるの?」
「クソが! どいつもこいつも俺様の邪魔ばかりしやがって!」
新たに現れたローゼインに声を荒げる。
「デリア、いける?」
「……出来ない。もう右手が上がらないし、熱が溜まりすぎて静止世界も使えない」
「なら、大丈夫ね」
「っ!?」
ローゼインが微笑みクーデリアの背に手を当てる。その瞬間痛みも熱も消えた……いや、正確には停止した。
「行くよ、デリア。今度は、私も巻き込んで」
「ごめん、ロゼ」
「違うでしょう?」
一瞬何を言われてるのか分からず目を瞬かせる。
「ありがとう、ロゼ」
「うん!」
ローゼインがにっこり笑う。彼女に並び立つ事を願い今まで追い掛けて来たのだから……。
今、この瞬間も。何より今までも。
「オイオイ。何をそっちでイチャコラしてるんだ? あァ!? 百合かお前ら」
「そうよ」
「ちょっとー!」
あっさり肯定するローゼインに、クーデリアが目を剥く。
「何でも良いよ。私は、デリアと戦えればそれで」
「まぁ……そうね」
「だから、イチャコラしてんじゃねぇ!!」
短距離転移で目の前に迫り斬り掛かる。が、あっさりクーデリアに躱される。そして反撃に斬り掛かる。
「クソが!」
なんとかそれを躱すバリガリス。
「ロゼ……スピードを上げるよ。着いて来れる?」
「愚問よ」
「停止世界」
そこから高次元の戦いが始まった。先程と違いクーデリアの超スピードは止まらない。バリガリスも短距離転移を駆使して色々な場所から現れる。
剣を交える事なくお互いにお互いの剣を躱す。剣を合わせたらクーデリアに分があるとバリガリスも気付いているのだ。
何故ならバリガリスも危険察知を持っており、お互いに終始頭の中で警報が鳴っていた。
「ごめんね……支える事しか出来なくて」
悔しそうに歯噛みするローゼイン。しかし、それでも必死にクーデリアに着いて行く。
クーデリアの加速者は、ローゼインにも効果を及ぼしている。そによりなんとかローゼインは、クーデリアに着いて行ってた。
更にクーデリアが右に行けば、ローゼインも右に行く。クーデリアが左に行けば、ローゼインも左に行く。正に一心同体の動き。ローゼインは停止者の力を使いながら、クーデリアの次の行動を読んでいた。
「何を言ってるの? それが、どれだけわたくしの支えになってるか。もう百合でも何でも良いですわ」
クーデリアが微笑む。
ローゼインは、停止者の力をクーデリアだけに施している。全学園交流試合では武舞台全体という範囲を停止しないといけなかったので、即ダウンしていた。
が、今はクーデリアだけで済む。それがクーデリアの大きな支えになっていた。
そして……、
「何よりもロゼは、わたくしの止まっていた針を動かしてくれた」
何よりもクーデリアに取って心の支えになっていた。ずっと止まっていた心の中の時計を動かしてくれたのだから。
「だから、イチャコラしてんじゃねぇ!!」
クーデリアの加速者はHPを削るものだが、ローゼインの停止者でそれを止めている。ただ、ローゼインの停止者はMPを削る。
MPを一気に消費すると精神的に疲れてしまう。それ故に全学園交流試合では、ローゼインが停止者の力を使った次の試合ではフラフラとなり、まともに戦えなかった。
だが、その経験があり、MPを一気に消費する事に徐々に耐性が出来てきた。それに効果範囲をクーデリアだけに絞っている事が一気に消費せずに済んでいた。
が、それでもMPの限界が近づいている。
「羨ましいんですか?」
クーデリアが不敵に笑う。
「な、訳あるか!」
「そうですか? 貴方は、嬲る事でしかイチャコラとやらは、出来なそうな人ですけど?」
「お仲間が来たからって調子こいてんじゃねぇぞ、コラァ!」
「実際調子が良いですからね」
そう徐々にだが、スピードが上がって行く。もう完全に五年前のアークを越える程のスピードだ。もうHPを削らなくて良いのだから、加速者の力を限界まで引き出して行く。
それに食らい付くローゼインは必死だが、何故かクーデリアの動きが分かった。
《称号 共有を獲得しました》
ローゼインの頭の中に声が響く。
その瞬間、より鮮明にクーデリアの次の行動が分かった。
「デリアのMP貰うね」
「え?」
何を言われているのか分からなかったが、直ぐに察した。自分のMPが勝手にどんどんなくなって行く事に。
ローゼインは『称号 共有』により思考やステータスを共有出来るようになったのだ。それにより枯渇寸前だったMPがクーデリアのを使う事で吹き返した。
クーデリアは、基本的にMPを使わないので、たっぷりあったので。
「支えるから……ううん。支えたいの……だからデリアは、もっと自由に戦って。どこまでも着いて行くから」
「ありがとう、ロゼ」
益々スピードを上げて行く二人。
「クソがァ! クソがァ! お前ら戦ってる最中にどんどん力を上げるんじゃねぇ」
罵詈雑言を言い出すバリガリス。
「弱肉強食なんでしょう? なら弱い貴方が悪いって事では?」
「んだとォ!? クソガキが!」
しかし、長くは続かない。
やがてクーデリアのMPが尽きてしまった。
「はぁはぁ……散々手古摺らせやがって。覚悟は出来てるなァ!? 簡単に死ねると思うなよ。裸にひん剝いてから殺してやるよ」
もう完全に仕事の事を忘れている様子だ。
「ごめんね。最後まで支えらず」
「良いよ。ここまでありがとう」
そう言ってクーデリアが前に出る。
「ロゼだけは、逃げて」
「えっ!?」
ボソっとローゼインにだけ聞こえるように呟く。
「あァん? てめぇから餌食になりたいのかァ?」
「そうですね……好きしてください」
そう言って、ブチブチっとワイシャツのボタンを飛ばし、前を完全に開けた。下着が丸見えだ。そうやって自分に意識を向けさせて、ここまで支えてくれたローゼインだけは逃がそうとしているのだ。
「クハハハハ……じゃあ愉しませて貰うとしようかァ」
バリガリスは、醜悪に嗤い、舌なめずりをし出した。
ローゼイン視点にしたかったのですが難しくて断念