EP.30 心深極致 -side Saya-
長くなりましたが、沙耶は最初から練りまくったキャラなので、なかなか上手くまとめられたんじゃないかなと思います
まぁ『私にしては』という但し書きが付きますが(笑)
酷くてもきっとポっと出のローゼインやクーデリアよりマシでしょう
座禅を組み私は深呼吸をし呼吸を整え、神経を研ぎ澄ます。
幼少の頃は、結跏趺坐で座禅を行っていた。この結跏趺坐というのは胡座とは少し違う。両足を重ねて組み、姿勢を正して腹式呼吸を行う。
とは言え、それは幼少の頃。小学生高学年辺りになると正座で座禅を組むようになっていた。
「沙耶、良いかい?」
お祖母ちゃんの優しい声音が鼓膜を打つ。それだけで落ち着く。大好きだったお祖母ちゃん。
「笹山流薙刀術の極意は『心』。心を落ち着かせ、常に自分の心と向き合い、相手にも自分にも勝つと心で感じて、初めて薙刀を振るう」
それは在りし日に何度も言われた言葉。私がお祖母ちゃんから薙刀を教わり修練する際に必ず行う儀式。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「はっ!? はぁはぁ……」
どうやら少しの間、意識を失っていたようだ。ほんの少しだった事に救われた。
何故なら、私はまだタイタンオーガと対峙している。本来なら戦闘中に意識を失う等、愚の骨頂だ。でも、それだけ厳しい相手。
「GUOOOOONっっ!!!」
大きな野太刀を上段から振るわれる。私はなんとか右に飛び回避し、直ぐに立ち上がり薙刀を構えた。
「はぁはぁ……」
私の乱れた呼吸が耳を打つ。心の臓が早鐘打つ。それだけ死が隣り合わせに感じる。
目の前のタイタンオーガから、物凄い圧迫感を感じる。私が異世界転移して死を身近に感じたドラゴンと同等の圧迫感だ。たぶんドラゴンと同等の力がある。
アークが良く言っていた。『相手との力量差が理解出来ない時点で雑魚』と。その意味を肌で感じる。今までの私は相手の実力なんて分からなかった。
このタイタンオーガと戦い出し暫く経ってから、漸く相手の強さが圧迫感という形で、ある程度推し量れるようにったと思う。
《気配察知Lv4を獲得しました》
《危険察知Lv3を獲得しました》
圧迫感を肌で感じるようになってから、それらしいものを習得するなんて妙な感覚ね。
でも、お陰でより正確に相手の力を感じられた。これがアークの見ている世界ね。私も漸くアークが見ている世界に片足を突っ込んだ気がするよ。
ただ、もしこのタイタンオーガとあの時のドラゴンが同等の力なら、あの時のドラゴンを倒したアークには全く届いていないのが肌で感じて悔しくもある。
何より、あの時のアークは最も得意な武器である小刀無しで勝った。しかも途中から次点の小太刀を使って。私は最初から薙刀と脇差と得意な武器を確り使っているのに勝てる気がしない。
「GUOOOOONっっ!!!」
タイタンオーガの蹴りが来た。それを最小の動きで躱す。その時に花が散った。
「あれは……」
アークが持たせてくれた草。女なんだから花のが似合うだろとか、アークに言われるとなんか反発したくなる事を言われ、渡された草。
それを胸に付けていたのだが、最小の動きだった為に散らされていまった。アークが見ていたら心配させるかもしれない。いや、もう心配してくれるかもしれない。
「GUOOOOONっっ!!」
しまった。草に気を取られていた。野太刀を振り下ろして来たのに反応出来なかった。これは避けられない。
そう思った私は薙刀を口に咥え、左手で脇差を抜くと野太刀を受け止めた。
「くぅぅぅぁあああっっ!!」
苦悶の声を上げてながら右手を峰に添えて耐える。しかし、相手は巨体だ。その体重が乗っていて厳しい。それでも必死に耐える。
「GUUU」
タイタンオーガがニヤリと笑った気がする。次の瞬間蹴られていた。
私は吹き飛ばされ森の中なので木に激突する。
「っぅううっ!!」
背中を強打して痛みが走る。口から離してしまった薙刀を右手で掴む。
「GUOOOOONっっ!!」
追撃を掛けるように野太刀を振るわれる。咄嗟に脇差を捨て左に飛ぶ。
痛覚鈍化のスキルのお陰で助かった。鈍化させてるだけで無効化してる訳ではない。それでも、もしそのままダイレクトに痛みを感じていたら、動けなかっただろう。
「<超回復魔法>」
そして、もう一つ幸運な事に月光世界は、星々の世界違い、精霊に常に魔力供給をしないで済む事だろう。
クラスメイトを逃がす為に付けたレイアースとアナスタシアが、どんなに暴れようがMPを渡さないといけなくなるのは終わった後。
仮にあの二体がMPを使い切っても実体化が出来なくなり、私の中に戻って来るだけ。
これが星々の世界なら、顕現してる間はずっと魔力を取られた。まぁあっちの世界なら、メラ君がいるので簡単にタイタンオーガを倒せかもしれないが、それはないものねだり。
ともかくお陰で、自分の為だけにMPを使える。私がこの五年間で療魔法を治癒魔法までレベルを引き上げ、超回復魔法を覚えたのでなんとか耐え忍んでいる。
「はっ!」
薙刀を横一閃。
「GUUN!?」
足に傷を入れる。こっちは回復魔法のお陰で無傷だが、あっちは足にもう無数の傷がある。
尤も私の制服はボロボロだ。せっかくロングスカートを仕立てたばかりなのに普通のサイズになってしまっている。去年、成長した体に制服が合わなくなって来たので仕立てたというのに腹ただしい。
ブレザーも申し訳ない程度に残っているだけで、ほとんどワイシャツだけと言っても差し支えないない。
それに、ジリ貧だ。私のMPも、もう残り僅か。足ばかり攻撃しても致命傷にはならない。かと言ってジャンプして顔を狙っても隙だらけになるだけ。
正直勝てる気がしない。今までどれだけアークが私を守ってくれたか良く分かる。
正直颯爽と助けに来て欲しい。だけどそれは敵わない願い。今の状況が分かっていて駆け付けるにしても最短で二日か三日掛かるだろう。
そして 助けに来て欲しいと思っている反面、アークにはもう助けられたくない。そんな相反する気持ちがある。だって……、
またアレに助けられるなんて私自身が情けないじゃないのよ――――っ!!
負けたくない。私は負けたくない。アークにも、こんな魔獣にも。そして、私自身の『心』にも。
それって私の今まで培って来たものの極意を私自身が理解してないって事じゃないのよっ!!
そんなの我慢ならない。私の半生を否定されてるようで許せない。これだけは譲れない。
だから……、
もっと深く自分自身の心に潜り込まないといけない――――。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「沙耶、良いかい?」
お祖母ちゃんの優しい声音が鼓膜を打つ。それだけで落ち着く。大好きだったお祖母ちゃん。
私の家は厳しかった。小さい頃より習い事を沢山させられた。
家の道場の薙刀を始め、剣道、柔道、空手、茶道、華道、馬術……他にも芸術関連とか色々。
その中で、私が最も長く続けたのは薙刀だ。自分の家が道場だからってのも勿論ある。だけど一番大きな理由は、お祖母ちゃんが大好きだったから。私は、お祖母ちゃんっ子だったから。
座禅を組み私は深呼吸をし呼吸を整え、神経を研ぎ澄ます。
幼少の頃は、結跏趺坐で座禅を行っていた。しかし、着物で結跏趺坐をしてしまうと見えてはいけないものが見えてしまう。
お祖母ちゃんは関係無しに結跏趺坐をしていて、それが格好良いと思った幼少の頃は真似してた。
小学生高学年になると格好良いより恥ずかしいって感情が強くなり正座をするようになった。
それに茶道や華道をするようになったお陰で、正座の方が精神集中し易いってのも大きな理由だ。
「笹山流薙刀術の極意は『心』。心を落ち着かせ、常に自分の心と向き合い、相手にも自分にも勝つと心で感じて、初めて薙刀を振るう」
それは在りし日に何度も言われた言葉。私がお祖母ちゃんから薙刀を教わり修練する際に必ず行う儀式。
「だけど今日は、もう一歩先に進むよ」
もう一歩? いつもなら暫く精神集中をさせられ薙刀の修練が始まるのが、今日は違うらしい。
「これは危険なものだから、他では教えない。沙耶にだけだよ」
『沙耶にだけ』その言葉を、お祖母ちゃんに言って貰えた事が何より嬉しい。
「それはお母さんも?」
パッシーンっ!
「っ!?」
警策と呼ばれる木の棒で後ろから叩かれる。
これは罰的なものではない。警策をいただくという事は、気を引き締めさせ激励する事。
「心を乱すんじゃないよ。笹山流薙刀術の極意は『心』だと言っておるだろう」
私は合掌し頭を下げる。警策をいただいた時の作法。
「まぁ良い。それに答えるなら否だよ。あの子は、薙刀にそこまで打ち込んでいなかったからね。沙耶は一生懸命だからね。だからその先を一度経験して貰う」
一度……その意味が分からなかった。でも、その意味をこの後に嫌という程分かった。こんなものは一度きりで良いと。
「沙耶、薙刀を太ももの上に置き、軽く握っていなさい」
普段座禅を組まされている時に薙刀は横に置いている。それを掴み言われた通りに太ももに置き、軽く握った。
「良いかい? 今日は深く深く自分の心の中に潜るように精神を集中させるんだよ」
言われた通り深く深く潜る。
パッシーンっ!!
警策をいただかれる。ちゃんと潜れていなかったようだ。
その後、何度か繰り返す。潜ろうとしては警策でいただかれを何度も繰り返した。
やがて、自分と周りの境界が曖昧になるような錯覚がして来た。
「沙耶……沙耶……」
その中で、お祖母ちゃんの声だけが聞こえる。丸で真っ暗闇の中に照らす一筋の光のように。
「想像するんだよ。自分の中にある血液の巡りを早くするような。心の奥底でそれを行うんだよ」
優しい大好きな声音に導かれるように、言われた事を行う。
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクンドクン……ドクンドクンドクンドクンドクンドクン……っ!!
何かが波打つのを感じる。
「沙耶、目を開けてご覧」
私は、ゆっくり目を開ける。
「えっ!?」
私の周りの空間が揺らいでいる。いや……私から湯気が出ている。
それに額から雫が流れるような感覚。熱い……そう感じた。汗が凄い流れている。
「はぁはぁ……」
それに自分の乱れた呼吸が耳を打つ。本来なら座禅の際は腹式呼吸で落ち着かせるもの。だというのに丸で逆だ。
「立ち上がって薙刀を一振りしなさい」
言われた通りに立ち上がり薙刀を一振り。
バッフゥゥゥゥっっ!!
「えっ!?」
物凄い風切り音。普段なら『ブーン』って程度の音。それに風圧だけで、離れた位置にある道場の壁に傷が入った。
それが目に入った瞬間、私は後ろに倒れた。
「はぁはぁ……」
体が動かない。さっきよりも息が上がる。
「それが笹山流薙刀術の奥義さ」
「はぁはぁ……お、うぎ?」
「だけど、今体験して分かったと思うけど危険なもの。だからみだり使ってはいけないよ。今回は意識があるけど、酷いと意識を失うし、下手すると死ぬよ」
「……し、ぬ」
全身の体温が落ちた気がした、死ぬと言われ怖くなった。
「まぁ、まだ沙耶には簡単には使う事は出来ないから安心しな。だけど、使えるようになっても、使いどころを見誤るじゃないよ」
それから、私は怖くてこれをしようなんて思わなくなった。
だけど、異世界転移してドラゴンで死を感じて、使えるようにしたいと望んだ。が、だからと言って簡単には使えなかった。
当時、お祖母ちゃんの声に導かれたから使えたのだろう。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「はぁはぁ……」
今なら分かる。あの力の本質が……。
だから使える。それに、ここを使いどころとは言わないでいつ使いどころよ?
このままじゃ私は、きっとタイタンオーガに殺される。
だから……、
「笹山流薙刀術 奥義!」
目を閉じ深呼吸を一つ。
「心 深 極 致 ッッ!!!」
目を開けると周囲の空間が揺らいでいる。勿論私の体から湯気が出ているのもある。でも、今はあの時以上にこの力を発揮出来た。だから空間までもが揺らいでいる。
何故なら、これを行っているのは闘気だから。
血液の巡りを早くするイメージとお祖母ちゃんに言われた。だけどそれはたぶん闘気を早く巡らすって事だったんだ。
私は奥義に似たものを異世界転移してから見ている。フィックス城でお世話になりアルフォード王弟殿下が見せてくれたものだ。
《称号 闘気解放を獲得しました》
力が漲る。これだけはアークを越えた気がする。
「はっ!」
横一閃。たったそれだけでタイタンオーガの足を斬り飛ばす。それにより大きな巨大が崩れ落ちる。
「GYOOOONNNっ!」
腕払いを飛び上がって躱す。
「笹山流薙刀術・闘胸留」
斬撃が飛ぶ。今までと比べられない程の大きな斬撃だ。
「GGGGYAGAAANっっ!!」
両目に炸裂し、視力を奪う。
私は、直地すると……、
「笹山流薙刀術・風車小石返の乱っっ!!」
中段より捻りながらの突き込みを放つ。倒れたタイタンオーガの首に突撃した。
タイタンオーガの首に大穴を開けて、タイタンオーガの反対側に降り立つ。
気配で分かる。タイタンオーガは、今の一撃で絶命した。
「……勝った」
やばい意識が……。
倒した事で気が緩んだらしい。
まずい。闘気の使い過ぎた場合、暫く寝込むのはアークを見ていれば良く分かる。
だから、こんなところで意識を失う訳にはいかない。
そう思っているのに私の意識は闇に呑まれて行った……。
心深→情が深い、人情がこまやかである
全然意味が違います(笑)
沙耶というキャラを作った時に薙刀の極意を『心』にしようと思いました
で、奥義はその心に関係した言葉が良いと考え、何か良い言葉はないか調べましたが、どれもパっとしなくて、自分で勝手に作り、これしかないと思いました
で、調べてみたら全然意味が違うと(汗)
それでも心深極致にしました
沙耶エピソードは四文字縛りがあるので、これ以上の事は考えられませんでした