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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十五章 スイースレン公国の腐敗
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EP.28 逃走者

 エーコは吐血していた。本人も何が起きたのか分からず視線を下ろすと、そこには腹を突き抜けていた剣があった。それを見た瞬間意識が途切れる。


「悪りィなァ、嬢ちゃん。真っ先にてめぇを殺せってオーダーだったんでな」


 そう言って剣を腹から抜いたのは刺した愉悦で笑みを見せるバリガリスだ。エーコの意識は既になく聞こえていない。そして剣が抜けた事で、その場に崩れ落ちる。


「あ……」


 乾いた声を漏らし固まるクーデリア。その様子を不信に思いローゼインが寄り添う。そのお陰でこの後の惨劇で助かったのかもしれない。


「何だお前は?」

「この!」


 他の面々が一斉にバリガリスに向かう。


「邪魔だ!」


 それを簡単に斬り伏せる。その顔は嬲るのを楽しむ邪悪な笑みをしていた。


「<百光槍魔法ハンドレッド・ライト・ランス>」


 魔法の素養があるルナマリアは魔法で遠距離から応戦。無詠唱で百光槍魔法ハンドレッド・ライト・ランスを唱えたのは流石と言えよう。しかもスイースレン総合学園の授業にない光属性。

 だが、百もある光の槍はバリガリスの一振りで搔き消される。


「そんな……」

「悪りィなァ。嬢ちゃんを連れて来いってオーダーなんだ」


 瞬時にルナマリアの目の前に移動して腹パン。丸で短距離転移魔法(ワープ)を使った挙動だったが、魔法は唱えていなかった。


「あばヨ」


 バリガリスはルナマリアを肩に抱え逃走する。瞬時に動けた者は、一瞬で斬られ虫の息だ。呆然としてた者は命は助かったが、恐怖は確り刻み込まれ震えながら座り込む。

 それと……、


「アイツは……」


 突然に知ってる顔を見つけて驚いたクーデリアと、その様子がおかしいと察したローゼインだ。

 クーデリアは、バリガリスが逃げた方向を睨み付けて追おうとした。


「待って」


 咄嗟にローゼインは、クーデリアの腕を掴む。


「ロゼ、止めないでっ!」


 丸で親の仇を見るかのような凄い形相でローゼインを睨む。否、言葉通りバリガリスは親の仇なのだ。


「止めないよ、デリア。でも、この状態を放置して行っては駄目だよ」


 死屍累々の状態だ。だからと言ってクーデリアにはどうにも出来ない。回復魔法は得意ではないから。


「大丈夫。私達は運が良い。彼女がいるから」


 そう言ってローゼインがエーコに視線を送る。


「彼女は今年の覇者……だけどこの状態では……」


 助からない。そう言いたげに視線を反らす。


「意識さえ取り戻してくれれば、後は自分でどうにかしてくれる。だから、せめて彼女だけは……」

「……分かった」


 渋々頷きエーコに近寄る。


「「<回復魔法(ヒール)>」」


 二人掛かりで回復魔法(ヒール)を掛けた。しかし、いかせん低位。傷を塞ぐ事すら出来ない。せめて超回復魔法(メガ・ヒール)が使えれば……。

 それでも必死に掛け続ける。


「ごほっ! げほげほ……」


 その甲斐あって奇跡的に意識が戻った。エーコは咳き込み血を吐き出す。


「<完全回復(ヒール・リバイブ)>」


 エーコは自分で回復魔法を使った。それも療魔法の最高位である生命魔法だ。


「……凄い」


 そんな魔法を使えたエーコに目を見張るクーデリア。


「デリア、行って。デリアなら追い付けるでしょう?」

「分かったわ」


 そうしてクーデリアは、一気に駆け抜けた。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 逃走するのは何もバリガリスだけではない。沙耶の班の者達もだ。ただタイタンオーガに蹴り飛ばされたライオスは、当然いない。それと……、


「サヤさんが抑えてくれているうちに早く」


 そう走りながら全員に呼び掛けるクリースティアラ。青い髪を美しく三つ編みにしていたが、乱れてしまって、少しほつれている。そう沙耶が残りタイタンオーガを抑えてくれていた。

 それに……、


《アナスタシア、行きますよ~》

《はいは~い》


 湖の精霊レイアースと雪の精霊アナスタシアを付けてくれた。精霊達のお陰でなんとか逃げられているようなもの。彼女達は後を追って来るオーガに水をかぶせ、更に雪で凍えさせ動きをノロくしていた。

 とは言え、悲しい事に両方水属性。ただ寒くしているだけだ。同じ冷やすでも氷属性なら凍らせて完全に動きを止めていただろう。仮に大洪水にしたとこでオーガのパワーで振り切れるのでこれが最善だ。

 もし全く違う火属性で攻撃性があったら撃退出来たかもしれないが。

 何にしてもオーガ達は何故かクリースティアラ達を追って来ていた。いや、正確にはクリースティアラだけを狙っていた。流石の沙耶もタイタンオーガを抑えるだけで精一杯で他のオーガの相手まで出来なかったのだ。

 むしろタイタンオーガを抑えているだけでも皆に取っては有難い事だろう。


「それにしても何故貴方はクリースティアラ公女殿下にぶつかったのだ!?」


 走りながらユミエラはその黒い双眸でハンネルを睨み付ける。なにせ彼女はビアンで、男は大っ嫌いなのだから余計にツンケンしている。


「はぁ!? てめぇ……男爵の分際で何様だ? しかも女の分際で!」


 ハンネルは、スイースレン公国の貴族らしい貴族。これは褒め言葉ではない。スイースレン公国の腐ってるとこだ。

 親の権力を笠にし丸で自分が公爵だと思い込み、下級貴族を見下し女性を蔑視。女性を母体としか見ていない。


「チ〇コがある事がそんなに偉いのか? だったら今、ぶった切ってやろうか? あぁん?」

「……お言葉が下品ですよ」


 エリザベスがドン引きしつつも嗜める。


「それは失礼致しまいした。ですが許せません……クリースティアラ公女殿下を危険に晒す等…………それじゃなくても男ってだけで気持ち悪いのに」


 後半の言葉は、声が小さくて誰にも届かなかった。


「そうですね。私もそう思いますわ。ハンネルさん、ご説明を」

「ちっ! ルリオに突き飛ばされからだ」


 人に罪を擦り付けるハンネル。


「待て! 戦闘中にぶつかって来たのはハンネル様でしょう? 流石にアレは危険行為だ」


 当然ながら反論するルリオを。


「……と、言っておりますが、やはり元々の原因は貴方ではないのですが」

「クソ! 女が……」


 エリザベスの言葉にボソっと毒吐く。しかし相手が同じ公爵家なので強く出れない。


「やはり、切りましょう」

「ちっ! アレだよ……アレ! あの下民がぶつかって来たんだよ。大方魔獣にビビったんだろ?」


 ユミエラに物騒な事を言われ青い顔をしつつ責任逃れで適当な事を言い出す。これはスイースレン公国の腐敗の一つ。平民を家畜程度にしか思っていない。


「あり得ませんわ……ッッ!!」


 怒鳴ったのはリリーナだ。普段オドオドしている彼女がはっきりとそれも大きな声を出した事に皆が目を丸くする。


「彼は勇敢にクリースティアラ公女殿下をお救いしました」

「どうせ自分の失態を隠す為だろ」


 リリーナの言葉に反論するハンネル。


「それにオーガ達に真っ先に気付いたのはサヤさんとライオスさんでした! そんな彼が怖気づく訳ないでしょう!!!」

「落ち着きなさい。リリーナ」

「落ち着ける訳ないですよ。お姉様」


 興奮したリリーナは足元がお留守になり転んでしまう。それにより簡単にオーガに追い付かれてしまう。


「リリーナ!」

「……くっ! 間に合わない」


 エリザベスが焦りの声を上げ、クリースティアラも立ち止まるが手をこまねいた。

 オーガが手に持った剣を振り被る。


「キャー!」


 誰もがリリーナが殺られたと思った。しかし……、


「えっ!?」


 オーガの首が落ちた。そして迫り来るオーガを一体、二体、三体、四体と軽々と斬り伏せていた。


「……ライオスさん」


 惚け気味にオーガを軽々倒す人物を見るリリーナ。それを呆然と見つつもリリーナが立ち上がる。それを確認したライオスが去って行く。


「あ! ライオスさん」


 リリーナが呼び掛けるが振り返りもせずいなくなる。

 実はライオスは追い付いて来ていたのだが、ハンネルの言葉を聞いて出るに出れなくなったのだ。平民とは立場が弱い者。冤罪を吹っ掛けられたら終わりだと思ったからだ。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 暫く逃げたライオスは胸に付けたアークから持たされた葉っぱ型の(ファミリア)を外す。


「ごめん、アーク」


 でも、迷惑は掛けられない。そう思い(ファミリア)を握り潰した。

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