EP.27 襲撃がありました
最初に揉めやしたが、順調に進む沙耶達の班。
森の中を突っ切ってるが、魔獣もそんな数はいなく簡単に蹴散らしていた。
まあ度々魔獣を倒しては、ハンネルが自慢げにライオスを見ていたくらいだろう。しまいには『お前は何もしないのか?』と、嘲笑ってたくらいか。巨大なリュックを持たせておいて。
去年のが大変だったかもな。何せスイースレン公国では滅多に降らない雪で、寒さに凍えていたのだから。
しかもその原因は沙耶を品定めに来た雪の精霊と来たものだ。
「悪い。急用が出来た」
森を暫く進んでいたとこ、いきなりそんな事を言い出す緑髪の男……確かニーケルとかいう名前のいつも授業中に寝てる奴だな。
「「「「「はぁ?」」」」」
全員怪訝そうにニーケルを見る。
「俺はサボったって言ってくれれば良いから」
言うが早いか動き出すのが早いか。ニーケルは駆け出した。
「まぁ……ニーケルさんがサボるのはいつもの事ですが……」
困惑気味に呟くクリースティアラ公女。
「何か焦ってるご様子でしたね」
続けてエリザベスが思案気に呟く。
「全員逃げろ!」
「はぁ? おい下民! 何を言っていやがる。それに何だその口の……」
「もう遅いよ」
気付いたのはライオスと沙耶だけだったのだろう。ハンネルの言葉を遮った沙耶は薙刀を背中から抜き警戒態勢を取る。
他の全員は何が起きたのか理解出来ないでいた。
「GUOOOOONNNN!!!!!」
森中に響く大地を轟かせる咆哮。
「何だあれ?」
「あんな大きのがいたのに気付けなかった?」
「あり得ませんわ」
取り乱す生徒達。生徒達が見た方角には巨大魔獣がいた。今いる森はそう大きな森ではない。あんな巨体が隠れられる筈がないのにそこにいた。
「……タイタンオーガ」
誰が呟いたのか、その魔獣の名を呼ぶ。全長10mはありそうなオーガの事だ。
そして、その巨体がノシノシと地面を震わせながらゆっくり沙耶達の下に歩いて来る。ゆっくり歩いてるが全長10mの巨体だ。一歩一歩が長距離で、直ぐにでも目の前に着そうである。
それだけじゃない。
「アナスタシア」
《はいは~い》
沙耶が去年契約した雪の精霊アナスタシアを呼び出す。称号に重精霊契約者ってあるのにずっと一体だったのだが、やっとそれらしい称号になったな。
「凍てつかせて」
《了解だよ~》
周囲を吹雪く。なにせ全員あの巨体に目が行っていたが沙耶とライオスは気付いていた。囲まれている事に。
「なっ!?」
「嘘だろ?」
「……何で」
全員目を剥く。アナスタシアの吹雪で動きはトロくなったがオーガが何十体も現れた。
「うわ~~」
「マジかよ?」
「ここで死ぬのかよ」
混乱し逃げようとする生徒も。
「落ち着きなさい!」
クリースティアラ公女が一括。
「退路を確保しつつ逃げるのですわ。申し訳ございませんがサヤさんが先頭をお願い致しますわ。ライオスさんは殿を。最悪その荷物を捨てても構いませんわ」
「分かったよ」
「っ!? 分かりました」
流石公女だな。上に立つ者の威厳を感じる。ただライオスが少しビックリしてたけど。もしかしたら、初めて公女に名前を呼ばれた?
まあそんな公女の言葉に全員動き出す。だが周りのオーガに応戦してる間にタイタンオーガが到着してしまった。更に……、
「うっ!」
慌てたハンネルがオーガの手に持つ剣に浅いが斬られてしまう。肩を少し斬られただけだ。だというのに……、
「ぅわぁぁぁあああ……っ!!」
取り乱しまくる。そしてえっと……ルリオとか呼ばれていた奴にぶつかる。
「たす……助けてくれ!」
「邪魔だ!」
それどころじゃないって感じだな。ルリオはハンネルを突き飛ばす。
「きゃっ!」
それが公女にぶつかる。不幸の連鎖だ。公女はタイタンオーガの前に転がってしまう。
「GUOOOOONNNN!!!!!」
タイタンオーガが持つ巨大な野太刀を振り下ろされる。その瞬間、ライオスが動いた。荷物を捨ててクリースティアラ公女の下に飛び出す。そのまま抱え……、
「サヤ!」
「レイアース」
《は~い》
沙耶に向かって投げた。沙耶はレイアースの作り出した水のマットで受け止める。
ライオスの方は剣で巨大な野太刀を受け止める。しかし、いかせん大きさが全然違う。しかも身体強化の魔法を使う暇もなかった。たぶん闘気だけで対処してるのだろう。
「くっ!」
ライオスが地面にめり込む。苦悶の表情を浮かべながらもなんとか耐える。しかし、体の痺れは相当なものだろう。動けないでいた。
それを狙ってかタイタンオーガが蹴りを入れる。
「うわ~~……!」
咄嗟にガードしたが、重量差があり過ぎる。そのままライオスが遥か遠くに吹っ飛ばされて戦線離脱。お星様になっちゃったよ。
まずいなこれ。エーコに救援を頼むか。エーコには沙耶と自分の荷物を入れるストレージカードと伝心魔道具を持たせているしな。
そう思って、俺はエーコの草を覗いた。
は?
え? どういう事?
何、その血は?
エーコ!?
嘘だろ?
エーコ……。エーコ……。エーコぉぉぉぉッッ!!!!!!!
俺の頭は沸騰しそうなくらい熱くなった。直ぐ様、師範のとこに向かう。直ぐにでも転移屋に行き転移魔法して貰わないと。