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EP.10 エーコを捨てました

 俺は一つ気になってる事もあり、まずフィックス城を向かった。


「此処は、フィックス城です。何用ですか?」


 門番が二人立っており止められる。


「エド、エドワード王子に謁見したい」

「名を」

「ダークだ」

「暫しお待ちを……」


 一人が城に入って行く。

 暫く待つと戻って来た。


「どうぞ」


 門番の一人に連れられ応接間に連れて来られた。

 其処にエドがいた。


「では、失礼します」


 門番がいなくなる。


「ダーク無事だったか。良かった……二年近くも見なかったから心配したぞ」


 無事だったか?

 やはりこいつは知ってるな。


「あれは貴様の差し金か?」


 小太刀を抜き構える。


「待ってくれ。私や父ではない。あれはウエストックスの町長の独断だ」

「……そうか」


 小太刀をしまう。

 フィックス領には変わりないが、こいつを殺した所でダームエルは戻って来ない。


「住民を怖がらせたという名目で処刑にした。本当にすまなかった」


 エドが頭を下げて来た。


「王子なのに頭を下げるのか?」

「当然だ……雇ってる時限定だが、仲間だろ?」

「俺の手で始末できなかったのは残念だが、良いだろう。ところで名目って何だ?」

「一時期の仲間だとしても追い込んだからには潰したかった……それでも大義名分がないと処刑できなかったんだ。だが、無事で良かった。捜索したのだが見つからなかったので心配した」

「無事……だと?」


 やはり怒りを収められない。

 再び小太刀を抜く。


「私を殺すか?」

「ああ。相棒の仇だ」

「相棒? ダームエルか? まさか……」

「ああ、ウエストックスの襲撃で死んだ」

「そうか本当にすまない」


 再び頭を下げて来る。


「だけど待ってくれ」

「待つ?」

「私を殺しても構わない。だけどその前にラフラカ帝国を潰してからにしてくれ。諸悪の根源はあそこだ。私もダームエルとは酒を交わした者として尚、許せない」

「酒を交わしたのか?」


 とは言ったもののダームエルが直接エドから仕事を取ってくる事もあったからな。そんな事もあるか。


「ああ。と言っても、情報交換や仕事の依頼でだがな。陽気で良い奴って印象があったな」

「そうか……まあお前に怒りをぶつけてもあいつは帰って来ない」


 俺は再び小太刀をしまう。


「すまない」

「それよりも今日はお前に別件があって来た」

「何だ?」

病を呼ぶ薪(ディッシーズウッド)に効く薬が欲しい。どこで手に入る?」

病を呼ぶ薪(ディッシーズウッド)か。ラームジェルグの町に優秀な薬師がいる。名をレイラ=プリズン」

「ラームジェルグか……また港が封鎖されなければ良いが」

「なら、私も行こう」

「良いのか?」


 正直助かる。

 優秀な薬師なら、早々に相手してくれない可能性もある。


「せめてもの償いだ。ところで病を呼ぶ薪(ディッシーズウッド)の病の侵されたの誰だ?」

「妻だ」

「婚姻したのか。お前の妻だから、相当奇麗なのだろうな」

「妻を口説いたら、本気で殺すぞ」


 今日一番の殺気を向ける。と言うか完全に闘気を乗せ威圧した


「しないから、殺意を引っ込めてくれ。そうか妻ができたのだな。だから二年近くも見なかったのだな」

「ああ。ダームエルを失って失意の底にいた俺を救い上げてくれた。だから何が何でも助けたい」

「わかった。出来る限り協力しよう」

「頼む」

「お前変わったな」


 ん? ああそう言えば

 二年も素でいたし仕事じゃないから忘れていた。


「いいや。ダームエルに言われて口数を減らしていただけだ。それに今は仕事じゃない」

「そういう事か……じゃあ早速イーストックスへ行こう」

「そう言えば皆は元気か?」

「弟は馬鹿みたいに暴れているよ。ルティナは、ほとんどアジトから出ない。ムサシは積極的にラフラカ帝国と戦ってる。エリスは、まだ裏切りがバレていないからな、潜入してる。ロクームはエリスに着いて行った。ユキも最近反帝国組織に加わってくれた」


 はっ!?

 今聞き捨てならない事を言ったぞ。


「ロクームはルティナを口説いてなかったか?」

「ああ、そうなんだが、最近はエリスにご執心の様子だ」


《うわ! 出会い頭から最悪な奴だったが、其処までクソ野郎だったのかよ!》


「意味わからんな」

「全てのレディは口説くのが礼儀だろ?」

「お前に言った俺が馬鹿だった」

「ははは……今のお前は話しやすいな。さてそろそろ行こうか」

「ああ」


 そうして、ラームジェルグに向かった。

 港封鎖もなくラームジェルグにすんなり来れた。それでも、魔導士の村を出てから一週間近く経っていた。


「これはエドワード王子……何か薬の入用ですか?」


 こいつがレイラ=プリズンという名の薬師か?


「やあレディ。今日も美しいね」

「またそんな事言って……それで、何が必要ですか?」

ディッシーズウッド(ディッシド)に効く薬(リーヴ)を頼む」

「はいよ」


 薬を渡される。

 エドがお金を払っていた。何故か船代も出してくれたんだよな。


「ところでレディ。元気がないようだけど如何したか?」

「あら気付かれてしまいました? 実は娘が出て行ってしまいまして」

「娘さんが?」

「ええ……三年近く前から娘の婚約者の悪評が立ち、実際に三日間殺人事件が起きまして、それが原因で婚約者が失踪したのです。たぶん探しに行ったんじゃないかな?」


 三年近く前? はて……確か俺が殺しの依頼を受けた時だな。まさかな。


「そうですか。見かける機会があれば、母が心配してると伝えましょう」

「ありがとうございます。エドワード王子」

「美しいレディの顔を曇らせるのは世界の損失だからね」



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 ~アーク~



「此処でアークは、知ったんだね」

「ああ。苗字がプリズンだからナターシャちゃんから離れないとって思ったんだ」

「みょうじ? 家名の事? 変わった言葉ね」

「ああ、俺のいた世界では家名なんて言葉は滅多に使わない。と言うか時代遅れ。それで、ナターシャちゃんはその時、どうしてたの? 婚約者を探してたの?」

「いいや……」


 ナターシャちゃんは、かぶりを振ると自嘲気味に語り出す。


「あの時のあたいは、婚約者を裏切った自責の念から、そんな事できなかった。家を建てる為に薬を売って、町から町へと転々としてたねぇ。まぁ後々になって何で捕まえなったのか、と後悔したけどねぇ」


 後悔か……。

 俺もしたな。

 何でダチを裏切ったのだろうと。


「まあ、そのお陰で今のあたいがいるのだけどねぇ。今度は離さない、間違えないってアークを追い掛けて来た」

「そうか」


 それしか言えない。だって、たぶんお別れする事になる。

 俺は傍にいれない。ごめんね。ナターシャちゃん。


「じゃあ続けるね」


 それを(おくび)にも出さないで、続きを語り出した。



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「なあ金は良いのか?」

「ウエストックスの町長の行動に気付けなかったお詫びだよ。それに婚姻祝いだとでも思ってくれ」

「そうか。すまない」

「では、またなアークス(・・・・)

「ん? 知っていたのか?」

「ダームエルと酒を交わしたって言っただろ? チーム名がダークって聞いたぞ」


 左目を瞑りウィンクしてきやがった。相変わらずキザな奴だな。


「そうか」


 こうして俺達はフィックス城の前で別れ、二ヶ月近くかかったが、魔導士の村に帰って来た。


「何をやってるのじゃ貴様は? グランティーヌは……グランティーヌは……」


 村に入って開口一番にラゴスのじーさんに怒鳴られた。


「えっ!? まさか……まさか……」

「もう逝ってしまったのじゃ」

「そん、な……」


 俺はティーの墓に案内されてしばらく呆然としてた。


「貴様に伝えるのは癪じゃが、『私は幸せだった』……グランティーヌの最期の言葉じゃよ」


 何も返せない。そんな余裕は無い。

 ティー……ティー……ティー……。

 俺はどうすれば良い? また俺は大事な者を失ったのだな。


《またこれか。どんどん不幸になるな》


 ――――エーコと幸せになって。


 無理だよ。


 お前がいなきゃ無理だよ。


 俺の手は血で染まってるしお前を看取らなかったのだぞ。


 そんな俺がエーコと一緒にいる資格ないだろ?


 俺は再び失意に呑まれ、酒を毎日煽った。

 俺はどうすれば良いんだ? ティー。


「貴様はまた飲んだくれて、エーコはどうするのじゃ?」


 毎日毎日ラゴスのじーさんの小言が煩い。それを無視し続けた俺は失意の底にいた。

 一ヶ月が過ぎた頃、俺は決意する。ダームエルを殺した連中、関わった連中全員殺す。そして、ティーを死に至らしめた商人を殺す。

 そう決意した。

 すまないなダームエル。俺はやっぱり暗殺者になるよ。

 護衛のが向いてるって言われたけど、やっぱり俺はそれしかできない。

 そして俺は村発とうとしていた。


「貴様、少しはマシな顔になったと思ったら、出て行くのじゃな?」

「……ああ」

「貴様……いや、アークスよ。エーコはどうするのじゃ?」

「……違う」

「何じゃ?」

「……俺はアークスではない。ダークだ」


 さあ、此処からはダークの仮面を被ろう。


「ダーク? 何じゃそれは?」

「……暗殺者ダークだ。俺にガキ等いない」

「貴様という奴はぁぁぁっ!!!」

「……邪魔する奴は誰でも殺す。例えエーコであっても」

「何なんじゃ貴様は?」


 そう……暗殺者ダークの仮面を被ろう。


 ダームエル本当にすまない。


「ワンワンっ!」


 お前も着いて来てくれるのだな、ハンター。


「……来い! ハンター」

「ワンワンっ!」


 そして、俺は娘を捨てた……。


《エーコちゃんが……》

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