EP.25 コンポーザー
第十五章の登場人物にクリースティアラを描き忘れました(汗)
結構重要キャラなのにうっかり
改めまして
クリースティアラ=フォン=スイースレン
エーコ達のクラスメイト
スイースレン公国の第一公女
公女なのに普段は影が薄い
「だから、この瞬間も苦痛だ」
ならいるなよと、内心げんなりするニーケル。
「私は、あんたとなんか一分一秒居たくない。あんたなんて消えてしまえば良いと思っている」
「そこまで言われると少々辛いなぁ……」
「辛くなれ! あんたといるアリアは……とても楽しそう……私と二人でいる時よりも、輝いて見える」
ユミエラが結局何が言いたいのか分からずアリアもニーケルも困惑し出す。
「私は、あんたに嫉妬してる。だって、私はこんなに好きなのに、アリアの為だったら何でもしたいと思っている。けど、あんたが居たら何も出来なくなる」
「え?」
ニーケルには心底分からなかった。アリアの為に何かしたいのならすれば良いだろ、と。俺が居ると何故出来ないんだと。
「あんたの前では、私の気持ちなんて無力。あんたは自分を犠牲にする事でも、あんたは喜んでアリアの為にしてあげる。あの時みたいに…………」
ユミエラの瞳から涙が零れた。それがまた余計に二人を困惑させる。
「あんたは、何でそんな格好良いんだよ。失っても、他人を救う。誰よりも痛みを引き受ける。そんな人間に、私が敵う訳がない。この自己犠牲野郎っ!!」
「……買い被り過ぎだ」
やっと言いたい事が分かり、なんとか絞り出すニーケル。確かに買い被り過ぎである。なにせユミエラ視点から見た誇張が入ってるから。
ニーケルは自己犠牲なんて事は滅多にしていない。しても妹に対してくらいだろう。本人は認めないが。
だが、次の一言で何故そんな事を言われるか理解する。それは……、
「最後の演奏を、一人の女に捧げた奴の言う事か!?」
「っ!?」
「あんたは、その音楽人生の最後を、会って間もない少女に捧げたんだ!」
「いや、今もしがみついているよ」
ニーケルは今も作曲という形で音楽にしがみついていた。
「演奏は最後だっただろ!?」
ユミエラが悲痛の叫びを上げる。
「神童と言わしめたその指を、一回で終わる連弾に捧げた! そんな奴に……私は、どう対抗したら良いんだよ? この自己犠牲野郎」
再びユミエラの瞳から涙が零れる。
「私はあんたが嫌いだ。あんたを知れば知る程に、私はあんたにも幸せになって欲しいと思ってしまっている」
今度は矛盾した言葉を吐く。
「だって、あの時の連弾は今もずっと、この心に残っているから」
気付けば涙声に変わっていた。
「だって、私はあんたの演奏が好きになってしまったから。勘違いするなよ!? 私は演奏された曲が好きなだけで、人としては相変わらず嫌いだ! 男は全員嫌いだけどあんたは特に大っ嫌いだ! 自己犠牲野郎」
三度言われてしまう、自己犠牲野郎。
「私の言いたい事は言った。後はアリアの話を聞いてやれ」
それだけを言い残しユミエラは一人先に帰ってしまう。
ニーケルは散々言われて戸惑うばかりだ。アリアの方はというと、ユミエラが何の為に泣きながらあんな事を言ってくれたのか理解し、居心地悪そうにしていた。
「え~っと、あの先輩」
「ん……あぁ何だ?」
「何で、あの時……連弾しようと思ってくださったのですか? 指が壊れると分かっていながら」
ニーケルは当時、事故で指……というより手に大怪我をした。回復魔法も中位程度しかかけなかった。何故なら中位でも暫く無理をさせなかったら、完全に治り以前のように動いたからだ。それなら態々大金を出して高位の回復魔法を使える者を雇う必要はないと親は判断した。
なのに、ニーケルはあの連弾で酷使して結局壊してしまった。
「え? それ前に言ったよな?」
そうかつて言った事。連弾して次に再会した時に。
「もう一度聞かせてください」
意思の強そうな薄紫の双眸でニーケルを収める。
「空虚だった」
「くう……きょ? どういう意味でしょうか?」
「演奏事態は、あの当時にしては良かったと思う。だけど空っぽだった」
「空っぽ?」
「アーティストってさ、不思議なもので、その演奏を聴いて何を想って奏でられたものか分かる時があるんだよ。で、アリアのあの演奏で感じたものは、空虚だった。ただ奏でただけ……そんなのただ音階をなぞってるだけだ。だからもっと楽しんで貰いたかった」
「ニーケルさん」
「何だ?」
「わたくしを弟子にしてください」
その台詞は、そのかつての焼き直しだ。アリアは先程から当時のやり取りを繰り返しているのだ。ニーケルもそれに気付く。なので、ニーケルもあの時の言葉を繰り返す。
「だが、断る!」
「いえ……そこは『いえ、お断りします』でしわよ」
ちょっと違っていた。
「オッホン! ……いえ、お断りします」
なので、咳払いで誤魔化し言い直す。
「何故でしょうか?」
「何故? あ~……あれだ。弟子って弟に子で、弟子って書くだろ? お前は女じぇねぇか」
「では、妹と書いて、妹子と読んでください」
「はい?」
「でしたら……わたくしを妹にしてください」
「いや、意味分からないから」
これはこの後も、度々二人の中でネタになっていた。
アリアはニーケルを蹴り飛ばす。
「いた! 何するんだよ?」
「兄蹴る兄様? になって頂こうかと」
「兄を足蹴にする妹なんてルナマリアだけで十分だっ!!」
「では先輩、わたくしの為に作曲してください」
「は? 何で?」
それはかつての焼き直しではない。唐突に話題を変えたのだ。誰かさんが連弾で曲を途中で変えるなんて事をしたので、アリアは会話の中で真似しているのだ。丸で音を楽しむかのように。
「実は公国演奏祭典に推薦されました」
「ほ~。おめでとう」
素直に褒めた。そんな名誉な事、羨ましいと思いつつも、自分の力で推薦されたアリアを賞賛した。
「でも、お断り致します」
「えっ!? 何でだよ? 名誉な事だぞ? 公王陛下も……」
「音を楽しむ事を教えてくれたのは先輩ですわよ?」
ニーケルの言葉を遮るように、少し強めに言う。
「先輩が居なければ、わたくしが推薦される事はなかったでしょう」
「それでも その結果を手繰り寄せたのはアリアの力だ」
「先輩を差し置いてどうして、出来ると言えましょう!」
強くニーケルを睨む。
「ですから、もし先輩が作曲してくれるなら…………先輩の曲を世に広める事を許してくれるなら、祭典に出場したいと思いますわ」
それで察する。ユミエラが何であんな茶番をしたのか。自分を曝け出して泣きながらあんな事を言ったのか。
自分の好きなアリアが悩んでるから、聞いてやれと言う事だ。それとニーケルが作った曲を世に出す事でアーティストとして幸せになれと。
かたや後ろめたさで演奏の腕がありながら、前を出ようとしない者。かたや今でもみっともなく音楽にしがみついているくせに一人作曲して終わらせている者。
その両方の背を押したのだ。それに先に察したアリアは、相談する前にどうすれば良いのか結論を先に言った。『作曲してくれ』と。
「…………分かった」
暫し考え深く頷く。
それから数日後、完成した曲をアリアに見せると『凄い! 凄い! 素晴らしいですわ先輩!』と大興奮だった。そして曲名はアリアが決めろと言われ、アリアは『星の旋律』と命名した。
その『星の旋律』は数年後に世界的に有名になるアーティスト ニーケル、最初の曲として話題になるのだが、それはまた別の話だ――――。
最初はラブを入れる予定でした。
しかし15章は、端折りまくったせいで唐突になると思い止めました。
本当ならニーケル、ルナマリア、アリア、ユミエラの四角関係を描こうと思っていました(笑)。
その為の伏線というかフラグのようなものをちょいちょい入れていたのですが、全部消しました。
それでも先々を考えるとこのエピソードは挿入しとかないとまずいかなと思いラブを入れない形でまとめました。
とは言え、当初の予定は誰と誰をくっつけるかは筆の走りようで決めようと思ってましたけど。
ルナマリアなんて実は義理の妹でした的な感じにすればニーケルとくっつけますし(笑)。