EP.22 閑話 不穏な会話
「アルノワール殿、遂に計画を実行出来ますな」
「ククク……。えぇ、シュバイツアー閣下」
ワインを酌み交わしながら話すアルノワールとシュバイツァーと呼ばれた男。
シュバイツァーはワインのグラスを振り香りを楽しみつつ笑いを嚙み殺す。
「長かったですな。穏健派の筆頭であるレイジー侯爵を始末してから六年経ちましたなぁ」
「えぇ。今回のターゲット二人を狙うには両方野外実習に出る今年か来年狙うしかなかったですからね」
「ぬかりないでしょうか? 今年も精霊を使役する者がいますし。うちの愚息もその者に赤っ恥を掻かされたとか」
「もう二人厄介な者がいますが……」
アルノワールをワインを口にし、神妙に語る。
「ほ~。その者は?」
「精霊を使役した者のお仲間ですよ。一人は今年の全学園交流試合で優勝しました。もう一人も去年優勝しました」
「あの今大会初出場した小娘か。あの者は今まで無名だったが、ここ最近頭角を出して来たのでしょうか?」
「いえいえ……魔導に才がある者でして、総合学園では不利で今まで出て来れなかっただけですよ」
総合学園は武技にも優れた者がいる。つまり相対的に不利な相手が多いという事だ。なにせ代表を決める総当たり戦は、身体強化の魔法しか使ってはいけないのだから。
「なるほど。確かに魔導に才があるなら魔導学園に行くべきでしょうな。それで、そんな優秀な者がいるのに大丈夫なのでしょうか?」
「ククク……」
アルノワールが不気味に笑う。
「想定通りです。あの者達三人が入学した四年前から準備しておりました」
「それは心強い!」
意気揚々とワインを飲み干すシュバイツァー。
「確実にクリースティアラ公女殿下を始末してご覧に入れましょう」
「頼みましたぞ。して、もう一人の方は?」
「恙なく」
「アレは利用出来る」
「えぇ。あそこの現当主は、殊の外を可愛がっておりますからねぇ」
「穏健派の奴を此方に引き込むのに良い手札だ。しかし、理解に苦しむ。女など子供を産む道具でしかないのに、嫡子を蔑ろにしていると聞く」
普通逆だろと言外に含める。
このスイースレン公国は、他種族差別の他に女性蔑視している男尊女卑な国だ。高位貴族となると特に酷い状態だ。当然平民に対しても家畜程度にしか思っていない。
「……そうですね」
「それにしても四年前の未開の地での事件のせいで手間が増えましたな。本来なら未開の地への野外実習でしたのに。それも三年生からの」
「確かにそうですね。シュバイツァー閣下」
「あれは本当にアルノワール殿の仕込みではないので?」
「えぇ。少し前に精霊族の集落に手を出しましたが、引率の教師とはぐれたあの事件は無関係ですよ」
「その精霊族の件も悔やまれますな。せっかく愛玩用に何匹か飼えると思ったのに」
「件の三人の関係者に邪魔されていまいましたね」
アルノワールはワインを飲み干すと天を仰ぐ。そして……、
「では、私はこれで。次の約束がありますので。<転移魔法>」
アルノワールは優雅にお辞儀すると転移魔法で、本拠地に帰って来た。
「ふ~。先程はああ言いましたが、今回は不確定要素があるんですよね」
溜息を吐き不安を口にする。
「サルバリッチ伯爵令嬢がレイジー元侯爵令嬢に勝つ予定なんてなかったのですが」
アルノワールの中で件の三人が全学園交流試合で活躍する事は織り込み済みだった。が、サルバリッチ伯爵令嬢の健闘は完全に想定外だったのだ。
「やはりこの周回は、なにかおかしいですね」
もう一度ふ~と息を吐き出す。
「ジャイアント・イモリや魔族の暗躍が失敗だったのでしょうか?」
アルノワールの今回の周回での策略の中に魔物を隷属させ進化をさせるというのがあった。それの前段階の実験でジャイアント・イモリを操り、メハラハクラ王国をついでに混乱させようとしたのだ。
更に魔族を暗躍させる仕込みもした。
それを両方アークが潰した。つまりそれがきっかけで、アークがウルールカ女王国に行く事になり、陽汝 基無を思考誘導させウルールカ女王国を混乱させる計画が潰される事になった。
続けてスイースレン公国でリリーナ誘拐をライオスが阻止、精霊族の集落への襲撃やジパーング聖王国とアルーク教国との戦を止め、ブリテント騎士王国のハッタリックの謀略を暴くという一連の流れに繋がったと思ったのだ。
つまりはメハラハクラ王国での暗躍が裏目に出たと。が、しかし……、
「いや、ロクームさん達も今までいませんでしたし、やはりこの周回は何かおかしい」
と、思い直す。ロクームとエリスの存在がクルワーゾ騎馬王国との開戦を阻止している。それは今までの周回になかった事だし、ジャイアント・イモリも魔族も関係ないと考え直したのだ。
「まぁ良いでしょう。でも今回は上手くやりたいですね。メハラハクラ王国の件も今回の件もクルワーゾ騎馬王国で、もう間もなくに起きる厄災への備えだったのですから。この周回でこそ、あの厄災をあの者が止めるのを阻止したいですね」
アルノワールの目的の一つはこれに当たる。例えばクルワーゾ騎馬王国とメハラハクラ王国が目論見通り開戦しメハラハクラ王国が敗退しクルワーゾ騎馬王国を強国にしようとした。
そうすればアルノワールの考える人物が厄災を止める未来が潰えると考えていたのだ。
リリーナの誘拐も此度のクリースティアラ殺害もジャアーク王国との開戦の口実にする腹積もりなのだ。つまりはシュバイツァーは、踊らされているのだ。本人はこれにより自分がスイースレン公国の実権を手にすると思っているが。
そして、ジャアーク王国の一部はクルワーゾ騎馬王国と繋がっている。つまりは、スイースレン公国が敗退すれば結果的にクルワーゾ騎馬王国が強国になると踏んでいた。
そういった思考しているとコンコンとノックが響いた。
「入ってください」
「よォ」
入って来たのは、茶色の髪を逆立ており、深緑の瞳の男だ。背中にはでかい真っ黒な大剣を背負っている。三白眼で目付きがかなり悪い。
「待っていましたよ、バリガリスさん」
「今回の依頼は何だ? 誰を殺して欲しいんだ?」
挨拶もそこそこに本題を切り出すバリガリスと呼ばれた男。
「いえ、今回はアストレア伯爵令嬢の誘拐です」
「ちっ! 殺しじゃねぇのか」
バリガリスは心底つまらなそうに言う。
「邪魔する者がいれば全員始末しても構いませんよ」
「はは……そうこなくちゃ。詳しく聞かせろや」
そうして二人の悪巧みが始まる。
お願いがございます(>_<)
少しでも、
「面白い!」とか「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
『☆☆☆☆☆』から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
数は皆さんの判断ですが、★5付けて頂けましたらめっちゃテンション上がります
最高の励みになります!
他にもいいね等を付けて頂けるとモチベーションが向上します
もし良ければ宜しくお願い致します(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾