EP.17 戦うべき時があるのでした
Bブロックの試合が始まる。
第一回戦第一試合は、ライオスだ。しかし、特記すべき事は無い。一言で言えば堅実な剣の腕で圧倒したくらいだろう。
ローゼインもそうだが、ライオスも謎が多い。復讐したい相手がいるのには気付いたが、何故? とか誰に? とか全く分からない。
それと剣の腕だ。俺が教えるまでもなく基礎は出来ていた。転生者かもしれないが、鑑定遮断のスキルを持ってるらしく確認出来なかった。
そんなライオスの抜群のセンスは、踏み込みだ。ここだ! と見極めに優れており、一気に踏み込む。
この試合も堅実な剣で、攻撃を凌ぎチャンスと見るや一気に距離を詰め肩代わりの花を散らした。
まあ地味だが、優秀過ぎるくらいだ。それに足捌きや剣筋が見極め困難な程に速いのも美点だな。
で、第四試合はローゼインの出番だ。相手選手は、武技学園の二年生で同学年。これじゃ特訓の成果はあまり見れないかもな。
まあ歳は若いが、実力者って可能性もあるけど、普通は年齢=実力と捉える。実際地道に鍛錬すれば歳を取る程に比例して強くなるものだしな。
「それは試合、始め!」
相手選手が一気に攻める。
「凝固!」
俺が教えた技の一つを発動すると剣に冷気を纏う。それで向かい打つ。
平たく言えば魔法剣だな。が、実際には似て非なるモノ。魔法剣は、魔力制御と魔法を御す闘気が必要。だが、ローゼインには前者はともかく後者の魔法を御す闘気なんて持っていない。
しかし、分子運動という特殊な称号のお陰で可能とした。いや、むしろ通常の魔法剣より発動させ易いかもしれないし、極めれば威力も桁違いだと思われる。
そしてその実態は、水素と酸素分子の運動に働き掛け氷を剣に纏わせている。ただ発動のトリガーとなる名称を言う事で発動し易くなるとこは、普通の魔法剣と変わらないかもしれない。それ故に彼女自身が考えた技名の凝固を呟いた。
「ふっ!」
擦れ違いにたった一振り。そのたった一振りで、試合は決した。肩代わりの花が凍り付き砕け散ったのだ。
やはり、ローゼインの実力を見る試金石にもならなかったか。
続けて第二回戦第一試合のライオスは、これまた同じく堅実な剣捌きで圧倒。剣の腕だけなら俺の上を行くな。
第二試合は、ローゼインだ。相手選手は魔導学園の五年生。試金石になり得そうだな。
「それでは試合始め!」
「<炎槍魔法>」
「凝固」
炎槍魔法を凝固で迎え撃つ。第一回戦を見ていたので遠距離から、しかも逆属性を攻撃したというとこか。
だが、結果はあっさり凝固に負ける。下手な魔法剣より強いからこそかもしれない
「加速」
続けてローゼインは、冷気を剣から解き放つ。その冷気は地面を凍らしながら進み相手選手の足と地面を縫い付ける。
「<炎玉魔法>」
相手選手はそれを溶かそうとするがビクともしない。この分子運動という称号は凄まじいな。
「何で? <着火魔法>、<炎槍魔法>……何で溶けないの?」
足元に魔法を放つが全然溶けない。正確には溶けている傍から凍らせているのだけど。遠隔で分子運動を可能に出来るようになったし。
その間、悠々とローゼインは歩きながら相手選手に向かって行く。
「来るな! <炎嵐魔法>」
「ふっ!」
中位魔法で妨害するが、あっさり冷気の剣に斬られる。あの炎の嵐を豆腐ように斬るとかすげぇな。
「来るな!」
「無駄よ」
相手選手は剣を振るがあっさり折られる……いや、斬られる。元々あの分子運動は、振動剣を作り出し相手の獲物を斬る使い方をしていたのだから当然だ。
そうしてローゼインは、肩代わりの花を斬り咲いた。
あっけなく思えるが、あの特訓があったからこそだろうな。氷魔法だけを使い続け魔力制御が確り出来るようになったからこそ、氷の……いや、水ひいては水素と酸素分子の構造を把握し分子運動させる事が出来たのだろう。
二試合目も直ぐに決したが、それが良く分かる試合でもあった。
さあ次の第三回戦は、ライオスとの戦いだ。が、悪いがローゼインでは勝てない。
何故なら、これまでの戦いでライオスは実力の半分も出していないと思われるからだ。
堅実な剣だけで圧倒して来た。しかし、ライオスは身体強化の魔法と闘気の両方を扱えるハイブリッド。
その両方を同時に発動させた時にどんな化学反応があるか、俺も想像出来ない。
正直、まだ完全に使いこなしていない分子運動じゃ太刀打ち出来ないだろう。
そんな事を考えているうちに二人が武舞台に上がる。
「それでは、試合……」
「ちょっと待ってください」
審判の人が試合開始のコールをしようとした所をライオスが遮る。
「私は棄権します」
はっ?
ライオスは意味不明な事を言って踵を返す。
「分かりました。勝者、ローゼイン=サルバリッチ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ローゼインが泡を食ったように叫ぶ。ライオスは、ピタっと足を止める。
「何で? 何で戦わないのよ!?」
「私の戦いはここじゃないからですよ」
そう言って振り返る。
「どういう事?」
「人には戦うべき時がある……そう私は思っております」
「でも、ここまで勝ち続けて来たじゃない」
「だとしても、この大会で戦うべき時があるのは、貴女です。ローゼイン様」
なんか格好良い事を言ってるぞ。
「何で? 何でそれを知っているの?」
ローゼインが、擦れた声で絞り出す。
「いえ、詳しい事は知りませんよ。ですが、この大会の為にダークに教えを請うたのは知っております」
まあそれは話したからな。だが、棄権して欲しくて言った訳じゃなく、ただ学園に来た理由を言っただけなんだけどな。せっかく学園に来たのだしライオスにも挨拶しておこうと思っただけで。
にしても確り俺を『ダーク』と呼ぶのだな。
「彼を……師を知っているの?」
「えぇ。私も教えを請うた事がありますので。それでは」
再び踵を返すライオス。
まあ何にしてもこれでローゼインが標的と当たれるかもしれないな。
ローゼインは、ダッグアウトに戻る。しかしそのローゼインの表情が優れない。ガクガク震えているようにも思える。それに気付いたエーコが話し掛ける。
「どうしたのー? 震えているよー」
「エーコさん、次なの」
「えっ!?」
「……私が越えたい相手と戦うのは。Bブロックのシードに選ばれている」
深呼吸するように吐き出す。
次って今、戦ってる人か。名前はクーデリア……? 学年は一つ上の武技学園の生徒だ。
青い髪で三つ編みポニーにしており肩の下辺りまでで、青い瞳の少女。
「学園で、一度も勝てなかったライオスに勝てば、少しは自信が付くかもって思ったんだけど……」
それが棄権されたもんな。
「いや、言い訳か。ただ私は怖いだけなのよ」
自嘲気味に笑う。
「怖い? 強いのー?」
「それだけじゃない。………………エーコさん、少し私の話を聞いてくれる?」
「良いよー」
「彼女の名前はクーデリア。クーデリア=アッシュロード」