EP.16 沙耶とノアが戦いました
「レイアース」
《は~い》
沙耶の奥の手である湖の精霊レイアースを顕現させる。
「「「「「ぉおおおおお……っ!!!」」」」」
その瞬間、会場が沸いた。まあ精霊なんて使役出来る人族って滅多にいないっぽいしな。
レイアースは、呼び出されると同時に大津波を起こし、計二百の魔槍を掻き消す。
「せ、精霊……だと?」
相手選手は驚きで一瞬固まってします。そりゃあそうだ。人族で精霊と契約出来る者は極稀。レア中のレア。そんなレアな存在と、この大会で当たるなんて、ガチャで言えばSSRを通り越してLAを引き当てたようなものだろう。
「クソ! <百炎槍魔法>」
慌てて次の魔法を唱える。しかも詠唱破棄だ。MP消費が激しい。しかし、そうせざるを得ないのだ。先程一瞬固まったせいで、沙耶に多少の接近を許してしまった。詠唱破棄になってしまったが、咄嗟に魔法を唱えただけ上等。優秀と言えよう。
「<霊人一体>」
沙耶がレイアースと一体になる。レイアースが丸でスタ〇ドのように沙耶の背中に張り付く。
「笹山流薙刀術・水流の舞」
いや、もうあんた笹山流薙刀術でも何でもないでしょうよ!? 今までは笹山流薙刀の型に嵌めて闘気技や魔法薙刀を使ったのだろう。だけど今回は即興で考えなかった? 詳しく知らないが薙刀の技に『舞』なんてなかったと思うんだけど。
まあそれはさておき、沙耶は舞うようにグルングルン薙刀を振り回し、次々に水の竜巻が起きる。それに百炎槍が呑み込まれ搔き消される。これ周囲のものを吸い込む力が多少ありそうだな。
「<氷槍魔法>、<土槍魔法>、あ~もう! <水槍魔法>」
完全には立ち直っていなかったのか、もうただただがむしゃらに魔法を放っていた。
沙耶は相手選手に近付きながら舞を踊り、それにより生じた水の竜巻に次々の相手の魔法を呑み込んで行く。
「炎槍魔法……はぁはぁ。出ない………………降参だ」
MPが枯渇し、相手選手は両手を挙げる。
これで沙耶は第四回戦……ブロック準決勝へと駒を進めた。しかし、次に当たるのはノアだ。たぶん沙耶では勝てない。俺の直感がそう告げている。
実はノアの試合も一応見ていた。ぶっちゃけつまらなかったけど。なにせノアが圧倒的だからだ。
まず第一回戦はシードなので無くて、第二回戦は一睨みで終わった。開始早々魔眼の力で相手の動きを止め、丸で散歩するかのようにスタスタ優雅に歩き、相手選手の目の前に到着すると、そのまま手掴みで肩代わりの花を捥ぎ取った。
今、開始された第三回戦は開始早々一睨みしたが、動きが一瞬止まっただけだった。たぶん格が上か下で左右されるのだろう。
二年前に出会った時も魔物相手に一睨みで、絶命させているのもいれば動きを一瞬止めたのもいた。
しかし、こんな試合でも一瞬動きを止めただけでも致命的だ。
相手が斬り掛かって来たとこを再び魔眼の力で止め、その一瞬の隙に手に持つ宝石が散りばめられた宝石剣で、肩代わりの花を斬り咲いた。
第二回戦も第三回戦も試合時間一分も掛からない見応えのない試合。次のブロック準決勝では沙耶がどう魔眼に対抗するかがキモになりそうだ。
という訳で沙耶はほとんど休む事なく即、次の試合が始まる。まあそんな大きくは消耗していないだろうけど。ちなみにだが、ノアはどうやら魔導学園所属の五年生らしい。
「では、試合開始!」
「レイアース」
《は~い》
ノアの必勝パターンなのか、開始早々魔眼の力を使う。今までの試合全部使ってたからな。たぶん真っ先に使いどれくらい耐性があるか試しているのだろう。
が、今回は試せない。即座に精霊を呼び出し大津波で自分を隠し魔眼の視界に捉えさせない。そしてそのまま大津波はノアを襲う。
「……無駄よ」
抑揚のない声音で呟くノア。
そして一瞬で大津波が消えた。一体どんな魔眼だ? 今までに俺が見た現象は、絶命、停止、消滅。この三パターンは一件バラバラに見える。が、エーコの魔眼を考えると能力は一つだと思う。
いや、もしかしたら両目とも魔眼なのか? だとしても二つまでしか能力はない筈。三つ目はどうやって発動している? 分からんな。
「えっ!? なら<霊人一体>」
一瞬驚きで目を丸くする沙耶だが、直ぐに持ち直しレイアースと同化する。
が、背中に付いたスタ〇ド型レイアースをノアが一睨み。一瞬で消滅した。うわ! 沙耶の奥の手である精霊を封じたって事かよ。
「<氷弾魔法>」
次は此方の番と言わんばかりに宝石剣の剣先から、氷の弾丸を連打。ズタタタタタ…………と沙耶を襲う。
この魔法は中位クラスで威力は低いが、連射性に優れている。しかしあのズタタタタタ…………って音を聞くとノアのは一味違う威力に思える。それだけ激しい音だ。
「笹山流薙刀術・大風車」
沙耶は正面で薙刀をグルングルン回し氷弾魔法を防ぐ。
そして魔法が止んだと同時に一気に距離を詰める。風魔法による俺の縮地もどきだ。俺と違い予備動作があるので、強者には直ぐに見極められてしまう。尤もロングスカートのお陰で見極め辛いが。
それと俺の縮地より遅い。何故なら速過ぎても上手く止まれないからだ。沙耶には俺と同じスピードで縮地を行い止まる芸当は残念ながら出来ない。
「はっ!」
ノアは一睨みで沙耶の動きを一瞬止める。一瞬なのが幸いした。その一瞬では攻撃を転じられない。それでも沙耶の攻撃を避ける余裕は出来たけど。
にしても俺の縮地より遅いとは言え、初見で良く反応したな。ノアは魔法と良い、魔眼頼りじゃないってのが良く分かる。
「炎刃魔……」
沙耶が通り過ぎて行き、背中を向けている今がチャンスだと思ったのか、ノアが魔法を唱えようとする。しかし、それを振り返ると同時に脇差を投擲して中断させた。咄嗟に宝石剣で脇差を弾く。
「アークが言った通り厄介ね」
額の汗を拭いながら、沙耶が呟く。
「……アーク?」
ノアが小首を傾げる。というかこっちは汗一つ掻いてないのかよ。
「昔に会った事があるそうよ?」
「あ~。未開の地で会ったわね」
覚えていたのか。
「場所まで聞いてないよ」
「……貴女、彼の知り合い?」
「そうよ」
「……なら、彼に謝っておいて。助けてくれたのに態度が悪くしてごめんなさいって」
「分かったよ」
いや、沙耶に取り付けた草を通じて確り聞いてるよ。というかね、感情を感じさせない抑揚の無い喋りで謝られてもな~。
「……続き行くね」
そう呟いたノアは一瞬で、距離を詰め斬り掛かる。
「えっ!?」
沙耶は目を丸くしつつも薙刀の柄で宝石剣を受け止める。
というか沙耶が驚くのも無理ないよな。今、縮地もどきを使っただろ? 器用だな。
「……貴女、面白い事をしてたね。真似てみたよ」
宝石剣と薙刀を交差させたまま話す。
は? 初見で真似出来るのか? 相当な戦闘センスがあるな。
「はっ!」
宝石剣を一度引き再び斬り掛かる。今度は止めはしない。何度も色んな角度から斬り掛かり、沙耶は必死にそれを防ぐ。
「……<竜巻魔法>」
「わっ!!」
宝石剣に竜巻が絡み付く。それで斬り掛かり、沙耶は吹き飛ばされる。
再び縮地で距離を詰め斬り掛かる。なんとか沙耶も体勢を整え受け止める。
「笹山流薙刀術・風神の乱」
同じく沙耶も風魔法を薙刀に纏わせる。風薙刀と風宝石剣がぶつかり合う。その度に風圧でお互いの獲物が離されるが、直ぐに斬り結ぶ。
しかし沙耶のがやや押されている。何せノアの竜巻魔法は中位魔法。対する沙耶はただの風を纏わせただけで下位クラスにも劣る。
そもそも魔法を唱えていなかったしな。魔法名を口にする事で、瞬時にその魔法を発動させるもの。魔法名破棄は、それなりの集中力がいる。そんな集中する暇はなかった。
結果としてただ風を纏わせただけになってしまったのだ。しかし、ノアの方は確り魔法を発動したので、宝石剣に風が渦を巻いてる。
そんな中位魔法を魔法剣にするって事は、それだけ魔力制御も剣の中で御す闘気を兼ね備えているという事。俺が想像してたよりも、かなり熟練された力量だ。
「くっ!」
やがてノアの宝石剣が沙耶の腕に掠る。しかもその瞬間に雷魔法に切り替えた。まあ魔法名を言わなかったので、下位クラスにも劣るただ雷を纏わせただけだが、それで十分だ。沙耶は痺れ動きが悪くなる。
それにダメ押しと言わんばかりに魔眼により、沙耶の動きを一瞬止める。そしてその隙に肩代わりの花を斬り咲いた。
「負けたよ。良い試合だったよ」
沙耶が手を差し出す。それをノアがそっと握る。
「貴女もね。楽しかったわ」
ふっと笑う。いつものような感情を感じさせない抑揚ない喋りではなかった。初めて感情を感じさせる声音を聞いた。鈴を転がしたような綺麗な声だな。
さて、次はライオスとローゼインがいるBブロックだな。そう言えば両方俺の弟子のようなものだな。まあローゼインには悪いが、まだライオスには届かないだろうけど。