EP.14 全学園交流試合が始まりました
-1304――――月陸歴1517年10月7日
寮の自分の部屋でゆっくりしていたエーコだが、ノックの音が響きそちらに反応する。
「はーい」
扉を開けるとローゼインがいた。恐らく昼過ぎまでぐっすり寝ていたのだろうな。昨日は精根尽きて倒れたし。
ちなみにだが、俺は寮の外まで運び後は沙耶に任せた。俺が女子寮に突撃する訳にはいかんし。
「あ、ローゼインさん。どうぞ中にー」
「ありがとう」
エーコが中に招き入れ、椅子を示すとローゼインはそこに座る。
「どうぞー」
エーコはお茶を淹れテーブルに置くと対面に座る。
「それでどうしたのー?」
予想は付いているが、一応聞いてみたってとこだろう。
「あの……師は?」
「ダーク?」
「そう」
「帰ったよー」
「えっ!?」
ローゼインが鳩が豆鉄砲を食ったようような顔をする。
「元々ダークはー、修行中だったんだよねー。流石に一ヶ月も中断していたから、昨日さっさと帰ったよー」
まあ正確には現在スイースレン公国の公都スーレンにいるんだけど。転移屋の順番待ち中。三日後に転移魔法で、帰る予定だ。
こっち来る時より、順番待ちの日数が多いのはコネがないからだな。ブリテント騎士王国では、干支の道場にいるだけで師範のコネで、早めに転移をさせてくれた。師範の許可が必要のは当然だけど。
だが、その三日の空き時間で公都スーレンに観戦しに行くつもりはない。俺がいるとなれば俺にアドバイスを求めるかもしれない。それじゃあローゼインの為にならない。
それにこれ以上一緒にいれば踏み込んでしまいそうだ。ローゼインが何を抱えているのか。これからも関わるとは限らないしな。
まあ見るだけなら草で、覗けるし沙耶とライオスも見れる。
「そうですか……。試合見て貰えないの残念ね」
本当に残念そう溜息を付く。
「大丈夫だよー。とある方法でちゃんと見てるからー」
「え!? まぁ師なら可能かもしれませんね」
一瞬目を丸くするがふっと笑う。
いや、俺なら可能ってそれで済ますかな。なんかそんな扱いを受ける事がしばしばあるんだけど。
ちなみにだが、今後も関わるか分からないので、草の事は話すつもりはない。今後スイースレン公国と敵対する可能性があるしな。そうなるとスイースレン公国の貴族であるローゼインと敵対する事になる。手の内は晒すつもりはない。
まあそんな一幕があったが、次の日全学園交流試合が開催された……。
第一回戦だけで全部29試合。総勢58人によるものだ。人数が多いだけあって、準決勝、決勝の二試合は、次の日行われる。
最初にクジが引かれ、それぞれの対戦を行うのだが、それはつまり運が悪いと同じ学園の同じクラスが一回戦で当たる事になる。ブロックを分けてやれよと思うけど。
クジには『A-⑤』とか『D-⑩』みたいに書かれている。つまりは『Aブロックの五番目』や『Dブロックの十番目』という意味だな。
尚、『A-⑮』。つまり『Aブロックの十五番目』は、去年の準優勝者、『C-⑮』は去年の優勝者がそれぞれシードで配置されている。
『B-⑬』、『B-⑭』、『D-⑬』、『D-⑭』もシードであり、此方は去年の準々優勝者や成績優秀者、優勝者の学園から枠を取ったり等……その時の大会委員が決めた者が配置されている。
ちなみにその優勝者達は去年最終学年で、卒業してる場合もあるが、それも代わりを大会委員の人が決めるようだ。
選手達がそれぞれクジを引いて行く。まずそれぞれの学園の最終学年から。続けて一学年下と順々に引いて行く。そして総合学園の二年生の順番が来た。
順番は対抗試合の代表を決める総当たり戦での成績優秀者からのようだ。つまりはライオスから。続けて沙耶、ローゼインが引いて行く。
うわっとライオスとローゼインは同じBブロックじゃねぇか。これライオスに負けたらローゼインの標的に当たれないんじゃねぇのか? まあ誰が標的か知らないが。
で、沙耶がAブロックね。一人くらいCかDブロックに行ければ良いものを。そうすれば二人は決勝まで行ける可能性があったのに。これもクジ運って奴かね
その後、総勢58名が並び選手宣誓。定番だね。ってあれ? あれは……、
『どうしたのー?』
俺は伝心魔道具を取り出しエーコに伝心していた。ちょっと気になる事があったからだ。
「あ、エーコちょっと右の方へ視線向けて」
草は、エーコの向いてる方向から死角になってたからな。
『右ー?』
「あ、ストップ」
やっぱり。
『どうしたのー?』
「いや、知ってる奴がいたから」
『そうなのー?』
「もう一度トーナメント表を見て」
『分かったー』
トーナメント表によると『A-⑮』だ。え? 去年の準優勝者? マジかよ。強いと思ってたけどあいつそこまで強いのかよ。ていうか、沙耶と同じブロックじゃねぇか。
「エーコ、沙耶に伝えて」
『なーに?』
「Aブロックのシード枠にいる奴は、魔眼持ちだし厄介な相手だから気を付けろって」
『魔眼!? えーっと、ノア?』
「そうノアだ。前に会った事があるんだよ」
あれはもう二年前になるか。ナターシャと合流する為にキアラとラキアと共に精霊族の里からスイースレン公国に向かう途中、未開の地を移動中に出会った。
なんとも不思議な少女だった。ショートの黒髪に左は黒目で右は茶目のオッドアイの少女で、流れで助ける事になったんだよな。
当時十二、三歳だったが、あれから二年経ったし多少は成長してるな。が、小さい。何がとは言わないが初めて会った時の沙耶と同レベルくらいだ。
まあそれはともかくノアは最終学年である六年か五年くらいだろう。年齢的にもそれなりに鍛錬もしただろうし、沙耶じゃ厳しいだろうな。
選手宣誓の際に並んでる沙耶は、薙刀を背中に背負っている。この大会では本気でやる気だな。精霊も使えば早々負けないだろう。
でも、何故かノアのが強いと思ってしまった。あの時にうっかり鑑定するのを忘れたのが悔やまれる。いや、今から行って鑑定するべきかと悩んでしまう。だが、個人情報だしと思いグっと堪える。
ノアか……ノア。なんか気になるな……。