EP.07 試験結果
「私の母親って……あぁこれ対外的に母親ってなってる方ね。つまり現伯爵の夫人」
え? 聞いて良いのだろうか? と、戸惑う三人。ちなみにライオスは聞きながら、たった今、吹き出してしまったお茶を拭いている。
「その母が病気がちで子供産めないって言われたのよ。それで母が父に言ったの。『家の存続の為に子供が必要だし一人までなら許す』ってさ。それで父は、母を愛していたから悩みに悩んだ苦渋の末、愛人を作ったのよ。でもよりによってエルフよ? 対外的には母の子にするって話なのにエルフじゃバレバレなのにさ」
滔々と語る。
「えっと……そんな話を聞いて良かったのですか?」
「私もそう思いますよ」
「わたしもー」
「良いのよ。もう貴族界には知れ渡った事だし。私の口から聞かなくても耳に入ってくるわ。嘲笑のオマケ付きでね」
苦笑いと共に言う。
「でも、お父上は他種族に寛容なんですね」
なんて答えて良いか分からずライオスは、明るい話題に方向転換した。
「まぁうちは、他の種族を普通に家人に雇い入れるくらい気にしていないわね。生みの母親も侍女だし」
「この国では珍しいですね」
「そうね。うちは珍しいのかもしれないね」
沙耶の言葉に胸張って自慢げに答えるルリシア。
「まぁ私の家がこんなんだから、ライオスを尚更心配してたのよ。でも、心配ないようね。ライオスには、貴女達二人がいるから」
「先生もですよね?」
「私も出来る限りはするけど、私にも立場があるからね。全面的にライオス側に立つ事は出来ないわよ」
「でも、こうしてお茶くらいはしてくれますよね?」
「まぁそれくらいなら。私もライオスが淹れてくれるお茶は好きだしね」
「それで十分ですよ」
二人は見つめ合い甘々空間出来上がって行くのをエーコと沙耶は幻視した。
「オッホン! いちゃつくの私達のいないとこでお願いしますよ」
「そうだよー」
「いちゃっ! ば、馬鹿な事を言わないでー。私達五歳も離れているのよ」
「え? たった五歳じゃないですか」
「だねー」
「もう揶揄わないでー」
ルリシアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
それから暫くお茶を楽しんだ。
「あ、もう直ぐ試験だけど、ライオスは無理しないようにね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
もうお暇しようかと思い始めた時に唐突にルリシアが言い始めた。
「エーコとサヤはどう?」
「私は問題ないですよ」
「わたしもー」
というより二人は『称号 転移者』により、翻訳がされているのだ。つまり、エーコは星々の世界で、沙耶は地球で字を覚えていたので問題なかった。
しかも本来はもっと上の年齢。エーコは十五歳で、沙耶は十七歳なので、知識は普通の九歳よりあるのだ。
ズルをしているので、内心気が引けているのだが、二人はそれを噯にも出さないようにした。
それから解散となり、全員ルリシアの学園での部屋から出て行く。
数日が過ぎ、試験を受けた翌日に結果が教室に張り出される。
「マジかよ!?」
「有り得ない」
「わたくしが四番目……」
「何かの不正だろ?」
教室内は、ザワ付いていた。そんな教室にエーコ、サヤ、ライオスが入って来る。
「貴様、どんな不正をした!?」
「何の話でしょう?」
ハンネルが怒りの形相で問い詰めるがライオスは首を傾げた。
「あれだよ! あれ」
試験結果の張り紙を指差す。その順位は……、
1位 エリザベス、サヤ、ライオス
4位 クリースティアラ、エーコ
6位 ローゼイン
7位 リリーナ、ユミエラ
9位 ハンネル
と、書かれていた。
「私は普通に試験を受けただけですが?」
「噓吐け! 貴様のような下民がクリースティアラ公女殿下が差し置いて一番になるか!」
ピクっとクリースティアラが震える。公女殿下と呼ばれた彼女は、スイースレン公国の王族だ。
フルネームはクリースティアラ=フォン=スイースレン。金目で青く背中まである髪を三つ編みで一本にまとめている。
そのクリースティアラは、四位だったのを気にしており、それなのに態々教室で叫ばれ眉間に皺が寄る。
「お黙りなさい! 結果が全てです」
「ですが、公女殿下……」
「不正をした証拠はあるのですか?」
これ以上騒ぐな。四位だったのが惨めになるから、と言外に籠める。
「くっ! ならサヤはどうなるのです?」
「え? 私?」
「ウルールカ女王国出身だろうが!」
散々突っ掛かって来た恨みをで、ここぞとばかり非難する。沙耶の視線が段々冷えて行く。
「それが?」
「そんな貴様がスイースレンの歴史なんて分かる訳がない」
「馬鹿なの!?」
もうこれには呆れるしかない。
「なんだと?」
「そりゃ最初は分かる訳がないよ。でも、それなら確り学べば良いだけじゃないのよ」
「わたくしもそう思ういますわ。むしろ我が国の事を学んで頂き感謝する方が貴族として相応しいのではないかしら?」
もう良いから黙れ! 四位ってだけでみっともないというのに、これ以上騒がれたら恥だと周りから言われてるようなものじゃない、と言外に含めならがらクリースティアラが言う。
「はいはい。静かにしてください」
手を叩き教室に入って来るルリシア。実は教室の外で見守っていたのだ。
「ライオスさんの結果は、本人の努力です。サヤさんもたぶん努力です」
「たぶんって……」
沙耶が肩を落とす。
「あ、ごめんなさい。ライオスさんと違って努力してるとこを見ていなかったので」
「なら、この下民は見てたのですか?」
「えぇ。最初は字も書けなかったですからね。課題を出していました。確りやっていましたよ」
「つまり贔屓していたと?」
「うわー」
今まで黙って見てたエーコが顔を顰めながらボソっと呟く。
「何だ?」
「べ・つ・にー」
「何か言いたい事があるんだろ!?」
「はいはい、止めなさい。そもそもスタートラインが違うのですよ? そのスタートラインに並べただけで贔屓とは心外です、ハンネルさん」
「それ以上の事をしていたのではないのですか?」
「してるように見えましたか? エーコさん」
「してなかったねー」
エーコは途中からだが、ライオスに課題を出したり教えていたりしてるとこを見ていた。勿論沙耶もだが。それは授業でやった内容以上のものではなかった。
「くそっ!」
それっきりハンネルは、大人しくなり席に座る。
日頃の行いが物を言うのだろう。これが沙耶なら、まだ食い付いて来ただろうが、普段何も言わないエーコだからこそ何も言えなくなった。
「何なのですか? ライオスさんは確りやっていたのに」
それらを傍観していたリリーナが憤慨する。
「止めなさい、リリーナ」
「ですがお姉様、ライオスさんは遅くまで図書室で勉強していたではないですか?」
「貴女は、彼に助けて貰ったから私情が入ってるのよ」
「いいえ、そんな事はありません」
「だとしても関わらない事がお互いの為よ」
瞬く間に日が過ぎて行き九月を迎える。
「知っての通り、来月に全学園交流試合が行われる」
剣術の教師が皆に呼び掛ける。
「だが、それは二年生からだ。体の出来ていない君達一年生は騎士団との親善試合を行う。胸を借りるつもりで行うように」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「さて、参加メンバーは総当たり戦で上位三人まで決め、その者達が参加者というのが全学園交流試合だが、君達が行う親善試合は、私が選んだ五人までとなる。呼ばれた者は前に出るように。まずウドマン」
ちなみにだがこの五人というのは、全学園交流試合で最大枠を勝ち取った場合の人数。逆に三人というのは最低枠。
よって今から呼ばれる者は来年からの全学園交流試合の代表になる可能性があるだろうと教師が踏んでいる者だ。それ故に、代表になり試合に出たい者はソワソワしている。
「ウッス」
「ハンネル」
「よし!」
一人ガッツポーズをする。
「返事を確りしなさい」
「はい」
「ライオス」
「はい」
「ローゼイン」
「はい」
「サヤ」
「え? わ、私? はい」
「何の冗談ですか?」
「何がだね?」
「まず何故サヤなど選ぶのです? 栄えある我が国の行事です。他国の者など」
まともやハンネルがケチを付ける。
「他国の者が出てはいけない決まりなどない」
「くっ! では何故あんな下民など」
「下民とはライオスの事か?」
「他に誰がいると言うのですか?」
「生まれも関係ない。実力で選んだのだ」
「ですが!」
「それともハンネルは、私の見解に不服があるというのか?」
「いえ……」
一睨みで黙ってしまう。毎度の事になっており、沙耶なんてハンネルを冷めた目でしか見ないようになっていた。