EP.06 ルリシアの出生
とある日の放課後、ルリシアに用意された学園での部屋にライオスの姿があった。普段この部屋で授業の準備等をしているのだ。
ルリシアはお茶を啜っている。
「美味しい。やはりライオスさんの淹れたお茶は美味しいですね」
「ありがとうございます。でも、本に書いてある通りに淹れただけなんですがね」
「それでも美味しいです。それでライオスさん、こないだの課題は出来ていますか?」
「はい」
ライオスは数枚束ねられた紙を差し出す。実は字が書けないライオスに個別指導をしているのだ。この課題というのは、ライオスだけの為に作られたもの。
「わ~。凄いですね。もうこんなに字を覚えたのですね」
「はい」
「それに算術は全問正解じゃないですか。これ一年生には難しい問題なんですけどね」
算術の課題を記載した紙を取り目を丸くした。
「数字さえ分かれば比較的簡単に解けましたよ」
「もしかしてどこかで計算だけは学んでいたのですか?」
「はい。小さい頃に父と母から」
「学のある両親だったのですね」
と、話していたらルリシアの部屋にノックが響く。
「誰かしら? は~い」
扉を開けるとそこには……、
「エーコさんにサヤさん? どうしたのですか?」
「良ければ入って良いですか?」
「今、ちょっと他の子がいるので……」
ライオスがどういう扱いを受けているかルリシアは重々承知している。なので、せめて此処にいる間だけは貴族の子弟の悪意に晒されないように気を使っていた。
よって沙耶の申し出をやんわり断ろうとしたのだ。
「ライオス君がいるんですよね?」
「えぇ」
「ライオス君に用事があるのです」
ちなみにだが、もう二人を珍しがり囲む事がなくなったので自由に動け、ライオスが放課後どこに行ってるか突き止めたので、やって来ていた。
「えっと……」
ルリシアは戸惑う。エーコ達も貴族の子弟なのだ。まぁ実際にはでっち上げられた貴族なのだが、そんな事は知らない。
「では、ライオス君に直接聞いてみてください」
「……分かりました。少し待ってください」
そう言って扉を閉めライオスのとこに戻る。
「どちら様でしたか?」
「それがエーコさんとサヤさんだったのですが、貴方に用事があるそうで……断りますか?」
その言葉にクスリとライオスは笑う。
「先生が気を使ってくれてるのは分かります。ありがとうございます」
「いや……そんな事は……」
「でも、大丈夫です」
「でも……」
「それに彼女達なら問題ありませんよ」
「ほんとに?」
「えぇ」
「分かりました。なら部屋に入れます」
そう言ってルリシアは、再び扉のとこまで行き開ける。
「どうぞ」
「失礼します」
「失礼しまーす」
「あ、お二人共お茶どうぞ」
ライオスは、二人分のお茶を淹れる。
「相変わらず気が利くわね」
「ありがとー」
「え? え? ちょっとー」
親しげなやり取りにルリシアは、泡を食う。
「はい?」
「何でしょうか?」
「なーに?」
「貴方達何で親しげなの? 教室でそんな雰囲気なかったでしょう?」
「だって暫く身動き取れない程に囲まれてましたし」
「編入が珍しかったみたいだねー」
確かにと納得しかけるが……、
「いや、ちょっと待って。それならいつ仲良くなのるのよ?」
「それより先生、素が出ていませんか? 普段丁寧語なのに」
「そんなものはさっき捨てたわよ!」
ライオスの指摘をサクっと切り捨てる。
「先程彼女達なら問題ないと言ったではありませんか」
「言った! 言ったけどもね! その根拠は?」
「私達元々知り合いなのよ」
「そうだよー」
「へ? そうだったの? じゃあ気を使ってた私が馬鹿みたいじゃない!」
「いえ、お気遣いして頂きありがとうございます」
「でも、何で知り合いなの? 偶然? 貴女達はウルールカ女王国出身よね?」
その言葉にエーコと沙耶は、顔を見合わせてなんとも言えない顔をした。
「私は、ウルールカ女王国の孤児院にいたんで」
「あ、そうなんだ。って、いくら同じウルールカ女王国にいても貴方達が知り合うのはおかしいでしょう」
方や平民、方や貴族(と思ってる)。その三人がどうやって出会ったのか不思議でならなかった。付け加えるなら、そんな偶然に知り合った者が他国にある同じ学園に通うなんてどんな確率だと言いたいのだ。
「うーん」
沙耶が言って良いものか悩む。そこで……、
「話しても大丈夫かな?」
沙耶はライオスに聞く。
「はい。問題ないと思うよ」
「え? 何? 何か深い訳でもあるの?」
「実はライオスの身元引受人が、私達の知り合いなんですよ」
「へ~。それで?」
「ライオスがこの学園に入学が決定した時点で、その身元引受人がそれとなく見守れるように私達が留学出来るようにウルールカ女王国の王族に働き掛けたんですよ」
「とすると……貴女達はライオスさんの為に編入して来た?」
茫然と口にする。
尚、流石に貴族の位をでっち上げた事までは語らない二人。
「そうなりますね」
「じゃあ編入が遅れたのは書類の遅れが出たのではなく?」
「えぇ。ライオスの入学が決まってから、手続きしたので、そもそも遅かったんですよ」
「なるほど。そうだったのね」
そこまで聞き漸く落ち着きコホンと咳払いし……、
「そうだったのですね。取り乱してしまいすみません」
と丁寧語に戻した。
「丁寧語拾い直したのですか? そのままで良かったですよ」
「そうですよ」
「だねー」
「もー。これでも確り先生やりたいんですからね」
ルリシアが顔を赤らめる。
「でも、だからエーコさんはこの学園に来たのですね」
再びこの話題を咀嚼して腑に落ちたといった感じで呟く。
「もう素で喋って良いと思うよー」
「分かったわよ」
「それでー、わたしが此処にいたら変かなー?」
「貴女はどう見ても魔導学園向きだから。サヤもだけど」
「私も?」
「まぁサヤは武技にも秀でているようなので、この学園でも良いと思うけど」
「そうかな?」
「えぇ」
「ねぇ。わたしも聞いて良ーい?」
「何でしょう? エーコ」
「先生っていくつなんですー?」
「十四歳よ」
「「「えっ!?」」」
今度は三人が目を丸くする。
「随分若いのですね。まだ学園に通ってる年齢では?」
ライオスが訊ねる。
「飛び級だから。去年卒業して、そのまま教師に。今年で二年目ね。それより見た目でその辺りだって分かるでしょう?」
「いや、エルフだし」
沙耶が戸惑い気味に言う。
「いえ、ハーフエルフだけど……あぁ! 他種族差別してるの!?」
「そうじゃなくて、エルフの血が流れてるので、見た目じゃ分からないって言いたかったのよ」
慌てて言い直す。
「まぁ確かにエルフは若い姿を維持し、寿命も長いようね」
「これ聞いて良いのか分からいのですが、先生も貴族ですよね?」
沙耶が躊躇いがちに聞く。
「えぇ。そうよ。貴女達と同じ伯爵令嬢」
「この国って他種族差別酷くないですか? 貴族なのに他種族の血が入る事があるんですね」
「あぁ。私、愛人の子だから」
お茶を口に含んでいたライオスが吹き出す。他の二人もあっけらかんと言われた言葉に目を剥く。