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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十五章 スイースレン公国の腐敗
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EP.01 プロローグ

 サルバリッチ伯爵家は冷え切っていた。

 

 伯爵夫人には愛がない。貴族家なのだから政略結婚は普通にあり愛がない事もままある。

 しかし、それに拍車を掛けたのは世継ぎが出来なかった事だ。

 愛のない営み、それに加え夫は滅多に家に帰えらず。だと言うのに周りから世継ぎ世継ぎと煩く言われる始末。

 夫人は思う。回数が少ないのにどうやって作れというのか、と。それじゃなくても愛がなくて苦痛でしかないのに。

 それが1年2年3年と続けば冷え切って来るだろう。


 そして気付く。自分は子供が出来ない体なんだと。

 夫も世継ぎを作るという義務を全うしていた。だが、出来ずに何年も経てば魔が差す。

 待望の跡継ぎは侍女のお腹に出来てしまったのだ。

 そこまでなら、修復の可能性はあったかもしれない。生まれて来た子供が男であったなら……。


 元々夫人にも愛がない上、苦痛でしかない営み。それで一度の過ちくらい我慢する器量はあった。

 何しろ自分がそんな状態なのだから。夫にばかり文句は言えない。

 だが、生まれたのが女であった為に完全に冷え切った。流石に夫人も二度目は許さないという態度だったからだ。


 それは子であるサルバリッチ伯爵家の令嬢にも伝播する。

 自分の子ではない上に跡取りになる嫡子ではなかった為に母は、娘をいないものとして扱った。

 いや、そもそも母娘ではない。それでも世間体があるので自分の娘って事にしたのだ。

 そして、夫は家にほとんど寄り付かなくなった。

 伯爵家で働く者達も令嬢を腫れ物のように扱う。物心付く頃には表情の動かない、丸で人形のような令嬢になっていた。


 とは言え、家を存続をさせられない訳でもない。婿を取れば良いだけなのだから。

 まぁ言うのは簡単だが、実際には養子に行きたがる男子もいなければ、養子に出したがる貴族家も早々にいない。

 それでも世間体を気にする伯爵夫人は、社交ばかりに精を出す。

 普段伯爵家当主がいないのだから、夫人はそれしか出来なかった。


 それ故、公都にいる時は、近所で自分より位が上のレイジー侯爵家に良く行っていた。

 尚、普段はサルバリッチ伯爵家の領地にいるのだが、社交シーズンの時は公都にある屋敷で寝泊まりしている。

 この社交シーズンというのが春と秋の年に二度。つまりその時期の暇な時は度々デイジー侯爵家にお邪魔してる訳だ。


 世間体を気にするサルバリッチ伯爵夫人は、当然娘を連れて行く。

 侍女を通し、デイジー侯爵家にいる子供達に取り入るように言い含めてだ。こういう時までいない者として扱い直接言わない。

 それに対し令嬢の方も返事する気力もなく侍女に何を言われようが顔をピクリとも動かさなかった。



「また来たのね」


 デイジー侯爵令嬢は嘆息した。


「本日もお会い出来て光栄です」


 カーテシーを行うサルバリッチ伯爵令嬢。その丁寧な言葉や綺麗な所作とは裏腹に表情が動かないし抑揚の無い口調だ。


「光栄って言うような表情じゃないわね」

「とんでもございません」

「は~……まぁ良いわ。わたくしも無駄に話し掛けられず、ゆっくり読書が出来るもの」


 これがデイジー侯爵令嬢との毎回のやり取りだ。ちなみにこの家に他の家の者もやって来るのだが、サルバリッチ伯爵令嬢を無視するのが常になっていた。

 特に他の家の嫡子には取り入って欲しいのだが、そう言った事をせずに、伯爵夫人にキツク睨まれるなんてのも毎度の事だ。

 ただ、デイジー侯爵令嬢だけは嘆息しつつもニ、三会話を行って来ていた。


 こうした事が二年か続き、サルバリッチ伯爵令嬢が五歳になった頃だ。


「毎回毎回、何でそんな辛気臭いの?」


 デイジー侯爵令嬢は、一歩踏み込んだ。


「これはお目汚しを。大変失礼致しました」


 頭を下げるサルバリッチ伯爵令嬢。しかし、その言葉や仕草とは裏腹に表情が動かない。


「何でかって聞いてるのだけど?」

「以後気を付けます」

「何年もその状態で気を付ける気なんてないでしょう?」

「いえ、そんな事は……」

「良いから、答えて」

「お耳汚しになるので、お気になさらず」

「耳が汚れるかどうかなんて、わたくしが判断します」


 しつこく言われ、サルバリッチ伯爵令嬢は、自分の家の恥を洗いざらい喋ってしまう。


「馬鹿なの?」


 それに対しデイジー侯爵令嬢は、呆れ混りに言い放つ。


「どんな生まれがあろうと、家ではどんな感じだろうと、貴女が当主になってしまえば関係無い事でしょう?」


 その通りだ。その通りだが、サルバリッチ伯爵令嬢は生まれてから、ずっと腫れ物扱いで誰も言ってくれなかったので気付かなかった。そんな知恵はなかったのだ。


「幸い今の状態じゃ嫡子が生まれる様子もないし、貴女が家を牛耳ってしまいなさいな」

「…………」


 目から鱗が落ちるとはこの事だろう。なんて答えて良いのか分からず固まってしまう。

 それからというものの会う度にデイジー侯爵令嬢は、話し掛けて来た。サルバリッチ伯爵令嬢も徐々に表情を付けれるようになって行った。

 この二人は幼馴染であり、それを境に仲良くなって行ったのだが、それも数年で終わってしまう。


 サルバリッチ伯爵令嬢が八歳になった時だ。

 その日、外は激しい豪雨に襲われていた。窓が風で軋み、暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。

 サルバリッチ伯爵令嬢は、恐怖に足が竦む。まだまだ小さい子供故に仕方無い事だ。

 だと言うのにデイジー侯爵令嬢は、部屋を出て行ったっきり戻って来ない。

 仕方無しに恐怖を胸に押し込め探しに行く事にした。

 そうして屋敷を探し周る。何故かその日、母もいない。それでも探して探して漸く見付ける。


「あ、デリ……………………え?」


 一瞬呆けてしまう。サルバリッチ伯爵令嬢の目に映ったのは、ドレスも手も足も顔も血塗れのデイジー侯爵令嬢の姿だ。ボーっと立ち尽くしている。

 その部屋には血塗れで倒れているデイジー侯爵当主と夫人と数人の家人達。

 デイジー侯爵令嬢の表情は抜け落ちており、目はただただ冷たい。そんな冷めた目でサルバリッチ伯爵令嬢を視界に収める。


 その時、外がピカーンと光ったと思うとゴロゴロと激しい雷の音がした。

 デイジー侯爵令嬢は、その光を浴びてより一層冷たく映る。その姿に恐怖した。




「ねぇ…………」


















 ピッカーン…………ゴロゴロっ!!


















「これ……貴女の家がやったの?」


















「ヒィ!」



「お嬢様! 見てはいけません。今日は帰りましょう」


 一緒に着いて回っていた侍女達も呆けていたが、我に返り今更ながら遅いが死体が視界に入らないように目を塞ぐ。

 その後の事は良く覚えていない。ただ侍女に抱えられ気付けば馬車の中に。何か話し掛けられたが覚えていない。ただただ、ずっと恐怖で震えていた――――。

お待たせしました

再開します………………と言いたいのですが、実はまだ後半煮詰まっています(-_-;)

手直ししていたら、整合性に問題あると気付き四苦八苦

なので、申し訳ございませんが更新の頻度が遅かったり、また止まってしまうかもしれません

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