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EP.41 エピローグ

 ハッタリックが暴れてから、二日後に師範が辰の道場に帰って来た。

 ビオサーラが緊張で汗をタラリと流す。彼女に取っての本来の本番はここなのだ。ハッタリックとの戦い巻き込まれ、死に掛けたりしたが、それでもだ。

 自分の父を目の前にし座り、深呼吸し心を落ち着かせる。


「それで、ビオサーラ。話してくれるのだろ? あの日何をしていた?」


 父である辰の道場師範リューシンの鋭い眼光に当てられ、丸で蛇に睨まれた蛙のようになるが、自分に喝を入れ口を開いた。


「寅の道場に行っていました」

「何!?」


 他の道場との交流を禁止している。だと言うのに自分の娘が、禁を破った事に目を剥く。


「何の為に?」

「スカルを移籍させる為に」

「うーむ」


 師範は、腕を組み暫し黙考をし始める。やがてビオサーラと同じ赤い瞳で、スカルを射抜く。


「貴様は、それに着いて行ってのだな?」

「ああ」

「それで忘れた等と言った訳か」


 師範は、大体の事を察する。本来ならビオサーラを叱責していただろう。それを避ける為に骨根は、誤魔化したのだと。


「でも、お父様。スカルが護衛してくれたのは、外までです。なので、私が何をしていたのか知りませんでした」

「そう言う問題ではない」


 そう言って師範が頭をガシガシと搔く。本来なら叱責しなければならない。が、状況が状況なだけにそれは出来ない。なんせハッタリックを見抜けなかったが故に娘が危険な目に合い、骨根は無実なのに破門にしてしまったのだから。


「それで、スカルはどうするのだ? 勿論破門を解くつもりでいたが、寅の道場に行きたいか?」


 その言葉に骨根は、目を丸くする。それだけ虚を突く言葉なのだ。他の道場と交流してはならない。それは、全ての道場での決まり事。


「ああ。行きてぇ」

「貴様が、龍気で伸び悩んでいた事は知っている。それで影でコソコソと炎魔法に、うつつを抜かしていた事もな……………何だ? その目は?」


 知られてるとは思わず、ポカーンとしてしまう。


「儂は師範だぞ。門下生の事は見ている。とは言え、ハッタリックの事は見抜けなかったがな」


 は~と溜息を付き天を仰ぐ。その姿は数年老け込んだかのようにビオサーラの目には映った。無理からぬ事。なんせ時期師範と目に掛けていた者の裏切りを受けたのだから。


「寅の道場への移籍は認める。が、その前に言っておく事がある」

「何だ?」

「『干支の騎士』の役目は知っておるか?」

「国がやべぇ時に馳せ参じるんだろ?」

「そうだ! だが、もう一つある。それは、国は圧政を敷いた際に道場の力を持って、これに対処する事だ」


 それは、骨根は当然としてビオサーラも初めて聞く事だった。


「しかし、もし一つの道場で様々な干支の力を手にしたらどうなる?」

「そこが国のトップに君臨する」

「そうだな。それが善ある者なら良いだろう。が、悪しき者では国が荒れる。過去に凄惨な戦いがあったのだ」


 師範が語るのは、過去にあった凄惨な戦。一つの道場が力を独占したが為に、挑む者を全て返り討ちにした。そこで他の十一の道場は、力を合わせこれを討伐する。が、その時には遅過ぎた。死者が出過ぎた。もっと早く動ければと残った者達は嘆いた。

 結果、一つの道場が干支の様々な力を独占しないように交流が禁止されるようになった。尤も『干支の騎士』に選ばれた者は、普通に交流をしたり、会議……アークなら、『円卓会議かよ!?』とツッコミを入れてしまう正に円卓会議に参加し、国の様々な事を議論したり等もしている。

 それは人格的にも師範に相応しいと認められた事と、過去に合った事を前師範に教わり知っているからのだが……。


「…………と言う訳で、寅の道場に移籍は許す。だが、余程の事情が無い限り、この道場で教えて事は忘れろ。これが条件だ。良いな?」

「わーったぜ」


 こうして骨根は、移籍を認められた。

 それから数日後―――瞬く間にアークが言った一週間が過ぎ、アーク達が辰の道場にやって来た。


「これはアーク殿、我が娘と元門下生が世話になった」


 師範はアークに頭を下げた。


「いや、良い。それより頼みがある」

「何だろうか?」

「俺を門下生にしてくれ」


 その言葉にその場にいる全員に衝撃が走った。ビオサーラと骨根は当然として、ナターシャ達もアークは別行動するとは、聞いていたがまさか門下生になる事を考えているとは思いもしなかったのだ。

 そんな中、師範だけが真偽を見極めるかのようにアークをジっと見詰め、やがて口を開く。


「理由は?」

「二つある。まず龍気をまともに扱えず、直ぐにヘバってしまう事。もう一つは、アルノワール相手に全く歯が立たなかった事。俺はもっと力を付けないといけない」


 アークは思う。これからも、そう言う強敵が現れるかもしれない。だから、自分はもっと強くならないといけない。実はアークは、トモエと出会った時に漠然と決めていた。戦わずに済んだが、もしトモエと戦っていたらゾッとする。と、感じていたのだ。

 アークは、師範に自分が転移者である事を明かし、それも普通とは違う召喚だった事。目的は魔王の討伐ではない事を語り、それを聞き届けた師範は、入門を許可した。


「あたいは、どうすれば良い?」


 アークと師範の話が終わるとおずおずとナターシャが訊ねる。


「任せる」

「任せるって……」


 方針は、アークがずっと決めていたので、ナターシャは戸惑ってしまう。


「他の国を周り転移先を増やすのも良い。もっと力を付けるのでも良い。今は、時間が欲しい。俺も次どうすれば良いか分からない。ただ漠然と今のままじゃダメだと感じるだけだ」

「そうだねぇ。あんな相手とまた戦わないとは、限らないしねぇ」

「ファーレも悪いがナターシャといてくれ」

「御心のままに」

「キアラとラキアも任せる。ナターシャと一緒に行くのも良いし、力を付けるのも良い」

「分かりました」

「分かったのだ」


 こうしてアーク達は再会を約束し別れる。

 それから更に二日後、骨根の旅立ちの時がやって来た。


「スカルよ、儂が言った事を覚えているな?」

「あぁん? じじぃに教わった事を忘れろっつーんだろ。せいせいするぜ。じじぃとこれで顔を合わせなくて済むんだからな」


 相変わらず口が悪い。


「そうだな。儂も貴様がいなくなってせいせいする。問題児がいなくなるんだからな」

「ちょ! お父様」


 師範も負けず劣らず悪態を返す。


「へっ! そうかよ」


 そう言って骨根は、立ち上がり踵を返し玄関へ歩き出す。


「……スカル」


 ボソっと師範が呟く。それが聞こえていたのに骨根は、足を止めない。


「無理するなよ」


 骨根を案じる言葉は、どこまでも温かみがあった。かつて門下生として骨根が、辰の道場いた頃には、ついぞ感じさせなかった温かみだ。その言葉にビオサーラが目を剥く。

 それを聞き届けた骨根は、ビタリと止まりやがてブルブル震え出す。そして振り返り走り出す。師範の目の前で来ると土下座をし、頭を床に擦り付けた。


「今までお世話になりましたっ!!!」


 ポタリポタリと骨根の瞳から零れた雫が地面を濡らす。

 この十年を思い出していた。見ず知らずのガキを拾い育ててくれた。勿論転移者と言うのを察し無碍に扱えなかったのもあるだろう。だが、国に預ける事も出来た。それをせずに師範は、骨根を出来る限り導いたのだ。

 時に、道場を不和を生み多くの者が道場から離れた事もあった。それでも師範は、骨根を見捨てなかった。トリスタン海洋町の事は明確な犯罪行為だったので、心を鬼にしたが、それ以外はずっと見守っていた。

 じじぃじじぃと悪態を付いていたが、骨根も本当は感謝していた。だから、道場の迷惑になるような事を避けるようにしていたし、娘のビオサーラに何かないように守ろうとしたのだ。尤も途中から、ビオサーラと一緒にいるのが居心地が良くなっていたのだが。


 こうして十年分の感謝を伝えた骨根は、寅の道場に向かうのであった。その足取りは軽い――――。

次の章はプロットをまとめるので、暫くお休みします

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