EP.40 妖精姉妹の本心を知りました
-1751――――月陸歴1516年7月10日
パーシヴァル町の宿にて、次の日の朝からナターシャは、バースデーパーティーの準備の為に買い出しに行った。ファーレも着いて行っていない。俺は、お茶を啜りのんびりとする。
妖精姉妹は、まだ寝ている。余程イビル・グラビティがきつかったのだろう。英雄の称号を持っていないしな。
暫くのんびりしてるとキアラが起き出し、何を思ったのか服を脱ぎ始める。寝惚けている? いつもは、幻魔法で姿を消して、俺に見られないように着替えているのに。
ちなみにラキアは、堂々と脱ぎ始めるがキアラが咄嗟に幻魔法を使ったり、汚いものを見せるなとか俺が罵倒し、クネクネさせつつ自分で幻魔法を使うのが常だ。
「おーい、キアラさーん」
「ふにゃ。アーク、おはようござい……ましゅ~」
「良いから、起きろ!」
「……え? アーク?」
声を掛けた頃には既に時遅し。キアラは全裸になっていた。俺を見て目をパチクリさせた後、自分の体を見て顔を赤くし始めた。
「きゃぁああああ~~~。<迷彩魔法>」
悲鳴を上げて慌てて幻魔法を使う。
「お見苦しいもの……」
まだ顔が赤い。
「そうか? なんならオカズにしてやろうか?」
態とらしく右手で輪っかを作り上下に振ると、当然ながら目を剥くキアラ。
「鬼畜ですか!?」
「でも、良かったな」
「良くないです。よりよって鬼畜外道アークに見られました」
「『胸は確りあります』とか豪語してたじゃんか。確かにあったな。証明されたぞ」
とは言え、真っ平だと思ってたなのがA´くらいあるのを確認出来ただけなので大差無い。
「こんな証明され方では悲惨です。よりによってアークなんか見られるとは、一生の不覚です。スカルに見られた方が100倍マシです」
コイツは、また毒舌ばかり吐きやがって。ちょっとからかってやるか。
俺はキアラを抱き締める。驚いてなのか幻魔法が解ける。とは言えもうシャツを着た後なので裸ではないが。
「ちょ! 何するんですか!?」
「あんなものを見せられて欲情しない方がおかしいだろ?」
「え? 本当にそんな事を思ってるのですか? ナターシャがいるでしょう? 止めてください」
そのままベッドに押し倒した。
「キャっ! 正気ですか?」
「せめて本気かって聞こうな」
そう言って優しく頭を撫でる。
「ほ、本気なんですか?」
上目使いに顔を赤くしながら、しおらしく言って来た。その牡丹色の瞳が熱を帯びる。
「裸を見られて吐き気がすると言われた方が嬉しいか?」
「それはそれで嫌ですけど……」
「はむっ!」
「!?」
耳をパクリすると良い声を上げた。
「羽根だけじゃなく耳も敏感なんだな」
「……言わないでください。恥ずかしいです」
いつもより、マジでしおらしいな。手で顔を隠し始めるのが、またそそるな。ビッグマグナムが半覚醒しそうだぜ。俺は無理矢理顔を隠した手をどかしキアラをジーっと見詰める。
「そんな……見ないでください。恥ずかしいです」
「キアラは可愛いな。好きだぜ」
仲間としてだけど。
「っ!?」
息を詰まらせたかのような顔をする。
「キアラ……」
「……分かりました。アークなら良いですよ。ウチは……アークなら……」
情欲が沸いて出て来たのか、キアラの吐息が荒くなって行く。
「正気か?」
「本気かって……聞いてください」
「本気か?」
「えぇ。アークなら……。でも、ウチは初めてだから……」
牡丹色の目をウルウルさせている。
「八十年も生きていれば、経験くらいあっただろ?」
「いえ……ウチは、そんな事した事ないですから。変ですかね? アークは、そのような女性は嫌いですか?」
上目使いに言って来る。マジか。八十も生きていれば経験済と思っていたが……。いかん、いかん。そんな話を聞いてたら、本気で食いたくなって来たな。なので、そろそろこの茶番は終わらせよう。もう一人も見てる事だし。
「いや、良いと思うぞ」
「良かったです。……どうぞアークの好きにしてください」
「な~~んて」
そう言って離れる。しおらしいキアラは、貴重だったな。
「えっ!?」
目をパチクリさせ、状況を察したのだろう。見る見る眉を吊り上げ出す。
「アーク! ふざけないでください! そう言う揶揄い方は最低ですっ!!」
違う意味で顔赤くし、俺に迫って来る。怒りで自分がどんな状態なのか気付いていないのだろう。体をピッタリくっつけ俺を見上げていた。それに泣かせてしまったな。本人は気付いてるかどうかは、分からんが両目から涙が一滴ずつ零れた。
「でも、可愛いと思ったの事実だぞ」
「それは知っています。初めて会った時から言ってたでしょう?」
「好きと言うのも本当だぞ」
「もう! また揶揄うのですか?」
「……仲間としてだけど」
「ほら! 揶揄ってるじゃないですか!? やはり貴方は外道……きゃ!」
そのまま手を後ろに回し抱き締める。
「また揶揄うのですか?」
フツフツと怒りを滲ませているのが分かる。
「揶揄ってないよ」
そう言って頭を優しく撫でる。
「大事な仲間だと思っている」
「……大事なら、ああ言う事をしないでください」
再びしおらしくなる。今日のキアラは、いつも以上に可愛いな。
「だからさ、これからも共にいてくれないか?」
「え?」
一瞬キアラが身を硬くする。が、直ぐに弛緩させ俺の背に手を回して来る。
「えぇ、いますよ。この旅も楽しかったのは本当ですし。まぁ外道アークに外道菌を移されそうな心配はありますけど」
これ照れ隠しだろ? いつものようなキレのある毒舌ではなく、優しげな言い方だ。
「事情があってさ、暫くキアラと離れるけど、再び一緒に旅をしような」
「へ? 離れる?」
「約束してくれないか? 俺はキアラと、まだ一緒にいたいんだ」
「良く分かりませんが、分かりました」
俺は少し離れ屈み、キアラのおでこにキスを捧げた。
「約束な」
「なっ! 何をしてるのですか!?」
顔を赤くしおでこを手で抑えながら、おろおろしだす。ついクスリと笑ってしまう。
「お礼かな? 俺なら良いんでしょう?」
「……そうは、言いましたけど……」
俯きボソボソ言う。耳まで真っ赤だ。
それにしても意外だったな。毒舌ばかり吐いていたから、俺をあまり好ましく思っていなかったのだけど、実際は本心を隠すハリボテだったのかもしれない。
だが、これ以上キアラの想いを言及するのは止めよう。辛くなるのは、きっとキアラだ。それを一番本人が分かっているからこそ、本音を言わないようにして来たのだろうし。
「で、いつまで狸寝入りしているんだ?」
「へ?」
「何だ、バレていたのか」
キアラが目を丸くし、狸寝入りしさりげなくチラチラ見ていたラキアが起き上がる。
「今は姉上のターンだと思ってな」
ターンって何でその言葉知っているのだ?
「なんとなくなのだ。それより、次は我のターンで良いか?」
「好きにしろ」
そう言って手を広げてやると飛び付いて来た。ブレない奴だ。俺は、そっと抱き締めてやる。
「ぅう~~」
目を瞑りタコ唇で上を見上げて来やがった。
「キモいわ!」
俺はベッドに投げ飛ばした。
「酷いではないか!? 姉上にしたではないか?」
「おでこです。と言うか見てたのですか? もう~アークのせいで恥ずかしいじゃないですか」
珍しくキアラがモジモジさせている。
「ラキアさ、お前良く俺を誘って来るが、本当は俺に気がある訳じゃないだろ?」
「え? あ、主様よ、……な、何を言っておるのだ?」
目を逸らしてる時点で肯定してるぞ。
俺はずっとコイツに違和感があった。誘ってはいたが、俺に友愛以上の感情があるように思えなかったのだ。
「お前さ、仲間に見捨てられたのを、なんだかんだ言って引き摺ってるだろ?」
「え? ラキア、そうなのですか?」
俺がそう問い掛けると、ラキアの表情が抜け落ちる。水色の双眸のハイライトも消えた。
「……主様にはお見通しなのだな」
諦めたように吐息を溢す
「我は、もう捨てられたくなかったのだ」
「それで体で繋ぎ止めようとしたのか?」
「そうなのだ」
「ついでに性処理しようしたってか? 自分でするのは空しいもんな」
「なななな……わ、我は、一人でした事なんて……」
「バレバレだ。誤魔化すなよ」
「ぅう゛~……今日の主様は、意地悪なのだ」
「流石外道アーク。乙女の秘密をバラすなんて、とことん鬼畜の所業ですね。それにラキアは慎みが全くないです」
「……アークなら良いですよ」
揶揄うようにさっきキアラが言った事を口にした。
「だから、そう言うとこが外道なんです! あれは気の迷いです」
「いや~どうかな? 興味が全く無い奴があんな事を口に出来るかな?」
「本当に今日のアークは、意地が悪いですね」
「で、ラキア。お前は馬鹿だろ?」
キアラを揶揄うのをそこそこに話を戻す。
「俺は奴隷落ちしないように守ると約束しただろ? 俺の言葉が信じられなかったのか?」
「……そうではないのだ。でも、やっぱり怖かったのだ」
「もう一度約束してやる。ラキアに何かあったら、必ず駆け付けてやる」
「そうして欲しいのだ」
儚く笑うラキア。こんなラキアは、珍しいな。
「ただ、キアラにも言ったが、暫く離れる事になる。悪いけどずっとは、一緒にいらない」
「そんな事を言っておったな」
「だけど、いつかまた集まりたいと思っている。他にもエーコと沙耶にライオスって仲間がいる。全員で集まりたいと。全員で集まれば、お前も怯える事はない」
「そんなに人数がいると、主様の寵愛を受けるのが分散されてしまうな」
肩を竦めて笑う。だが、そこにいつものような覇気がない。無理に笑って流そうと言うのが痛々しく伝わって来た。
「そう言うの良いから。まだ心配ならそう言え」
「うむ。でも、仕方ない事なのだ。やはりあの出来事は、我に深い傷を負わせたからな」
「なら、これを二人にやる」
そう言ってブローチを渡した。
「これはまた神樹ですか!?」
キアラが目を剥く。まあ木の形をしてるからな。
「違う。俺の今出来る精一杯の草だ」
そう草だ。本当の木のように葉っぱ生い茂る。まぁミニチュアみたいな感じだな。全長8cmって言った所だろう。二人には世界樹を彷彿させる木が似合う。
「ただ草の弱点は、簡単に破壊されてしまう事。だから、職人に頼み加工して貰いそう簡単に破壊されないようにして貰った」
「なるほど。低脳アークの癖に考えていますね」
コイツ、毒舌のキレがまた戻って来やがったな。
「いつか本当にやっちまうか。キアラもそれを望んでいるようだったし」
「止めてください! 貴方にはナターシャがいるでしょう? ウチの事は、忘れてください」
「あれ? さっき約束したのに忘れろって言うのか?」
「違います。ウチの妄言を忘れて欲しいと言ってるのです」
「淫魔妖精本領発揮かと思ったんだけどな」
ニヒと揶揄うように笑う。
「また淫魔ですか? 貧魔アーク」
「じゃあ貧乳妖精か?」
「さっき確り有るのを確認したと言ったでしょう?」
「だから、無乳妖精から貧乳妖精に格上げしてやっただろ」
「それは格上げとは言いません!」
とまぁキアラを揶揄っている間、ラキアは俺が渡した草を抱き締めボロボロ泣いていた。俺はその涙を手で拭き取る。
「これでもダメか?」
「そんな事はないのだ。大事にするのだ」
「でも、悪いけど俺は暫く別行動だ。俺に依存せず、いつかは自分で乗り越えろよ」
「……分かっておるのだ」
そっとラキアの頭も撫でた。
「二人共、遅くなったけど誕生日おめでとう」
ナターシャが帰って来た後、三人の誕生日を盛大に祝った。まあプレゼントは、先に全員に渡した後なので、どうも締まらないが。