EP.39 依頼完了しました
いきなり骨根が立ち上がり、ビリビリした炎になったのにはビビったが、骨根に言われた通りハッタリックの方へ向かった。
ただね、もう虫の息なんだよね。骨根に一発殴られただけで弱っている。それでも龍気の使い手だけはあり、沙耶よりは強いだろうな。
そんな訳で、軽くボコしてた訳なんだけど、突然アルノワールが現れて転移魔法で逃げやがった。コンチクショー!!
「ちっ! 逃げられたか」
そう吐き捨てる骨根は、炎化を解除したのか人の姿に戻る。
またアルノワールが逃げた事で、妖精姉妹達が立ち上がる。あのイビル・グラビティとかって魔法結構きつかったしな。大英雄が発動しなかったら、身動きが取れなかった。
「何て恰好してるのですか? 汚らわしいものを見せないでください」
「ちっさっ!」
「あぁん? 仕方ねぇだろ。服が燃えたんだから」
そう骨根は、真っ裸だ。ナターシャは、大人の余裕からなのか平然としてるが、キアラは顔を赤くし目を逸らす。
と言うかね、ラキアさんや、男の沽券に関わるから小さいとか言うなよ。可哀想だろ。
「<収納魔法>。これ着ろ」
俺は収納魔法から、服を取り出し骨根にぶん投げる。
「ああ、悪ぃ」
「ちなみにそれ炎無効の服だから、お前に丁度良いだろ。意味不明な事に炎になってたし」
実は、武から『小刀二振り貸すだけじゃバランス悪いから、他に何か要求はないか?』と、聞かれたので、武の炎無効の道着から思い付き、他に炎無効の服ないかと聞いたら、持っていので貰っておいた。まあ見た目は地味な紺色。
俺はフラっと来てしまい。座り込んでしまう。
「大丈夫かい?」
ナターシャが支え立たせてくれる。
「悪い。龍気の扱いがまだ慣れなくてな」
と言う訳で、俺は半壊した辰の道場の寮の無事な部分で寝る事にした。ビオサーラも治療も終わってるようだが、目覚めていないので寝かせる事にした。
次の日、ダイニングに集まる。此処も無事……ではないな。半分外に剥き出しだ。それでも集まるなら此処だろうと、目覚めた後に向かった。
そこで、昨日夕方師範が、帰還したと聞く。ハッタリックの事があったので、急いで帰って来たらしい。それで、ナターシャが事情説明と五十人の下手人を引き渡し、師範はその連中を王都に連れて行った。
どうやって運んだか、それはもう一度師範が王都に行き、大量の馬車を連れて戻って来たらしい。師範も大変だな。で、王都で取り調べがあるので、昨日から留守にしている。
「で、骨根。アレなんだよ? いきなり炎になりやがって」
「前世の事を思い出した」
「は?」
意味不明。
「そしたら、転生者を獲得して次々なんか覚えた。全くでたらめだよな」
「お前がな」
ほんとマジでたらめな強さに跳ね上がっていやがった。つか、転移者と転生者が両立するんだな。
「ファーレ、お前が知る限りこんな事は、あったか?」
「妾の持つ知識ではありませぬ。転生者は、生れながら前世の記憶を持っています。なので、転移者と転生者の両立自体は、希ですがあります。しかし、生れてから歳が経ち前世の記憶を思い出し転生者になったなど……」
「そうなのか」
そんな話をしていたら、ビオサーラも目覚めダイニングにやって来た。右手中指で眼鏡の蔓を押し上げると口を開く。
「おはよう。此処も酷い有様ね」
「悪いね。ハッタリックが立ち上がってお前に何するか分からない状況だったから、焦って吹っ飛ばした」
「ほんとハッタリックは、うんざりだったわ。気持ち悪いったらありゃしない」
辟易するように言う。確かに気持ち悪いと言うか気色悪くなってたしな。特に……、
「……聖水」
「言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
軽く頬を染め出す。まあその歳で失禁しちゃったしね。ちなみにナターシャが着替えさせたらしい。
「それよりさ、気になるんだけど。私、胸を貫かれたよね? 生きてるのも不思議だけど、完全に元に戻ってるんだけど?」
「俺様が好きにして良いボインボインなんだろ? 治すに決まってるっつーの。勿体無い」
厭らしく笑いジロジロと爆乳を眺める骨根。確かにそんな事言ってたな。
「え゛?」
ビオサーラがピキっと固まる。そして壊れたロボットのように、ギギギ……と骨根に視線を向ける。
「……聞いていたの?」
「おぼろげだがな」
「なっ! なななな……」
見る見る顔を真っ赤にし出すビオサーラ。耳まで真っ赤だ。聞かれてるとは思わなかっただろうしな。
「で、いつ好きにして良いんだ? ボインボインを早く好きにしたいぜ」
「うんざりよッッ!!!」
ペッシーンっ!!
ビオサーラがビンタしたぞ。しかもハッタリックに言った時より叫んでないか? そして、そのまま何処かへ逃げるように去って行く。
「最低ですね」
「夜中にこっそり部屋に行けば良いのだ。馬鹿ではないのか?」
しまいには、姉妹に言われる始末……ギャグではないが。
「うっせー! 今は見てるだけで十分だっつーの」
「ヘタレですね」
「そんな事を言ってるといつまでも、好きに出来ぬぞ」
「勝手良いやがるぜ」
姉妹に口での言い合いに負けた骨根が、そっぽ向く。
「自分もアレを好きにしたいって思ってないかい?」
ナターシャが俺にも振って来る。
「出来るものならしたいね。あんな爆乳は、そうそ……」
ペッシーンっ!!
「あたいのだけで我慢しなさいっ!!」
俺もビンタされた。テンプレですね。
「ビオサーラから見れば、ナターシャも慎ましいですからね」
「ナターシャのは、小さいのだ」
「……ねぇ? 何でスカルの時と違い、アークの味方をするんだい?」
なんか目が据わってるな。
「別に前にナターシャのように、大きくなれと言われたの気にしてる訳ではありませんよ」
「そうなのだ。別に我はこのままで良いのだ」
絶対気にしてるだろ。目線を逸らしながら言っても説得力ないぞ。恨みが深いな。
「ところで骨根。これで依頼完了で良いか?」
「ああ。ここまですまねぇ」
そう言って骨根が、頭を下げる。
「転移者の好だ。気にするな。それより、俺達一週間くらいパーシヴァル町にいるから、その間にビオサーラや師範と話し合って、今後の身の振り方を考えておいてくれ」
「わーたぜ」
このまま辰の道場に復帰するか、寅の道場に移籍するか、はたまた破門されたまま、何処か別の場所に行くか。骨根が考える事だ。そこまで俺が口出しする事じゃねぇしな。
それとそろそろ馬車を返さないとな。ブリテント騎士王国に入ってから、約二週間借りっぱなしだ。馬車でのんびりとパーシヴァル町に行き、辰の道場に戻りたい時は転移魔法で良いだろう。
そんな訳で、現在馬車を走らせている。
「そう言えばさ、キアラ達の誕生日っていつなんだ?」
中途半端に七十九歳だったし気になっていた。
話を振られた二人は、お互いに顔を見合わせてコテリと傾げる。歳が歳だけに覚えていないのかな?
「ふは~……一昨日ですね」
「……んにゃ、もう過ぎたのだ」
二人共眠そうに答える。イビル・グラビティとやらが堪えたらしい。脳を騙す魔法だけに、脳への負荷は計りにしないのかもしれない。とりあえず、今日は普通通りに起きたが、もう少し寝たかったようだ。
「言えよ」
「もうあまり意味もないですから」
「我もそう思ってるのだ」
「てか、一昨日って7月7日か。七夕かよ!?」
「「七夕?」」
二人揃って小首を傾げる。
「いや、良い。それより、ナターシャ。明日祝うか。手配を頼む」
「宿で祝うのかい?」
「ああ。二人のプレゼントも任せる」
「分かったさぁ」
「別に良いです」
「そうなのだ。もう祝うような歳ではないのだ」
「せっかくまた一つババァになったんだから、祝おうぜ」
ニヒと揶揄うように笑う。
「また失礼ですね、アーク」
「ババァでも体はピチピチだぞ。ほれプレゼントに我を抱いても……」
「いや、結構」
「何故だ!? せめて最後まで……」
「ピチピチとか死語だろ。年寄り臭い」
「ぬぐぐぐ……死語だったのか」
「てか、真面目に傘寿と言う節目だろ? 祝うぞ」
傘寿の意味は知らんけど。
「ああ、それとついでにナターシャもやってしまおう」
「一ヶ月前倒しだねぇ」
早めにやっておきたい理由が出来たからな。
「そうだ、これ」
そう言ってナターシャにある物を投げる。
「なんだい?」
「世界樹をぶった切って作ったブローチだ。早いが誕生日おめでとう」
「本当に早いねぇ。明日渡すべきだったんじゃないかい?」
「何ですって?」
「主様よ、いつの間に切ったのだ?」
姉妹が目を剥く。
「枝をちょっとな」
「ちょっとなじゃないです。神樹ですよ? 神聖なものなのに何をしてるのですか? 罰当たりアーク」
「そうなのだ。いくら主様でも看過できぬのだ」
そんなまずかったのか?
「お前らのそのセーラー服だって世界樹から作ったものだろ?」
「ウチらは、それなりの儀式をやったので問題ありません」
「まぁちょっと切ったくらい良いのではないか?」
あれ? ラキアが手の平を返したぞ。
「貴女はまた! 妖精族の恥です」
「姉上は、頭が硬いのだ。主様は、少し枝を拝借しただけなのだ」
「それが問題と言ってるのです!」
「我等は、あそこを捨てるつもりで出たのだぞ。それを今更神樹がどうとか言うでない」
「それとこれは、別です。そもそも貴女は……」
なんか口喧嘩が始まっちゃったな。仲良き事で。にしても『捨てるつもり出た』か。ちょっとこの先の事を考えると、少し二人には言い辛いな……。