EP.07 グランティーヌと婚姻しました
目を覚ます。見知らぬ天井だ。俺は一体……?
「やっと起きたね」
俺の視界に女が入る。
桃色の髪に若緑色の瞳で、かなり整った顔立ちだ。少し人間離れしたような相当な美人に思える。
「……此処は?」
「魔導士の村だよ」
あの小島のか。地図で知ってたいたが来る理由もなかった。
それなのに何で俺はこんなとこに……。
はっ!? ダームエルっ!!
俺は起き上がろうとした。
「俺の他に……くぅ! ぎゃぁぁっ!!!」
体中が悲鳴を上げ、あまりの痛さに再び伏せる。
「まだ動くんじゃないよ。死んでもおかしくない状態だったのよ」
「……俺の他にもう一人いなかったか?」
「いいや。貴方だけだったよ」
「頼むもう一人を助けてくれ。たぶん俺がいた場所から北の海辺にいる筈だ」
「わかったわ。村の男衆に言ってくるよ」
女はそう言って出て行く。
「ワンワンっ!」
ん? 子犬? 傍にいたらしく吠えると俺が寝てるベッドに跳んで来た。
「くぅ~ん」
じゃれるように俺の顔に頭を擦り付けた。何だ? この子犬は?
暫くすると女が戻って来た。
「伝えて来たよ。直ぐに探しに行くって」
「そうか……すまない」
「随分懐かれているね」
子犬を見てそう言う。
「人懐っこい犬だな」
「いいや。その犬は誰にも懐かなかったよ。それなのにやたら吠えて貴方が倒れているとこまで、案内したのよ」
「そう……なのか」
何故俺に懐くのか? 俺のような殺人鬼に。
「良かったら名前を付けてあげてくれない。誰にも懐かなかったから、名前なんて付けなかったのよ」
「……ハンター」
自然と漏れていた。どこまでもくらいつき獲物に狩る。って俺の事じゃねぇか。
「ワンワンっ!」
「気に入ったみたいね」
名前:ダーク
年齢:十五歳
レベル:55
クラス:暗殺者
称号:見殺し者
HP:4000
MP:120
力:400
魔力:50
体力:300
俊敏:1500
スキル:隠密LvMAX、ナイフ使いL5、剣使いLv4、短剣使いLv2、小太刀使いLv7、小刀使いLv6、投擲Lv6、気配察知Lv8、闘気Lv5
エクストラスキル:二刀流、毒耐性、痛覚鈍化
ユニークスキル:愛犬使役
プレイヤー補助スキル:鑑定
《あ! ユニークスキルが遂に一つ付いた。此処まで長かったな。他のプレアブルキャラをユニークスキルがあったのに俺のキャラだけなかったからな。にしても称号が酷い。事実だけどさ》
「俺は何日くらい寝ていた」
「四日だね」
クソっ! 俺は何をやってるのだ? もう確実にダームエルは助からないだろうが……。
「そんなにもう一人が気になるの?」
「ああ……だがもう無事ではあるまい」
俺は顔を伏せる。
「遅れたけど私は、グランティーヌよ。貴方は?」
「アークス。アークス=アローラ」
ダークと言う名はダームエルがいたからこその名だ。もう名乗る事はできないかもしれない。
《一応鑑定っと》
名前:グランティーヌ=ビューティエルカ
年齢:十四歳
レベル:30
クラス:魔導士
称号:村一番の美女
HP:3000
MP:1200
力:150
魔力:450
体力:130
俊敏:400
スキル:杖使いLv5
エクストラスキル:中位火炎魔法、下位稲妻魔法、中位氷結魔法、下位水流魔法、下位回復魔法
《村一番の美女なのかよ。確かに十四歳と思えない程、大人びていて綺麗だな。それに胸はDカップは、ありそうな程、大きいな。これで十四歳なんだから、成長しきったら、もっとデカくなるだろうな》
「そうアークス。もう暫く寝ていなさい。もし、もう一人が生きてるなら助けるし、亡くなっていたら墓くらい用意するわ。だから安心して」
「すまない」
そして俺は再び闇にを落ちた。次に目を覚ましたのは二日後だ。
そして知る。ダームエルの死体がなかった事を。血溜まりだけしか残っていなかったらしい。魔物にでも食われたのかもしれない。
俺は塞ぎ込んだ。ダームエルが……。
俺はその事実を受け止められなかった。何でもっと上手く立ち回らなかった?
何でラフラカ帝国を完全に敵に回す事を反対しなかった?何で敵にするなら反帝国組織に所属するように言わなかった?
終わらない思考の迷宮に陥る。
半身を失ったような気分だ。六年半連れ添った相棒だから? 勿論それもある。
――――それ以上に師であり親だ!!
恥ずかしくて本人に言えなかったが、決して俺の親は、あのナニカではない。ダームエルだ。
何も知らない俺を拾い、色々教えてくれた。
俺はダームエルの言う事に間違いないと思っていた。いや、思い込んでいた。俺にとって親同然なのだ。
決して間違わないと思ってしまった。もっと考えるべきだったんだ。思考停止していた。
相棒というなら俺も考えて意見をするべきだったんだ。俺は馬鹿だ。
「<下位回復魔法>……アークス調子はどう?」
「………」
グランティーヌは、流石は魔導士の村の者というべきか、毎日回復魔法を俺にかけてくれる。
即、完治とは行かないが、痛みが徐々に和らいで行く。そしてあれからとずっと寄り添ってくれた。
一言二言は言うが、後は何も言わずただ寄り添っていてくれた。そんな、彼女に応えるべきなのだろうが俺には、そんな余裕はなかった。
「あれから三日よ。何時から食べていないのか知らないけど、少なくても九日何も食べていないのよ? 死んでしまうわ」
「………」
知るか。
「死ぬのよ? せっかく助けたのに死んでしまったら、目覚め悪いわ」
「……なら、お前が口移しで食わせてくれるのか?」
今日はいつもより話を続けて来たので、鬱陶しくて適当にあしらった。
「ぅん!?」
本当に口移しで口に食べ物を入れて来た。
《裏山けしからんっ!!!!! 俺だって、こんな美人とチューしたいわ!! フルダイブ型なので、多少の感触はあるが、多少だ。R指定が入るので、こう言う感触は希薄にされているし腹立つわ!!!!》
「……何をする?」
「貴方が言ったのよ?」
「馬鹿か!」
睨み付けてやった。
「貴方が、心も体も元気になるなら馬鹿で結構」
若緑色の双眸でジっと見られ、そう言われる。
何故かイラっと来た。何故かわからないが、かなり頭に来た。
思わず押し倒してしまう。だというのにグランティーヌは怖がりもせず、ただ俺をじっと若緑色の双眸で見据えて来た。
「……怖くないのか?」
「何故?」
何なんだ? こいつは。
ちっとも若緑色の瞳が揺らがない。まるで何もわかっていない無垢な子供のように。ふざけやがって。
「襲おうとしてるのだぞ!!」
突き飛ばせ。そして、俺なんか放っておいてくれ。それがお互いの為だ。
「貴方が心も体も元気になるなら安いものよ」
本当に何なのだ? こいつは。俺はブチ切れて、八つ当たりするようにコトを行った。
《ふざけるなーーーーっ!! 大事なシーンだぞ!! カットするな!!!! 全年齢なんてクソ食らえだっ!!》
この女は痛がる様子はあっても嫌がる様子もなく終えてしまった。本当に何なのだ? こいつは。
《本当に何のだ? 全年齢は》
「俺は五歳の頃に捨てられた……」
コトが終わるとベッドの縁に座り、自然と口が開いていた。
「……生きる為に盗みをした。人も殺した」
ポツリポツリ、語っているとグランティーヌが俺を後ろから抱き締めて来た。
《おっふ! 胸の感触が……ちっ! これも希薄だ。ふざけやがって。しかも視線が前固定だ。グランティーヌの方を見ろよ。何か着るような音は聞こえたけど、これ絶対薄着だぞ》
「二年かけて、やっと帰って来たら、親は俺の事を覚えていないし、捨てたと言い出すし、しまいには新しい子供がいた。
俺は母親以外を殺して、母親は瀕死にした……。
それを見ていたダームエルが、俺に声を掛けてくれて、俺を拾ってくれて、何も知らない俺に色々教えてくれた……なのに、お、れは……お、れは……」
グランティーヌが先程より強く抱きしめてくれた。
ああ、俺は今泣いてるのか。親に捨てられたと初めて知った時も泣かなかったのに。
とめどなく溢れてくる。両手で顔を覆ってしまう。
「俺は、ダームエルと組むようになり仕事をするようになった……」
涙が収まったので続けた。
「殺しも沢山やった。俺のこの手はとっくに血で汚れているんだ……だから君を抱く資格なんて本当はなかった。だから出て行くよ。世話になった」
「馬鹿ね。あんなボロボロで……斬り跡、突き跡、はては魔法を受けた跡があったのよ? 貴方が真っ当な事をやってるとは思えなかったわ」
後ろから甘い声が聞こえる。それに身を委ねたくなる。それだけでコトが終わったのに、また大きくなりそうだ。
《こんな良い女で美人なんだ。ダークめ!! 裏山けしからん!! マジふざけんなッッ!!!!》
「なら何故?」
「言ったでしょう? 貴方の心も体も元気になるなら安いものよ、とね」
本当に何なのだ? こいつは。
バカバカしい。
「それより、そんなに喋れるようになったんだから、ちゃんとご飯食べなさい。それとも口移しが良い?」
「馬鹿か?」
「貴方のここ……」
「もう良いっ!」
同じ事を繰り返し言って来ようとしたので遮り、自分で食べ物――シチューのようなもの――を取り食べ始めた。
クソっ! こんなにもメシが美味いって感じた事なんてなかった。
また涙が溢れてくる。
そして、グランティーヌは食べ終わるまで、ずっと俺を後ろから抱き締めてくれていた。
《あ~~~~も~~~~~!!! ダームエルの件で同情したのにムカ付くわ~~!! 同情して損したわ~~~!! こんな美人の女に抱き締められて~~~!! ヤりて~~~チクショ~~~!!!!》
俺は動けるようになると、行く当ても何かをやる気力もないので村の為に働いた。
と、言っても俺に出来るのは狩りや山菜取りくらいだ。
毎日魔物を狩り、村に被害が出ないようにし、山菜を村に渡す。それが習慣になっていた。
「いつ出て行くのじゃ? 他所者が!」
この村のラゴスのじーさんが俺と顔を合わす度に嫌味を言って来ていた。
しかし、出て行っても何かをする気力も俺にはない。
《あれ? このじーさんは最近実装されてた新規プレアブルキャラでは? とりま鑑定っと》
名前:ラゴス=マゴス
年齢:七十一歳
レベル:80
クラス:老魔導士
称号:自滅爺
HP:5500
MP:2700
力:480
魔力:1600
体力:350
俊敏:650
スキル:杖使いvMAX
エクストラスキル:中位火炎魔法、中位稲妻魔法、中位氷結魔法、中位水流魔法、中位大地魔法、下位回復魔法
ユニークスキル:自爆魔法
《レベル高っ! ステータス低っ! しかも称号とユニークスキルが酷い。ネタキャラか?》
グランティーヌとは、なるべく距離を取った。罪悪感でいっぱいだったからだ。だけど気付くとお互いに惹かれていた。
《だから裏山けしからんと、言っているんだ。チクショーー!!》
そして三ヶ月後、グランティーヌが妊娠が発覚した。
《どんだけヤりまくったんだ。そのシーンを全部カットするなよ!! R指定マジいらね》
「あなた、魔法を覚えたいってこないだ言ってたよね?」
「ああ」
「じゃあ、今から精霊と契約しに行く?」
「だが、ティー。安静にするべきでは?」
グランティーヌでは長いので、俺はティーと呼ぶ事にしていた。
《お茶ですか? そのうち『ティー、ティーをくれ』とか、つまらんギャグを言いそうだな》
「馬鹿ね。多少は動いた方が良いのよ?」
そうして、魔法を習得する為に村の外に出た。